異世界妖魔大戦〜転生者は戦争に備え改革を実行し、戦勝の為に身を投ずる〜

金華高乃

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第20章 絶望の帝国冬季大攻勢編

第7話 遂に訪れた対面に嗤うリシュカ

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 ・・7・・
 12の月13の日
 午後11時25分
 統合軍野営地点より東9キーラ地点


 しんしんと雪が降る静かな夜。少量ながらも雪が積もり始めた中で、森の中を慎重に歩みを進める集団がいた。着ている外套は統合軍のそれ。連合王国軍の国章もある。
 だがこの地点は統合軍の野営地点よりやや離れており、歩哨が監視をするには若干遠い地点でもある。
 となると、ここにいるのは誰なのだろうか。

「リシュカ閣下、Aの野営推測地点まであと九キルラです」

「雪が降って助かったよ、パラセーラ。満月のもとだと相手に見つかりやすいし」

「代わりにどこにいるのかが分かりにくくなりましたが……」

「この辺りは自分に任せてください。ほんの十キルラ先が故郷の町です」

「頼むねサフコフ中尉。こういう隠密行動は地元の奴の土地勘が重要だから」

「はっ」

 森の中にいたのは統合軍ではなく帝国軍。それも、リシュカとパラセーラが率いる『断頭大隊』のうち二個小隊だった。
 何故彼女らがいるのか。それは連合王国軍大将ブリックが戦死した翌日に遡る。

「ちょっとクソ英雄の心をへし折ってくる」

 リシュカのたった一つの発言だ。
 勿論、突拍子のない発言ではない。事前に打ち合わせはされていたし、だからこそリシュカが今の立場にある。
 リシュカが率いる第八軍の幕僚にせよ全体を率いるシェーコフにせよ周知の事実だったから、いよいよか。くらいのものだった。
 彼女がこの奇襲作戦、いわゆる『首狩り戦術』を行うにあたって動員したのは自身の精鋭一個大隊、『断頭大隊』である。この作戦の為に、『断頭大隊』には分隊単位で簡易ながらも魔法無線装置を装備していた。
 奇襲を担当するのは二個中隊。一個中隊は作戦にあたって統合軍を混乱させる工作部隊だ。武器輸送トラックや派手に燃えそうな車両を襲撃。さらに時間が許す限りは破壊工作を行う。
 リシュカとパラセーラなどの一個中隊は、分散して襲撃。アカツキが野営する地点を奇襲を担当する。こちらも離脱が難しくなるまでは徹底的な破壊と殺害を行い、アカツキと対敵。あわよくばアカツキの右腕たるアレンを殺せればという目標がある。
 細かく説明すると以上のようになるが、作戦の目的はたった一つだ。
 人類諸国の英雄アカツキへ、精神的一撃を与えること。後々に至るまで、彼の作戦能力を奪うことにある。
 なお作戦の達成可否を問わず退却の時間は決まっている。いわゆる限界時間だ。これを過ぎると二個中隊は速やかに退却。彼女等の退却を援護するのは二個中隊と、進出していた中部方面戦線から一個旅団。中部方面は統合軍の防御線が薄く、リシュカたちがいる地点まで約四〇キーラまでであれば、極わずかな時間に限り進めることができていた。当然リシュカ達を回収すればこの一個旅団もすぐに元の戦線に戻る予定だ。
 時刻は十二時前。作戦決行は日付が変わってから適当な時間で。帝国軍の精鋭達は作戦開始まで息を潜めて待っていた。

「あの、リシュカ閣下」

「どうしたの、パラセーラ大佐」

「この作戦、果たして本当にアカツキは心折れるでしょうか」

「折れるよ、間違いなく。奴はここまで敗北の味を知らなかった。だけど今はどう? 帝国軍にコテンパンにされて、戦線は大幅に後退。今あいつは自信を失いかけている。このままムィトゥーラウにまで無事戻れば雪辱を晴らしにかかってくるだろうけど、その前にヒビの入った心に一撃ってわけ」

「なるほど……。リシュカ閣下が仰っていた、相手が嫌がる事を徹底的に行うの代表ですね」

「そゆこと」

(ま、それだけじゃないけどね。むしろ、私の存在自体があのクソ野郎にとって心を折る決め手になるはずだから。)

 リシュカは表向きの理由をパラセーラに語り周りの部下も頷くが、内心は全く違う目的を持っていた。
 アカツキはリシュカの前の姿、フィリーネが自身の上官であることを知っている。何せ知らせたのはリシュカ自身なのだ。
 アカツキは自身の上官が恨みと呪詛を吐き散らして死んだと思い込んでいる。ここ数日になってやっと生きているかもしれないという疑念が生じていたが、アカツキはそんな訳が無いと思っている。
 そんな所にリシュカが現れたらどうなるか。何せ、この姿が前世の姿であるのを知っているのはアカツキだけ。前世の姿をしたリシュカがアカツキの目の前に現れれば、しかも帝国軍として現れれば想像に難くない。奴の性格上心を壊すまでは行かなくても相当なショックを与えられるはず。
 アカツキの前世を知るがゆえに、リシュカは残酷極まりない手に打って出たわけである。

