You Could Be Mine 【改訂版】

てらだりょう

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そのじゅうよん

そのじゅうよん-9

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『急に電話なんかしてごめんなさい』

せわしなく鼓動打つ心臓。

落ち着こうと。

水のグラスを取ろうとして。

「先生?」

怪訝そうな松本氏。

グラス倒した。

「大丈夫ですか?」

松本氏がおしぼりで零れた水ふきながら眉を寄せた。

ちょっと頷いて返した。

手が。

震えてる。

『もしもし、みのりさん?』

「あ…うん。久しぶりだね、龍二くん」

このまま。

電話切ってしまいたい。

そうしないと。

「ご。ごめんね、龍二くん。今忙しくてさ」

あたしは自分の記憶の重さに。

耐えられない。

もう嫌なんだよ。

消えて欲しいんだよ。

泣きたくないんだよ。

『ごめんなさい…どうしてもお願いがあって』

「お願い…?」

『尊さんに』

記憶の一番奥に閉じ込めた。

その名前は。

まるで重力が倍になったみたいに。

あたしの身体に圧し掛かる。

「……りゅ」

『尊さんに会ってもらえませんか、みのりさん』

会う?

『お願いします。みのりさん』

会ってどうするの。

あたしを。

棄てたのに。

『みのりさん』

電話を通して耳に響く。

龍二くんの落ち着いた声。

『尊さんは今でもみのりさんのこと、好きですよ』

嘘。

「もう…いいよ」

もう、いいんだよ。

やめてよ。

『違うんです、みのりさん。聞いて下さい、お願いですから』

「違うって…」

『尊さんの決めた事に後輩の俺が口出すのは間違ってるの、わかってるんですけど』

あんな。

あんなひどい別れ方だったのに。

『みのりさんは生きる世界が違う人だからって』

なのに。

『みのりさんを守りたいから自分が離れるって…こんな事バラしたら俺、尊さんに殴られると思うけど。でもどうしてもみのりさんに聞いて欲しくて』

頭くらくらする。

なんだかわからない。

ただあの笑顔だけ。

初めは陽炎みたいに揺れて。

ゆらゆらしながら。

『尊さんは今でもみのりさんの事忘れてないです』

ぼんやりとしてたのに。

あたしの記憶の奥底からやがて。

鮮明に浮かぶ。

あの笑顔。
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