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第15章 戦間期編2
第2話 新兵器とは、歩兵にとって頼もしくも敵にあれば末恐ろしいあの銃器。
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・・2・・
ダワージ・ドルノワ。七十二歳(ドワーフ平均寿命は人間よりやや長め。ヒト換算、五十五歳)。連合王国への貢献により名誉貴族称号も持っている。
先代、ダワーノ・ドルノワ設立――産業革命初期の設立だからまだ新しい方の会社だったりする――のドルノワ工廠株式会社を受け継ぎ産業革命の波に乗って大幅に事業を拡大、成功させたやり手のドワーフ経営者だ。
ドルノワ工廠は僕の故郷ノイシュランデが発祥の地で、お爺様が産業革命にいち早く目をつけて領内の工場に補助金等を交付して工業を活発化させた。その時にドルノワ工廠は最も成功した会社で、今や連合王国で最も有名な重工業会社かつ軍需産業会社になった。
ダワージ・ドルノワは先代から直接学び、職人気質でりながらも経営者として最先端の知識を学ぶべくアルネセイラ大学で経営学を専攻してドルノワ工廠株式会社をより発展させて今に至る。
作業着姿で現場によく赴いているけれど、頭も回る敏腕社長なのがダワージ社長なんだよね。
「アカツキの坊ちゃん、あんたも超有名人になって久しいから相変わらず忙しいだろ? 雑談とかは後にして、早速見ていくか? なんてったって、今日はあんたが新兵器を見に来たんだろ?」
「ええ。社長から新兵器の量産試作品が完成したと聞いて、スケジュールを調整しましたから。アレとかはどちらにありますか?」
「こっからちと行った先の試射場に準備してあんぜ。案内してやんよ」
「よろしくお願いします」
僕達と社長含むドルノワ工廠の一員はゾロゾロと移動を開始する。ジョセフ少佐は研究畑の人達と進捗やら話をしていて、エリス中佐は作業着姿の社員と魔法銃の一丁あたりの値段を下げるにはどうするかなど、二人共専門的な話をしていた。
僕はというとダワージ社長と再来月に生まれる子供の話をしていた。
「嫁さんのリイナさんだったな、腹の中の子はだいぶ前に性別が分かったって? 直接聞きたかったが互いに忙しいから仕方ねえ。報道で聞いたぜ、男の子だってな!」
「はい。後継者問題に関してはこれで解決しました」
「んで、相棒の可愛い英雄人形エイジスはリイナさんの護衛か」
「ええ。身重なので、僕よりリイナの護衛についています。情報共有と魔力半減効果は離れてても問題なく機能していますから大丈夫ですよ。たぶん、今頃リイナと和気あいあいと話しているでしょう」
「いいこった。で、服とかは揃ってんのか?」
「もう買ってありますよ。リイナには親バカねえ、って言われました」
「いくつ購入したんだよ……」
「ざっと一ヶ月は毎日違う服を」
「そら親バカだわ……」
「え、そうですかね?」
「いんや、否定はしてねえぞ? 俺だってでっかくなった息子や娘が産まれた時は子供のいる同族社員にどんなん買えばいいか聞いたもんよ」
僕の事を親バカとは言いつつも、社長もなんだかんだで同じだった。だって自分の子供だからね。楽しみだし、絶対可愛いから今のうちから揃えたかったのさ。
「そうだ、服とかあるんなら贈り物はオモチャでいいか? 召喚士飛行隊の召喚動物のぬいぐるみとか、兵隊人形一個小隊なんてどうだ? 英才教育だろ?」
「ぬいぐるみはともかく、兵隊人形はまだ早いような……」
「ふははっ! それもそうだな! んじゃ、梟か鳥あたりのぬいぐるみにすっかな!」
「ありがとうございます。楽しみにしてますね」
「いいってことよ。にしても、第一子が男で良かったな。貴族にとっちゃ結構大事なとこだろ?」
「ええまあ。昔と違って今や連合王国は実力主義で女性当主も有り得ますから女の子でも問題は無いのですが、まだ偏見が残ってますからね」
