異世界妖魔大戦〜転生者は戦争に備え改革を実行し、戦勝の為に身を投ずる〜

金華高乃

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第3部『血と硝煙と死体の山の果てに』第16章 春季第三攻勢作戦『電光の双剣』

第8話 Aブロックにてアカツキ達は奮戦す

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 ・・8・・
 午後3時前
 人類諸国統合軍南部統合軍Aブロック・最前線付近


 Bブロックのアレゼル大将、Cブロックのサージ大佐や神聖特務師団が善戦を続ける中、アカツキ率いる一個連隊及びアレン中佐の一個大隊は最も激しい戦いが起きているAブロックの最前線から三キーラ地点まで進出していた。
 事態が発生してから既に四時間近く経過していた。
 この時点で人類諸国統合軍は良く戦っていたものの、奇襲によって最も進出していた地点から五キーラ近く後退していた。特に妖魔帝国軍の攻撃が一番厳しいAブロックに至っては五キーラ半の後退を強いられており、橋頭堡の一部が崩れかかっていた。
 死傷者も多い。情報が錯綜している為に正確な数値が判明していないが、死者は約四〇〇〇を越え、負傷者も約六〇〇〇に迫ろうとしていた。能力者化師団だけでも死者一五〇〇近く、負傷者二〇〇〇近く出ているのだからいかにバケモノ銃砲兵が脅威なのかをまざまざと感じさせられていたのである。
 だが、これだけの死傷者を生じさせながらも能力者化師団と前衛軍は戦線崩壊を辛うじて防いでおり、妖魔帝国軍が企図していた包囲網の完成は防いでいた。
 もしこれが前時代の戦争ならば、人類諸国統合軍は今に至っても妖魔帝国軍への対処は叶わなかっただろう。妖魔帝国軍の『ソズダーニア銃砲兵』部隊が両側面を侵食し包囲され、Bブロックの司令部は孤立していたに違いない。
 しかしそうはならなかった。妖魔帝国軍の予想以上に人類諸国統合軍の立て直しは早く、援軍到着を信じて最前線の兵士から将官に至るまで必死に異形のバケモノと津波のように押し寄せる妖魔帝国軍から橋頭堡を守っていた。
 アカツキ達もまた、その一団の一つであった。


 ・・Φ・・
「マスター、攻勢に晒されているAブロックの前線司令部に間もなく到着します。既に前線司令部は機能の殆どを後方へ移転。撤退の準備が始まっています」

「やっぱりこの攻勢で司令部も後ろに移しているよね。ベターな選択肢だ。ロフト大佐、悪いけど先に連隊を率い最前線に赴いて援護してあげて。Aブロックの司令官、能力者化師団のコットー師団長に現況を聞いて指示を出したらすぐに僕も向かうから」

「了解しました、友軍を救いに向かいます。ではまた!」

「貴官等に武運を」

 ロフト大佐は勇ましい掛け声で『ソズダーニア銃砲兵隊』が跳梁跋扈する激戦地へと向かっていった。
 僕はアレン中佐達と共に見えてきた撤退途上の前線司令部へ到着した。

「大騒ぎね。砲弾も飛んできているし、ここに前線司令部を置くのは良くないわ。いつ直撃弾が来てもおかしくないもの」

「とはいえ、後退し過ぎなのも良くない。Aブロックが崩壊すれば片翼がもげるからね。司令部だけ後方へ移転させて最低限の指揮機能は残させないと」

「敵の最前面はここから三キーラから二キーラ五〇〇メーラまで最接近。警告、二時方向へ着弾。あと五秒」

「大隊、回避!」

 直後、敵の野砲と思われる砲弾が司令部テントの近くにある誰もいない野営テントに直撃する。
 最新の情報では、援軍は先鋒こそ来てくれたけど本隊の到着まであと一時間半はあるという。だというのに、司令部付近にまで敵の野砲が届くのは危機的だ。早急に解決させないといよいよ不味いのを実感しながら、僕はリイナとエイジスと共に司令部のテントへと駆け込んだ。

