異世界妖魔大戦〜転生者は戦争に備え改革を実行し、戦勝の為に身を投ずる〜

金華高乃

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第22章 死守せよ、ムィトゥーラウ―オチャルフ絶対防衛線編

第5話 局地的勝利は両者の運命を少しずつ変えていく

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 ・・5・・
 放たれた光線は横幅およそ三キーラ程度だった。眩い光の直後に凄まじい音が僕達の方にも届いて、魔法障壁がビリビリと音を立てる。あまりの衝撃と眩しさに、僕達は目を手で覆った。
 この衝撃と光は何に例えればいいだろうか。前世で当てはめるのであれば、まるで昔の怪獣映画に出てきた怪獣王の光線のようだった。

「報告。ココノエ陛下の戦術級魔法によりレーダー機能が一時的に使用不要。回復見込みは約一分」

「すごいねこれは……」

「あそこにいたらひとたまりもないわ」

 ようやく光が収まってから前方を見ると、光線によって生じた土煙と兵器の爆発による黒い煙が命中したあたりを包んでいた。
 マーチス侯爵が放つ独自魔法よりはやや劣ものの――あれは規格外過ぎるだけ――、それでも恐るべき威力だ。前の世界でここまでやろうと思うと多数の爆撃機による一斉絨毯爆撃か、戦術核じゃないと無理だろう。
 一分後、エイジスのレーダーが回復し始めた。徐々に土煙だけは晴れていく。
 眼前に広がっていたのは、先程まで大挙して押し寄せていた帝国軍が消え去っていた光景だった。
 横薙ぎされた部分にいた帝国軍将兵やソズダーニアは蒸発するか、よしんば魔法障壁である程度防いでいても黒焦げになり見るも無惨な姿と化していた。

「報告。ココノエ陛下の戦術級魔法は成功。帝国軍推定死傷者、約二五〇〇から約四〇〇〇。各方面通信要員に対して戦果報告の送信を開始します」

「よし! 十分な成果だ! エイジス、予定通りブロック内及び隣接南北ブロックの一部戦力を追撃戦に移行させるように送信を! 敵は戦術級魔法阻止の為に突出部を形成させてる。局地的だけど数的優位になったこの時を狙って包囲殲滅を。ただし、深追いはしないように送信して。あくまで局地的な有利でしかないからね」

「サー、マスター」

 僕はエイジスを経由して戦果報告と次段作戦についてを各部隊に送信していく。
 僕の近辺にいた兵士達からはすぐに作戦成功の大歓声が上がり、その輪は円周に広がっていく。
 戦術級魔法による作戦を見事に成功させたエイジスは魔力を半分以上消費していて、肩で息をしながらその場にへたりこんでいた。

「お疲れ様でした、陛下。大戦果です」

「う、うむ。妾が発案した作戦じゃ、妾が決めねばならぬからの。首尾よくいったようで何よりじゃよ」

「戦術級魔法により帝国軍の兵力は一気に減少。一時的かつ局地的ですが数的有利となりました。よって今より追撃戦に移行しております。あとは我々にお任せ下さい」

「そう、じゃの。魔力もかなり使ってしもうた。かこは言葉に甘えて下がろうとするかの」

 折からの寒さもあり白い息を吐いていて、呼吸は乱れたままだけど笑みをみせる陛下。
 陛下の発案と戦術級魔法が無ければ今の状況は作れなかった。この恩はいつか返さないとね。
 でも、後々についてはひとまず置いておかないと。まずは陛下の護衛部隊を手配しよう。

「先の迎撃でアレン大佐の大隊麾下一個中隊も消耗しています。後送が必要な兵員もいますが、無事なのが多いですからそれを護衛にあてましょう。すぐに手配致します」

「感謝するぞ、アカツキ。あとは頼んだぞよ」

「はっ。拝命致しました」

 僕は一個中隊に陛下の護衛を命じて後退するように言うと、激しい迎撃戦の後にも関わらず模範的な敬礼をした。
 中隊員達は素早く準備をしていく中で、僕は思考を追撃戦の方に切り替えていく。
 エイジスは再び僕の傍らにつく。あれだけの時間全力で能力リソースを使っていたにも関わらず涼しい顔をしていた。

