上 下
84 / 94
8章

第84話 結局いつもの顔ぶれ

しおりを挟む
 俺は嫌な予感がした。
 これは俺にとっての最悪で、せっかくのソロ活動を妨害されるかもしれない。

「マズいな。さっさと逃げるか」

 とりあえず森の中にでも隠れようと思った。
 しかし時すでに遅し。

「ショコラちゃん、こっちの方に落ちて来たよね?」
「落ちてきた。けど、イカヅチ鳥の体が無事とは限らない」
「うーん。多分大丈夫だと思うよ?」
「どうして? 根拠もないのに」
「だって、誰かいるもん」

 ガサゴソと草木をかき分ける音が聞こえた。
 俺は逃げ道を封じられ、立ち尽くしていた。

「終わったな」

 無理やり突破しようにも、アイツは追いついて来る。
 本当ウザい奴だ。

「あっ、ほらいたでしょ?」
「いたけど……カイ?」
「うん。カイ君だね。やっほー、カイくーん!」

 ウザい。ウザいウザいウザいウザい。
 俺はイライラが募って、コンコンと足踏みをした。

「はぁ、やっぱりお前たちか」
「やっぱりって何? そんな邪険にしないでよ!」
「うるさいな。お前らだな、コイツを落としたのは」
「そう。見事なキャッチ。おぉ……」

 ショコラが乾いた拍手を送った。
 半月状のジト目で俺のことを見るなと心の奥底で訴えかけ、片目を逸らしながら睨んでいた。

「睨まなくてもいい」
「うるさい」
「ほらほら喧嘩しないの。まだ私が怒ってないうちに喧嘩止めないと、どうなるかわかるかなぁ? ねえ、わかるよねー」

 間に入り場を取り持つエクレアの目が怖い。
 コイツは化け物並みに強い。ひょっとすると、本気で怒らせたら俺よりも強い気がした。
 何たって、俺とコイツはゴブリン相手に無双していたからだ。

「わ、わかってる」
「そう。わかってる。だから喧嘩してない。してない……?」

 ショコラが首を捻った。
 無駄な動きをしてエクレアを勘繰らせるなと俺は念仏のように唱えた。
 するとエクレアは納得したのか、うんうんと首を縦に振った。

「喧嘩良くないもんね。喧嘩なんかしても意味ないもんね」
「「お前が言うな」」
「私は喧嘩しないよ。それよりさ、カイ君これから予定ある?」
「何でそんなことを聞くんだ」
「ってことは予定がないんだね。そっか、そっかそっか」

 エクレアの笑みが怖い。俺は適当な言い訳をして、場をやり過ごそうとした。
 しかしエクレアには効かない。
 こうなったコイツはとんでもない強引なカリスマ性を働かせ、この場にいる全ての人間を同調させて自分の駒にしてしまうからだ。

「それじゃあ、一緒に魔像の調査に行こうよ」
「それはない。俺は帰るぞ」

 俺はスルーして帰ろうとした。
 しかしエクレアに腕を掴まれる。放してほしいのに、爪まで握り込んできていたかった。

「放せ」
「ダメダメ。放してあげないよ。ねっ、ショコラちゃん」

 エクレアは急にショコラに話を振った。
 完全に無表情、むしろ聞いていなかったのか、「ん?」と首を捻る。
 微妙に噛み合ってない2人の関係性に俺はツッコミを入れるのを止めた。

「とにかく、私たちパフィさんに頼まれてここに来たの」
「とにかくも何も前振りもないだろ」
「前振りはしたよ? ほら、魔像を調査しようって話」
「それが前振りなのか。まあいい、悪いがパスだ」
「ダメです。もう決定事項です」

 エクレアの圧が怖い。
 俺はその圧に屈しはしないが、これ以上粘って意味があるのか。

「そもそもどうして俺が巻き込まれる。お前たちの依頼だろ」
「うーん。これ、パフィさんから頼まれたんだけど?」
「パフィさんから? ギルド直々にってことか」
「そういうことかな? でも、カイ君がいたら拾って一緒に調査して来てねって。本当は調査に言った冒険者さんがいたみたいだけど、何かあると心配だからって」
「保険ってことだな」
「そういうことかも」

 いや、そんな依頼を受けるな。
 俺は素直にそう思い、目を逸らしたショコラも同意見らしい。

「はぁ。如何してお前らが頼まれた依頼に俺まで巻き込まれないと行けなんだ」
「それって期待されているってことでしょ?」
「期待なんて何の価値もない。他人任せの典型例だ」
「それは同感かな」

 意外にもエクレアはこういうことに対しては普通に厳しい。
 俺は意外に思いつつも、やはりムカついていた。

「まさかタダでやれってことか?」
「うーん。そこは交渉かな?」
「交渉だと? それなら無しだな。他を当たってくれ」

 俺はそう言うと、無理やり手を払った。
 フルードに帰って飯食って寝よう。そう思ったのも束の間、エクレアの「待って待って」の声が聞こえた。

「待ってよ。わかってるよ。ちゃんとお金は払ってもらえるから。ねえ、一緒にやろうよ。絶対に来た方がいいって」
「如何してお前がそう言うんだ」
「わかんないけど、さっきからこの辺り一帯の生命反応がしないんだよ」
「何だと?」

 コイツがここまで言うのはマジらしい。
 俺は絶句しそうになるが、ショコラは訳が分からず首を捻る。
 誰も説明してやることはなく、俺はエクレアの嫌な予感に乗ってやることにした。
しおりを挟む
1 / 4

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

勇者パーティーに追放されたアランが望み見る

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:42pt お気に入り:84

校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれた女子高生たちが集団お漏らしする話

大衆娯楽 / 連載中 24h.ポイント:5,198pt お気に入り:9

ようこそ来訪者

エッセイ・ノンフィクション / 連載中 24h.ポイント:142pt お気に入り:0

「バカな男子高校生が女子校に入学しました!」

青春 / 連載中 24h.ポイント:142pt お気に入り:63

子悪党令息の息子として生まれました

BL / 連載中 24h.ポイント:4,140pt お気に入り:477

処理中です...