異世界妖魔大戦〜転生者は戦争に備え改革を実行し、戦勝の為に身を投ずる〜

金華高乃

文字の大きさ
143 / 390
第9章『春の夜明け作戦』編

第8話 キシュナウの戦いに勝利はしたが

しおりを挟む
 ・・8・・
 6の月28の日
 キシュナウ市北部・第2方面軍総司令部

 間もなく六の月も終わりを迎えるこの日。僕達第二方面軍は敵たる妖魔帝国軍の激しい抵抗に遭いながらもキシュナウ市の大部分を占領。残すは南部の一部地域のみとなっていた。
 既にキシュナウ市の南に流れる川を越えての包囲も完了しており、敵残存は僅かに六千五百。もう一度総攻撃を仕掛ければ瞬く間に妖魔帝国軍は殲滅されるだろう。
 よってこの日。銃弾は尽き、とっくに限界を迎えているであろう奴等に対して最後通告を突きつけることとなった。

『本日正午より、総攻撃を開始する。既に勝敗は決している。潔く投降したのならば、我々は寛大な処置を取ろう。命は保証し、飢えているであろう諸君等に食糧も提供する。最終回答期限は十一時。諸君等の賢明な判断を祈る』

 午前九時前。前日までであればとっくに交戦が行われている時刻だがあえて攻撃中止命令を出した上でこのような文書が書かれたビラを僅かに残った敵勢力圏に撒いた。
 マーチス侯爵を始めとして総司令部の面々はこれで多くの投降者が現れてくれれば弾薬消費を抑えられるし味方の犠牲も少なくなる。
 この散布したビラ。確かに効果はあった。午前十時半までにやせ細った妖魔軍の兵士や士官など約千五百名が投降したのである。
 残存が損耗しきった一個旅団相当であるのだから統制が取れているはずもない。緒戦のように敵が敵を撃つこともなく速やかに投降した捕虜の収容は行われ、重傷者から優先して治療。食事が可能なものには通常の食料ではなく、飢餓で弱りきった体と胃に負担のかけないものを与えた。

 「アカツキ少将閣下。捕虜の負傷等級振り分けは順調に進んでおります。魔人の身体は比較的人間等に似ているのはジドゥーミラで分かっておりますので、特に問題はありません。また、提供している食料も飢餓者に合わせた物を出しております」

 「分かったよ。報告ありがとう」

 報告した兵士が言った負傷等級振り分けとは、トリアージの事だ。前世の歴史でも原型はナポレオンの頃に既にあり、この世界でもトリアージは存在する。ただ、システムはナイチンゲール以前のものであったから、ここにも僕は前線医療を担当する衛生兵や医官などが関係する衛生部門に提案をした。それをしたのがA号改革が始まり半年ほど経過してから。提案したのは前世の現代日本で使われていた、黒・赤字 ・黄・緑の四等級方式だ。僕自身こういうのに馴染み深い戦場にいたから仕組みはそれなりには知っていたし、兵器開発とは違いソフト面のものなので比較的早く連合王国軍には浸透していった。
 これらは開戦以来行われており、キシュナウの戦いでも利用されている。それを捕虜に対しても使用したわけだ。
 これらを実現出来たのは味方の損害が予想より少なく済んでいること。そしてなにより、潤沢な医療物資と医官・魔法医官・衛生兵の体制が構築されているからなんだよね。本当に兵站担当と医療担当の人達には頭が上がらないよ。
 このように総攻撃前に裏では捕虜という相手にに対しては手厚い保護が行われる中で、期限の十一時を迎えた。
 僕は手に持っている懐中時計で時刻を確認すると、隣にいるマーチス侯爵とラットン中将に、

