You Could Be Mine 【改訂版】

てらだりょう

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そのいち

そのいち

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その日は同窓会だった。

同窓会と言っても、大々的なモンではなく。

米国にいる同級生が久々に帰国したんで、仲が良かったクラスメイトで集まっただけで15人くらいの飲み会。

居酒屋で学生みたいなノリで飲み放題二時間コース終了後、みんなで出口あたりに溜まって。

「カラオケ行くひとー!」

とか

「キャバクラー!」

とか、それぞれグループになっている。

たまの集まりだしどうしよっかな。

まさか女のあたしがキャバクラいってもどうしようもないしな。

でも、なんかカラオケも大人数じゃ騒がしそうだしな。

仕事もまだ残ってるしな。

行きつけのバーで軽く引っかけて帰ろかな。

そう思いながら、集団からひとり離れていると。

「みのり、カラオケ行かんの?」

背中のほうから声がした。

「涼香は行かんの?」

振り返り、声の主に聞き返す。

「うーん、めんどい。みのりは?帰るん?」

「そぉやねぇ…久しぶりにトニーさんとこ寄って帰ろかなあ、と」

あたしはバーのマスター、トニーさんを思い浮かべた。

トニーさんの店はあたしの行きつけ。

齢50を過ぎてもなお、アフロヘアーを止めないソウル親父、トニーさん。

店にはいつもソウルミュージックが流れている。

「じゃあ、あたしも一緒に行こっかな」

涼香が何気なく言う。

いつもは一人で行くんだけど、たまにはツレがいてもいいか。

「いーよぉ」

涼香に返事する。

ちらり、と集団に目を遣る。

キャバクラ組の中に、涼香の彼氏の恭平がいる。

「いいん?アレ」

「ほっとき。んなアホ」

いいんかい、恭平。涼香、怒ってるがな。

キャバクラ組はワイワイと騒ぎながら、繁華街の大通りへと移動を始めた。

「行こか」

涼香とあたしも、二人大通りへと歩み進めた。

トニーさんの店は、大通りの外れのビルにある。

二人で、他愛もない話をしながら歩く。

「アンタ、仕事どうなん?」

涼香が聞いてきた。

「うーん、ぼちぼち。こないだの短編が評判良かったからさ、連載貰えそうかも」

「えーっ!マジ!?凄いやん!」

あたしはこれでも、小説家の端くれ。

ちまちまと文章を書いてはメシの種としている。

「アンタが会社辞めて小説家になるって言った時はびっくりしたけどさー。人間、成せばなるもんねぇ」

失礼な。これでも苦労してんだ。

短編一本書くのに、プロットどんだけボツ食らってることか。

「あたし、なんか資格取って転職しよっかなー」

「転職て、アンタもうすぐ管理職目前って言ってたやん」

「まあねぇ。でも先が見えてんのよねー。30なる前に転職考えたりするわけよ」

「あー、30過ぎると色々あるよなー」

ちゅーか、嫁にはいかんのか?

とは言えない。

エグゼクティブを目指すこの女、涼香には。

でも、恭平とは付き合い長いよな。

「あのさ。恭平とは結婚しないん?」

「えー?」

涼香は複雑そうな顔する。

「だって、アンタらもう5年くらいなるやろ?もうすぐ28だし、考えたりしないん?」

「いやー。どうやろ?」

どうやろ?て聞かれても。

知らんがな。

「ってか、みのりはどうなのよ?」

「何が?」

「彼氏!作らんの?」

「っ」

んなこと言われても。彼氏なんて、そこいら辺に落ちてるわけでも、いきなり降って湧いてくるモンでもないし。

第一、仕事柄ひきこもり生活をしてるから出逢いにも出会わん。

実家暮らしなもんだから、宅配のにーちゃんすら応対する事も無い。

「ねえ!お姉さん達どこ行くの?」

道の行く手に。

いきなり目の前に若い男が現れ、阻まれた。

茶髪にピアスに派手なスーツににっこにこの笑顔。

うわを。キャッチかよ。

涼香と顔を見合わせて。

「行く店決まってるから」

無視しようとした。

「そんな事言わないでよぉ!お話だけでも聞いてよぉ」

茶髪は食い下がる。

「ボク、エクストリームって店のモンなんですけどー、あ、お店はその角入ったとこにあるんだけど。お姉さん達あんまり綺麗だからつい声かけちゃったぁ」

にっこり。

おまけに綺麗て、アンタ。

バリキャリの雰囲気漂わす涼香は確かに美人の部類やけどもさ、あたしなんぞ服装からしても普段着にちょっと毛が生えた程度のカットソーにジーンズとブーツ。

化粧なんて適当やぞ。

「良かったらお店に来てよ」

ハイ、と渡された名刺サイズの紙には、エクストリームとロゴが踊っている。

「何これ。ホスト?」

涼香が訝しそうに茶髪を見た。

「そうでぇす!どう?9時迄のご入店ならお一人様2時間五千円!初回のご入店は更に半額!」

し、しつこい。

もう、無視しようよ涼香。

「ホントに五千円の半額?ボトルとか入れんよ?」

え。えええええええ!?ちょっ、涼香さんん!?なんで話に乗りかかってんだ!

