3 / 160
そのいち
そのいち-2
しおりを挟む
ヤツは、ちょっと龍二くんと眼を合わせた。
すっ、と龍二くんがあたしとの距離を一人分、ずれる。
黒いスーツに真っ赤なシャツ。
薔薇の刺繍の黒いタイ。
襟足が肩につく黒い髪を、流れる様にセットして。
凄く綺麗な顔で。
「初めまして。尊(タケル)です」
あたしの隣でにっこり微笑んだ。
少し低くて、柔らかい声。
うわあ。あたし好みの声。
な。なんだコイツ。
一番デカイ写真のヤツじゃねーか。
「よろしくね?みのりさん」
向けられたその妖艶な微笑みに、心臓がバクバクなってしまった。
な、ナンバーワンのオーラ、ハンパ無ぇ!!!
「みのりさんって28になるんだ?俺より二つ上だね」
ヤツはあたしの髪に触れながら。
ショートボブ似合うね、と言った。
「は、はは。どうも」
「お仕事、何?」
「ぶ、文筆業」
「へぇ?小説とか書いてるの?凄いね」
あたしの髪を指で鋤き上げる様に持ち上げては、サラサラと落とす。
「センセイって呼ばなきゃいけないかな?」
「いや、そんな大層なモンじゃないんで」
ヤメろぉ!
髪触んじゃねぇっっ!
言いたいのに、口から出るのは声にならない声。
たすけてくれっ!!涼香!!
涼香の方を見ると。
「接客業のくせに言葉遣いがなってない!」
ユウくんに説教モード。
ユウくんは、ニコニコしながら涼香の説教を聞いている。
「俺、涼香さんみたいな人好き!もっと叱って!」
「お前はMかっ!」
「ねえ、涼香さんの好きなタイプってどんなの?俺とかどう?」
ユウくんは、涼香の腕にがっしりと両腕を絡めながら。
「あたしが男に求めんのは経済力っ!」
すがりつくその腕をぶんぶん振って振りほどこうとするけど、ユウくんは負けじと絡み付く。
「俺も聞きたいな。みのりさんの好みのタイプ」
と、話題に乗るナンバーワン。
「みのりの好みのタイプは、身体の相性が良い男らしいわよ」
突然涼香が、こっちの会話に入ってきた。
ちょ、ちょっと待てい!
「涼香アンタ!なんちゅう事言うんじゃ!」
人前で!
し、しかもホストの前で!
「アンタいつも言ってるやん」
「うぐっ」
ああ、言ってるともさ!けど女同士の会話だろ!?
女同士でもちょっと見栄張って大人ぶりたいだけじゃ!
そんなこと言ってるとか、あたしビッチみたいやんか!
あたしの髪をまだ触りながら、ヤツはクスクス笑う。
「大事な事だと思うよ」
髪にキスされた。
「へ?」
「愛し合う上で、身体の相性って大切だよね」
妖艶な笑みを浮かべながら、サラリと。
髪撫でられながらその顔、かなりヤバイ!
心臓のバクバクが止まらん!
「はは…あたし、お手洗い…」
一旦、コイツから離れて、心臓を大人しくさせねば。
「ご案内します」
龍二くんが一緒に立ち上がろうとするのを、ヤツが止めて。
「どうぞ。こちらです」
自ら案内に立った。
トイレで用を足すと、いくらか心臓も落ち着いた。
くそう。
ホストになんかトキメイテたまるかっ!
相手は仕事でやってんだから!
気を落ち着かせてトイレのドアを開けたら。
「ひぇっ!」
ヤツが、微笑みを浮かべおしぼりを手にして、待っていた。
せっかく落ち着いた心臓がまた、バクバク暴れだす。
「こ、この店はNo.1ホストでもこーゆう事するん?」
おしぼりを受け取りながら聞いた。
「普通はしないよ。ヘルプのコがする」
んじゃなんで。
「みのりさんはトクベツ」
はあ?なにが?意味わからんのですが。
「あのね、これ渡したくて」
ヤツの手から名刺が二枚、あたしの手に渡された。
「名刺ならもらったけど」
「うん。じゃなくて、裏」
名刺を裏返すと、手書きの携帯番号とアドレス。
「俺のプライベートの携帯。みのりさんのも教えて?」
もう一枚の名刺を指差した。
な、なんでですか。
営業するなら、他を当たって下さい。
ヤツはクスッと笑って。
「なにか面白いネタになりそうなこと、あったら教えてあげるから。ね?」
ボールペンを押し付けてくる。
あぅぅ。ネタ。痛いとこをついてきやがる。
頭の中で少し考えを巡らせ。
まあ、連絡先くらい。いいか。
営業しつこかったら着拒すればいいし。
ボールペンを受け取って、自分の番号とアドレスを書いて。
「はい」
と、返した。
あたしが書いた番号とアドレスを見て。
ヤツは一瞬、ほっとした顔して。
名刺を何か大事なものしまうみたいに胸ポケットに入れて。
「ありがと。すっげぇ嬉しい…」
ぱあ、っと光が差したみたいに、笑った。
さっきまでの妖艶な微笑みじゃなく。
まるで子供みたいな笑顔で。
それはなんか、胸がきゅんてなる感じで。
「俺、指名入っちゃったんだ。後で連絡するから」
じゃあね、と言ってヤツは去って行った。
すっ、と龍二くんがあたしとの距離を一人分、ずれる。
黒いスーツに真っ赤なシャツ。
薔薇の刺繍の黒いタイ。
襟足が肩につく黒い髪を、流れる様にセットして。
凄く綺麗な顔で。
「初めまして。尊(タケル)です」
あたしの隣でにっこり微笑んだ。
少し低くて、柔らかい声。
うわあ。あたし好みの声。
な。なんだコイツ。
一番デカイ写真のヤツじゃねーか。
「よろしくね?みのりさん」
向けられたその妖艶な微笑みに、心臓がバクバクなってしまった。
な、ナンバーワンのオーラ、ハンパ無ぇ!!!
