6 / 160
そのいち
そのいち-5
しおりを挟む
せっかくのビュッフェも。
尊の前でガツガツ食べるなんて、できるはずもなく。
ちんまりと。
ローストビーフとサンドウィッチお皿に盛った。
決して、お上品にしてるわけではありませんよ。
こんな色男の前でがっつり食える度胸なんぞないわっ。
くそ。
いつもなら元取るつもりで山盛り5往復とかすんのに。
フロアの真ん中ではお肉が焼きあがる芳醇な香り。
ああ、いい匂い。
くそう!普段なら三回ぐらい並ぶのにぃぃぃ!
「もう食べないの?」
「あはは…お腹いっぱいで」
アナタの笑顔だけでいっぱいいっぱいです。
「少食だね。じゃあちょっと待ってて」
尊はそう言って席を立った。
暫くして、お皿を持って戻ってきた。
「はい、どうぞ。お姫様」
ぎゃああああ!なにその恥ずかしいセリフ!!
焦りながらお皿を見ると、そこには綺麗に並べられたプチフールの盛合せ。
「あ、ありがとう」
「どういたしまして」
プチフールをどうにか完食して、胸焼けした。
店を出る時、支払いをしようとしたら、極々自然に尊が払ってくれた。
「この後どうするの?」
尊が聞いてきた。
ここまでしてもらっておいて何だが、尊の店に行く気なんぞない。
「同伴とかしないよ?」
ほだされたりせんぞ。
「しなくていいよ?店にも来てもらうつもり無いし」
ん?そうなん?
じゃなんで誘ったん?
「俺、みのりさんに会いたかっただけだから」
なっ、なにををををををををを!!
あたしを心肺停止に追い込む気か!
や、ヤバい。
これ以上はあたしの身体精神が持たん。
「く、車で来てるから、車取りに行って…もう帰るよ。し、仕事あるし」
「そうなんだ。車何乗ってるの?」
「プジョーの206だけど」
「へえ!プジョー乗ってんだ」
尊はまた子供みたいな笑顔になった。
「ねえ、ちょっとだけ運転させて?プジョー乗った事無いんだ」
キラキラの笑顔にNOと言える筈もなく。
「いいよ」
応えてしまった。
これが運命の分かれ道とも気付かず。
そして結局、あたしの車の運転席には尊。
駐車場の料金まで払ってくれた。
「ミッション運転するの久しぶりぃ」
なんか楽しそう。
あたしの車は左ハンドルでマニュアル。大抵のヤツは、面倒臭いと言って運転したがらない。
尊は、器用にクラッチを踏んで楽しそうに運転してる。
「尊くん、車好きなんやね」
「タケルでいいよ。俺、今は車持ってないけど前はミニ乗ってた」
「へー?あたし前、ローバーミニ乗ってたよ」
「うわあ、そうなんだ!俺もローバー。凄い偶然!」
「えー?マジで?」
なんて、会話のキャッチボールが弾んでますが。
あたしには不安がことが。
ってゆーか、どこに向かってんの、この車!?
「あの…どこまで行くん?」
「ああ。心配しないで。変なトコじゃないから」
尊はハンドルを握ったまま、ちらり
横目であたし見て笑う。
変なトコてなんだよ!?
車は市街地を抜けた。
このまままっすぐ行くと埠頭に出る。
暫く車を走らせて、着いた所は埠頭の倉庫街。
軽くターンをして、尊は車を停めた。
閑散とした倉庫街。
目の前は澱んだ海。
カーステからは、チャカ・カーンのThrough the fire。
「あ。俺この曲好き」
尊が口ずさむ。
なんだ、この雰囲気は。
男と二人きりで人気のない海。
いや、無い無い!
って、なんでこんな人気の無いトコに!?
心臓があり得んくらい速く鳴る。
「みのりさん?大丈夫?」
「なっなにが!?」
「顔、赤いよ」
自分でもわかるくらい顔の熱が上昇する。
「ごめんね。こんなトコ連れて来て。でも」
尊の手が髪に触れた。
はうっ!心臓がも、もたん!!
「他に思い付かなかったんだ。二人きりになれる場所」
そそそそれはどおゆういみですかっ!?
ふふふふたりきりになってどうするんですかっ!?
「みのりさん、こっち向いて?」
「ふえっ!?」
あきれるくらいぎこちないと自分でも思う動作で尊の方を向いた。
笑顔のつもりだけど、自分でわかるくらい顔強張ってる。
「あのね、みのりさん」
まっすぐにあたしを見つめてくる、尊。
「俺、みのりさんが好き」
はあああああ!?なんで!?
昨日初めて会ったばっかりなのに!?
