異世界妖魔大戦〜転生者は戦争に備え改革を実行し、戦勝の為に身を投ずる〜

金華高乃

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第3章第二次妖魔大戦開戦編

第14話 ルブリフ丘陵の戦い5〜魔人達の断末魔〜

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 ・・14・・
 ルブリフ丘陵より北北東五十五キーラ地点
 妖魔軍召喚士魔人部隊本部


 時はアカツキ達連合王国軍と妖魔軍魔物軍団が大規模会戦を始める直前に遡る。
 ルブリフ丘陵から北北東に五十五キーラ地点。丘陵を降りた先の平原地帯から東に三十キーラを過ぎた辺りからは森林が広がっている。森の中となればさしものサモナーフライヤーズも偵察は難しいが、僅かに木々が開けた場所に彼らはいた。
 その場所に集まっているのは人間では無く魔人。それも軍服の上にローブを纏ったおよそ二百名の一団であった。彼らは会戦前の度重なるサモナーフライヤーズの偵察を一応は警戒したのか森の中に姿を隠していたが、それらも終わったと判断したのだろう。今は空を見あげられる空き地のような場所に集まっていた。
 その中でも一番階級が高い人物は大佐であった。魔人の中でも瞳が黒に近い赤の悪魔族と呼ばれる妖魔帝国の中でも最も人口の多い種族であり、背中に黒い翼が四枚あることからハイデーモンと呼称される上級悪魔――四枚翼はハイデーモン、二枚翼は中級のミドルデーモン、翼無しのロウデーモンの三種に分かれている――であった。部下は全て配下の悪魔であり、彼も含めて全て召喚士で構成されていた。
 その彼、大佐は、召喚した魔物の視界を介して戦況を知る若い男性士官の部下からの報告を聞いていた。

「魔物共、ルブリフ丘陵まで十五キルラまで到達。ここまで障害は無し。順調に行軍しています」

 キルラとは妖魔帝国で用いられている距離の単位だ。人類側でいうキーラがキルラ、メーラはメルラ、シーラはシルラ、ミーラはミルラと呼ばれている。

「人間共の布陣はどうなっている」

「奴らですか? ルブリフ丘陵の砦とその前面から動いていません。情報にあった大砲やらが並んでいますが」

「ふむ、新兵器か……」

「なあに、心配いりませんよ。所詮は魔力に劣る人間共ですよ? 魔物の大軍に恐怖しているに違いありません」

 まるで、もう勝ったかのような口振りで男性士官は言う。先の大戦で召喚武器の登場さえ無ければ人類など敵ではないという慢心と、魔力の高いエルフはともかくとして自分達に比べて平均的に魔力の低い人間に対する見下しがそこには混ざっていた。

「人間共は魔力に劣る。だが、油断はするなよ」

「大佐は心配症ですねえ。なあに、人間共の軍なんて一捻りですよ。そのためにわざわざコマンダーなんて用意したんですから」

 男性士官の言葉に周囲にいた者達は頷くなどをする。戦場だというのにその場の空気は弛緩しきっていた。
 しかし、大佐には一抹の不安があった。それはここへ来る前にたまたま出くわした双子の魔人に声を掛けられた時。彼女らはこんな話をした。

「連合王国には侮ってはならない人間がいるわ。魔力が高いわけじゃないけれど、戦場の死神みたいな瞳をしていたの」

「そうよぉ。あの人間には、アカツキ・ノースロードには気をつけた方がいいわぁ。お姉様の言うように、只者じゃないものぉ」

 ただでさえ謎が多く、表情から真意が読み取れない連中ばかりの諜報部に所属する彼女らが真面目な表情で人物名を言ったのだ。大佐としては注意に値する情報だった。

「あのツインズが、な……」

 大佐は顎を親指と人差し指で触りながら独りごちる。

「どうしたんですか、大佐?」

「いや、なんでもない。ところで、魔物共はどこまで進んだ?」

「あと十二キルラです。人間共、臆病風を吹かせて広範囲の魔法障壁なんて張ってますよ。それも三枚もです」

「魔法障壁? 展開するには早すぎないか?」

 なぜだ?
 そう大佐が訝しんだ瞬間だった。
 とてつもない大爆音が大佐達のいた場所に届く。しかもそれらは連鎖的に発生していた。方角は今まさに戦争が始まろうとしていた西方からである。彼等にとって異常事態であるのは明らかだった。

