異世界妖魔大戦〜転生者は戦争に備え改革を実行し、戦勝の為に身を投ずる〜

金華高乃

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第3章第二次妖魔大戦開戦編

第13話 ルブリフ丘陵の戦い4~それは最早戦争ではなく~

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・・13・・
「前方配置砲兵隊の有効射程まで三百メーラ!」

「かかってこい妖魔の魔物共。相手になってやる」

 魔物の大軍が迫る中、命令を下すアルヴィンおじさんを僕は見守る。
 僕の仕事は第六飛行隊が発見するまではお預けだ。それまではこの戦場の趨勢を見ることにしよう。

「あと二百!」

 観測要員からの報告はMC1835の有効射程まで間もなくである事を告げる。
 そして。

「射程圏内!」

「第一ライン砲兵隊、斉射ァァ!!」

「了解! 第一ライン砲兵隊斉射開始せよ!」

 司令要員が伝えてすぐ、前方に配置された砲兵隊のMC1835が一斉に火を噴いた。
 MC1835の有効射程は八五〇〇メーラ。以前の大砲に比べて分速発射数もさることながら、射程距離も伸びている。
 だからこそ目の前に広がっていたのは、一方的な蹂躙戦じゅうりんせんだった。
 単純な火力差でも一門あたり四倍。それが師団配備分の野砲全てに適用されるとなると、まだ前方部隊だけだというのに圧巻の光景だった。
 次から次へと、訓練を重ねた砲兵によってMC1835から放たれた砲弾はまるで鋼の死神の如く魔物の命を刈り取っていく。
 兵達だけでなく、僕以外のここにいる誰もが衝撃を受けているだろう。
 目の前で行われているのは戦争ではない。戦争にしてはあまりにも一方的過ぎる。それは『虐殺』と言っても差し支えのない景色だった。

「実戦投入されて初めて実感するけどよ、形容しがてえな……」

「やっているのが我々で良かったよ……。こんなの、受けた側だったらたまったもんじゃない」

「これが新しい戦争の形態なんでしょうね……。旦那様が提案した改革の真価、それが今私達の前に映る光景……」

「僕の改革は僕だけじゃない。携わった全ての人の努力の結晶が、今なんだ。まあ、相手が前時代的過ぎるんだけどね」

 魔法兵科によって聴力保護を施された砲兵達が放つ分速十三発の砲弾は、史上類を見ない早さで妖魔軍魔物軍団の数を減らしていく。中世、日本でなら戦国時代前期のような装備の魔物に対して連合王国軍は下手すれば日露戦争か第一次大戦クラスの装備だ。相手になるはずもない。
 それでも砲撃を抜けてくる魔物軍団はいる。こんな戦場で戦わされる魔物にいい加減同情もしたくなるけれど、あいにくあっちは敵だ。容赦する必要はない。

