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グッド・バイ
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突然懐かしい閃光に包まれて、夏菜子は自らが上げていたに違いない悲鳴にも似た叫び声が、この安普請のビジネスホテルのシングルルームで、どれほど周りに響き渡っていただろうかと思い、急激に羞恥を憶えた。
「誰だあっ!」
伯父が閃光の方向に向かって怒鳴った。それでもパシャパシャというシャッター音は止まない。立ち上がった伯父が光の方向に向かったところで、ようやく光が止んだ。
黒のスーツ姿の女が大きなカメラを片手に立っていた。やっぱり。ママだ。ママが来てくれた。
「夏菜子。あんたずいぶん随分な恰好をしてるわね。こんな薄ペラな壁のホテルで大声を出して。廊下に響き渡ってたわよ。SMやるならちゃんとした一流ホテルのスイートかラブホでやりなさい。周りの部屋に人がいたら普通に通報されてるわよ」
「ママ」
そうよね。そう。まったくみっともないったらありゃしない。伯父のことを用意周到だなんて、ちょっとでも思った自分が情けなかった。夏菜子の母、夏子は、伯父の存在を完全に無視して夏菜子に向かって話を続ける。
「あんたねえ、法事の連絡をくれたのはいいけど、時間間違ってたわよ。折角都合つけて来たのにもう終わりましたよだなんて、私だって暇じゃないんだからさ。まあ、泊り先をあんたと一緒にしておいてよかったわ。それで、こいつ誰?」
夏子が伯父を顎で指して聞く。
「伯父さんって聞いたんだけど」
「伯父さん?ふーーーん、そう。まあいいや。ねえ伯父さんとやら。ちょっとこれがどんな状態なのか説明してくれる」
夏子の勢いに、アタフタしながら伯父が答える。
「い、いや私は夏菜子さんの旦那さんの、な、亡くなったヨシオ君の……」
「そんなん、どうでもいいんだよ。あんたが夏菜子に何をしようとしてたのかって聞いてんだよ」
「い、いや、それはこの証文の通りに、亡くなった旦那さんが奥さんを好きにしていいっていうことになってて……」
夏子は伯父から証文を奪うと一瞥して破り捨てた。
「こんなものを根拠に、婦女暴行・監禁の罪が逃れられるとでも思ったの?夏菜子、あんたもこんなもので脅されてそんな恰好させられてるってわけじゃないわよね?」
「ママ、お願いだから、先にこのテープをとってくれないかな。その後でゆっくり話そう」
夏子は、ああそうか、と夏菜子の戒めを外そうとベッドに上がった。完全に無視された形になっていた伯父が、そっと夏子の背後から迫る。手には拘束テープを持っている。下衆の極みには極みの意地があるようだ。
「ママ、後ろ!」
夏菜子が叫んだのとほぼ同時に伯父の拘束テープが夏子の首に掛かった、かに見えた。しかし夏子はテープが首に触れる寸前にクルリと身体を回転させ、目の前にあった伯父の顎を頭で下から勢いよく打ち抜いた。ちょうどアッパーカットのような形になる。思い切りガチンという鈍い音がした。その豪快な音と共に伯父の意識が飛んだのが分かった。
グッドバイ。ご愁傷様、伯父さん。
(続く)
「誰だあっ!」
伯父が閃光の方向に向かって怒鳴った。それでもパシャパシャというシャッター音は止まない。立ち上がった伯父が光の方向に向かったところで、ようやく光が止んだ。
黒のスーツ姿の女が大きなカメラを片手に立っていた。やっぱり。ママだ。ママが来てくれた。
「夏菜子。あんたずいぶん随分な恰好をしてるわね。こんな薄ペラな壁のホテルで大声を出して。廊下に響き渡ってたわよ。SMやるならちゃんとした一流ホテルのスイートかラブホでやりなさい。周りの部屋に人がいたら普通に通報されてるわよ」
「ママ」
そうよね。そう。まったくみっともないったらありゃしない。伯父のことを用意周到だなんて、ちょっとでも思った自分が情けなかった。夏菜子の母、夏子は、伯父の存在を完全に無視して夏菜子に向かって話を続ける。
「あんたねえ、法事の連絡をくれたのはいいけど、時間間違ってたわよ。折角都合つけて来たのにもう終わりましたよだなんて、私だって暇じゃないんだからさ。まあ、泊り先をあんたと一緒にしておいてよかったわ。それで、こいつ誰?」
夏子が伯父を顎で指して聞く。
「伯父さんって聞いたんだけど」
「伯父さん?ふーーーん、そう。まあいいや。ねえ伯父さんとやら。ちょっとこれがどんな状態なのか説明してくれる」
夏子の勢いに、アタフタしながら伯父が答える。
「い、いや私は夏菜子さんの旦那さんの、な、亡くなったヨシオ君の……」
「そんなん、どうでもいいんだよ。あんたが夏菜子に何をしようとしてたのかって聞いてんだよ」
「い、いや、それはこの証文の通りに、亡くなった旦那さんが奥さんを好きにしていいっていうことになってて……」
夏子は伯父から証文を奪うと一瞥して破り捨てた。
「こんなものを根拠に、婦女暴行・監禁の罪が逃れられるとでも思ったの?夏菜子、あんたもこんなもので脅されてそんな恰好させられてるってわけじゃないわよね?」
「ママ、お願いだから、先にこのテープをとってくれないかな。その後でゆっくり話そう」
夏子は、ああそうか、と夏菜子の戒めを外そうとベッドに上がった。完全に無視された形になっていた伯父が、そっと夏子の背後から迫る。手には拘束テープを持っている。下衆の極みには極みの意地があるようだ。
「ママ、後ろ!」
夏菜子が叫んだのとほぼ同時に伯父の拘束テープが夏子の首に掛かった、かに見えた。しかし夏子はテープが首に触れる寸前にクルリと身体を回転させ、目の前にあった伯父の顎を頭で下から勢いよく打ち抜いた。ちょうどアッパーカットのような形になる。思い切りガチンという鈍い音がした。その豪快な音と共に伯父の意識が飛んだのが分かった。
グッドバイ。ご愁傷様、伯父さん。
(続く)
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