「う、うそだぁ」
いや、嘘にきまってるだろ。あたしからかってどうする気だ。
「ホントだよ。店に入ってきて最初見てすぐ気になって」
「え?なんで?」
「普通は俺、キャッチの客にはつかないんだけど。みのりさんが気になって席まで行っちゃった。一目惚れかな」
「ひっ、一目惚れ!?」
尊の手が頬に触れる。
このあたしのどこに一目惚れされる要素があるんだっ!
悪いが自分がこんな良い男の眼にとまるなんぞあり得んぞ。
「みのりさん、ちっちゃくて可愛いし」
確かにあたしはチビだけど。
あ!アレか!?やっぱ営業か!?
「そ、それって営業?」
思わず口にすると。
尊の顔が険しくなった。
「違うよ」
「でっでも」
アンタみたいな綺麗な男に言われても信じられないよ?
「俺がホストだから信じられない?俺の事嫌い?」
「き、嫌いじゃないけど」
というか、嫌いとか聞かれたらそういうしかないでしょうが!
「じゃあ信じて?」
なっなに、その瞳は。
そんな悲しい瞳で見るんじゃない!
「わ…わかった。信じるから」
その瞳をやめてくれっ!
「みのりさん」
尊の両腕が優しくあたしを引き寄せ。
ぎゅう、っと抱き締められた。
ふわり。
尊の香水が香った。
ああ。知ってる。この香り。
この香りは、"エゴイスト"。
「…じゃあ行こうか」
尊があたしから離れ、クラッチを踏んだ。
行く?どこに?
「昨日言ってたじゃない」
昨日?What?
「相性」
ギアをローに入れる。
「あいしょう?」
サイドブレーキを外す。
「試してみないとね?身体の相性」
尊はにっこり笑って、車を発進させた。
えええええええええええええええ!?
尊の前でガツガツ食べるなんて、できるはずもなく。
ちんまりと。
ローストビーフとサンドウィッチお皿に盛った。
決して、お上品にしてるわけではありませんよ。
こんな色男の前でがっつり食える度胸なんぞないわっ。
くそ。
いつもなら元取るつもりで山盛り5往復とかすんのに。
フロアの真ん中ではお肉が焼きあがる芳醇な香り。
ああ、いい匂い。
くそう!普段なら三回ぐらい並ぶのにぃぃぃ!
「もう食べないの?」
「あはは…お腹いっぱいで」
アナタの笑顔だけでいっぱいいっぱいです。
「少食だね。じゃあちょっと待ってて」
尊はそう言って席を立った。
暫くして、お皿を持って戻ってきた。
「はい、どうぞ。お姫様」
ぎゃああああ!なにその恥ずかしいセリフ!!
焦りながらお皿を見ると、そこには綺麗に並べられたプチフールの盛合せ。
「あ、ありがとう」
「どういたしまして」
プチフールをどうにか完食して、胸焼けした。
店を出る時、支払いをしようとしたら、極々自然に尊が払ってくれた。
「この後どうするの?」
尊が聞いてきた。
ここまでしてもらっておいて何だが、尊の店に行く気なんぞない。
「同伴とかしないよ?」
ほだされたりせんぞ。
「しなくていいよ?店にも来てもらうつもり無いし」
ん?そうなん?
じゃなんで誘ったん?
「俺、みのりさんに会いたかっただけだから」
なっ、なにををををををををを!!
あたしを心肺停止に追い込む気か!
や、ヤバい。
これ以上はあたしの身体精神が持たん。
「く、車で来てるから、車取りに行って…もう帰るよ。し、仕事あるし」
「そうなんだ。車何乗ってるの?」
「プジョーの206だけど」
「へえ!プジョー乗ってんだ」
尊はまた子供みたいな笑顔になった。
「ねえ、ちょっとだけ運転させて?プジョー乗った事無いんだ」
キラキラの笑顔にNOと言える筈もなく。
「いいよ」
応えてしまった。
これが運命の分かれ道とも気付かず。
そして結局、あたしの車の運転席には尊。
駐車場の料金まで払ってくれた。
「ミッション運転するの久しぶりぃ」
なんか楽しそう。
あたしの車は左ハンドルでマニュアル。大抵のヤツは、面倒臭いと言って運転したがらない。
尊は、器用にクラッチを踏んで楽しそうに運転してる。
「尊くん、車好きなんやね」
「タケルでいいよ。俺、今は車持ってないけど前はミニ乗ってた」
「へー?あたし前、ローバーミニ乗ってたよ」
「うわあ、そうなんだ!俺もローバー。凄い偶然!」
「えー?マジで?」
なんて、会話のキャッチボールが弾んでますが。
あたしには不安がことが。
ってゆーか、どこに向かってんの、この車!?
「あの…どこまで行くん?」
「ああ。心配しないで。変なトコじゃないから」
尊はハンドルを握ったまま、ちらり
横目であたし見て笑う。
変なトコてなんだよ!?
車は市街地を抜けた。
このまままっすぐ行くと埠頭に出る。
暫く車を走らせて、着いた所は埠頭の倉庫街。
軽くターンをして、尊は車を停めた。
閑散とした倉庫街。
目の前は澱んだ海。
カーステからは、チャカ・カーンのThrough the fire。
「あ。俺この曲好き」
尊が口ずさむ。
なんだ、この雰囲気は。
男と二人きりで人気のない海。
いや、無い無い!
って、なんでこんな人気の無いトコに!?
心臓があり得んくらい速く鳴る。
「みのりさん?大丈夫?」
「なっなにが!?」
「顔、赤いよ」
自分でもわかるくらい顔の熱が上昇する。
「ごめんね。こんなトコ連れて来て。でも」
尊の手が髪に触れた。
はうっ!心臓がも、もたん!!
「他に思い付かなかったんだ。二人きりになれる場所」
そそそそれはどおゆういみですかっ!?
ふふふふたりきりになってどうするんですかっ!?
「みのりさん、こっち向いて?」
「ふえっ!?」
あきれるくらいぎこちないと自分でも思う動作で尊の方を向いた。
笑顔のつもりだけど、自分でわかるくらい顔強張ってる。
「あのね、みのりさん」
まっすぐにあたしを見つめてくる、尊。
「俺、みのりさんが好き」
はあああああ!?なんで!?
昨日初めて会ったばっかりなのに!?
「う、うそだぁ」
いや、嘘にきまってるだろ。あたしからかってどうする気だ。
「ホントだよ。店に入ってきて最初見てすぐ気になって」
「え?なんで?」
「普通は俺、キャッチの客にはつかないんだけど。みのりさんが気になって席まで行っちゃった。一目惚れかな」
「ひっ、一目惚れ!?」
尊の手が頬に触れる。
このあたしのどこに一目惚れされる要素があるんだっ!
悪いが自分がこんな良い男の眼にとまるなんぞあり得んぞ。
「みのりさん、ちっちゃくて可愛いし」
確かにあたしはチビだけど。
あ!アレか!?やっぱ営業か!?
「そ、それって営業?」
思わず口にすると。
尊の顔が険しくなった。
「違うよ」
「でっでも」
アンタみたいな綺麗な男に言われても信じられないよ?
「俺がホストだから信じられない?俺の事嫌い?」
「き、嫌いじゃないけど」
というか、嫌いとか聞かれたらそういうしかないでしょうが!
「じゃあ信じて?」
なっなに、その瞳は。
そんな悲しい瞳で見るんじゃない!
「わ…わかった。信じるから」
その瞳をやめてくれっ!
「みのりさん」
尊の両腕が優しくあたしを引き寄せ。
ぎゅう、っと抱き締められた。
ふわり。
尊の香水が香った。
ああ。知ってる。この香り。
この香りは、"エゴイスト"。
「…じゃあ行こうか」
尊があたしから離れ、クラッチを踏んだ。
行く?どこに?
「昨日言ってたじゃない」
昨日?What?
「相性」
ギアをローに入れる。
「あいしょう?」
サイドブレーキを外す。
「試してみないとね?身体の相性」
尊はにっこり笑って、車を発進させた。
えええええええええええええええ!?
2
あなたにおすすめの小説
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
冷たい外科医の心を溶かしたのは
みずほ
恋愛
冷たい外科医と天然万年脳内お花畑ちゃんの、年齢差ラブコメです。
《あらすじ》
都心の二次救急病院で外科医師として働く永崎彰人。夜間当直中、急アルとして診た患者が突然自分の妹だと名乗り、まさかの波乱しかない同居生活がスタート。悠々自適な30代独身ライフに割り込んできた、自称妹に振り回される日々。
アホ女相手に恋愛なんて絶対したくない冷たい外科医vsネジが2、3本吹っ飛んだ自己肯定感の塊、タフなポジティブガール。
ラブよりもコメディ寄りかもしれません。ずっとドタバタしてます。
元々ベリカに掲載していました。
昔書いた作品でツッコミどころ満載のお話ですが、サクッと読めるので何かの片手間にお読み頂ければ幸いです。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
甘い束縛
はるきりょう
恋愛
今日こそは言う。そう心に決め、伊達優菜は拳を握りしめた。私には時間がないのだと。もう、気づけば、歳は27を数えるほどになっていた。人並みに結婚し、子どもを産みたい。それを思えば、「若い」なんて言葉はもうすぐ使えなくなる。このあたりが潮時だった。
※小説家なろうサイト様にも載せています。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる