異世界妖魔大戦〜転生者は戦争に備え改革を実行し、戦勝の為に身を投ずる〜

金華高乃

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第20章 絶望の帝国冬季大攻勢編

第10話 若き龍皇は誓う

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・・10・・

 同日
 午前10時過ぎ
 ムィトゥーラウ・統合軍前線司令本部


 リイナ達からアカツキの搬送を任されたココノエ・実朝さねとも椿つばきの三名は夜闇の中で川を目印にして無事ムィトゥーラウに到着した。
 野営地からムィトゥーラウまではおよそ一五〇キーラ。ココノエ達の龍型飛行であれば一時間もかからない距離だったことから夜が明ける前にムィトゥーラウの地にはたどり着いていた。
 時刻は午前一〇時。しばらく防空対応に追われていた中でアカツキを届けたココノエ達はマーチスを始めとしたムィトゥーラウの面々に強く感謝され、今はしばしの休息を取っていた。
 ココノエ達はすぐに帰り防空体制につくつもりでいたがマーチスは、

「ドエニプラ退却からこれまでほとんど休めなかったと聞いております。退却支援はこちらの戦闘機部隊を陛下の帰還まで派遣しますから、休んでください」

 と言われココノエ達も首を縦に振った。自身らの疲労度には自覚があったし、退却軍の方には少しとはいえ休息を取らせた部下を残している。
 それならばということで、今はムィトゥーラウにある司令部の建物の一室で心と体を休ませていた。
 だがしかし、部屋の中の空気は重い。彼女等もアカツキの様子が気がかりだったのである。
 ココノエは部屋についてから二時間近くは仮眠を取ったものの、早くも目を覚ましていた。実朝は目を覚ましたが、椿は疲労が深く眠っていた。
 ココノエのその様子を見かねた実朝は、ココノエを心配して声を掛ける。

「陛下。今日の夕方まではムィトゥーラウにいられます。どうか今しばらくお休みください」

「うむ……。分かっておる。分かっておるのじゃが、眠れぬのじゃ」

「…………」

 実朝は言葉を失う。ココノエは顔を伏せていた。
 ココノエにとってアカツキは占いにあった勇者であり、亡命した時に厳しい条件を突きつけながらも救ってくれた命の恩人であり、戦う術も教えてくれた師でもある。その彼が今や自失寸前の状態であるのが平気なはずが無かった。

「実朝……、妾はどうしてアカツキがああなってしまったのか分からぬ。あんなアカツキなど見たことがなかった。亡命を受け入れてくれ、忙しいであろうに定期的に顔を出してくれた。ここの言葉だけではない。先進的な戦争の知識を惜しげも無く授けてくれた。国を取り戻してから役立つであろう様々な知識もじゃ」

「…………確かに、彼は自分達の為に色々と配慮もしてくださいましたね。学問以外にも、些細な事ですが生活が不便していないか。洋菓子は好きか。興味のある本があれば教えて欲しい。手配するから。など、今思い出すと数々あります」

「そうじゃ。細かい事に至るまで、あやつに対しての恩は既に返しきれぬ程にある。じゃというのに、妾はどれだけ返すことが出来ていたのかと思うとな……」

「決してそのようなことは……」

 実朝はココノエの様子にそれ以上声を掛けられなかった。恐らくは、今何を言ったところで自責の念しか湧かないのだろうと。
 そう思っていたが、ココノエはこれまでに培った戦場での経験もあるのだろう。俯いたままとはいえ決して折れてはいなかったし、上げた顔の瞳には炎が灯るかの如く諦めなど見られなかった。

「とはいえ、妾達には悩んでいる暇など無い。今も友軍は必死に戦っておる。遂には数的劣勢に立たされながらも、逃げ出す者は少ないらしいではないか。それが証拠に脅威の迫るムィトゥーラウの将兵達は今も帝国軍の悪鬼羅刹共に対して備えんとしている」

「統合軍は約九〇万を切ろうとしているにも関わらず、帝国軍は約一四〇万。にも関わらず、確かに陛下の仰る通り逃亡者は少ないと聞いております。我々がいた退却の三個軍も組織を保てておりました」

「数を減らしたとはいえ、歴戦の精鋭達で構成されておるからの。帝国の広大な大地では逃げ先が無いのもあるじゃろうが、皆信じておるのじゃよ。アカツキや、リイナ、エイジスに参謀達が諦めぬ限りはムィトゥーラウに辿り着けると。ムィトゥーラウにいるマーチスがおる限り、少なくとも逃げ切れるとな。じゃから妾も諦めておらぬ。実朝もそうであろ?」

「はい。もとより亡命が受け入れられていなければ死んだも同然の命でありました。御恩も返せていないというのに捨てるなど以ての外でございます。それに我々には悲願がございますから」

「そうじゃ。妾達は国を喪った者。されどもまだ国はある。帝国の奴等より奪還するまでは、諦める訳が無かろうて」

 ココノエは実朝をじっと見て言う。
 ココノエ達には目的がある。光龍皇国を帝国から取り戻し、復興させること。また民が幸せに暮らせる国にすること。
 目的が果たせるまで、戦うつもりだと。
 しかし、ココノエはただ戦地に身を投じるだけでは駄目だと感じていた。

「リイナからは狂った女が現れてからああなったと聞いておるが理由までは知らぬ。じゃがアカツキが潰れかけておるのはここまで運んでよう分かった。…………妾達は些かアカツキに頼りすぎていたのかもしれぬ。あれやこれやと任せすぎていたのかもしれぬ。龍皇だと言うのに情けない話じゃよ」

「陛下……」

「妾は龍。光龍。龍皇じゃ。人を守る存在が恩人一人救えぬようでは情けない。故に妾は決めた。戦況は芳しくないが、何人も集まれば一人の賢人より良き案も生まれるじゃろう。アカツキが授けてくれた知識と自身の経験を織り交ぜ、ただ戦うだけではない。真の将に妾はなる。妾が目指す姿は、あやつじゃから」

 ココノエは確かな決意を語った。
 全てをアカツキに任せるのではなく、少しでも彼のような指揮官、彼のような人になれるよう。ココノエにとって理想の武人は、アカツキのような人物なのだから。

「自分はどこまでも陛下についてゆきます」

「うむ。厳しい戦いが続くであろうが、よろしゅう頼むぞ」

「御意」

 若き龍皇は誓う。
 苦しい戦局の今こそ、自分のような指導者的立場の者が先頭に立ち乗り越えなければならないと。
 この日の昼。予定より早くココノエ達はムィトゥーラウを発ち、まだ危機が過ぎていない退却中の三個軍のもとへと戻っていった。
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