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小人たちのクリスマスツリー
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夕暮れも過ぎ、辺りは既に仄暗くなっていた。森の夜はやがて濃密な闇に包まれる。長Kの住む森の広場の奥にある迷宮の篝火が、遠くに揺らめいているのが見えてきた。
「あそこだ」
スニーフが指さした先にある巨木に見えた影が、森の魔女長Kの住む悪夢城だった。さらわれた者は、皆、まともな状態では帰ってこない。まるで夢遊病者のようになって出て来た旅人達は、二度とこの森には戻ってこなかった。この城が悪夢城と呼ばれるようになった所以である。
ズキューン
一発の銃声が響いた。弾丸はスニーフの脇腹を掠めて森に消えた。
「いきなりの洗礼かい。くううううう、しびれるね、こりゃ」
スニーフは笑い飛ばしたが、ヤバかった。銃声の響く直前、スニーフが地面のくぼみに足を取られて、ほんの少し右に傾いていなかったら、弾丸はスニーフの身体をまともに貫いていたかも知れない。
「謀反者スニーフ。今すぐ大人しく投降せよ」
あれは......。スニーフの顔を覗き込む。決して動揺しているようには見せないが、ほんの少し俯いているのが分かったた。あれはMの声だ。やはり長の指示か。
「お前だけならハチの巣にしてやってもいいんだけど、旅人を長に捧げなければならないからね。さあ、大人しくその娘をこっちに渡しな」
「ふざけんなよM。そもそもこのお嬢ちゃんはお前がどうとでもしろとオイラに寄こしたんじゃねえか。今更、長の使いになって取り戻しにくるなんて、どんな了見だよ」
いつも通りの言葉。だがスニーフの口調は、いつもの軽い口調とは明らかに違っていた。
「事情は刻々と変わるんだ。わかるだろうが。もはや全ての事情は長の耳に届いてしまった。あたしをあんたの討伐隊に任命したのがその証拠さ。長はとてつもなく怒っている」
そう言うMも、スニーフの顔を正面から見ることは出来なかった。スニーフと同じように俯いているように見える。
「そういうつもりってのは何だよ。Kの野郎、何だってお前にオイラを狩らせようなんて」
「わからねえならいいよ。とにかくお前はその娘をおいて、さっさとどこかに失せてくれ。さもなければこいつらの銃でハチの巣だ」
Mの周りには銃を構えた小人集団が5つのグループを形成して並んでいた。身長50~70センチほど小人が1グループ5~6人で構成されている。その銃口は真っ直ぐにスニーフとSを睨んでいた。
「何言ってんだよ。オイラたちはお前を助けに来たんだぜ、M。そんなチビどもはオイラが一捻りにしてやるから、こっちに来い」
Mは顔を伏せたまま、小人集団に発砲の指示を出す。
ズキューン、ズキューンと暗闇の中を弾丸が飛び交う。スニーフはSを背中に乗せたまま森の木を盾にして上下左右に身を振って弾丸をかわした。小人集団は左右に分かれてスニーフを追う。
「スニーフ」
巨木の背後でスニーフから降りたSが合図を出した。驚いた顔で頷くスニーフ。Sは巨木にスルスルと登った。みっつ数えて。スニーフは全力で巨木に体当たりをした。
ザザザザザアアアと巨木が激しく枝を鳴らして揺れる。ズキューン、ズキューンと5発の弾丸が揺れた木の枝に打ち込まれた。
グバアアアアッという叫び声と何かに命中したドドウッという音の後に、ザザザザ、ドサッと枝を突き抜けて地面に落ちる音。小人集団は一斉にその方向に走り出した。
小人集団の照らした明かりに濃緑色の布が被せられた塊が浮かび上がる。スニーフに乗っていたやつが纏っていた服か?小人集団がその塊を確かめようと布を捲る。
その時、暗闇を引き裂くような突風が、小人集団を襲った。何が起こったのかも分からない内にその風に吹き飛ばされた小人たちは、次の瞬間には悉く森の木々の枝にぶら下がっていた。それは小人たちの着ていた赤や緑の福のせいで、まるで季節外れのクリスマスツリー飾りのように見えた。
「お見事。集めてドンだな」
濃紺の布から出てきたSが、突風を起こしたスニーフの尻尾をねぎらうように撫でた。
「驚いたぜ。お嬢ちゃん、大した技だな」
巨木の上からあれほど激しく落ちたにも関わらず、傷一つないSにスニーフは驚いた。
「いや、大したことないよ」
一人旅を生き抜くために覚えたことはこれだけじゃない。
「それより君の尻尾の威力ときたら」
小人の銃を二丁ポケットに入れたSは、小人たちの様子に少なからず憐れみを覚えていた。
「みんなあ、あとで助けにくるからちょっと待ってて。さあ、スニーフ、Mの所へ行こう」
Sは木々を飾る小人たちに一声かけて、スニーフを促した。
(続く)
「あそこだ」
スニーフが指さした先にある巨木に見えた影が、森の魔女長Kの住む悪夢城だった。さらわれた者は、皆、まともな状態では帰ってこない。まるで夢遊病者のようになって出て来た旅人達は、二度とこの森には戻ってこなかった。この城が悪夢城と呼ばれるようになった所以である。
ズキューン
一発の銃声が響いた。弾丸はスニーフの脇腹を掠めて森に消えた。
「いきなりの洗礼かい。くううううう、しびれるね、こりゃ」
スニーフは笑い飛ばしたが、ヤバかった。銃声の響く直前、スニーフが地面のくぼみに足を取られて、ほんの少し右に傾いていなかったら、弾丸はスニーフの身体をまともに貫いていたかも知れない。
「謀反者スニーフ。今すぐ大人しく投降せよ」
あれは......。スニーフの顔を覗き込む。決して動揺しているようには見せないが、ほんの少し俯いているのが分かったた。あれはMの声だ。やはり長の指示か。
「お前だけならハチの巣にしてやってもいいんだけど、旅人を長に捧げなければならないからね。さあ、大人しくその娘をこっちに渡しな」
「ふざけんなよM。そもそもこのお嬢ちゃんはお前がどうとでもしろとオイラに寄こしたんじゃねえか。今更、長の使いになって取り戻しにくるなんて、どんな了見だよ」
いつも通りの言葉。だがスニーフの口調は、いつもの軽い口調とは明らかに違っていた。
「事情は刻々と変わるんだ。わかるだろうが。もはや全ての事情は長の耳に届いてしまった。あたしをあんたの討伐隊に任命したのがその証拠さ。長はとてつもなく怒っている」
そう言うMも、スニーフの顔を正面から見ることは出来なかった。スニーフと同じように俯いているように見える。
「そういうつもりってのは何だよ。Kの野郎、何だってお前にオイラを狩らせようなんて」
「わからねえならいいよ。とにかくお前はその娘をおいて、さっさとどこかに失せてくれ。さもなければこいつらの銃でハチの巣だ」
Mの周りには銃を構えた小人集団が5つのグループを形成して並んでいた。身長50~70センチほど小人が1グループ5~6人で構成されている。その銃口は真っ直ぐにスニーフとSを睨んでいた。
「何言ってんだよ。オイラたちはお前を助けに来たんだぜ、M。そんなチビどもはオイラが一捻りにしてやるから、こっちに来い」
Mは顔を伏せたまま、小人集団に発砲の指示を出す。
ズキューン、ズキューンと暗闇の中を弾丸が飛び交う。スニーフはSを背中に乗せたまま森の木を盾にして上下左右に身を振って弾丸をかわした。小人集団は左右に分かれてスニーフを追う。
「スニーフ」
巨木の背後でスニーフから降りたSが合図を出した。驚いた顔で頷くスニーフ。Sは巨木にスルスルと登った。みっつ数えて。スニーフは全力で巨木に体当たりをした。
ザザザザザアアアと巨木が激しく枝を鳴らして揺れる。ズキューン、ズキューンと5発の弾丸が揺れた木の枝に打ち込まれた。
グバアアアアッという叫び声と何かに命中したドドウッという音の後に、ザザザザ、ドサッと枝を突き抜けて地面に落ちる音。小人集団は一斉にその方向に走り出した。
小人集団の照らした明かりに濃緑色の布が被せられた塊が浮かび上がる。スニーフに乗っていたやつが纏っていた服か?小人集団がその塊を確かめようと布を捲る。
その時、暗闇を引き裂くような突風が、小人集団を襲った。何が起こったのかも分からない内にその風に吹き飛ばされた小人たちは、次の瞬間には悉く森の木々の枝にぶら下がっていた。それは小人たちの着ていた赤や緑の福のせいで、まるで季節外れのクリスマスツリー飾りのように見えた。
「お見事。集めてドンだな」
濃紺の布から出てきたSが、突風を起こしたスニーフの尻尾をねぎらうように撫でた。
「驚いたぜ。お嬢ちゃん、大した技だな」
巨木の上からあれほど激しく落ちたにも関わらず、傷一つないSにスニーフは驚いた。
「いや、大したことないよ」
一人旅を生き抜くために覚えたことはこれだけじゃない。
「それより君の尻尾の威力ときたら」
小人の銃を二丁ポケットに入れたSは、小人たちの様子に少なからず憐れみを覚えていた。
「みんなあ、あとで助けにくるからちょっと待ってて。さあ、スニーフ、Mの所へ行こう」
Sは木々を飾る小人たちに一声かけて、スニーフを促した。
(続く)
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