「今のはなんだ!? ここにも爆発音が届くなんて最低でも戦術級の魔法なぞ計画にはないぞ!!」

「自分達も知りませんよ!? な、ななななんなんですか!?」

「ちくしょう、空気中の魔法粒子が乱れて状況が分からねえ!」

「どういうことなの?! 視覚共有も途絶!」

 想定外が過ぎる事態に、先程までの楽観的な心境はどこかへ吹き飛んでしまい召喚士部隊達は大混乱に陥っていた。召喚した魔物とは余程の事でもない限り視覚共有などは途絶しない。しかし、現実に起こってしまった現象を彼等は冷静に受け止められるはずがなかった。

「召喚した魔物に何かあったのか!?」

「いえ、大佐! 生命反応が消えれば間違いなく自分達は感知します! それすらもないんですよ!?」

「こっちも!」

「自分もです!」

「私もよ! なんで?!」

 召喚に携わった召喚士達は口を合わせるように同じ返答をする。
 大佐自身もこの事態に思考がかなり乱れていた。それでも部下を統べる者。自身をなんとか落ち着かせようと深呼吸をし、推測を考えようとする。

「空気中の魔法粒子が乱れる……。そして、ここまで伝わるほどの大爆発音……。人間共、まさかヤケになって何かを使って魔力を暴走させ自爆でもしたのか……?」

 実際、大佐の見立ては半分正解であり半分不正解であった。魔力を用いたという点は当たっている。しかし、暴走ではなく意図的に起こしたものであり自爆でも無かったのが真実なのである。だが、彼等がそれを知る由も無くただ慌てふためくばかりだった。
 そして数分後。召喚士は信じられない光景を召喚したコマンダーの視線を通して目撃することになる。

「共有が回復! ――なっ、なんだ、これ……」

「嘘だ……。そんな、嘘に、決まってる……」

「どうした!? 何が見えた!?」

 愕然とする召喚士に対して大佐は肩を揺らして怒声を上げる。周りにいたコマンダーと視覚を共にしている召喚士達も似たような表情をしていた。

「じ、地面がえぐれ、て……、ま、魔物、ども、が……」

「はっきり報告しろ!!」

「地面が陥没して、魔物の死体で溢れているんです!! 行動不能になった魔物も多数! なのに! なのに人間共の被害は皆無です!」

「なぁ!?」

 大佐は部下からの報告に声を失う。
 連鎖的な爆発の結果自軍に甚大な被害を受けたにも関わらず、連合王国の被害は皆無。それはこの場にいる全員にとって余りにも受け入れ難い現実であった。

「我が方の、被害は……」

「推定、万を越えます……。なにを、何をしやがった下等な人間共め……」

「ぶっ殺してやる……。一匹残さず虐殺してやる……」

「有り得ない……。こんなの、有り得ない……!! 認めないぞ!!」

 召喚士の魔人達の感情は驚愕から怒りへと変わる。
 それはつい先まで劣っていると侮っていた人間達が、魔物とはいえ妖魔軍を瞬間で万単位を殺した事実に許せなかったからである。連合王国側の被害がゼロとなれば、彼らの逆鱗に触れるには十分過ぎる要素であった。

