異世界妖魔大戦〜転生者は戦争に備え改革を実行し、戦勝の為に身を投ずる〜

金華高乃

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第15章 戦間期編2

第9話 忘却の夢と、愛しい我が子と過ごす時間

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 ・・9・・
 ????年??の月?の日
 午前?時??分
 アルネシア連合王国・王都アルネセイラ
 ノースロード王都邸宅?


「ここは、どこだ……。いや、寝室じゃなくて、部屋、か……?」

 目の前に広がっていたのは王都別邸から名を変えた王都邸宅、つまりは僕達の住む屋敷で僕の部屋。僕はベッドでリイナと寝ていたはずなのに、自分の部屋にいた。
 けれど、記憶と齟齬がある。置いてあるものが明らかに少なかった。
 窓から外を見る。確かにここは屋敷だった。でも、外には誰もいない。
 まるで、時が止まっているかのように。

「…………ないで」

「誰、だ……?」

「…………れ、ないで」

 突然聞こえた声。
 けれどもこの部屋には僕以外誰もいない。リイナもレーナも、使用人はいないし、僕一人のはず。
 なのに、不思議と聞き覚えがあるような声がした。だけど、僕はそれが誰か分からない。

「…………によって、…………に、…………きた」

 ダメだ。声が断片的すぎて聞き取れない。何が言いたいのか、全然分からない。

「一体君は誰なんだ。何が言いたい?」

「…………ラー。…………ない、…………が、…………いる。…………って、…………に」

「何にも聞こえない。何を伝えたいんだ!」

「…………ぼす、…………が。…………きの、…………は、…………を、…………ばう。…………かも、…………すんだ」

 明瞭な声音なのに、話す言葉が耳に入ってこない。ノイズでも入っているかのように。
 そもそも話す人物が誰なのかすら、その姿すらここにはない。

「…………ないで。…………わせに、…………たるのは、…………がて、…………つくされる」

「…………んな、…………まれる。そして――」

「待って! まだ何にも分からない!」

 声はやがて弱々しくなり、ついには、消えた。
 識別不明の声が消えると、急に世界が切り替わった。
 僕は、瓦礫の山の中にいた。

「なんだよ、これ……」

 広がるのは煉獄の世界。
 王都に広がるありとあらゆる建造物は尽く破壊されていた。
 豪奢な貴族街区は跡形もなく、高くそびえる王宮すらも最初から存在しないように消え去っていた。
 周りは赤い炎が燃え広がっていた。誰一人としていない。生命が根絶やしにされたとしか言い様がない。
 遠く、人がいた。
 まるで蠢くナニかのように。
 僕はそれを知っていた。
 映像でしか知らないけれど、確かに覚えがあった。
 そんな。そんなまさか。

「ありえない……。どうして……」

 これじゃあ。
 こんなの、まるで。
 瞬間、吸い込まれるように世界は黒くなり――。


 ・・Φ・・
 1843年11の月5の日
 午前8時15分
 アルネシア連合王国・王都アルネセイラ
 ノースロード王都邸宅・寝室

「…………夢、か」

 目を覚ます。
 いつもの天井。いつものふかふかのベッド。肌寒くなってきた王都は綿の詰まった上質のそれは僕の身体を覆っていてとても暖かい。
 隣に寝ていたはずのリイナはいない。先に起きていたのだろうか。隣にある小さなベッドの主もいないことがそれを表していた。
 目を覚ましてからの拭えない違和感を除けばいつも通りの、朝。
 おかしい。僕は夢を見ていたはずなのに夢を思い出せなかった。
 僕は、何を幻視ていた?

「…………ダメだ。全然、思い出せない」

 上体だけ起こして、両眼の端を親指と人差し指でおさえる。

「なんだったんだろう……。忘れてはいけないはずなのに……」

「ご主人様。アカツキ様。起きていらっしゃいますか?」

 必死に思い出そうとするけれど、やっぱりダメだった。
 すると、寝室の扉の外から声がした。レーナの声だった。

「おはよう、レーナ。入っていいよ」

「失礼致します」

 レーナは入室すると、いつも通りに礼をして振る舞う。
 ん、待てよ? 普段はリイナが起こしてくれて、レーナが来るってことはすなわち。

「えっと、今何時だっけ?」

「八時半前にございますご主人様。リイナ様にリオ様は既に起床されておりまして、朝食の席におられます」

「おっと……。起こしてくれれば良かったのに……」

「以前よりは軍務が落ち着いているとはいえ、昨日も休日にも関わらずご主人様は良く働いておられます。リイナ様はご主人様を起こされたようですが、起きなかったらしく」

「なるほどね……。気を遣ってくれたのか。分かった。お腹も減ったし着替えていこうか」

「かしこまりました。扉の前でお待ちしております」

「うん、よろしく」

 レーナが寝室から出ると、僕は着替えを始める。五分程度で室内着に替えて、ダイニングへと向かう。
 十一の月の王都は気温が一桁になるけれど屋内は暖房の魔導具で程よくあったかい。カッターシャツの上にセーターを着込む貴族階級ではラフな格好でちょうど良かった。
 ダイニングに近付くと朝食のいい匂いが漂ってきた。
 レーナによると今日の朝食は、クロワッサンのようなものやふかふかのパンとか複数のパンに野菜が沢山入ったコンソメのスープ。エッグベネディクトにサラダ。食後にはベリー系のジャムが乗ったヨーグルトと彩り豊かなメニューらしい。美味しそうだ。
 ダイニングの扉を開けると、そこにはリイナと愛しい我が子、リオがいた。

「おはよう、旦那様。随分ぐっすりだったみたいね」

「おはようございますマイマスター。午前検診開始。疲労も程よく取れております」

「ぱーぱー!」

「おはようリイナ、エイジス。ちょっと疲れていたのかもね。でもエイジスの言う通りだいぶ身体が軽くなったよ。リオもおはよう。待ってた?」

「うん!」

「あはは、ごめんよ」

 リイナの隣にある、小さな椅子――転倒防止にテーブルのようなのが付属している――に座るリオは僕が来ると笑顔満面だった。
 リオが産まれてもう一年と一ヶ月が経つ。もうそれだけが経過しただけあって、リオは二語程度までは話せるようになっていた。一般的な子供の成長に比べやや早いくらいだろうか。
 魔法能力者としての素養も日進月歩だった。身体が大きく成長するまでの期間、保有魔力も大きく成長する。特に僕とリイナのように両親共に魔法能力者ともなれば血は色濃く反映され、魔法医師によると僕かリイナ並には魔力を持つ将来有望な魔法能力者になるらしい。
 まあ将来だとか魔法能力者としてどうするか、それはもっと後になって考えればいい事だし、今はとにかく可愛い盛り。僕もリオを見ると頬が緩んでしまう。

「さあさ、朝食を摂りましょ旦那様」

「そうだね。――じゃあ、頂きます」

「まーす!」

 土日の休日は僕達にとって一家団欒の時間だ。
 乳歯が生えてきて離乳食に移行したリオは、とはいえ固いものはまだ厳しいのでメニューに少し違いがあるけれど美味しそうに食べていた。
 まだまだリイナに食べさせてもらうことが多いけれど、そのうち自分で食べられるようになるだろう。子供の成長は目覚しくて、前世の知識も含めてこの年齢になってくると色々と自分でやるようになってくる。
 よちよちとだけど少しは歩けるようになった。もっと沢山歩くにはあと数ヶ月はかかるだろうけど、春には庭を、とてとてと歩いているだろうね。
 朝食を摂りながら、リオの様子を微笑ましく見つつ賑やかに話す穏やかな時間。
 食後のコーヒーも終わると、リオは

「そと!」

 と自己主張をした。

「推測。リオ様は外に出たいようです。補足、今日の最高気温数値は十二。やや温暖」

「なら上着を着る必要がありそうね」

「皆様の上着をお持ち致します、リイナ様」

「ええ、お願いね」

「よし、リオ、お外に行こう」

「うん!」

 リオはとても嬉しそうで、ニコニコしている。休日は僕とリイナといられる時間が長いのを早くも気付いているようだった。
 リイナの育児休業期間は一年と少しで先月末からは軍務にも復帰している。
 だからママであるリイナが仕事に行く初日は大泣きだったけれど、一週間も経つとだいぶ慣れたみたいだ。これはレーナがリオの世話役としてよくやってくれているのが大きい。我らがメイド長は優秀だ。

「リオ、こっちよ」

「まーまー!」

 レーナから薄手のコートと赤いストールを受け取り着たリイナはリオをだっこする。その様子は優しいお母さんといった感じだった。もう何度もこの光景は目にしてるけどいいものだね。心が落ち着く。
 僕も黒い薄手のコートを羽織ると、屋敷の玄関から出て庭を歩く。
 庭は数人の庭師によってよく整備されていて、リオが彼らに手を振るとにこやかに手を振り返してくれた。

「いい天気ねえ」

「うん。いい天気だ。風もほとんど吹いていなくて、柔らかい陽射し。こんな日は、ううん、のんびりしたいね」

「ぱーぱー。なでー」

「ふふ。よーしよしリオ」

「きゃははは! ぱーぱー!」

「リオはいい子ね」

「うん。本当にいい子だ」

「肯定。将来良い人になるのは間違いありません」

 のんびりとした時間が過ぎてゆく。
 リイナにだっこされたリオが笑って、今度は僕にだっこされたいと催促されて僕が抱える。優しく頭を撫でると目を細める。

「はなー!」

「うん、あれはね白バラだよ」

「しろ、ばやー」

「ば、ら」

「ばらー」

「そうそう。偉いぞリオ」

「えへへー」

「リオも一歳になって話せるようになったけれど、旦那様もすっかりいいお父さんね」

「そうかな?」

「ええ」

 僕とリオが会話をしているのを眺めて、微笑するリイナ。
 軍務で何かと慌ただしい僕は屋敷を空けることが多い。鉄道が開通したお陰で国内なら日帰りで行ける範囲が広がり、出張は長くとも一泊か二泊で済むようになったといっても、父親があまりいないのはきっとリオに寂しい思いをさせているだろう。
 だから休日はなるべくリオと一緒にいたいんだよね。
 その様子は軍でも伝わっており、部下達からはアカツキ中将閣下もすっかり父親になられておられると評判らしい。
 忙しい中でも出来る限り子供といたいと言ったら既婚組からは凄い同意された。どうやらどこも似たようなものらしいね。

「今日はこの後は外出だったね」

「そうよ。リオの新しい冬の服を買いにね。この時期はすぐに大きくなるから服が小さくなってしまうもの」

「ホントね。知識では知っていたけれど、びっくりだ。色んな服を買おう。ほら、明日はちょっと帰るの遅くなっちゃうし」

「ダロノワ元大佐、いえ今は『妖魔諸種族連合共和国亡命政府』臨時大統領でしたっけ」

「うん。彼女は今、建国された亡命政府の首班だからね。そのダロノワ臨時大統領から相談があるって手紙が届いてね」

 休戦からもう二年半が経ったけれど、妖魔帝国からの亡命者――全員が王都かその近郊、もしくはノイシュランデ近郊に居住していて、総員九五二六人――の代表達にとって悲願であり第一歩である亡命政府の建国が今年の夏になされた。
 建国までは極秘裏に進められていたけれど、遅かれ早かれ発表は必要だからと建国宣言は大々的にされた。
 ここまでに情報や印象操作は完了されており、人類諸国各国の国民世論は概ね――一部の過激派右翼は反対したものの、極々限られている上に大多数の国民からは冷たい目線で無視されている――彼等に同情的になっていた。彼等がされた仕打ちをこれでもかと報道などを用いて宣伝したからだ。
 唯一心配していたのは妖魔帝国の動向で、何らかの行動、例えば国境付近での示威行動としての演習とかあるかと思ったけれど、どうやらあっちは粛清者達にはとことん無関心のようで、形だけの批難はしたものの、それ以外は全く無反応だった。
 連合王国情報機関の分析によれば、たかが一万人に満たない集団に何が出来る。裏切り者共に出来ることなどたかがしれているから勝手にしろ。とでも思っているのだろうとのことだった。
 とまあ、想定より穏やかに済んだ建国、代表たるダロノワ臨時大統領から折り入って相談があると手紙を受け取ったのが先週の火曜。そしてスケジュールを調整した結果、明日の夜から会談の席が用意されたってとこ。
 つまりは仕事。夜はなるべく家にいようと思っている僕は、明日は遅くなるからとリイナにリオを任せてダロノワ臨時大統領の王都にある邸宅へ向かう事になったんだ。

「しかし折り入って相談なんて珍しいわね。もう建国は終わったし、あとは再戦に向けての亡命政府軍の編成とかでしょ。焦る事は無いと思うけど」

「さあ、どうなんだろ。彼女なりの考えがあってなのか、どんな話なのかは当日にとしか書いてなくて」

「防諜上の問題、なのかもしれないわね」

「推測。当該内容を秘匿事項にしたく明記しなかったのかと」

「だと思う。とりあえず明日は少し立て込んだ話になるかもしれないからリオをよろしくね」

「任せなさいな。でも、なるべく早く帰ってきてちょうだいね?」

「もちろん。話が長くなっても日付が変わる前には必ず帰るよ。次の日だって軍務だし向こうも配慮はしてくれるだろうから」

「ぱーぱー。むー」

「ああ、ごめんよリオ。ママやエイジスにレーナとお散歩しよっか」

「わあい!」

 いかにも夫婦らしいやり取りをしつつも、僕はダロノワ臨時大統領の相談内容は気になっていた。
 でも、今は休日だ。昼からはリイナとリオとも出かけるし、楽しむとしよう。
 夫婦で息子と時間を過ごすうちに、僕はすっかり夢の違和感の事はすっかり忘れていた。
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