異世界妖魔大戦〜転生者は戦争に備え改革を実行し、戦勝の為に身を投ずる〜

金華高乃

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第15章 戦間期編2

第4話 誕生はすなわち父としての始まりの日でもある

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 ・・4・・
「よ、よか、ったぁぁぁぁぁぁぁぁ」

「う、ま、れた、の、ね……!」

「生命反応、正常。魔力反応あり。健常な、男の子の赤ちゃんです、マスター!」

 息も絶え絶えのリイナと、助産師に抱かれた男の子。
 僕は腰が抜けて、そのままリイナのいるベッドに両手を握ったまま埋めた。

「ありがとう、リイナ……。お疲れ様……」

「ど、いたし、まして。旦那様……」

 ついに産まれた我が子。
 僕は助産師に抱かれ、早速産湯で洗われる我が子を見つめる。
 皮膚は赤い。赤ちゃんとはまさにこの事だろう。でも、元気に泣いてるのは何よりの健やかな証で。未だに呼吸の荒いリイナも、母の顔で笑っていた。

「よくやった! よくやったぞリイナ!」

 マーチス侯爵は父親として、孫の誕生に喜色の笑みを満面に浮かべる。この時ばかりかは彼もただ一人の人で親で、祖父だった。
 その様子に、僕はついに感極まってしまった。

「う、うぅぅ……、よが、ったぁぁぁぁ」

「もう、旦那、さま、ったら。けれど、ずっと励ましてくれて、ありがと……」

「いいんだ。いいんだよ、リイナ。本当は今日はずっと、一緒にいるべきだった」

「気にしないで。いつ来るかは、分からないものだったし、旦那様は中枢を担うお人だもの。それより、二人で決めた、名前を呼んであげましょ……?」

 そうだ。僕とリイナで決めたあの子の名前。今初めて、呼んであげなきゃ。

「リイナ様、ぜひお子を抱いてあげてくださいませ」

「ええ、ありがとう」

 助産師は体を拭き終え大きめのバスタオルのようなものに包まれた赤ちゃんを、リイナへと受け渡す。
 ようやく泣き声も落ち着いてきた彼を優しく抱くリイナ。僕は彼女と顔を見合わせて、微笑むと、彼を見つめて言った。

『リオ』

 と。
 僕とリイナの子供。男の子と決まった時点でどの名前にするかすごく悩んだけれど、先月にようやく決めた子供の名前。
 リオ・ノースロード。それがこの子の名前だ。

「リオ・ノースロード。うむ、アカツキとリイナの子供なのだから間違いなく可愛く、大人になれば凛々しくなるに違いないな」

「もち、ろん。お父様。とてもいい子にも、なるわ、よ」

 マーチス侯爵は頬が緩んでいた。表情で分かった。マーチス侯爵は孫には相当甘くなるタイプだろう。

「ねえ、お父様。お母、様はいつ頃、着きそう……?」

「既にヨークを立ったらしい。アカツキの両親達とあまり変わらない時間には到着すると思うぞ」

 リイナの母、つまりマーチス侯爵の奥さんも父上達とほぼ同じタイミングでリイナの陣痛が始まった事が魔法無線装置を通じて連絡がいっている。
 ヨークからアルネセイラもノイシュランデと同じくらい時間がかかるから、マーチス侯爵の言うように到着は同じくらいになるだろう。ヨークで軍務に励んでいるルークス中将(義兄上)も直ぐに駆けつけると連絡があった。

「あた、いたた。いたたた……」

「ちょ、リイナどうしたの!?」

 状況が落ち着いたと思っていたけれど、リイナが急に痛みに顔を歪め出す。産む時のそれに比べれば軽そうだけれど、痛いのに変わりはない。僕はさっきの光景もあってすぐにリイナの頭を撫でる。
 それでも医師と助産師は冷静だった。マーチス侯爵も、ああ、それか。と言った様子。どういうこと……?

「ご安心ください、アカツキ様。産後にある陣痛です。後陣痛、と我々の間では呼んでおります。処置を開始致しますね」

「わ、分かった」

「アカツキ様、マーチス様。一度リオ様のベッドのご用意やリイナ様の回復治療を開始致します。一度、席を外して頂いてもよろしいでしょうか?」

「うむ。産後も諸君らは忙しい。リイナとリオを任せたぞ」

「はい。お任せ下さい」

「御二方もお疲れでしょう。一度休憩を取られてください」

「分かったよ。リイナ、本当にありがとう。お疲れ様。また後で来るからね」

「ええ。だんな、さま。改めて、ありが、いたた……」

「鎮痛術式を展開する。コレット助産師、リオ様をお願いする」

「はい」

 手際良く産後処置をしていく医師と助産師。この時に備えて彼等を指名して良かった。安心してお願い出来る。と思いながら僕とマーチス侯爵はリイナとリオがいる部屋を後にする。
 懐中時計に目をやると時刻は既に午後五時三十分過ぎ。報を受けたのが一時半頃だったから、もう四時間以上も経っていたのか。
 屋敷の廊下に出ると、マーチス侯爵は大きく安堵の息をついて僕に話しかけて来た。

「妻で体験しているとはいえ、やはり慣れんな。ヒヤヒヤさせられる」

「ええ。私は前線で兵士達の悲鳴を一時期聞き慣れてしまいましたが、何せ毛色が全く違います。それに、出産と分かっていてもリイナの痛覚による声は、こう、心臓に悪かったと言いますか、どうなってしまうのか心底、案じました……」

「心労ここにあり、といった様子だな。無理もない。初めての経験だろうからな」

 前世で軍人をやっていたから、悪い意味で慣れてしまっていた誰かの痛みによる絶叫の声。今世でも前線病と言うべきだろう、何百何千と耳にしたからどこか慣れがあった。
 けれど、タチが違う。大切な人の出産の瞬間。何も出来ない、励ますことしか出来ない無力さ。
 だけれども、産まれた子の誕生の瞬間に立ち会えたという無上の喜び。
 しかし、心労が無いと言えば嘘になる。心身共に消耗したリイナに比べればずっと軽いけれど、それでも疲れた。
 僕はマーチス侯爵の言葉に頷く。

「少し、疲れました。一息入れたいところです」

「だろうな。オレも思っていた。一服、そこのコテージでどうだ?」

「いいですね。そうしましょう。珈琲も用意しましょうか?」

「それはいい。身体に染み渡りそうだ」

「では、レーナに手配を頼みますので今しばらくお待ちを」

「分かった。先に言っているぞ」

 マーチス侯爵は手をヒラヒラと振る。
 僕はレーナが控えている、リイナのいる隣の部屋に行くと、珈琲を二つとクッキーを少し頼む。
 レーナは、快く頷いてくれた。

「この度は誠におめでとうございます。ご主人様。リオ様のお世話が出来ること、楽しみにしておりますね」

「是非お願いするよ。僕は軍人で、リイナはどうするかまだ分からないけれど少なくとも長期産休の後は復帰すると思うし」

「かしこまりました。珈琲はどちらにお持ち致しましょうか?」

「二階のコテージに。掃除が行き届いている丸テーブルと椅子もあるし」

「承知致しました」

 短く会話を交わすと、マーチス侯爵がいる二階のコテージに向かう。
 すると、先に彼は喫煙を始めていた。ここはリイナのお腹に子供がいるのが分かってから僕が煙草を吸う場所になった一つで灰皿も置いてある。既に灰皿には灰が少しだけ落ちていた。
 自分も軍服のポケットから煙草入れを取り出し、微小の火属性魔法で火をつけた。
 しばらくの間、無言の時間が続く。
 沈黙を終えたのは、僕の発言だった。

「正直な所、父としての実感はまだ湧きません。目の前でリオが産まれて、父親なんだという意識こそありますが」

「当たり前だろう。オレだってルークスが産まれたその日から父親なんだと今のような意識には至っていない。腹を痛めていない父なんてそんなもんだ」

「母との違いでしょうか……?」

「まあ、そうだな。職業柄軍人でしか例えられないが、リイナは子を宿した瞬間から母となる。早い話が一年弱実戦経験だ。ところが、オレ達男はそこから遅い。兵にせよ下士官にせよ、まして高級士官なぞ時間をかけて育つものだろう? 父も同じだ。母もまあそうだが、成長して父や母となる。一生明確な答えなんぞ見つからんが、経験を積めば分かってくる」

「明瞭な例えをありがとうございます、義父上」

 なるほど。実戦投入された時期の差、かあ。まして宿し、腹を痛めた母の側の方がそれは上手うわてに違いない。
 こればっかりかは経験なんだろうなあ。
 これまで軍では前世の経験と知識を活かしてここまで来たけれど、父親という分野については前世でも経験なんてしたことない。全くの未知数なわけだ。

「なあに、そう気負わんでいいアカツキ。ただ、父らしくあればいい。リオは良い子に育つし、魔法能力者としても優秀だろう。何せお前とリイナの子なのだからな」

「はい、いい子に育つよう励みます」

 僕は紫煙をゆっくりと空へと放つ。
 レーナが珈琲とクッキーを持ってきてくれて、僕とマーチス侯爵は温かい珈琲を口につける。
 間もなく日没を迎える夕焼けが目に染みるほど眩しかった。

「案ずるな、アカツキ。父親になる為の教師はお前の父もいるし、祖父もいる。それにオレもいる。経験者から学べばいい。学問と、軍務と同じだ」

「はっ。是非とも御教授願います、義父上」

 互いに二本、三本と吸い終えると正門から蒸気自動車が走ってくるのが見えた。それも複数台。恐らくルークス中将達や父上達、両家の一同がほぼ同時に到着したんだろう。

「そろそろ行くか。きっと皆、リオの顔を見るのを今か今かと楽しみにしているだろうからな」

「はい!」

 マーチス侯爵が柔和な笑みを浮かべると僕は笑顔で答える。
 両家一同が揃ってからは大喜びの、大騒ぎだった。
 ようやく産後陣痛も落ち着いてきたリイナに抱かれる、すやすやと眠るリオを囲んで幸せを噛み締め合う僕達。
 翌日、王都には新聞を通じて市民達にもリオの誕生が知らされる。国王陛下からも祝いのお言葉を頂き、各方面から祝報が入った。
 こうして九の月三十の日は、僕にとっては一生忘れる事がない日になったのだった。
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