「今どき軍だって、特に魔法兵科は女性が増えたっていうのに、貴族サマはお固いこって。軍人貴族はまだいいが、ヤツらったら会話が面倒っちゃありゃしねえ。こちとら職人だぜ? 十九世紀に入ってからは貴族も実業家してるの増えてきたから楽にはなったけどよ、貴族の流行りなんざ知らねえから晩餐会なんて特に苦労するってもんよ」
「それでも話についていける社長は凄いですよ。僕だったら社長のように出来るかどうか」
「へっ! あんたならそつなくこなすだろうよ。俺らがあっと驚くような発想や仕組みを言ってくれてっから、今日のだって作れんだぜ? ま、俺らの腕もあっけどな!」
「無茶振りに答えてくださりありがとうございます。僕の考える次に備えた兵器はドルノワ工廠じゃないとつくれないですから。だからか王立工廠には贔屓だって文句言われますけど」
「王立工廠なんざ、あっちは今じゃ魔法科学兵器専門みたいなもんだろ? それに予算投入だって王立の方が多いじゃねえか。まあ、王立は国家工廠で、俺らは株式会社だからって理由もあるだろうけどよ」
今年に入って、戦間期となったからか軍事予算については大戦真っ只中の頃に比べてかなり減額されていた。
戦費がそもそも計上しなくて良くなったというのが一番の要因だけど、少なくない戦死者と負傷者(ここでは以前のように自立生活が出来なくなった者を指す)に対する恩給の支給が軍事予算とは別とはいえ予算に計上されているかという事情がある。
休戦までの死者には遺族に遺族年金を重傷者には前世で言うような廃兵院の設置や恩給が支払われる事になった。名誉の負傷とはいえ、その後の生活を補償しないと彼らは最底辺層に落ちてしまい、社会問題に繋がりかねない。
これについては戦中から懸念されていたから軍部省では準備がなされていて、休戦になった去年から正式に発足した。
ここまで話をすれば社会保障の一つが確立されたと思えるけれど、予算はそれなりになってしまった。軍事予算とは別枠とはいえ、大元の国家予算に加わっている。
となると、休戦になったからという名目で割を食ったのが軍事予算だった。
戦中は軍事にかなり傾けていたから経済振興政策など各方面が犠牲になっていた。ところが戦争は一旦止まったとなればそちら側に振り向けなければならない。軍需が消えた分による不景気を防ぐ為、補填する為でもあるからだ。
結果として、軍拡は相当控えめに。予算は直接戦費を除けば前年並みを維持されたものの、質の向上に振り向けるのが限界という形になったんだ。
妖魔帝国との再戦を考えれば今の連合王国の兵力ではまだ不安があるけれど、文句は言えなかった。戦時中は他方面に我慢してもらっていたからだ。
そういった事情もあって、ドルノワ工廠への補助金及び予算も減額。王立工廠もマーチス侯爵や軍人貴族達の提言が無ければ減額になっているところだったんだから、国家運営というものがいかに難しく複雑かを改めて実感したよね……。
とはいえ、国王陛下が一定の理解を示してくれているから計画に大きな狂いはなく今に至るってわけさ。
「王立工廠には別件の魔法科学兵器の新開発が軍魔法研究所と合同で進行中ですし、矛は収めてくれました。適地適役を説けば納得してくれましたし。それでも優先順位を付けなければなりませんでしたが……」
「英雄様は大変なこって……」
「実権があるからこそ出来る芸当ですよ。結局の所、戦場で使うのは僕達ですから。軍部省や軍本部、参謀本部による取捨選択も説得力があったからです。皆のお陰ですよ」
「ぬう、俺は政治の事までは詳しくねえからよく分かんねえけど、あんたが苦労してるのは分かったぜ。ま、今日は視察とはいえ肩の力は抜いてくれや」
「助かります。おや、あそこの人だかりが例のモノですかね?」
「おうとも! どうやら準備と最終確認は終わってるみてえだな」
試射場まではそこそこ距離があったけれど、話をしていたらいつの間にか到着していた。
眼前に広がっているのがここの試射場だ。ライフルから砲まで撃てるようにと南北は五キーラまで確保されている。軍ならともかく一株式会社がこんな敷地を確保出来るのはドルノワ工廠だからこそだろう。
到着すると、紹介されたのが今回の新兵器。前世でも戦争の仕組みを大きく変えた武器の一つだった。
「アカツキの坊ちゃん、こいつが軍部省と参謀本部、それにあんたの要請で新開発した兵器、新世代型機関銃『DMG1842』だぜ!」
「おお、ガトリングよりだいぶコンパクトになりましたね。車輪が無くなった分、これなら戦場でも持ち運びがしやすそうです」
『DMG1842』と制式名称が付けられた、目の前にある武器は前世の兵器の中でもだいぶ近代化されたフォルムになっていた。見た目は前世の十九世紀末から第一次世界大戦の時代に陸戦では主役になった重機関銃、マキシム重機関銃に似ている。強いて違いを上げるのならば冷却部くらいだろうか。小石程度の魔石をセットする機構と付属機構があるし。
社長から『DMG1842』の資料が手渡される。この機関銃の性能についてはこのように書いてあった。
『DMG1842』
□諸元
・重量:32.6キラ
・全長:113.7シーラ
・銃身長:69.6シーラ
・要員数:4人
・使用弾丸:8ミーラ
・作動方式:ショートリコイル
・発射速度:毎分約500発
・初速:秒速715ミーラ
・装填方法:ベルト給弾250発
・冷却方法:低純度小型魔石氷属性内包型魔法冷却
既に一度目は通してあるけれど、改めて前世のマキシム重機関銃に類似していると思える性能だ。使っている弾薬は違うしやや大型化かつやや重くなっているけれど、使っている弾薬はともかくとして、大型化と重量化は冷却機構のせいだ。
さっきフォルムを眺めていた時にも思ったけれど、この世界に魔法が存在するが故に銃身の冷却には液冷でも無ければ空冷でもない、魔法冷却が採用されている。
一度に何百発も銃弾を放つ機関銃には冷却が不可欠だ。それらは魔法の無い前世ならば空冷か液冷が採用されているけれど、旧東方領という莫大な魔石が眠る地帯を手に入れた連合王国は氷属性魔法を魔石内に内包させることによってこれを解決した。
使用しているのは低純度。魔石爆弾には使えず、しかし持て余すにはもったいない水準。術式の効率化は戦争によって日進月歩で、冷却機能を持たせる程度であれば一回の詠唱で戦場で酷使する回数でも半月から二十日程度は耐えうる程には持続可能。
ということもあって、この度の重機関銃には魔法冷却が採用されたわけだ。
このようにメリットづくしだけれど、定期的な魔力補充の必要があるのは変わらず魔法兵の負担が増えるのは間違いない。この点を再戦した際にはどうするかは考えなければならないけれど、輸送前に後方で補充し現場で再補充。と軍本部は決めているからとりあえずこの方式でいいだろうと僕も納得した。
液冷か空冷も併用した方がいいかもしれないけれど、これはさらにかさばる事になるから選択肢としては無いだろう。魔法がある世界だからこっちの方が手っ取り早いってのもあるしね。
それでも液冷と空冷に関する技術進展は戦争のお陰で進んでいるし、僕としては魔法に頼らない方式も研究開発をさらに推進しておきたいと思っている。蒸気自動車などだけでなくさらにその先、例えば将来的に必須となる航空機のエンジンの為にもね。
っと、この話はこれくらいにしておこう。
「アカツキの坊ちゃん、随分熱心に機関銃を眺めてるじゃねえか。やっぱり新しい物好きの興味をそそるか?」
「ええ、とても。この兵器はどう運用するかが決定された上で開発されましたが、実際の戦場でを想像していました」
「流石は現場組だな。んじゃ、試射してみっか」
「ぼくがやりましょうか? 何度か撃たせて貰ってますし」
「おう、ジョセフ少佐。お前さんなら試射員と同じくらい手馴れてるしな。去年あたりからここにはそこそこ来てくれてるしよ」
「ええ、お任せ下さい。事務方とはいえ、軍人ですしこの重機関銃については何度も見せて頂いていてよく存じてますし」
そっか。ジョセフ少佐は定期的にここに出入りしているし、軍人なら後方勤務とはいっても兵器の取り扱いも慣れている。
なら試射員には最適だよね。
「ジョセフ少佐、いつでも合図出せます」
「分かりました、ライエンさん。――完了です」
白衣を着るライエン研究員――この重機関銃の開発に携わっている一人――の発言にを要員三人と共にささ、とDMG1842の射撃準備を終えるジョセフ少佐。なるほど、操作性についてはそんなに難しくなさそうだ。マニュアルさえあればどうにでもなるだろう。
「では、始めてください!」
「了解。射撃開始します」
ジョセフ少佐が言った瞬間、彼は引き金に手を掛け盛土とそこにある的に向けて射撃を始めた。
試射場に、この世界では未達の領域である分速五〇〇発の射撃音が響き渡る。
凄まじい連続音だ。現在のガトリング砲は分速二〇〇発がやっと。それの二倍以上なのだから威力もさることながら音による恐怖も桁違いだ。
弾薬ベルトは二五〇発だから途中で間を置いたとはいえ、連続射撃では約三十秒ちょっとで撃ち尽くした。冷却機構も青白く発光しておりちゃんと機能している。
粉塵が消えると、的はもちろんバラバラ、盛土は穴だらけになっていた。
すごい。これはすごい。この重機関銃が最前線に数百、いや数千並べば数に勝る妖魔帝国の軍勢も蹴散らせる。魔法障壁だってこの火線では防ぎきるには限界があるだろう。
「射撃完了。いかがでしょうか、アカツキ中将閣下」
「素晴らしいね、ジョセフ少佐。社長、軍が要求していた性能を完璧に再現しています。あとは整備性の問題さえクリアすれば、いざ再戦になっても数的優位の妖魔帝国軍を粉砕できるでしょう」
「アカツキの坊ちゃんからそこまで評価してもえりゃ、開発のしがいがあったってもんだ。作動方式は特許を取得した新しいもんでよ、課題の冷却機能も魔法冷却で解決したんだぜ。ちいとばかし前線の負担が増えるが、そこらへんは軍本部からの要求は満たした。銃身交換については魔法冷却の効果で、約一五〇〇発までは伸ばせたぜ」
「約一五〇〇発ならば十分でしょう。戦争の際には大量に銃身が必要になりますが、これが戦争ですから」
「一五〇〇ってなるとあっちゅう間だが、仕方ねえわな。こいつの生産ラインもいざとなったら確保しておく。なんつーか、昔の頭でいたらおかしくなりそうな消費量だがよ、アカツキの坊ちゃんの話だとか休戦前終盤の状況からして驚きはしなくなったさ」
「大戦で戦争の常識は覆りました。そして恐らく、再戦した際にはまた覆ります。戦費を考えると、財務省が悲鳴を上げそうですが……」
「そこらへんはよく知らねえが、戦争に勝つためだろ? 俺らみたいな立場はあんたみたいな偉いさんに任せるしかねえ」
「仰る通りです、社長。予算については財務省や軍部省の文官、使用法については我々にお任せ下さい。もちろん、注文した分の支払いもきっちりと」
「金払いのいい取引先はありがたいぜ。国っつーか、軍が相手なら間違いねえしな」
王立工廠と違って、ドルノワ工廠は株式会社すなわち民間会社なので支払いは正しく履行されなければならない。連合王国は黒字国家だし、依頼した側だから当然の義務だ。
軍としてはひとまず量産体制に移行次第、試験運用の為に一個師団分を。その後、五カ年から七カ年かけてガトリング砲から更新していく計画だ。ドルノワ工廠にとっても大口もいいとこの契約なので力の入れ具合も強い。今後は量産試作品の微調整が進み、そこから晴れて大量生産に移るだろう。
軍事予算が縮小されたとはいえ研究開発予算への投入は惜しまない僕達の国、連合王国。こうした一つ一つの開発が、次の戦争の備えになるだろう。
このあとは、まだ試作段階ではあるけれど新型の柄付手榴弾の実試験を視察したり、研究段階で来年には試作が完成する予定の新型ライフルの進捗を聞いたりと、次の戦争計画に必要な兵器類の見学や会議をしたりして日没まで時間は過ぎていった。
帰宅後はリイナのお腹にいる小さな命の為に注文していた靴をリイナに渡すと、気が早すぎと呆れながらも笑ってくれた。
出産予定週まであと二ヶ月、来る日が待ち遠しくて仕方がないよ。
ダワージ・ドルノワ。七十二歳(ドワーフ平均寿命は人間よりやや長め。ヒト換算、五十五歳)。連合王国への貢献により名誉貴族称号も持っている。
先代、ダワーノ・ドルノワ設立――産業革命初期の設立だからまだ新しい方の会社だったりする――のドルノワ工廠株式会社を受け継ぎ産業革命の波に乗って大幅に事業を拡大、成功させたやり手のドワーフ経営者だ。
ドルノワ工廠は僕の故郷ノイシュランデが発祥の地で、お爺様が産業革命にいち早く目をつけて領内の工場に補助金等を交付して工業を活発化させた。その時にドルノワ工廠は最も成功した会社で、今や連合王国で最も有名な重工業会社かつ軍需産業会社になった。
ダワージ・ドルノワは先代から直接学び、職人気質でりながらも経営者として最先端の知識を学ぶべくアルネセイラ大学で経営学を専攻してドルノワ工廠株式会社をより発展させて今に至る。
作業着姿で現場によく赴いているけれど、頭も回る敏腕社長なのがダワージ社長なんだよね。
「アカツキの坊ちゃん、あんたも超有名人になって久しいから相変わらず忙しいだろ? 雑談とかは後にして、早速見ていくか? なんてったって、今日はあんたが新兵器を見に来たんだろ?」
「ええ。社長から新兵器の量産試作品が完成したと聞いて、スケジュールを調整しましたから。アレとかはどちらにありますか?」
「こっからちと行った先の試射場に準備してあんぜ。案内してやんよ」
「よろしくお願いします」
僕達と社長含むドルノワ工廠の一員はゾロゾロと移動を開始する。ジョセフ少佐は研究畑の人達と進捗やら話をしていて、エリス中佐は作業着姿の社員と魔法銃の一丁あたりの値段を下げるにはどうするかなど、二人共専門的な話をしていた。
僕はというとダワージ社長と再来月に生まれる子供の話をしていた。
「嫁さんのリイナさんだったな、腹の中の子はだいぶ前に性別が分かったって? 直接聞きたかったが互いに忙しいから仕方ねえ。報道で聞いたぜ、男の子だってな!」
「はい。後継者問題に関してはこれで解決しました」
「んで、相棒の可愛い英雄人形エイジスはリイナさんの護衛か」
「ええ。身重なので、僕よりリイナの護衛についています。情報共有と魔力半減効果は離れてても問題なく機能していますから大丈夫ですよ。たぶん、今頃リイナと和気あいあいと話しているでしょう」
「いいこった。で、服とかは揃ってんのか?」
「もう買ってありますよ。リイナには親バカねえ、って言われました」
「いくつ購入したんだよ……」
「ざっと一ヶ月は毎日違う服を」
「そら親バカだわ……」
「え、そうですかね?」
「いんや、否定はしてねえぞ? 俺だってでっかくなった息子や娘が産まれた時は子供のいる同族社員にどんなん買えばいいか聞いたもんよ」
僕の事を親バカとは言いつつも、社長もなんだかんだで同じだった。だって自分の子供だからね。楽しみだし、絶対可愛いから今のうちから揃えたかったのさ。
「そうだ、服とかあるんなら贈り物はオモチャでいいか? 召喚士飛行隊の召喚動物のぬいぐるみとか、兵隊人形一個小隊なんてどうだ? 英才教育だろ?」
「ぬいぐるみはともかく、兵隊人形はまだ早いような……」
「ふははっ! それもそうだな! んじゃ、梟か鳥あたりのぬいぐるみにすっかな!」
「ありがとうございます。楽しみにしてますね」
「いいってことよ。にしても、第一子が男で良かったな。貴族にとっちゃ結構大事なとこだろ?」
「ええまあ。昔と違って今や連合王国は実力主義で女性当主も有り得ますから女の子でも問題は無いのですが、まだ偏見が残ってますからね」
「今どき軍だって、特に魔法兵科は女性が増えたっていうのに、貴族サマはお固いこって。軍人貴族はまだいいが、ヤツらったら会話が面倒っちゃありゃしねえ。こちとら職人だぜ? 十九世紀に入ってからは貴族も実業家してるの増えてきたから楽にはなったけどよ、貴族の流行りなんざ知らねえから晩餐会なんて特に苦労するってもんよ」
「それでも話についていける社長は凄いですよ。僕だったら社長のように出来るかどうか」
「へっ! あんたならそつなくこなすだろうよ。俺らがあっと驚くような発想や仕組みを言ってくれてっから、今日のだって作れんだぜ? ま、俺らの腕もあっけどな!」
「無茶振りに答えてくださりありがとうございます。僕の考える次に備えた兵器はドルノワ工廠じゃないとつくれないですから。だからか王立工廠には贔屓だって文句言われますけど」
「王立工廠なんざ、あっちは今じゃ魔法科学兵器専門みたいなもんだろ? それに予算投入だって王立の方が多いじゃねえか。まあ、王立は国家工廠で、俺らは株式会社だからって理由もあるだろうけどよ」
今年に入って、戦間期となったからか軍事予算については大戦真っ只中の頃に比べてかなり減額されていた。
戦費がそもそも計上しなくて良くなったというのが一番の要因だけど、少なくない戦死者と負傷者(ここでは以前のように自立生活が出来なくなった者を指す)に対する恩給の支給が軍事予算とは別とはいえ予算に計上されているかという事情がある。
休戦までの死者には遺族に遺族年金を重傷者には前世で言うような廃兵院の設置や恩給が支払われる事になった。名誉の負傷とはいえ、その後の生活を補償しないと彼らは最底辺層に落ちてしまい、社会問題に繋がりかねない。
これについては戦中から懸念されていたから軍部省では準備がなされていて、休戦になった去年から正式に発足した。
ここまで話をすれば社会保障の一つが確立されたと思えるけれど、予算はそれなりになってしまった。軍事予算とは別枠とはいえ、大元の国家予算に加わっている。
となると、休戦になったからという名目で割を食ったのが軍事予算だった。
戦中は軍事にかなり傾けていたから経済振興政策など各方面が犠牲になっていた。ところが戦争は一旦止まったとなればそちら側に振り向けなければならない。軍需が消えた分による不景気を防ぐ為、補填する為でもあるからだ。
結果として、軍拡は相当控えめに。予算は直接戦費を除けば前年並みを維持されたものの、質の向上に振り向けるのが限界という形になったんだ。
妖魔帝国との再戦を考えれば今の連合王国の兵力ではまだ不安があるけれど、文句は言えなかった。戦時中は他方面に我慢してもらっていたからだ。
そういった事情もあって、ドルノワ工廠への補助金及び予算も減額。王立工廠もマーチス侯爵や軍人貴族達の提言が無ければ減額になっているところだったんだから、国家運営というものがいかに難しく複雑かを改めて実感したよね……。
とはいえ、国王陛下が一定の理解を示してくれているから計画に大きな狂いはなく今に至るってわけさ。
「王立工廠には別件の魔法科学兵器の新開発が軍魔法研究所と合同で進行中ですし、矛は収めてくれました。適地適役を説けば納得してくれましたし。それでも優先順位を付けなければなりませんでしたが……」
「英雄様は大変なこって……」
「実権があるからこそ出来る芸当ですよ。結局の所、戦場で使うのは僕達ですから。軍部省や軍本部、参謀本部による取捨選択も説得力があったからです。皆のお陰ですよ」
「ぬう、俺は政治の事までは詳しくねえからよく分かんねえけど、あんたが苦労してるのは分かったぜ。ま、今日は視察とはいえ肩の力は抜いてくれや」
「助かります。おや、あそこの人だかりが例のモノですかね?」
「おうとも! どうやら準備と最終確認は終わってるみてえだな」
試射場まではそこそこ距離があったけれど、話をしていたらいつの間にか到着していた。
眼前に広がっているのがここの試射場だ。ライフルから砲まで撃てるようにと南北は五キーラまで確保されている。軍ならともかく一株式会社がこんな敷地を確保出来るのはドルノワ工廠だからこそだろう。
到着すると、紹介されたのが今回の新兵器。前世でも戦争の仕組みを大きく変えた武器の一つだった。
「アカツキの坊ちゃん、こいつが軍部省と参謀本部、それにあんたの要請で新開発した兵器、新世代型機関銃『DMG1842』だぜ!」
「おお、ガトリングよりだいぶコンパクトになりましたね。車輪が無くなった分、これなら戦場でも持ち運びがしやすそうです」
『DMG1842』と制式名称が付けられた、目の前にある武器は前世の兵器の中でもだいぶ近代化されたフォルムになっていた。見た目は前世の十九世紀末から第一次世界大戦の時代に陸戦では主役になった重機関銃、マキシム重機関銃に似ている。強いて違いを上げるのならば冷却部くらいだろうか。小石程度の魔石をセットする機構と付属機構があるし。
社長から『DMG1842』の資料が手渡される。この機関銃の性能についてはこのように書いてあった。
『DMG1842』
□諸元
・重量:32.6キラ
・全長:113.7シーラ
・銃身長:69.6シーラ
・要員数:4人
・使用弾丸:8ミーラ
・作動方式:ショートリコイル
・発射速度:毎分約500発
・初速:秒速715ミーラ
・装填方法:ベルト給弾250発
・冷却方法:低純度小型魔石氷属性内包型魔法冷却
既に一度目は通してあるけれど、改めて前世のマキシム重機関銃に類似していると思える性能だ。使っている弾薬は違うしやや大型化かつやや重くなっているけれど、使っている弾薬はともかくとして、大型化と重量化は冷却機構のせいだ。
さっきフォルムを眺めていた時にも思ったけれど、この世界に魔法が存在するが故に銃身の冷却には液冷でも無ければ空冷でもない、魔法冷却が採用されている。
一度に何百発も銃弾を放つ機関銃には冷却が不可欠だ。それらは魔法の無い前世ならば空冷か液冷が採用されているけれど、旧東方領という莫大な魔石が眠る地帯を手に入れた連合王国は氷属性魔法を魔石内に内包させることによってこれを解決した。
使用しているのは低純度。魔石爆弾には使えず、しかし持て余すにはもったいない水準。術式の効率化は戦争によって日進月歩で、冷却機能を持たせる程度であれば一回の詠唱で戦場で酷使する回数でも半月から二十日程度は耐えうる程には持続可能。
ということもあって、この度の重機関銃には魔法冷却が採用されたわけだ。
このようにメリットづくしだけれど、定期的な魔力補充の必要があるのは変わらず魔法兵の負担が増えるのは間違いない。この点を再戦した際にはどうするかは考えなければならないけれど、輸送前に後方で補充し現場で再補充。と軍本部は決めているからとりあえずこの方式でいいだろうと僕も納得した。
液冷か空冷も併用した方がいいかもしれないけれど、これはさらにかさばる事になるから選択肢としては無いだろう。魔法がある世界だからこっちの方が手っ取り早いってのもあるしね。
それでも液冷と空冷に関する技術進展は戦争のお陰で進んでいるし、僕としては魔法に頼らない方式も研究開発をさらに推進しておきたいと思っている。蒸気自動車などだけでなくさらにその先、例えば将来的に必須となる航空機のエンジンの為にもね。
っと、この話はこれくらいにしておこう。
「アカツキの坊ちゃん、随分熱心に機関銃を眺めてるじゃねえか。やっぱり新しい物好きの興味をそそるか?」
「ええ、とても。この兵器はどう運用するかが決定された上で開発されましたが、実際の戦場でを想像していました」
「流石は現場組だな。んじゃ、試射してみっか」
「ぼくがやりましょうか? 何度か撃たせて貰ってますし」
「おう、ジョセフ少佐。お前さんなら試射員と同じくらい手馴れてるしな。去年あたりからここにはそこそこ来てくれてるしよ」
「ええ、お任せ下さい。事務方とはいえ、軍人ですしこの重機関銃については何度も見せて頂いていてよく存じてますし」
そっか。ジョセフ少佐は定期的にここに出入りしているし、軍人なら後方勤務とはいっても兵器の取り扱いも慣れている。
なら試射員には最適だよね。
「ジョセフ少佐、いつでも合図出せます」
「分かりました、ライエンさん。――完了です」
白衣を着るライエン研究員――この重機関銃の開発に携わっている一人――の発言にを要員三人と共にささ、とDMG1842の射撃準備を終えるジョセフ少佐。なるほど、操作性についてはそんなに難しくなさそうだ。マニュアルさえあればどうにでもなるだろう。
「では、始めてください!」
「了解。射撃開始します」
ジョセフ少佐が言った瞬間、彼は引き金に手を掛け盛土とそこにある的に向けて射撃を始めた。
試射場に、この世界では未達の領域である分速五〇〇発の射撃音が響き渡る。
凄まじい連続音だ。現在のガトリング砲は分速二〇〇発がやっと。それの二倍以上なのだから威力もさることながら音による恐怖も桁違いだ。
弾薬ベルトは二五〇発だから途中で間を置いたとはいえ、連続射撃では約三十秒ちょっとで撃ち尽くした。冷却機構も青白く発光しておりちゃんと機能している。
粉塵が消えると、的はもちろんバラバラ、盛土は穴だらけになっていた。
すごい。これはすごい。この重機関銃が最前線に数百、いや数千並べば数に勝る妖魔帝国の軍勢も蹴散らせる。魔法障壁だってこの火線では防ぎきるには限界があるだろう。
「射撃完了。いかがでしょうか、アカツキ中将閣下」
「素晴らしいね、ジョセフ少佐。社長、軍が要求していた性能を完璧に再現しています。あとは整備性の問題さえクリアすれば、いざ再戦になっても数的優位の妖魔帝国軍を粉砕できるでしょう」
「アカツキの坊ちゃんからそこまで評価してもえりゃ、開発のしがいがあったってもんだ。作動方式は特許を取得した新しいもんでよ、課題の冷却機能も魔法冷却で解決したんだぜ。ちいとばかし前線の負担が増えるが、そこらへんは軍本部からの要求は満たした。銃身交換については魔法冷却の効果で、約一五〇〇発までは伸ばせたぜ」
「約一五〇〇発ならば十分でしょう。戦争の際には大量に銃身が必要になりますが、これが戦争ですから」
「一五〇〇ってなるとあっちゅう間だが、仕方ねえわな。こいつの生産ラインもいざとなったら確保しておく。なんつーか、昔の頭でいたらおかしくなりそうな消費量だがよ、アカツキの坊ちゃんの話だとか休戦前終盤の状況からして驚きはしなくなったさ」
「大戦で戦争の常識は覆りました。そして恐らく、再戦した際にはまた覆ります。戦費を考えると、財務省が悲鳴を上げそうですが……」
「そこらへんはよく知らねえが、戦争に勝つためだろ? 俺らみたいな立場はあんたみたいな偉いさんに任せるしかねえ」
「仰る通りです、社長。予算については財務省や軍部省の文官、使用法については我々にお任せ下さい。もちろん、注文した分の支払いもきっちりと」
「金払いのいい取引先はありがたいぜ。国っつーか、軍が相手なら間違いねえしな」
王立工廠と違って、ドルノワ工廠は株式会社すなわち民間会社なので支払いは正しく履行されなければならない。連合王国は黒字国家だし、依頼した側だから当然の義務だ。
軍としてはひとまず量産体制に移行次第、試験運用の為に一個師団分を。その後、五カ年から七カ年かけてガトリング砲から更新していく計画だ。ドルノワ工廠にとっても大口もいいとこの契約なので力の入れ具合も強い。今後は量産試作品の微調整が進み、そこから晴れて大量生産に移るだろう。
軍事予算が縮小されたとはいえ研究開発予算への投入は惜しまない僕達の国、連合王国。こうした一つ一つの開発が、次の戦争の備えになるだろう。
このあとは、まだ試作段階ではあるけれど新型の柄付手榴弾の実試験を視察したり、研究段階で来年には試作が完成する予定の新型ライフルの進捗を聞いたりと、次の戦争計画に必要な兵器類の見学や会議をしたりして日没まで時間は過ぎていった。
帰宅後はリイナのお腹にいる小さな命の為に注文していた靴をリイナに渡すと、気が早すぎと呆れながらも笑ってくれた。
出産予定週まであと二ヶ月、来る日が待ち遠しくて仕方がないよ。
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