「パラセーラ大佐。今回は何もクソ英雄を殺すのが目的じゃないから気楽に行こうよ。周りを固めてるのがヤバい奴らばっかりだから気は抜けないかもしれないけど、こういう奇襲作戦は楽しんでこそだよ」

「はっ。リシュカ閣下の心持ちを尊敬致します」

「ねー、それって良い意味で言ってる?」

「はい。私は、緊張しておりますので」

「あっそう」

 リシュカは興味なさげに返す。
 彼女等が雪夜の中で確実に近づくうちに、軍服の内ポケットにしまってある懐中時計の時刻は日付が変わった事を告げていた。アカツキ達が野営している地点から四キルラ半の地点である。
 森の出口であるからか歩哨が三人いたが、無残な姿に成り果てていた。

「そろそろ第二中隊がドカンとやる頃かな」

「時刻的にはまもなくですね。ここから北北東三キルラで実行のはずです」

「第一中隊は分散したし、あとは待つだけだね」

「はい」

「吐気を催すこの外套もおさらばだよ。ったく、作戦とはいえこんなのいつまでも着たくないっての」

「作戦が始まって敵地に行けばいらなくなりますから、どうかご辛抱を」

 リシュカが統合軍の外套を羽織ること自体に嫌悪していると、パラセーラが彼女を宥める。パラセーラはリシュカが余程統合軍を憎んでおられるのだろうくらいにしか思っていない。
 さらに数分後。遂に作戦開始の合図が発せられた。
 パラセーラが言っていた地点から大きな爆発音が立て続けに複数響いたからである。

「よしきた」

「閣下。特定符号が届きました。『片付けが嫌なので散らかした』です」

「了解。『徹底的に散らかせ』を送れ」

「はっ」

「てわけで、貴様等行くぞ。クソ英雄に挨拶だ」

『御意』

 リシュカ達は行動を開始した。
 深夜に突如として爆発が起きたことにより、精神的に摩耗していた統合軍は一挙に混乱に陥る。いかに統合軍と言えども今の精神状態とこの状況では統率が戻るまでに暫くの時間がかかるだろう。それ程までに統合軍の兵士達は消耗していたのである。
 リシュカ達は、統合軍の外套を着ているだけあって彼等に紛れていても誰も気付かない。それどころではないからだ。
 むしろ、彼女等に声を掛ける者すらいた。

「なあこれどういうことだよ!」

「分からないわ! でもあっちの方で何か爆発があった! アカツキ大将閣下を守らないと!」

「ちげえねえ!! 俺はともかく現場に向かう!! 頼んだぞ!!」

 ある士官がパラセーラに話し掛けてから二言、三言交わすと工作部隊が爆発させた方へ向かっていった。

「…………意外とバレないものなのですね」

「こっちで同じことやられたら一時的でも今みたいになるでしょ。外套二枚重ねも、今の寒さならやってる奴もいるから怪しくないし」

「確かに……。とりあえず向かいますか」

「うん。もしかしたら推定地点にいないかもしれないけれど、念の為にね」

「はっ」

 リシュカ達は分散してアカツキがいるであろう地点へ向かう。
 すると向かう途中の、残り一キーラ半地点になってこんなやり取りが聞こえてきた。

「アカツキ大将閣下は!?」

「ついさっきリイナ准将閣下にエイジス特務官と共に早々にテントから出られた! 爆発地点に向かってる!」

「なんだって!?」

「話によると、帝国軍の連中を見つけたって報告に飛び出したって!」

「どこへ向かわれたんだ!?」

「森の方角だ! 破壊工作目的ならさっさと退いてる可能性があるからって!」

「了解した!」

 その声はアレン大佐と部下のやり取りだった。彼はすぐさまアカツキ達がいるであろう地点に向かう。

「まーじかー。連中、自ら火に入ってくれようとしてんじゃん」

「手間が省けましたね。人形までいるのは厄介ですが、既定路線です」

「けど、このままだと先回りは厳しいねえ。仕方ない。移動しながら通信を送るかー」

 リシュカはパラセーラと数名の部下を引き連れて、走り出す。
 途中、リシュカは部下にこのような通信を行った。

『パパとママは人形を抱えて向かった。近所のおじさんも向かう。ただし、散らかした部屋ではなく庭。庭に向かう前に、もう一部屋散らかせ』

 内容を訳すると以下のようになる。

『アカツキとリイナはエイジスを伴い移動開始。アレンも向かう。ただし工作地点ではなく森の方角。森へ向かわせる前に工作地点より南でもう一箇所爆発させよ』

 これらはアカツキ達に早く森へ向かわせないようにする為だ。時間稼ぎである。
 わずか二分後。リシュカの命令通り爆発がもう一度起こる。これでアカツキ達は森へ向かう前に足止めを食らうことになった。

