異世界妖魔大戦〜転生者は戦争に備え改革を実行し、戦勝の為に身を投ずる〜

金華高乃

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第15章 戦間期編2

第11話 ダロノワ大統領との非公式会談(後)

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 ・・11・・
「諜報活動、ですか」

「はい。妖魔帝国とは休戦中とはいえ、永続的な解決ではありません。アカツキ中将閣下からお聞きする限りでは連合王国の防諜体制こそ万全ですが、あくまで妖魔帝国への情報流出率が下がったに過ぎません。諜報員は今も何らかの情報を本国へ流しているかもしれない、ですが我々には彼等と同様の行動を取る手段と人員は極端に限られていませんか?」

 ダロノワ大統領から口に出た発言に、僕は意外に思いながらも至極冷静に返す。相談内容としては真っ当であるし、正当性もあると考えたからだ。
 妖魔帝国に対する諜報活動は確かに必要不可欠な対策の一つだ。軍の一部には休戦によって一時の平和を享受しているけれど、敵に変わりはない。
 となれば敵国の情報収集は喫緊の課題だった。
 だけど、容易く出来ない事情が僕達側にはあった。

「ダロノワ大統領の仰る通りです。僕達人類諸国側は妖魔帝国へと潜入する術も、手法も限られています。例えば、妖魔帝国には変装魔法がありますが、人類諸国にはありません。今は貴女方が変装魔法の仕方を教えてくれましたから少しずつ使える者を増やし、使いこなせるように動いてますが妖魔帝国の水準に追いつくには程遠い。ようするに変装魔法自体が妖魔帝国独特の魔法だから、でしたね」

「はい。変装魔法はかつては妖魔帝国では無かった、今は帝国中部にあたる位置にあった国にいた種族が編み出した魔法でした。身長や体重以外の姿形を変えるものですから、高位の魔法ではありますが今では妖魔帝国にそれなりの数の使い手がいます。チャイカ姉妹もこれの使い手でした」

「だからこそ妖魔帝国の選抜された諜報員は一部が未だに潜んでいられるわけですね。この隔絶的な差は大きいです。そして、そもそも我々には妖魔帝国へ潜入するルートが殆ど無い。だから、このような提案をしたと」

「ええ、その通りですアカツキ中将閣下。現状、多方面において妖魔帝国と比較して秀でている連合王国など人類諸国が大きく遅れを取っているのは諜報関係です。山脈に隔てられている、変装魔法が無いなど多々仕方ない要素がありますが、決して現状に甘んじてはいけないと私やチェーホフ国務長官は考えました」

 ダロノワ大統領の懸念について、もちろん僕達も体制を構築しようとはしていた。
 彼女達から変装魔法を教えてもらい、適正の高い人物を養成、少しずつではあるけれど妖魔帝国への潜入の準備はしている。
 けれども、扱うのが高位魔法の変装魔法だけあって計画は予定通りには進んでいなかった。
 まず、変装魔法そのものが難解で適正の高い能力者が相当に限られてしまったこと。この時点で養成が難しいということになってしまった。
 ちなみに僕は残念ながら変装魔法の適正値というか順応値は高くなかった。どうやら妖魔帝国にいる種族の方が適正値が高いらしい。あっちが光属性の適正者が殆どいないとおなじなのかもしれない。
 次に、変装魔法を使えたとしても姿形をほぼ完全に変えるのに数年単位で時間が必要なのかわかった。最も有望な者でも開戦に間に合うかどうか。という有様。こればかりかは変装魔法の体系が揃っている妖魔帝国と僕達の差としかいいようがなかった。
 となると、潜入には非魔法的変装しか手段が無くなり、潜入したとて発見される可能性が高まる。種族に違いもあるし。
 このように、妖魔帝国への諜報活動は連合王国単独では準備にすら時間を要するという状態で、どうしたものかと頭を悩ませていた。
 そこにこの提案。魅力的ではある。あるんだけども……。

「個人的には、悪くない提案です。妖魔帝国への諜報がほぼ成されていない今、僕達に取れるのは国境付近の強行空中偵察くらい。でもそれも休戦下では不可能です。だからこそ、同じ種族の貴女方ならば適任でしょう」

「良かったです。なら――」

「ですが、本件は僕の一存では決められません」

 表情を明るくさせて言うダロノワ大統領の言葉を遮り、僕は返す。
 するとダロノワ大統領はやや顔を曇らせるも、予想はしていたようで。

「やっぱり、ですかね……」

「例えば僕が首相なり大統領の地位についているなら即断即決出来ますが、僕はあくまで一介の軍人に過ぎません。独断で首を縦に振れないのは軍人だった御二方ならよく存じていると思います」

「そうでしょうな。いくらアカツキ閣下が英雄と称され、中将であろうとも政治家ではない。高度な政治的取引を伴うという事ですかな?」

「はい、チェーホフ国務長官。少なくとも本件をマーチス元帥閣下と情報機関の長たるザッカーハウゼン中将と密議が必要になります。後、限られた将官級密議にて裁可を執り、国王陛下に密勅を承る。ここまで全ての賛意が取れて初めて貴女方に任務についてもらうルートになります。これでも最短ルートです。少なくとも議会を通さない、法的にはグレーのやり方なので」

「連合王国も大変ですなあ……。いくら王政とはいえ、限定的民主主義も採用するとなると、手続きが随分と複雑なようで」

「致し方ありません。我々連合王国軍は国王陛下の軍。大戦時に速やかに軍が行動出来たのは予め国王陛下より略式で動けるように勅令を頂いていたのと、現場判断主義が故です。大戦を経て、軍は精密機械のようになりましたからね」

「妖魔帝国の手続きに比べて、だいぶ時間がかかるわけなのですね」

「ええ、ダロノワ大統領。せっかくの提案ですが、今ここでよろしくお願い致しますとは言えませんね」

「それは、今が一時の平和にいるから。でしょうか」

「そう思ってもらって構いません」

 大戦が一度休戦になってから連合王国の軍も政府も民間に至るまで、戦争の熱から冷めるように皆が平和を求めるようになった。
 勿論、平和を求めるのは当然の事だし僕だってリイナやリオと平和な世界で生活したい。
 だから戦争に動員されていつ死ぬか分からない戦地に投入される国民や。
 ブカレシタで総力戦の片鱗を見せた結果再戦したら果たしてどれだけの戦死傷者が出るか予想がつかず恐れる軍。
 大戦までに当初の予想を遥かに上回る戦費を拠出する事となり再戦となったら国家財政が破綻するまで続けないといけないのではないかと懸念する議会。
 いずれの立場の者達も前世の総力戦を知る僕の基準からすれば、まだ序の口の戦争を経験しただけで再戦におよび腰になる勢力が出始めていたんだ。
 既に議会では戦争を先延ばしする為に条約の二年延長を望む声は上がっているし、挙句の果てには軍縮の声すら出ていた。流石に軍縮の方向は妖魔帝国の前科もあるからすぐに声は小さくなったけれど、休戦してから軍予算がかつて程積極的に取れなくなったのは事実だった。
 それだけじゃない。平和を求める声があるということは、極力妖魔帝国を刺激したくないということでもある。
 つまり、迂闊にダロノワ大統領の提案をOKできない事情が国内にもあるというわけなんだよね……。

「アカツキ閣下、大変失礼な話を今からします。先に謝罪します」

「なんでしょうか、ダロノワ大統領。忌憚のない意見を述べてくれるのならば僕は構いませんが」

「ありがとうございます。――私は思うのです。もしかしたら、連合王国にせよ人類諸国にせよ、次の戦争から目を逸らしている人や現実逃避している人が多いのではないかと。私も戦争は避けるべきものだとは思いますが、平和を求める人類諸国と違い妖魔帝国はそこまで甘くありません。皇帝はあのレオニード。奴の口先一つで人類諸国軍を大幅に上回る兵力を総動員出来ます。にも関わらず、妖魔帝国は不気味なくらい人類諸国に再侵攻をしてきません。南方蛮族を全域制圧しているのかしれませんし、極東の光龍で何かあったのかもしれません。でも、だとしても不気味なのです」

「大統領の仰る通りですな。人類諸国を絶滅させんと侵略戦争をしていたあの帝国が休戦条約を律儀に守り続け、刺激さえしてこない。我々亡命政府の樹立も、以前ならば格好の再戦理由になったはずです。それが、あの程度の非難声明で終わった。自分としても、何か裏を感じますな……」

「…………つまり、お二人共妖魔帝国は本国で何かしているのではないかと疑っているわけですか? 例えば、あえて侵攻してこない理由があると?」

「はい」

「そうですな」

 だとしたら、妖魔帝国で何が起きているのか知りたいのもうなずける。
 言われてみれば、確かに妖魔帝国が今日に至るまで不自然な程に何もしてこないのは怪しい。
 考えられるのは、戦力の強化。南方蛮族支配地域を始めとする後背の不安要素の排除。再戦に備えての国内経済の発展と兵器開発もありうるかもしれない。

「アカツキ閣下、これはあくまで推測です。私の妄想の域に過ぎません。それでもよろしければ、話してもいいですか?」

「どうぞ、ダロノワ大統領」

「感謝致します。――私は、強烈に嫌な予感がするのです。帝国が五年の休戦条約期間を今の所は守っており、先日資料で下さった妖魔帝国との定期連絡会談の報告では妖魔帝国外務省の官僚が、人類諸国が希望するのであれば二年間の休戦期間を延長するのも吝かではない。と言ったというではありませんか。あの、妖魔帝国がです。ですから、妖魔帝国出身者として忠告します。あの内容には明らかに何かの意図を感じました」

「意図、ですか。それは、どのような?」

「何かを待っているような気がします。何かは分かりません。ですが、戦力の再編に七年もいらないはずなのに、わざわざあちらから延長も視野に入れた話をしてきたのです。もしかしたら、妖魔帝国は二年延長してでも待ちたい何かの事情を孕んでいると疑っています」

「待ちたい何か……。だとしたら連中は何をしでかそうとしているのでしょう?」

「こればかりかは私の想像では及びません。しかし、きっと、何かがあると思います」

 ダロノワ大統領の眼差しは妄想を語るにはあまりにも真面目すぎた。
 戦争狂の皇帝が率いる妖魔帝国が、何よりも皇帝の粛清の被害者たる彼女がこうまで語るとなると、諜報すべき確固たる理由には感じた。
 休戦から既に二年半が経過した。条約の失効は最低であと二年半。延長すれば四年半。
 そこまで時間を掛けて待ちたい理由は果たしてなんだろう?
 人類諸国を平和のぬるま湯に浸からせて戦争反対派を増やすことか?
 こちらの軍縮を狙っているのか? いやそれありえない。人類諸国の各国軍は未だに警戒は緩めていない。少なくとも連合王国軍はその風潮にまだある。
 だとしたら、他に理由は……?
 …………ダメだ。僕の考えでは推論まで組み立てられない。真相が掴めない。
 ああ、確かにこれは妖魔帝国の本国に侵入しての諜報は必須だろうな。少なくともなるべく早く探りを入れるべきだろう。

「…………分かりました。今度マーチス元帥閣下とザッカーハウゼン中将に話をしてみましょう」

「ありがとうございます、アカツキ閣下」

「ただし、ダロノワ大統領の案が必ず通るとは限りません。何故ならば貴女達は元妖魔帝国人。僕達の中で全員が受け入れたわけではありませんから。まだ疑っている人物もいる、潜入させたらダブルスパイをされるのではないかと考える者は間違いなくいます。それだけはどうかお忘れなく」

「存じております。ですが、どうか私達を信じてください。同胞達を救う為に、私達は命を擲つ覚悟を持ってこの提案を致しましたから」

「貴女方のお気持ちも伝えておきましょう」

 僕はひとまずこの件を持ち帰ってマーチス元帥達に伝える。という、一種正規の手続きを踏む形で議題に出すと約束してこの会談を終えた。
 ダロノワ大統領は妖魔帝国内で蠢く不穏で底の見えない何かを感じたのだろう。そうでなければ再戦前からわざわざ彼女等にとって危険な妖魔帝国本国へ潜入任務なんて口にはしないはず。
 とりあえず、僕の取れる手段からこの案件を通してみよう。
 少なくとも連合王国にとっても有益な情報をもたらしてくれるはずだから。
 大統領官邸を後にして帰宅したのは日付が変わる前。
 翌日には早速マーチス元帥にこの話を僕はするのだった。
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