「エイジスもお疲れ様。よくやってくれたよ。けど、今しばらくは忙しいからよろしく」

「サー、マスター。これも任務ですから」

「ありがとう。これより追撃戦の指揮に入るから、引き続きの探知を」

「サー。探知範囲と精度を強化します」

 エイジスが能力配分を振り分けていき、より指揮に向いた状態にしていく。

「リイナ、サポートをお願い。さすがにこの量を一人で把握するのはね」

「もちろんよ。私もまだまだいけるわよ」

「助かるよ」

 それから帝国軍は自らが作り出した突出部が仇となり、統合軍によって包囲されていく。
 帝国軍第八軍は精鋭だけにあれだけの攻撃を受けて士気を低下しながらも二個師団の壊滅だけは回避してみせた。
 結果的に、日が沈むまでに帝国軍第八軍麾下二個師団はやや後方にいた一個師団が約八〇〇〇は包囲網からの脱出に成功。だけど、前方にいた一個師団――ココノエ陛下の戦術級魔法によって一個旅団より少し多いくらいになっていた――はそのほとんどが死ぬか捕虜になるかのどちらかを選ぶことになったのだった。
 こうしてムィトゥーラウ市街戦を前にして帝国軍の中でも虎の子の一個師団を戦況図から消す貴重な勝利を僕達は掴んだのだった。


 ・・Φ・・
 同日
 午後10時半
 ホルソフ・帝国軍前線司令部


 帝国軍がココノエの戦術級魔法によって局地的ながらも敗北したその日の夜。
 既にリシュカの耳には戦報が入っていた。アカツキの読み通り、リシュカは前線にはおらずホルソフの前線司令部におり、ここで報告を聞いたのである。
 その詳細については、彼女の副官であるオットーが伝えていた。

「――以上のように第八軍は一個師団を丸々失い、残る一個師団も約一五〇〇を失いながら戦線を後退させました。しかし該当の戦線で統合軍は大きな前前進はせず、約四キルラだけ前線したようです」

「ふうん。随分としてやられたみたいだねえ。第八軍は約一二〇〇〇近くの損害ってわけか」

 リシュカは煙草の紫煙を天井に向けて吐き出しながら無表情で言う。そこに怒りは無かったし、失望も無かった。ただ、数字でのみ損害があったと考えているのみである。

「はっ。これによりムィトゥーラウへの突入には若干の支障が生じるかと」

「そりゃまあね。でも、大勢に影響は無いんでしょ?」

「はっ。はい。スケジュールと師団のやりくりに多少の変更があるのみです」

「ならよし。ウチの第八軍の一部が欠けるのは痛いけれど、最終的にムィトゥーラウが奪還出来ればそれでいいよ。ま、後々で敵本土まで食い破る事を考えれば損害は少ない方がいいんだけどさ」

 リシュカは帝国式紅茶の入ったティーカップを口につけて、再び紫煙をくゆらせた。
 話題は別に移り変わる。

「いやぁ、しかし亡国の姫君があんな手札を隠し持っていたとは思わなかったね」

「自分も同じ感想です。皇国は特に魔法に関する資料が一部明らかに欠けており残っておりませんでしたので、あのような手段を取るとは予測出来ませんでした。現場でも戦術級魔法を放たれる点までは読めていたそうですが」

「発露当時が残り八キルラ。この距離ならあらゆる重火力を用いれば妨害することが出来ると考えたんだろうけど、悪手だったね」

「ええ。あの場所にはやはりと言うべきかアカツキとエイジスの姿がありました。ですが取り巻きのおよそ一個中隊かそれ以上が、発動の直前までひたすらに迎撃と魔法障壁で防いでおり、さらに後方からの支援砲撃や側面から統合軍のエルフが搭乗したゴーレム部隊も確認されておりました」

「まーたあのクソ英雄か。大方、局地作戦についてもアイツの入れ知恵だろうね。ったく、どこでもこちらの邪魔をしてくるもんだね」

 リシュカは舌打ちをしながら言う。
 だが、彼女の読みは一部外れていた。
 迎撃作戦自体に携わっているのは事実であるし、ゴーレム部隊の支援要請も彼によるものである。
 だが作戦の大筋はココノエによるもので、アカツキが考えた訳では無いのである。
 統合軍は作戦面において当初よりアカツキへの依存度が、彼の負担にならない程度に低くなりつつあることを彼女はあまり知らない。
 この読み違いがどう影響してくるかはまだ誰も知らない。
 リシュカの機嫌がやや悪くなる様を、オットーはよく観察していた。

(リシュカ閣下は素晴らしいお方だ。軍略に人並外れた優秀さを持っておられ、何より魔法の実力も帝国軍の五本の指に入ると言っても過言ではない。しかし、アカツキの事となると少しだが冷静さに欠ける。統合軍が烏合の衆ならともかく、どうにもそうとは思えない。それは今の後退行動からも読める。あのような規律を持った動きなど、個人では制御出来ないだろう。作戦立案レベルはともかくとして、戦術レベルでは全体の練度の高さが成しえているのだろうな。果たして、リシュカ閣下は気付かれているのだろうか。)

 彼はリシュカの忠臣である。そして忠臣であるからこそリシュカの欠点についてもよく知っていた。故に一抹の不安を感じざるを得ないのである。
 とはいえ、オットー自身もこの作戦自体は大局を変化させるものでは無いとも思っていた。
 所詮は限られた一地域における敗北。そもそも帝国軍には膨大な後方予備戦力が控えており、対して統合軍の予備戦力は明らかにこちらより乏しいと帝国軍は予測している。
 であれば、計画進行に問題はないだろう。
 オットーはこう考えていた。

「ひとまず、無事だった第八軍の第二九師団には一旦後退させて代わりを前に動かせればいいでしょ。ムィトゥーラウまではあと約四〇キルラ。他方面ではさして戦況に変化は無いのだからこの調子で進めば問題ないはず」

「前線総司令部、シェーコフ閣下も同じように思われているようです。恐らくはあと一週間から十日程度で市街戦へと移行可能な距離まで前進出来るでしょう」

「そうでなきゃ困るよ。今の後退と戦力温存策を見るに、あのクソ英雄は市街戦を地獄にするつもりだろうからね。早め早めに軍を進めとくが吉だね」

 リシュカはアカツキが前世の第二次世界大戦であったような市街戦に持ち込ませようと企んでいるのではないかと予想して、このようにオットーへ言った。
 条件から地形から違う点が幾つかあるものの、ヨーロッパ戦線であったような市街戦で長期戦へと自分達を引きずり込ませようとしている。
 事が長期化すれば、本土にはまだ徴兵可能な人口は幾らでもいる――事実、リシュカの思っているように統合軍各国は後先考えなければまだまだ戦力化は可能である――だろうから、援軍を待ってムィトゥーラウで粘り、死守する。
 最終的に兵力と予備戦力が拮抗すれば希望が見いだせる。
 真新しさは無いが、至極まともなやり口でアイツが好みそうな王道的展開だね。とリシュカは考えていたのである。
 無論、リシュカはアカツキの奇抜とも言える作戦を知るわけもないのだが。

「報告ご苦労。オットー、私はもう少し軍務をしたら寝るから下がっていいよ」

「はっ。既に夜も遅くなりつつありますし、かなり寒くなっておりますから体調にはお気をつけてお過ごしください」

「はいはい。お疲れ様」

 オットーは敬礼すると、リシュカのいる部屋から退出した。
 彼がいなくなると、リシュカはまた煙草を吸い始めた。

「クソ英雄の始末には時間がかかるから仕方ないけれど、ムィトゥーラウは確実に奪還出来るからいいとして、本国からやたら例の立案の返答が遅いのはなんでかなあ」

 リシュカは少し苛立ちながら紫煙を吐き出した。
 彼女が提案した、アカツキやリイナの心を折るための作戦は年末には届いているだろうに未だに返信の一つも無かった。
 準備に手間もかかるだろうからすぐには決まらないのは仕方ないにしても、今調整中だとかそれくらいの連絡は寄越してくれてもいいのに。
 リシュカは二十日以上経っても来ない連絡に僅かばかりとはいえ不信感を募らせていた。
 だが、彼女とて理性的な軍人だ。決裁に時間を要するのも知っている。
 今月末には何か連絡はあるだろうと頭を切り替えた。
 この日の夜もホルソフはとても寒く、リシュカは軍務を終えるとシャワーや着替えもそこそこに一人床につくのだった。
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