「コットー師団長! コットー少将!」

「コットー少将閣下。アカツキ中将閣下以下、一個連隊及び直轄一個大隊が到着致しましたの。既に一個連隊は前線へ向かわせましたの」

「お、おおお!! アカツキ中将閣下にリイナ准将、エイジス特務官も来てくれましたか! 助かった!」

 コットー師団長や参謀達は僕達の顔を見て大いに安堵した。彼等は司令部機能移転の為に機材や機密資料を運ぼうとしていた。

「コットー少将、司令部機能は五キーラ南までの後退で済ませていますよね?」

「あ、ああ……! それより南に後退させるのは戦線崩壊を招きますからそこで留めてます。ただ、師団の稼働可能な部隊はとても後退はさせられず現状維持させています」

「それでいい。能力者化師団が崩れれば蹂躙されかねない。Aブロックの最新の戦況を見せて」

「はっ。これです」

 片付けかけていたテーブルに唯一残っていたのはついさっきまで記録がとられていた戦況図だ。
 元より司令部を強襲するつもりだったのか、特にここから先の前面で敵軍は食い込んできている。一番深刻と言えるだろう。
 けれど、他もどっこいどっこいだ。左側も右側も各所で攻勢が絶え間なく続いていて、一部は包囲されて孤立している部隊もある。戦線がぐちゃぐちゃにされているといっても過言では無かった。
 これを立て直すとなると至難の業だろう。少なくとも士気を回復させないといけないし、残り一時間半はこれ以上敵に侵攻されるのを防がないといけない。
 混戦した状況下での戦術級魔法は友軍を巻き込むし、発動までに時間がかかりすぎるし詠唱中は無防備になるから危ない。
 マーチス元帥閣下の独自魔法も広範な戦線では一部しか使えない上にアレは一度使うと次に行使可能になるまで時間がかなりかかる。そもそもマーチス元帥閣下は今の戦況を対処する為にそれどころじゃないはずだ。
 アレゼル大将閣下のような召喚型やエイジスみたいなタイプならともかく、意外と召喚武器の独自魔法は使い勝手が悪いんだよね……。
 となると、エイジスの活躍が必須だね。しばらく彼女が戦闘に参加出来なくなるけれど、仕方ない。

「どうするの、旦那様」

「援軍本隊の到着までは一時間半から二時間。対してエイジスの第一解放は最大稼働二時間。切り札の一枚を使うしかないね」

「でしょうね。この時こそ、彼女の力を借りるべきだわ」

「マスター、ワタクシはいつでも第一解放の準備は出来ております。Aブロックにいる不埒なバケモノなど屠ってみませましょう」

「頼もしい限りだよ、エイジス。よろしく」

「サー、マスター」

 エイジスが自信に溢れた表情で頷いてみせると、僕は微笑んで頷き返して。

「――コットー少将。最前線は比較的無事な能力者化師団と通常師団の部隊と僕達に任せて。代わりに、貴方は後退して移動した司令部に到着次第すぐに立て直しを」

「承知しました! 未だ混乱している戦線にアカツキ中将閣下のご到着と、作戦として遅滞防御を発します。閣下が援軍に来てくださったと伝われば、兵達の士気は大いに上がりますから」

「よろしくね。ではまた後で」

「はっ! アカツキ中将閣下、どうかご無事で! 諸君等、畏れ多くもアカツキ中将閣下が最前線を引き受けてくださる! 何としてでもAブロックの立て直しを行うぞ!」

 僕達はコットー師団長に司令部を任せると、テントの外に出る。
 待っていたアレン中佐達が敬礼し、僕は答礼すると。

「アレン中佐、あと一時間半から二時間この戦線を維持させるけど、戦力面に不安がある。そこで、エイジスに第一解放をさせることにした。大隊は彼女の援護をしてほしい」

「久しぶりにエイジス特務官の人間大の姿が見れるわけですね。了解しました! 支援は我々が担います。もちろん、アカツキ中将閣下の護衛もお任せください」

「いつも感謝するよ。じゃあ連隊の彼等に今も勇敢に戦っている将兵も待っているから行こうか。――大隊進発!」

『了解!』

 すぐさま僕達は最前線へ向けて駆け始めた。
 時折飛来する砲弾をものともせず、完全充足の五五〇名の勇者達は走る。

「アカツキ中将閣下!?」

「リイナ准将とエイジス特務官殿もいるぞ!?」

「援軍、援軍だ!」

「さっきの一個連隊もそういう事か!」

「野郎共、英雄閣下が出られるんだ! ここで退いては一生の恥! 再奮起せよ!」

「我々はアカツキ中将閣下と共にあり!」

『うおおおおおお!!』

 途中、後退をしていた友軍に会うと援軍の件が伝わりきっていないのか僕達を見て驚愕する。けどすぐに歓喜の表情に変わり、戦意喪失仕掛けていた部隊は士官や下士官の叱咤激励で息を吹き返して、無事な者は反転して再び共に戦場へと向かう。


「エイジス、第一解放を許可する」

「サー、マスター。『第一解放ファースト・リミットブレイク』へ移行。制限時間、二時間のカウントを表示します」

 エイジスがいた場所は光に包まれ、数秒後には衣服はそのままだけど人間大になったエイジスが現れた。手に持つは漆黒の鞘に入った魔法剣。白銀の魔法剣は第二解放専用装備らしく、第一解放の近接戦はこれを使うらしい。同時に情報共有画面には第一解放の行動制限時間が表示される。

「おおおお!! エイジス特務官殿の第一解放だ!」

「勝てる、勝てるぞ!」

「我々には英雄と女神がついている!」

「ロイヤル・アルネシアに栄光を!」

 エイジスが第一解放をした事で、友軍の士気はさらに高まる。
 よし、これで少なくとも崩壊は防げるだろう。あとは『ソズダーニア銃砲兵』共と随伴歩兵、後方にもいる敵軍の突破を阻止すればいいだけだ。

「マスター。敵軍目視を確認。『ソズダーニア銃砲兵』の数は目視内で約四〇。半刻前より数は一〇減っていますが、横隊を形成し今もなお突破中」

 あれが『ソズダーニア銃砲兵』か。
 確かに化物に相応しい異形だね。あんなのが銃砲兵まで持っているんだから、さながら戦車のようだろう。能力者化師団の兵士達でも手こずるのも納得だ。
 そして、世界に絶望して怨嗟を残して亡くなったあの人も見た、バケモノでもある。当時耳にした情報によれば歯牙にもかけず何体も屠ったらしい。
 …………いや、今は亡き人を過ぎらせるのはやめよう。
 僕は頭から振り払うと。

「エイジス、残り一キーラ時点でソズダーニアを中心にロックオンして最大火力を。纏めて吹きとばせ。後は任せるけど何かあれば逐次命令する」

「サー、マスター。あと三〇秒後に実行します」

「おっけ。リイナ、エイジスの最大火力投射後に『アブソリュート・デュオ』を。射出方角は情報共有に送るよ」

「ここね。任せてちょうだい!」

「アレン中佐、ソズダーニアは高防御かつ速度こそ早いけど小回りは利かない。エイジスは主にソズダーニアを狙うから、君達は随伴歩兵を狙って」

「了解です!」

「発動まであと一〇秒」

 エイジスの宣言の直後、情報共有にはエイジスが多重ロックオンが表示される。
 いつだって戦争は火力こそ正義だ。エイジスの最大投射はやはり凄まじいね。

「五、四、三、二、一。発動します。主に仇なす化物共に制裁を」

 上空を埋め尽くすかのように、エイジスが現界させた魔法陣は面制圧攻撃力に優れる火属性爆発系魔法が放たれる。
 エイジスは妖魔帝国内では悪名高い存在だからだろう、目視された時点で警戒されていたけれど甘い。
 魔法障壁なんて、それを上回る攻撃力をぶち当てればいいだけだ。
 エイジスの多重法撃は半数ほどこそ魔法障壁で防がれたもののもう半数が着弾。随伴歩兵は為す術もなく肉塊となり、ソズダーニアも何体かが吹き飛んだ。
 でも、片腕が吹き飛ばされた程度で奴らは止まらなかった。これもリチリアの情報通りか。
 ならば即死クラスの攻撃を当てればいい。

「リイナ!」

「ええ! ――銀世界、極地をも凍てつかせる二対の光をここに! 『アブソリュート・デュオ』!!」

 敵の能力者が魔法障壁を修復させる隙を許さず、リイナの『アブソリュート・デュオ』はソズダーニアと随伴歩兵の密度が最も厚い箇所へ直撃する。
 そして追い討ちと言わんばかりに、

「大隊停止、狙え!! 総員斉射!!」

 アレン中佐が手を振り下ろした瞬間に、大隊の統制射撃が妖魔帝国軍を襲う。周りにいた友軍や先に駆けつけていた連隊から歓声が上がり、快調だった妖魔帝国軍の進撃が初めて止んだ。
 よし、やるか。

