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8章

第93話 心臓を二度潰せばいい

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 やっと面白くなってきた。
 久々の強敵を前に俺は気持ちが馳せる。

 そんな俺の背後でショコラは猟銃を構え、エクレアも満を持して太陽の聖剣を抜く決意をした。

「ちょっと、これはヤバいよね。私も本気で行くよ」
「太陽の聖剣……フレイム=バーナーも最高火力にするか」

 俺とエクレアは超前衛思考になり、剣を構えた。
 炎を噴き出し高温になる俺の剣とエクレアの魔力を吸収して火力を増す剣。
 2ラウンド目はガーゴイルから攻め込んできた。

「来たぞ」
「カイ君。私が弾くから援護して」
「了解」

 エクレアに俺は場所を譲ると、翼をはためかせ高速で迫るガーゴイルの強固な肉体を太陽の聖剣で受け止めた。
 軽々と受け止めているように見えるが、腰を落とし膝を曲げているから吹き飛ばされない。
 エクレアの器用な所が出ていて、俺はその隙を突いて残った右腕を貰いに行く。

「お前の右腕、貰うぞ」

 俺が剣を振り下ろすと、ガーゴイルは逃げるでもなく受け止めた。
 カキーンと石でも叩いたような音がしたが、その通りでガーゴイルは右腕を石のように硬くしたらしい。

「なるほどな。それで魔像だったのか」
「そうみたいだね。ショコラちゃんの銀の銃弾を受け止めたのも納得できたね」

 ショコラの撃った銀の銃弾は的確に脳を撃ち抜いていたはずだ。
 しかし当たる瞬間に、皮膚の一部分を石に変化させた。
 それで攻撃を受け止めたのはかなり面白いと思う。

「でも、同じと事を集中砲火すればそのうち城は陥落する」

 ショコラはガーゴイルを城と見立てて何発も同じところに集中して銀の銃弾を撃ち込む。
 もちろん石になっている部分は魔法でコーティングしているだけなので、魔弾は有効だ。
 銀の銃弾と魔弾を交互に打ち込んで俺達に援護をしてくれた。

「ショコラ、その調子で頼むぞ」
「わかった」

 淡白な返事だ。ショコラにはショコラなりの戦法はあるが、今回の肝はそこにある。
 俺たちの武器ではガーゴイルに対抗できない。

 無論素材さえあれば俺だって最適な武器を作り出せる。
 けれど今は銀を切らしていて、最適解を通ることができない。
 無論エクレアには関係ない。太陽の聖剣なら致命傷を与えることも可能だが、フレイム=バーナーの火力でも受け止めるのが精一杯で、ここは俺のやり方を貫く。

「エクレア、ショコラ。合図をしたら動け。いいな」
「何をするの、カイ君?」
「俺のやり方を通すだけだ。アイツを潰すぞ」

 そう言うと俺は左腕に装備している黒飯綱クロイズナを撃った。
 黒い鞭がガーゴイルの足を絡め取ると、そのまま思いっきり引っ張ってガーゴイルを一旦態勢を崩させる。
 その隙を突いてエクレアが剣を振り下ろすも、完全に読み切られていて攻撃がかわされる。が、ここまでは俺も読んでいる。そしてその先もだ。

「ナイス揺動だ。その足、貰った」

 俺はガーゴイルがかわした瞬間に、右足を奪った。
 これで再生しないなら、コイツはもう歩けない。
 それはつまり戦闘領域が変化することになる。

 バサッ!

 ガーゴイルは立ち上がることができず、翼をはためかせた。
 そのまま空中戦に移り、俺達に攻撃を仕掛けるかと思えば、そのまま飛んで逃げようとする。

「あっ、逃げちゃうよ!」
「いや、逃がすわけがないだろ」

 俺は黒飯綱をくくり付けていたので、ガーゴイルの下に移動することにした。
 つまり鞭を引き戻す反動で、俺の体は宙に浮く。

「ショコラ、狙うのは心臓だ。風穴を一つ空けてやる。トドメはお前が刺せ」

 俺はショコラに指示をすると、ガーゴイルに飛び掛かる。
 翼の自由をまずは奪うため、フレイム=バーナーで翼を切った。
 右翼を失ったことでまとまな飛行能力を失い、俺がくっ付いているせいで、ガーゴイルはまともに動くこともできない。

「どうだ。こんなに近くにいるのに、攻撃できないだろ?」

 俺は挑発をした。ガーゴイルはギシギシと牙を擦り合わせて苛立っている。
 それは余計好都合で、残った右腕で俺を振り落とそうとするが、その前に追撃をしてやる。

 グサリ!

 俺はガーゴイルの心臓部分を背後から突き刺した。
 ガーゴイルは絶叫を上げそうになるが、あまりの痛みと突然のことに声すら出せない。

 そんなガーゴイルの体は完全に竦んでしまい、俺を振り落とすどころか自ら地面に落下し始める。
 翼がないこともそうだが、このままでは潰れてしまうだろう。

「お前の石化能力には確かに驚かされたが、痛みで石化すらさせなければいいだけの話だ。しかも一度では死なない。本来ならこれで死んでいるはずだが……まあ、いい。お前は今から二度死ぬんだ」

 俺は目配せるすると、ショコラがスコープ越しにこちらを見ていた。
 俺の刺した剣を狙って銀の銃弾を発射する。

 流石に見えない。けれど音と振動で俺は理解した。
 着弾の瞬間、一瞬焼けるような臭いがして、素早く剣を抜いた。
 するとガーゴイルの心臓は石化で守ることもできず貫かれた。

「よし。これでオッケーだ。エクレア!」
「《黄昏の陽射しサンライト・ライズ》!」

 俺はガーゴイルから手を放して地面に落下する。
 何も無策で飛び降りたわけがない。
 俺はエクレアが助けてくれることを見越して、体の力を抜いて空中に投げ出された。

 案の定、俺はエクレアの超万能魔法によって怪我の一つもせずに救助される。
 ガーゴイルは……聞かなくてもわかるだろう。
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