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4章

第39話 いい金額になった

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 俺はクロムと取引を続けていた。
 俺の魔法の鞄を何だと思ったのか、いい金策相手を見つけたような顔をされている。
 けれど俺はもう気圧されない。
 完全に俺の方が有利に立っていた。そこで一つ試してみたいことを思いつく。

「さてと、それじゃあこう言ったものは売れますか?」
「珍しいものばかりでしたからね。次はどんなものを出してくれるんですか?」
「少し変わったものですよ」

 俺は武具生成ウェポン・クラフトであるものを作り出す。
 正直武器ではない。俺が手に取ったのは、銀色のダンベルだった。

「だ、ダンベルですか?」
「ダンベルじゃないですよ。これは文鎮です」
「文鎮ですか? 書道の際に使われる紙を抑える道具ですね。マニアックな代物です」
「正直に言えばそうですね。故郷が東の島国ですので」
「なるほど。ではこれは、そちらの品ですか?」
「はい。一応銀製品ですから、変わり種が好きな貴族には売れると思いますよ」

 ただし文鎮だ。売れるかは定かではないにしろ、金になるのだろうか?
 買い取ってもらえないと意味がない。
 俺は文鎮をどう評価してくれるかで、クロムの目利きを測ることにした。

「銀製品は金製品に比べれば価値は下がりますが、食器類は重宝されていますよ」
「食器類ですか。ではスプーンとフォークもセットではどうです?」

 少し動揺を誘ってみる。
 これだけ数を出すんだ。怪しまれても無理はない。ただしマズい話じゃない。
 俺なら様子見をする。けれおⅮクロムの目利きはどう出るか——

「いいですよ。この銀製品は買い取ります」
「ダウト!」

 俺は指を差した。俺の策にはまったと、不敵に笑みを受かべる。
 今回作った文鎮は何の意味もないアイテムで、その正体は単なる鉛だ。
 外側だけ銀で薄くコーティングしており、中身はただの普遍的な鉛でできている。
 重さだけを情報にすれば疑う余地もないが、俺が連続でいい品を出したことで騙すことに成功した。

「まさかこんな単純なことに気が付かないなんて。クロムの腕はその程度か?」
「何を勘違いしているんですか? 僕は銀製品を買うと言いました。鉛の製品を買うとは一言も言っていませんよ」
「えっ?」
「ですから僕は銀製品だけを買い取ります。鉛製品は買い取りません」
「あ、あはは……はは」
「ははははは、はは」

 乾いた笑いが狭い部屋の中を飛び交った。
 完全にやられた。俺は自分で墓穴を掘ったんだ。まさか自分からどんどん墓穴を掘り進めているなんて、俺はどれだけ間抜けなんだ。
 流石に本家本元には敵わない。
 しかも相手はこのマガライト宝石店の社長だ。その目利きは本物だ。

「流石は社長ですね、恐れ入った」
「僕もここまで本気に騙しに来る冒険者がいたなんて、今まで初めてだよ」
「それはどうも。ちなみに、評価はどうですか?」
「ほどほどかな。でも食い意地は確かだね。それに免じて、君にはこれを上げるよ」

 俺はクロムが何か差し出してきたのを見守った。
 テーブルの上に置かれたのは小さな銀のメダルだ。
 俺は受け取ったものの、店のマークが刻印されていたのでジト目になった。いわゆる宣伝か。俺を広告塔に使うらしい。若干ムカついてきた。
 機嫌の悪さが顔に出ていたのか、クロムはメダルの説明をしてくれた。

「それはね、当店でも特別な意味をなすメダルなんだよ」
「特別な意味?」
「そうだよ。お得意様にも渡していないような、僕が見初めた相手にしか渡さない特別なメダルで買い取り額のアップや優先的に商品を売ってあげられるから大事にしてね」
「はぁ? 俺には縁遠いかもしれないな」
「それでも持っておいて損はないと思うよ。王都にも支店があるから行ってみるといいよ。僕のつてで歓迎してもらうから」
「それはどうも……けど王都には今のところ行く予定はない」

 さっきから随分と俺の素性に食い込んでくる。
 このクロムと言う青年はどれだけ観察眼に優れているのか、微妙に怖くなる。
 けれど最後まで気圧されないことだけ考え、俺は買い取りを終えた。
 結局、全部で金塊が48本で9億6千万。それから銀製品に200万。エメラルドに1000万。そこに色がついて、大体9億と3千200万ユリスになったのは、正直絶妙だろうな。俺は口を尖らせていた。
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