「今こそ好機!! 総員、吶喊っっ!!」

『おおおおおおおお!!』

 動きが止められた妖魔帝国軍に対して、友軍は一斉に突撃を敢行する。

「グゥルルルルォォォォォ!!」

「五月蝿いバケモノですね。マスターの視界から消えなさい」

「ギギャァァアアァ!!」

 圧倒的な速度で戦場を走り抜け、時には飛翔するエイジスは装甲車並みの防御力を持つソズダーニアを多重法撃で消し炭にするかいとも容易く切り刻み、手に持つ剣で一刀両断する。

「いいか! バケモノ共は図体が大きい分回り込めば十分に殺れる! 動きを止めるな! 目障りな随伴歩兵を薙ぎ倒しつつ、エイジス特務官を援護しろ!」

「了解です!」

「いいようにしてやられたが逆襲だ!」

「手早く済ませるぞ!」

 アレン中佐の的確な指示で、彼を含む大隊の部下達は次々と随伴歩兵を倒していく。

「いつもの指揮官狩りをしようか、リイナ」

「お楽しみの時間ね!」

「お供しますよ、アカツキ中将閣下!」

「助かるよアレン中佐!」

『マスター、首狩りですか』

 敵の隊列に穴が開いたことで僕達はそこを突破する。
 すると、今もまたソズダーニアの一体を倒したエイジスからの思念通話が入った。

『指揮官と思われる対象を索敵。マップにマークして』

『サー。まもなく友軍が十分に対処可能な数にまで減らせますから、マスターのもとへすぐに向かいます』

『分かった』

 手短にエイジスとの会話を終えると襲いかかる妖魔帝国兵を斬り、法撃で殺しながらも前進を続ける。
 状況は確実に変化していた。航空支援やだいぶ前で爆ぜるカノン砲の砲撃支援はともかく、到着直前の頃までは乏しかった野砲による支援はだいぶ統制がとれていたし発数も増えていたんだ。
 リイナとアレン中佐に部下達の援護もあってそろそろ一個小隊分の敵兵を屠った頃、多少の土埃こそいつも衣服に付着こそしていたけれど無傷のエイジスがやってきた。

「お待たせしました、マスター」

「思ったより早かったね」

「計一三のソズダーニアを討伐した時点で、友軍の将校が十分に反撃可能と仰っていましたので」

「やっぱりエイジスは頼りになるよ。数分で一三のキルスコアだから」

「リチリアのデータである程度想定はしておりましたが、ワタクシの敵ではありません。ただ、兵士達にはかなり強力な兵器だと感じました。――特定完了。マスター、指揮官と思われる対象は前方一キーラ先と思われます」

「…………あっちか。でも指揮官は撤退しようとしてるみたいだね」

「いかがなさいますか?」

「旦那様、今回の目的はあくまで戦線の維持。追撃は程々にしておきましょう?」

「そうだねリイナ。今いる部隊はかなり疲弊してる。追撃はもうすぐ到着する援軍に任せるとしようか。ただ、脅しはしよう。エイジス、指揮官周辺を吹き飛ばせ」

「サー、マスター」

 エイジスはすぐに詠唱。
 数秒後には敵指揮官の周辺に爆発が巻き起こり、ついで後方支援の野砲も着弾する。
 どうやらこの攻撃で奴等は撤退を決意したらしく、次々と敗走を始めた。
 ちょうどそのタイミングだった。

「伝達。援軍本隊が到着しました」

「良かった、やっと到着してくれた!」

「アカツキ中将閣下、援軍本隊協商連合軍第二〇師団師団長から連絡です! 『閣下の救援に深い感謝を。これより追撃戦は我々にお任せください』とのこと!」

 エイジスの報告の直後、通信要員が駆けつけてきて援軍の協商連合軍第二〇師団師団長からの連絡内容を教えてくれた。
 部下達も二時間近い戦闘で疲労も出てくる頃だろうし、何より数時間ずっと戦線を維持してくれた兵士達は限界に近い。追撃戦は師団長に任せよう。

「了解したよ。報告ご苦労さま」

「はっ」

 危機は乗り越えた。
 妖魔帝国軍による包囲を目的とした奇襲を防ぎ切った僕達は勝ったといっても良いだろう。
 だけど、人類諸国統合軍は想定外の出血を強いられたのは間違いない。
 僕は強く感じた。
 この戦いはまるで、これからの戦争の道筋が厳しく険しいと強く暗示しているのではないか、と。
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