 「マーチス大将閣下、ラットン中将閣下。期限を迎えました」

 「結局、指揮官からの降伏は無かったか。致し方ないな」

 「もう勝負はついておるのだから、降伏してほしかったのじゃがの。アカツキ少将、投降者はどれくらいじゃ?」

 「最新の報告で約千五百名です」

 「残りは四千五百というわけじゃな」

 「ここまで来れば流石にすぐに片がつくだろうな。ならば、正午より総攻撃を開始する。これがキシュナウにおける最後の攻撃になり我々は勝利を収めるだろう」

 「了解しました」

 「やっと、という所ね。予定よりはまだ早いけれど、随分しぶとく抵抗されたわ」

 リイナの率直な感想に、マーチス侯爵やラットン中将、総司令部テントにいる面々は同意の首肯をする。
 いくらキシュナウの市街地規模が人口数十万程度の中規模都市並みに広かったとはいえ、敵が中部にあった司令部を放棄してもう二十日近くが経過している。魔法が使える魔人は、人間に比して平均五倍の魔力量を保有しており、行使可能人口も人間より随分と多い。それ故に、敵の底力を味あわされた格好となってしまったわけだ。
 それでも有利に戦いを進められているのは質を高め続けている点と兵士達の努力によるものだろう。
 十一時を過ぎてからはマーチス侯爵の命令により攻撃準備が始められた。
 そうしてついに、正午となる。

 「正午になったな。各員に通達! これより最終総攻撃を開始する!」


 ・・Φ・・
 マーチス大将の号令はすぐさま魔法無線装置を介して伝わり、念には念を入れた野砲による制圧砲撃が、続いて前線に出しておいた魔法特務旅団の一部、一個大隊が魔法射撃を始めた。
 轟く砲撃音と魔法射撃音は凄まじく、また総攻撃に相応しい投射量だった。
 その後には一般歩兵による突撃と魔法能力者歩兵による後方からの濃密な火力支援。砲兵による支援砲撃。
 これらに対して、妖魔軍残存部隊は玉砕覚悟の突撃を敢行する。しかしアカツキ達の側が万全な兵士達に対して、あちらはボロボロに疲弊しきっており弾薬も魔力もほぼ底が尽きた状態。いくら魔人達の方が平均的に魔力に優れていて魔法が使える者が多いとはいえ、この決定的な差ではどうしようもない。
 たった二時間で妖魔帝国軍の決死隊は討ち滅ぼされ、推定二千から三千が戦死したのだった。
 総攻撃から二時間半以上が経過した、午後三時前。最前線で動きがあった。

 「敵の司令部と思われる地下道付近から多数の発砲音あり。最大限警戒するも、敵は出現せず」

 この報告に、アカツキやマーチス侯爵達はすぐに察した。
 恐らく、敵司令官など生き残っていた者達は捕虜になるより自決を選んだらしい。
 その予測は命中し、突入した部隊の兵士達が見たのは地下道に幾つかある部屋のそれぞれに頭や口から銃を撃ち抜いて自死した魔人達の屍であり、その中には妖魔軍西方第三軍団総司令官であるレフノロスキーの死体もあった。
 だが、彼はただ死んだだけでは無かった。彼がいた部屋には、直筆の書き置きが残されていたのである。そこには、こう書かれていた。

『我らは果たすべき事を果たした。我らの屍を乗り越え、貴様等には我々魔人達の鉄槌が下されるであろう。精々足掻け、人間共』

 アカツキ達が感じていた敵軍による時間稼ぎは的中していたわけだったのだ。キシュナウの妖魔帝国軍は明らかに何らかの時間稼ぎをしていたのだと。
 キシュナウを制圧した事で歓喜に沸く二カ国軍の兵士達。しかしアカツキにせよマーチスにせよ、総司令部の者達は素直に喜べなかった。嫌な予感がしたからである。
 そして、予感は的中してしまう。
 翌日、二十九の日。
 法国軍から緊急情報が入る。

『ブカレシタから東百十キーラ地点にて、地平線から妖魔帝国軍の大軍が出現。偵察の結果、新たな敵軍の勢力は約三十万と推定される』
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

腹違いの妹にすべてを奪われた薄幸の令嬢が、義理の母に殴られた瞬間、前世のインテリヤクザなおっさんがぶちギレた場合。

灯乃
ファンタジー
十二歳のときに母が病で亡くなった途端、父は後妻と一歳年下の妹を新たな『家族』として迎え入れた。 彼らの築く『家族』の輪から弾き出されたアニエスは、ある日義母の私室に呼び出され――。 タイトル通りのおっさんコメディーです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様

コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」  ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。  幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。  早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると―― 「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」  やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。  一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、 「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」  悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。  なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?  でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。  というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

処理中です...