「マジで!飲み放題だしー」

茶髪にっこり。

「ホストねぇ…」

「ち、ちょっと涼香!」

慌てて涼香のジャケットの袖をツンツン。

「行くつもり?」

「たまにはいーかもよ。恭平のヤツだってキャバクラ行ったしさー」

あいたた。恭平の事怒ってるやん。

でも、対抗してホストなんか行かなくてもさあ?

「みのりも行ってみよ。ネタになるかもよ?」

うおう。ネタ。

そのワードの誘惑には勝てん。

「じゃ、決まりねー!どうぞぉ。お店こちらでーす!」

ギラギラの電飾の、派手なホストクラブを想像してたら、案内された店は派手と言うより。

黒基調のシックな外観。

「二名様ご案内でーす!」

ドアの向こうは、少し通路みたいになってる。見渡すと壁に何やらA4サイズくらいの写真が貼られている。

写真の下には名前が書いてあって、どうやらこれが在籍するホスト達か。

通路の一番奥には、ポスター大の一際大きな写真があって、"尊"と書いてある。

なるほど。

写真が他よりデカイって事は、こやつがNo,1なワケやな。

「いらっしゃいませ!」

通路を抜けると、広いフロア。

両脇に並んだホスト達に挨拶されて、思わず圧倒された。

ボックス席に通され、ソファーに座ると。

「ようこそ!エクストリームへ!」

すかさず、片膝ついたホストにおしぼりを渡されびびった。

「じゃ、改めまして。ユウでぇす!23歳でぇす!童貞じゃないでーす!よろしくお願いしまーす」

涼香の隣に座り、にっこにこの笑顔でさっと名刺差し出すユウくん。

あたしの隣には、おしぼりをくれたコが座った。

「龍二です。よろしくお願いします」

微笑みを浮かべて、名刺を出す。

なんか、優しそうな感じ。

ユウくんよりは年上そうだし、落ち着いてる。

龍二くんのほほえみにちょっと安心する。

ユウくん、テンション高いし、おんなじ様なのがきたらちょっと嫌だったし。

「お飲み物は?水割りでよろしいですか?」

微笑みを浮かべながら、龍二くんがセットしてあるグラスに手を伸ばした。

「ビールとかもあるよぉ?」

「それ、別料金でしょ」

ユウくんの言葉に、涼香がピシャリと言った。

「でも、飲みたくなったら言ってね?」

めげずに、にっこにこの笑顔を涼香に向けるユウくん。

しっかり者の涼香は最初の約束の金額以上はびた一文出さん。

そしてあたしもここで無駄遣いする気は無い。

あたしらをキャッチしたのを後悔しないといいね、ユウくん。

龍二くんが作ってくれた水割りが行き渡り。

「じゃあ、かんぱーい!」

ユウくんの号令でグラス合わせる。

「で。お姉さん達、お名前教えて?」

「涼香」

「あはは…みのりです」

「失礼じゃなかったらいいけど、お歳うかがってもいいですか?」

龍二くんの言葉遣いは落ち着いてるなあ。

「も、もうすぐに、28、です」

あたしが答えると。

「えーーーーっ!?」

ユウくんがすっ頓狂な声を上げた。

「ぜんぜん見えなーい!俺と同じ歳くらいかと思ったぁ!」

出たよ。

みえみえ営業トークに涼香もあたしも苦笑い。

「龍二くんは、いくつ?」

「25です」

あ。なんか年相応。

「この仕事始めてどのくらい?」

「もうすぐ二年です」

「へえ。なんでホストやろうと思ったん?」

「なんか…取り調べみたいですね」

龍二くんがクスクス笑った。

い、いかん。つい取材モードになってしまった。

「ははは…ごめん」

「大丈夫ですよ」

龍二くんにっこり。

やばい。ドキドキする。

最近、面と向かって男と喋ることなかったからな。免疫が落ちてる。

にっこりされた程度でトキメクなんて。

しかし。

「こんばんは」

もっとあたしをドキドキさせるヤツが。

「お邪魔します」

現れるとは思ってもみなかったんだな。
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