「どこで獲物を待ちますか?」

「最初の地点からちょっと離れたあたり。ここにしよう」

 リシュカが指定したのは森が僅かに西に伸びた地点だった。
 最初の爆発地点の南で、ただし野営地点よりやや離れているが故に人が少ないであろう場所。しかし、最初の爆発地点に向かうには最短経路だ。

「お前達は森に入り隠れて待機。ギリギリまで魔力は隠匿。人形に魔力を察知されるからね。ただし、いかにもこの辺りで戦闘がある雰囲気を出す為の法撃時のみは別ね」

「御意」

 リシュカは目的地に到着すると、部下を待機させた。
 あとはここでアカツキ達を待つだけだ。

「さて、どうやって待とうか。怪我したフリしてもいいし、あ、そうだ。もし来たら錯乱したフリしよっかな。けってーい」

 リシュカがニヤニヤと笑うと、パラセーラに合図を送る。
 するとパラセーラは派手ではあるがさほどの威力はない法撃を放ち、盛大な爆発音が広がる。これでアカツキは釣れるだろう。

「いつ来るかなぁ。楽しみだなぁ」

 奴に会える瞬間が待ち遠しい。まるで恋人を待つように心が弾む。実際は真逆であり、アカツキの絶望に満ちた顔が見たいだけであるが。

「早く早くぅ。お前に会いたくて、仕方ないんだけどなぁ」

 リシュカは笑みを抑えきれないが、まだその時ではない。とびっきりの歪んだ笑みで迎える為に、今はまだ笑ってはいけないのだ。
 二分半後。その瞬間は訪れた。

「マスター! 友軍の兵士を発見! 単独です!」

「こんな所でなんで!? もしかしてさっきの攻撃で!?」

「とにかく保護してあげましょう!」

(きたきたきたきたきたきたきた!!!!)

 エイジス、アカツキ、リイナの声が聞こえてきた。
 リシュカはすぐに近付けさせないように、演技を始める。あくまでアカツキに悟られないように、作った声で。

「やだやだやだやだ!! こないでぇぇぇぇ!!」

 初級火属性の火炎弾を放つ。この攻撃だけでは大した能力を持たない魔法能力者と思えるように、わざとかなり微弱な法撃になるよう操作して。

「ちょっと! まさか錯乱して?!」

「無理もないよリイナ。こんな状況だ」

(くひひひ、騙されらぁ。)

 リイナとアカツキの反応にリシュカがほくそ笑む。
 だが、もう一人の目まではごまかせなかった。

「警告。マスター、目の前の当該人物は魔力を操作している可能性あり。精神変調……、異常無し。矛盾しています」

「どういうこと……?」

(ちっ。クソ人形の目までは誤魔化せないか。ここまでだね。)

「旦那様。下がって。確かに様子がおかしいわ」

「…………だね。ってことはつまり」

 リイナとアカツキもエイジスから送られてくる共有情報で気付いたのだろう。
 リシュカも、演技はここまでだと考えた。
 となれば、もう隠し通す必要も無い。

「くひ、くひひひひひ。ひひひひひひっっ!!」

「…………待った。その、声」

 アカツキの声が震えのを感じ取る。
 そう。そうだよ。
 今お前の目の前にいるのは、助けられなかった上官。前世で忠誠を誓っていたその相手。
 リシュカはゆっくりと立ち上がる。
 連合王国軍の外套を脱ぎ、露わになるのは帝国軍の外套。階級章は偽装も兼ねて誤魔化してある為、本来のものではない。どうせすぐに偽装もいらなくなるが。

「まさか、帝国軍?!」

「警告。強大な魔力反応を検知」

「いや、そんな、まさか……。どう、して……」

「…………旦那様?」

「マスター……?」

「きひひひひひ。ひひひひひひっ!」

 いいよ、たまんないよ。快感に満たさせてくれる反応をするじゃない。
 真実に直面した、絶望した声。
 あぁ、どんな表情をしているんだろうねえ。
 リシュカは絶頂にも似た感覚を全身で感じながら、ゆっくりと彼等の方へ振り向いた。

「アカツキ・ノースロードォ。私、私ねぇ。お前にずっと、ずっと会いたかったんだよぉ?」

 アカツキは、口角の両端を歪めて笑うその表情を見てしまう。
 アカツキは、会ってしまう。
 前世で何度も何度も見た、尊敬していた上官の顔を。よりにもよって、この世界で。帝国軍の軍服を見に纏い狂笑する彼女を。
 前世は高槻亮。今はアカツキ・ノースロード。
 前世は如月莉乃。今はリシュカ・フィブラ。
 二人は遂に、対面してしまった。
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