「アルヴィン中将閣下。連中は降伏勧告の伝わらない魔物です。間もなく全ての砲兵隊の射程圏内です。命令を」

「あ、ああ。そうだな。観測要員、射程圏内まで幾つだ?」

「三百です。とんでもない様相ですね……」

「全くもって同感だぜ。だが、許せよ魔物共」

「射程圏内、入りました!」

「全砲兵隊、斉射開始だ」

「了解。全砲兵隊へ斉射開始通達!」

 砲兵が奏でる戦場の音楽はより厚みを増していく。今ここに五個師団の砲兵隊による楽章は次の演奏を始めた。

「それぞれ弾着。言うまでもなく、命中」

「サモナーフライヤーズより連絡。既に妖魔軍の被害は五千と推測される」

「砲兵隊より報告。我らの攻撃甚だ有効。どこに撃っても命中す」

「だろうな。MC1835だけでこれか。後は作業になっちまうな」

「それでも果敢に突っ込んでくる魔物は接近しつつあるね。アレの有効射程まで一五〇〇ってとこかな」

「魔物が運良く近付けても次があります。第二弾の用意を」

「そうだね。彼我の距離が一二〇〇になったらスタートだ」

「第二楽章を始めましょう。奏でるのはガトリング砲部隊です」

「楽団に例えるとはいいセンスだね。俺はそういう比喩は好きだよ」

「ありがとうございます」

「ガトリング砲部隊の有効射程まで百、五十、今!」

「ガトリング砲部隊、斉射を始めよう」

「了解! ガトリング砲部隊斉射開始!」

 砲兵隊に続けてガトリング砲部隊が奏で始めるは留まることを知らない連射音。分速二百発で放たれる弾丸はやっとの事で接近してきた魔物へ無残に風穴を開けていく。
 ガトリング砲は銃身がオーバーヒートしないように配慮されながらも連射を続ける。所々でクールタイムを設ける隊はあるものの、全体では演奏は続けられていた。

「ガトリングもすげえな……。連射力が違う」

「これじゃあ駆除だね。戦争してるのか疑わしくなってきた」

「味方に被害が出ないのはいいですけど……。圧倒的な戦い。科学の力、ですね……」

「そうね、ルナ中尉。洗練された科学の力はとても強力よ。こんな風になるみたいにね」

「さて、それでも馬鹿の一つ覚えみたいに突撃してくるか……。第三楽章、歩兵隊の出番です」

 僕がひとりごちながら見つめる先には、ガトリング砲の銃弾をもすり抜けて生き残った運のいい魔物達がいた。距離はざっと八五〇。もうすぐD1836の射程圏内に入る。それに歩兵隊の射程圏内に入れば魔法兵科も同時に攻撃可能になる。魔物は一匹たりとも近付けさせない。

「アルヴィン中将閣下、歩兵隊にも射撃命令を出しましょう。さらに、魔法兵科にも」

「そうだな。歩兵隊と魔法兵科にも通達だ。射程に入り次第ぶちかませってな」

「了解しました! 全師団歩兵隊及び魔法兵科に通達。射程に捉え次第攻撃を開始せよ!」

「妖魔軍、彼我との距離九〇〇! 八八〇、今!」

 観測要員が射程に入った事を告げた瞬間、アルヴィンおじさんは手を前に伸ばして。

「一斉射撃!」

「了解! 師団一斉射撃!」

 今ここに第三楽章の演奏は幕を開ける。
 これまでのライフル銃に比べて連発可能という大きな強みが特徴のD1836と魔法兵科による統率の取れた一斉攻撃は正確に魔物を捉えて一挙に命を奪っていく。
 最前面に控えていた歩兵隊が装填数七発を撃ち尽くしても、後ろに控えていた部隊が展開される。まるで的当てのように魔物の脚を、腕を、体を、そして頭を撃ち抜いていった。
 二百五十年も戦争をしてこなかったから、中には引き金に手をかけられない者もいるかもしれないと想定していたけれど、砲兵隊とガトリング砲部隊の勇姿を目の当たりにしたからか歩兵隊は臆することなく自身が持つライフルから弾丸を放つ。
 僕の視線の先にあったのは、理想的な火線。今までの戦闘、戦争では比較にならない早さで魔物の死体の山が築かれていく。

「第一飛行隊から連絡。妖魔軍の被害は一万五千まで拡大」

「これで妖魔軍累計被害は三万五千まで拡大。行動不能率は半数に近付く」

「第二飛行隊、コマンダーを捉える。各砲兵隊に位置情報を通達す」

「妖魔軍第二から第五までのコマンダーを捕捉の通報。位置座標は砲兵隊に送信された」

「空中射弾観測も順調みてえだな、アカツキ」

「ええ、これでコマンダーを倒せば統率力も落ちるでしょう」

 次々と戦果が報告されるなか、いよいよサモナーフライヤーズがコマンダーの正確な位置を捕捉したみたいだ。

「敵師団コマンダーの座標は第二から第六までそれぞれ、I8、J9、K9、L7、M10」

「かなり精密に捉えているね。これなら砲兵隊も助かるだろう。参謀本部もよく思いついたもんだ」

「僕も驚きました。参謀本部の方達はやはり優秀です」

 僕が考案したサモナーフライヤーズの運用や空中射弾観測の運用にあたり、東部国境地帯の軍用地図には新たな書き込みがなされている。
 戦場になるであろう地帯のそれぞれの地図には一キーラ四方を格子状に分割、東西軸にA~Z(足りない分はA+~Z+を割り振り)を、南北軸には1から始まる数字を割り振って座標を設定したんだ。今回の場合、DやEの座標には前方展開の砲兵隊がいる。D座標からも間もなくM座標地点が有効射程に入る頃だろう。
 前世の軍では当然のように行われているけれど、この世界では初の試み。だけどこれ、実は僕じゃなくて参謀本部の考案なんだよね。発想は単純で、これまでに比べて緻密な観測が可能になるにあたり地図に座標を振った方がいいのではないかというもの。当然有効な手法であるために即時マーチス侯爵によって許可がおりて作成された。完成は年明け頃で、砲兵隊も四半期とはいえ訓練はしたので今のように多少のもたつきはあるものの運用されているという訳だ。今後の戦争においてもこの地図は戦争に対してかなり有利に働いてくれるだろう。さすが軍の頭脳の参謀本部だけあるなと思う。

「各担当砲兵隊が精密射撃を開始。第二から第六までは……、第二から第四までは夾叉きょうさするも命中せず。第五第六はやや遠方に着弾。…………しかれども、いずれもに近く、修正を開始!」

「第二から第四はもう夾叉きょうさなのかい!? 空中観測の効果は覿面てきめんだね」

「地上だけでなく空中からも情報が伝わります。砲兵達は数学などの座学を含めて訓練をよくしているからでしょう」

「戦争前は砲兵の出番は少なかったからやる気の面が不安だったけれど、これだけ戦果を出せば今後の心配は無用だね」

「はい。これからの戦場は歩兵や魔法兵科だけでなく、砲兵も花形になるでしょう」

 僕とルークス少将が話している間にも砲兵隊が放つ砲弾はコマンダーへ至近弾となり、そして。

「敵第三師団コマンダーに命中! 命中!」

「続けて第二、第四も命中の報あり!」

「第五、第六は夾叉!」

 魔物達がガトリング砲や歩兵隊の射撃を運良くすり抜けてごく一部では白兵戦にもなり始めた中、いよいよ砲兵隊の砲撃がコマンダーに命中する。
 爆煙が晴れた先にあったのは。

「コマンダー、負傷! 動きがかなり鈍っています!」

 観測要員からの報告は死亡はさせられなかったが、大きな傷を負わせたというものだった。だけど、それで十分だ。一度命中させた上に相手の動作が遅くなれば次を当てることは容易い。それが証拠に、すぐに次弾命中の報が入る。

「よっしゃあ! これで魔物共も混乱するはずだぜ!」

「前線からの報告! 陣形がかなり乱れているとのこと!」

「そらきた! ざまあみろ妖魔共め! このまま撃って撃って撃ちまくれ!」

 アルヴィンおじさんは想定以上に順調に進む戦況に意気揚々の様子で指揮を下していく。続報に対しても正確に判断をしていっていた。

「大佐! アカツキ大佐! 第六飛行隊より報告あり!」

「お、どうやら彼らは見つけてくれたみたいだね。読み上げて」

「了解しました! 『我、ルブリフ丘陵より北北東五十五キーラ地点にて不審な一団を視認せり。服装および装備から妖魔軍魔人部隊と認む。上空に敵召喚士の召喚獣は無し』です!」

「くふふっ、いよいよね旦那様」

 隣に立つリイナはまるで悪役の女帝のように笑う。おお、怖い怖い。

「ここには攻撃なんて有り得ないと慢心しきっている魔人には死んでもらおうか。悪いね、これも戦争なんだ」

「旦那様、愚かな魔人に鉄槌をくだしてあげましょう?」

 気持ちが昂っているのだろう、さっきから軍務では敬語としていたはずのリイナはいつものような口調で僕にいう。
 けれど、どうやら僕もそれはそれは悪い顔で笑っていたらしい。

「ああ、連合王国に侵攻した事を後悔させてやろう。歴史に名を残す諸君等第六飛行隊『召喚士攻撃飛行隊サモナーアタッカーズ』に通達。爆撃を開始せよ。ってね」
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