「みのりさんって28になるんだ?俺より二つ上だね」
ヤツはあたしの髪に触れながら。
ショートボブ似合うね、と言った。
「は、はは。どうも」
「お仕事、何?」
「ぶ、文筆業」
「へぇ?小説とか書いてるの?凄いね」
あたしの髪を指で鋤き上げる様に持ち上げては、サラサラと落とす。
「センセイって呼ばなきゃいけないかな?」
「いや、そんな大層なモンじゃないんで」
ヤメろぉ!
髪触んじゃねぇっっ!
言いたいのに、口から出るのは声にならない声。
たすけてくれっ!!涼香!!
涼香の方を見ると。
「接客業のくせに言葉遣いがなってない!」
ユウくんに説教モード。
ユウくんは、ニコニコしながら涼香の説教を聞いている。
「俺、涼香さんみたいな人好き!もっと叱って!」
「お前はMかっ!」
「ねえ、涼香さんの好きなタイプってどんなの?俺とかどう?」
ユウくんは、涼香の腕にがっしりと両腕を絡めながら。
「あたしが男に求めんのは経済力っ!」
すがりつくその腕をぶんぶん振って振りほどこうとするけど、ユウくんは負けじと絡み付く。
「俺も聞きたいな。みのりさんの好みのタイプ」
と、話題に乗るナンバーワン。
「みのりの好みのタイプは、身体の相性が良い男らしいわよ」
突然涼香が、こっちの会話に入ってきた。
ちょ、ちょっと待てい!
「涼香アンタ!なんちゅう事言うんじゃ!」
人前で!
し、しかもホストの前で!
「アンタいつも言ってるやん」
「うぐっ」
ああ、言ってるともさ!けど女同士の会話だろ!?
女同士でもちょっと見栄張って大人ぶりたいだけじゃ!
そんなこと言ってるとか、あたしビッチみたいやんか!
あたしの髪をまだ触りながら、ヤツはクスクス笑う。
「大事な事だと思うよ」
髪にキスされた。
「へ?」
「愛し合う上で、身体の相性って大切だよね」
妖艶な笑みを浮かべながら、サラリと。
髪撫でられながらその顔、かなりヤバイ!
心臓のバクバクが止まらん!
「はは…あたし、お手洗い…」
一旦、コイツから離れて、心臓を大人しくさせねば。
「ご案内します」
龍二くんが一緒に立ち上がろうとするのを、ヤツが止めて。
「どうぞ。こちらです」
自ら案内に立った。
トイレで用を足すと、いくらか心臓も落ち着いた。
くそう。
ホストになんかトキメイテたまるかっ!
相手は仕事でやってんだから!
気を落ち着かせてトイレのドアを開けたら。
「ひぇっ!」
ヤツが、微笑みを浮かべおしぼりを手にして、待っていた。
せっかく落ち着いた心臓がまた、バクバク暴れだす。
「こ、この店はNo.1ホストでもこーゆう事するん?」
おしぼりを受け取りながら聞いた。
「普通はしないよ。ヘルプのコがする」
んじゃなんで。
「みのりさんはトクベツ」
はあ?なにが?意味わからんのですが。
「あのね、これ渡したくて」
ヤツの手から名刺が二枚、あたしの手に渡された。
「名刺ならもらったけど」
「うん。じゃなくて、裏」
名刺を裏返すと、手書きの携帯番号とアドレス。
「俺のプライベートの携帯。みのりさんのも教えて?」
もう一枚の名刺を指差した。
な、なんでですか。
営業するなら、他を当たって下さい。
ヤツはクスッと笑って。
「なにか面白いネタになりそうなこと、あったら教えてあげるから。ね?」
ボールペンを押し付けてくる。
あぅぅ。ネタ。痛いとこをついてきやがる。
頭の中で少し考えを巡らせ。
まあ、連絡先くらい。いいか。
営業しつこかったら着拒すればいいし。
ボールペンを受け取って、自分の番号とアドレスを書いて。
「はい」
と、返した。
あたしが書いた番号とアドレスを見て。
ヤツは一瞬、ほっとした顔して。
名刺を何か大事なものしまうみたいに胸ポケットに入れて。
「ありがと。すっげぇ嬉しい…」
ぱあ、っと光が差したみたいに、笑った。
さっきまでの妖艶な微笑みじゃなく。
まるで子供みたいな笑顔で。
それはなんか、胸がきゅんてなる感じで。
「俺、指名入っちゃったんだ。後で連絡するから」
じゃあね、と言ってヤツは去って行った。
1
お気に入りに追加
39
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる