異世界妖魔大戦〜転生者は戦争に備え改革を実行し、戦勝の為に身を投ずる〜

金華高乃

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第10章 リチリア島の戦い編

第8話 リチリア島防衛戦3~とある作戦と、フィリーネの心中の本音〜

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 ・・8・・
 九の月四の日に幕を開けたリチリア島防衛戦。翌日の五の日も熾烈な戦いが繰り広げられた。
 妖魔帝国軍は南側の防衛線にいる協商連合軍一個旅団に対して第二十三師団の一個師団を向かわせた。
 主戦線であるシャラクーシ防衛線には協商連合軍と法国軍各一個旅団が展開しているが、これに対しては第二十六師団と新設された第一海兵師団の計二個師団を、その後方には陸軍司令官であるモイスキン大将がいる第二十八師団が控えており洋上に予備として残されている手負いを抜いた一個旅団はまだリチリア島にはいなかった。
 五の日の戦闘は目新しい動きはさほど無かったが、前日に引き続く火力投入が人類側によって行われている主戦線は元より初日の砲撃を行って撤退し、南部側の戦線に合流した砲兵隊によるものも凄まじかった。妖魔帝国軍は本当に旅団火力と疑うほどにである。
 ただし、妖魔帝国軍も一ヶ月という制圧期限があるから容赦などしなかった。火力と魔力のぶつかり合いはフィリーネですら練度の高い敵を送り込んできたわねと喫煙量が増えるくらいであった。
 そして六の日も同様に戦いは苛烈であった。妖魔帝国軍の被害も蓄積しているが、三日目ともなると数的劣勢の人類側にも苦しい戦闘を強いられるようになる。
 例えば、主戦線であるシャラクーシ防衛線では損害の大きい一個大隊がフィリーネ達がいる後方へ撤退し、代わりにフィリーネが命じて二個大隊を抽出して防衛線へと送り出している。引き抜いたままではシャラクーシ防衛線を支えるには心許ないからである。
 唯一、人類側にとって安心しうる要素は膨大な備蓄をしたからこそ遠慮なく砲弾と銃弾を敵に向けられる事だろうか。懸念していた艦砲射撃も一日あたりの投射量が限られていると、沖合から放たれる弾数から容易に予測出来たからだ。また、備蓄分に関してはなるべく後方に配置してあるのも功を奏したのと、運も良かったのも相まってこれらが爆発したという報告もなかった。
 さて、最新の状況であるが五の日も含めてこの日の戦闘結果は以下のようになる。

『妖魔帝国軍』最新の状況。(六の日夕方時点)
 ※戦線はキャターニャ砂浜海岸周辺をほぼ制圧。橋頭堡構築は完了し、南側戦線と主戦線シャラクーシ戦線に迫りつつある。

 ・第二十三師団
 死傷者四〇〇(現有戦力:九六〇〇)

 ・第二十六師団
 死傷者一〇〇〇(現有戦力:九〇〇〇)

 ・第一海兵師団
 死傷者一七〇〇(現有戦力:八三〇〇)

 ・第二十八師団(モイスキン大将所在地)
 ほぼ定数

 ・第二十九師団(旅団編成化。再編成定数八割化は十五の日予定)
 未だ沖合に存在

 総合計死傷者:三三〇〇(防衛戦累計)(現有戦力:四一九〇〇)

 やはり、特に死傷者が目立つのは先陣をきった第一海兵師団である。初日の砲撃により膨大な死傷者を出し、これらの大半はとても再び戦線に戻すことなど出来ず、遠征という関係上医療物資も限られている事もあって第一海兵師団師団長は損害二割を越えれば一旦再編成が必要だと考えざるを得なかった。
 次に損害が大きいのは海兵師団と同じくして上陸しシャラクーシ防衛線で戦う第二十六師団であった。死傷者は一〇〇〇。まだ再編成まで頭に入れる数字ではないが指揮官クラスはともかく、特に色濃くある魔人至上主義の影響もあって楽に制圧出来るだろうと考えていた兵達にとって地獄をまざまざと見せつけられたあの光景は士気を下げるには十分な要素だった。ただ、現場の士官によって既に精神的なものは立て直しはされているので大きな影響はないであろう。
 南側戦線に展開した第二十三師団の死傷者は四百と他に比べれば少ない。これは、モイスキン大将が深入りはしなくてよろしいと命令が下されているのもあり、あまり戦線を拡大させていないからである。
 他の師団については言及すべき点は無い。フィリーネとはまた違う形で積極攻勢を好むモイスキン大将にしては消極的であるが、これは初日の損害の大きさを考慮しているからだ。
 妖魔帝国軍は以上のようであるが、対して人類側諸国の最新の状況は以下のようになる。

『人類側諸国』最新の状況。(六の日夕方時点)
 ※主戦線側(シャラクーシ防衛線)
 ・法国第二十九神聖師団麾下第一旅団
 死傷者一一〇〇(現有戦力:三九〇〇)

 ・協商連合第八師団麾下第二旅団
 死傷者一〇〇〇(現有戦力:四〇〇〇)(※ただし、一個大隊残存三三〇が後退し、後述から二個大隊一一〇〇を抽出しているので実戦力は、四七七〇)

 ・協商連合第八師団麾下第一旅団(人類側総司令部)
 死傷者無し(現有戦力:五〇〇〇)(※ただし、前線に二個大隊抽出につき総数は三九〇〇に)

 ※南部戦線
 ・協商連合第六師団麾下第二旅団
 死傷者九〇〇(現有戦力:四一〇〇)(※ただし、後述する旅団所属の撤退した南東部砲兵隊が含まれる為実数はこれを上回る)

 ※後方部隊
 ・協商連合第六師団麾下第一旅団(師団司令部)(キュティル所在)
 死傷者無し(現有戦力:五〇〇〇)(※ただし、南東部砲兵隊はここ所属の為、実数はこれを下回る)

 ・法国第二十九神聖師団麾下第二旅団(タレルモ所在)
 死傷者無し(現有戦力:五〇〇〇)

 総合計死傷者:五〇〇〇(※内、戦線復帰可能兵数は一三〇〇)

 以上のように初日から善戦している人類側であるが、やはり死傷者は妖魔帝国軍側より上回っており、魔法火力で上回る相手に一般火力で勝るとはいってもこれからの厳しい戦いを予見させる数字であった。
 特に損害が目立つのは主戦線たるシャラクーシ防衛線に展開する協商連合と法国の各一個旅団である。先に記した通り、フィリーネは現在は後方である第八師団麾下第一旅団から早くも二個大隊を抽出していた。
 果たして、この状況に対して人類側はどう行動を起こすのであろうか。
 時刻は陽も沈んだ午後七時半。キャターニャの西にある人類側総司令部では作戦会議が行われたていた。


 ・・Φ・・
「本国から連絡があったわ。リチリア島に本国艦隊及び救援の上陸軍が到着するのは来月一の日。つまり、当初の予定通りあと一ヶ月耐え切る必要があるわ」

「一ヶ月……。たった三日でこの損害だというのに、厳しい話だね……」

「前線に戻れると志願した者がいくらかいるとはいえ、少なく見積もってもこれまでに約一割が損失ですか……。少将閣下」

 現実に今そこにある数字に対して、司令部の面々の表情は明るくなかった。妖魔帝国軍といえばこれまで人類側は快勝しているか、敗北しても後に勝利へと変えてきた相手である。しかしそれは時代錯誤甚だしい魔物軍団や、全般的に装備に劣る師団相手だったからという点があったからだ。
 ところが、今回の相手は訳が違う。
 制海権はあちらのもの。上陸軍の構成は全て人間より魔力に優れる魔人。さらに内一個師団は海兵師団。他の師団も本国軍だけあって精強な兵が多い。
 つまるところ、これまでの戦いと違って人類側に不利な要素が多い初めての戦いなのである。
 フィリーネは、アカツキくんとやらは華々しく戦果を挙げて、私は泥臭い戦争の貧乏くじか。と思いつつも、クリス大佐に返した言葉にはまるでこちらがまだ有利にあるというような語調だった。

「分かっているわ。確かに妖魔帝国軍は強い。今までの有象無象の雑魚とは違うとも思っている。けれど、私達は初日から敵に多大な損害を与えていて、特に一番厄介な海兵師団に対してはそろそろ二割近くの損害を食らわせたはずよ。そうよね?」

「ええまあ。今日は海兵師団の攻勢は昨日よりは弱かったです」

「でしょう、クリス大佐。なら、この夜は絶好のチャンスじゃない」

「故に、この作戦ですか。持久戦を志向している割には攻撃は最大の防御とも考えているのはいかにも貴方らしいですが……」

 クリス大佐はため息をついてフィリーネに言う。その顔つきはいつもの病気がついに実戦でも。といった様子だった。
 対象的にフィリーネは非常に意欲的だった。目がきらきらと輝いているあたり、楽しそうですらある。

「フィリーネ少将……、この作戦に僕達法国軍は出番は無いけれど本当に君達協商連合軍だけに任せてしまってもいいのかい?」

「いいもなにも、法国軍の旅団は三日間も前線を支えてくれているじゃない。十分よ。それに、この作戦に貴方達が参加したとしてついてこれるかしら?」

「う、ううん……。前線は疲弊しているから休息は必要だし、タレルモは温存しておきたいから……。無理だね」

 フィリーネの冷静かつ厳しい指摘に対して、テスラ少将はこちらも冷静に分析した結果法国軍の参加は不可能と判断する。遠回しにお前らには無理と宣告された法国軍の参謀達も同様の反応をしていた。
 当然である。シャラクーシ防衛線の現状が書かれている地図の横に置かれた作戦書には、このように内容が記されていたからだ。

『敵海兵師団及びその弾薬庫等などを狙った、混乱に陥れる夜間襲撃作戦』

 1、本作戦は橋頭堡を築き侵攻しつつある妖魔帝国軍に対して一撃を与え、その侵攻速度を低下させるのが目的である。

 2、目標は妖魔帝国上陸軍において最も損害の大きい海兵師団。及びその弾薬庫。既に敵の位置は召喚士飛行分隊(夜間偵察飛行可能なフクロウを使役可能な隊員)が偵察済みである。

 3、投入する戦力は、一個大隊五五〇名(全員魔法能力者かつBランク以上)で構成される、第七〇一独立魔法特殊大隊。なお、この作戦にはフィリーネも同行。

 4、本大隊を一時的に『黒鎌大隊』と呼称する。本大隊には兼ねてより連隊で試験導入していた中隊規模での魔法無線装置通信による高度情報連携能力を獲得しており、これを有効活用して作戦を遂行する。

 5、ただし敵軍の傍受対策として作戦直前まで無線封鎖。作戦開始と同時に解除する。作戦開始時刻は翌日午前一時。

 6、作戦は2の通りであるが、三段階で行われる。第一段階は敵軍を混乱させる為の強襲夜間攻撃。司令部強襲などではなく手当り次第の攻撃。第二段階は敵軍の統制が取れない間に弾薬庫を大爆発させるだけの攻撃を一撃のみ行う。第三段階は以上の作戦達成可否に関わらず速やかに離脱。シャラクーシ防衛線に帰還する。

 7、上記作戦が成功した場合、海兵師団の損害は再編成せざるを得ない状況に陥り、結果として大きな時間稼ぎが可能と考える攻勢防御作戦である。

 補足であるが、第七〇一独立魔法特殊大隊とは本防衛戦においてフィリーネが引き連れてきた直轄二個師団の内精鋭と称されるのが第八師団――キャターニャ駐屯の一個旅団はこの第八師団所属である――であるが、その中でも精鋭中の精鋭と称される部隊がこの大隊なのである。
 第七〇一独立魔法特殊大隊はフィリーネが軍で頭角を現し始めた頃に最初に指揮していた部隊である。故に協商連合軍内では『始まりの大隊』とも称されているほどだ。
 その七〇一とフィリーネが遂行する作戦を、ニコラ少将はこう評した。

「それにしても、この作戦。僕は悪くないと思うし、むしろ纏まった戦力がある今だからこそ取れる有効な手札だと考えるかな」

「そうでしょうそうでしょう! さすがニコラ少将ね!」

「私は総指揮官自ら作戦参加なのはどうかと思いますが……、これ以上の適任もいませんし……」

「なによう、クリス大佐。ちゃんと貴方には話したからいいでしょう? この戦況において私みたいなSSランク持ちが司令部に籠るだけなんて論外だって」

「話さなかったら大問題ですよ……。まあ、少将閣下なら無傷で帰ってきそうですから首を縦に振っただけです」

「はいはい、いつものお小言ありがとうございましたー」

 これから繰り広げられるのが成功の如何によって戦況は変化するであろうに、まるで平時の酒場のように軽快にやり取りをするフィリーネとクリス大佐。それらを目の当たりにして、ニコラ少将は思わず吹き出してしまった。

「ぷふっ。あははははっ! いやはや、フィリーネ少将は肝が据わっているなあ。一瞬だけど、僕はここが戦場ではなくて街のカフェにいるような気分になったよ。話はとても物騒なものだけれどもね」

「作戦に参加しない我々が不安になってはいけませんね」

「本当だよテオドーロ大佐。――フィリーネ少将。君達にばかり負担をかけてすまないけれど、よろしく頼むよ」

「ここにはクリス大佐も控えておられますから問題はありませんが、万が一の場合は法国軍の中でも精鋭の部隊を救援に向かわせます。背中は任せてください」

「感謝するわ。ニコラ少将、テオドーロ大佐」

「どういたしまして」

「ご武運を」

「任せてちょうだい。クリス大佐、情報の管理は貴方の仕事よ。万事、つつがなく」

「はっ。――どうかご無事で」

「まったく貴方は心配性なんだから」

 クリス大佐の言葉に対して、フィリーネは苦笑いをして返す。

「さあて、準備を始めましょうかね。その前に一服も」

 フィリーネは手をひらひらとさせて、総司令部の仮設建築から出る。
 外に出ると、兵達は束の間の休息を得ており体を休めていた。作戦に参加する兵はあと少し仮眠が命じられている為に見当たらなかった。
 フィリーネは総司令部の建築群からやや離れた所まで歩き、人気ひとけのほとんどない所で立ち止まると、夏用軍服のカッターシャツから紙タバコを取り出して彼女は初歩的な火魔法で火をつけた。
 大きく息を吸い、味を堪能する。
 すると、瞳は周りに見せるような光のあるものではなく、どろりと黒く濁ったものへと変わる。

「さてさて、あそこには私より強いヤツはいるかしら? 楽しみ、楽しみだわ。ひひひっ」

 その口調は今の姿には似つかわしくない、前世のものであった。
 大義名分は得た。けれども、本当の目的は自分より強い敵と戦いたい一心にある。当然部下達には隠しているが、クリス大佐には見抜かれているかもしれない。
 けれどもフィリーネにとって、知ったことでは無かった。

「私は、あんたに会いたい……。前の世界の、今でも愛してるあんたに。でも、あんたは今度も会うことを許してくれないのでしょう? この世界で、生きろっていうのでしょう?」

 フィリーネは独りごちる。暗闇には、ぼんやりと煙草の火が灯されるのみ。それ以外は月の光だけだった。

「けど、それでもいいの。だったら私は、あんたが仕方ないなと思えるまで生きてから死んでみせるから」

 逢瀬を願う彼女の想いは叶わない。何故ならその人物はとっくに死んでいないのだから。
 世界が変わっても彼女は愛する人の姿をまだ追っている。それが、血にまみれた戦場の島であったとしても。

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