「人間共がどんな無駄知恵を働かせたかは知らん……。だが、このままでは国に帰れん……」

 大佐は顔を俯かせて声を震わせる。
 妖魔帝国には魔人至上主義の風潮がある。魔人以外は全て劣等種という考えだ。人間はおろかエルフやドワーフですら劣等種扱いなのである。
 それらの人種で構成されている連合王国に負ける、ましてや妖魔帝国から宣戦布告しておいて初戦で敗北など帰国すれば非国民扱いだ。妖魔帝国皇帝の怒りに触れれば物理的に首が飛ぶ事になる。
 だからこそ、彼等に撤退という選択肢は無かった。

「突撃させろ。総攻撃だ」

「了解……! 人間共めが、泣いて詫びてもその首叩き切ってやる!」

 これが、妖魔軍が退かずに突撃した理由であった。
 魔人達は心中でこう思っていた。
 万単位で失ったとはいえ、所詮は低脳な魔物。そもそもこちらは九万以上であり、万単位で消し飛んだとて最低でも七万以上は残っている。対して連合王国軍は推定で五万前後。数的有利はこちらにあるし、アレは切り札であろう。であれば人間共には次はない。
 最早希望的観測であるにも関わらず彼等はそう決めつけて、怒りに身を任せて魔物を突撃させる。
 だがしかし、大爆発は悲劇の序章でしか無かった。
 初めは、大砲による一斉射撃だった。門数を揃えた攻撃は確かに効果的ではあったが魔人達は連射はしてこないという自身の常識に縋る。
 現実は残酷だった。魔物達に経験した事の無い砲弾が次々と降り注いだのである。
 それでも魔物達は数はある故にすり抜ける。魔人達にとっては魔物がどれだけ死のうが痛くも痒くもない。戦力をすり減らしつつも人間達を嬲り殺す事だけを考えていた。
 でもそれは叶わない。ようやく砲弾の雨を潜り抜けた先に待ち構えていたのはガトリング砲だった。分速二百発の連弾はあっという間に魔物達の軍勢を削り取っていく。
 無残なまでに倒れていく魔物達はそれでも、同族の死体を顧みることなく突き進む。
 だけれども、待っていたのは無数の銃口と銃弾だった。ごく一部は白兵戦に持ち込めたものの、戦争ではなく虐殺される側を味わう妖魔軍。挙句の果てに正確無比の砲撃がコマンダーを貫き、爆ぜ、肉塊と化す有様であった。

「ど、どうしてだ……。どうして、こんな、事に……」

 指揮官たる大佐は膝を地面につかせる。目の前が真っ暗になるほどに、彼は絶望していた。
 短時間で魔物は半数にまで減り、コマンダーの半数以上は死んだ。統率力が目に見えて落ちた魔物軍団に対抗する術などあるはずも無かった。

「意気揚々と、侵略するのでは、無かったのか……」

 連合王国に、人間に負けた。それも完敗。魔人達のプライドは再起不能な程にズタズタにされていた。
 魔物なんてどうでもいい。この場からの撤退。大佐が口にしようとした時だった。
 今から起こる出来事を考えついた人物は、魔人達にとってさぞかし悪魔族よりも悪魔らしいと思ったであろう。

「大佐、上空から飛来物が五! 空にはミニマムドラゴンが!」

 部下の報告が耳に入り、大佐は空を見上げる。上空には急速離脱していく、連合王国の召喚士の相棒であるミニマムドラゴンが五体。落下するは、球形の物体。打ちひしがれていた彼等は直前までその存在に気付かなかったのである。
 それは魔石であった。大佐の目には限界量まで魔力が注がれた魔石が映っていた。
 上空数百メルラから落下する魔石が地面に激突すれば、起きる事象はただ一つ。
 力学的エネルギーが働き、衝撃による爆発。
 すなわちそれは、空爆であった。

「おのれおのれおのれぇぇぇ!! アカツキ、ノースロードォォォォォォォ!!」

 怨嗟の断末魔を上げる大佐。
 本能的に直感で悟り叫んだのは、この戦場の結果を生み今この瞬間を提案した人物の名前。
 しかしその声が当本人に届くはずもなく。
 刹那、巻き起こった爆発は全ての魔人達の命を等しく奪っていった。
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