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4 ある二月の雪の夜
第一部 最終話* 反省していないらしい
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俺はカズ先輩がやってくるのを待っていた。
成田空港。第二ターミナル、出発ロビー。
チェックインカウンターの近く。
ここにいれば来るだろうと思って今朝早くから待ち伏せしてる。
海外赴任の件は言ってくれなかったし、だから当然約束はしていないし、もちろん見送りに行くとも言ってない。
搭乗二時間前。
遠目に、背の高い、スーツ姿の見慣れた男が、スーツケースを引きながらやってくるのを見つけた。
俺の姿を見止めたカズ先輩は、一瞬驚いた顔をして、踵を返した。
おい、こら。
「カズ先輩! なんで逃げるんですか!」
いつも追っかけてきていたくせにさ。
ふたりとも走る。
出発ロビーはまだ人が少ないし、団体客はまとまって隅っこに寄っているし、だだっ広いので、少々走っていても誰かにぶつかることはない。とはいえ、走っている人などいなくて目立つ。
俺はほぼ手ぶらの私服でスニーカー、カズ先輩はスーツに革靴、でかいスーツケースとビジネスリュックとビジネスバッグも持っている。そんな大荷物なので、すぐに追いついた。
カズ先輩の腕を掴んで、止まらせる。カズ先輩は振り向く。
なんでそんな怯えたような目をしているのかと。涙ぐんでいるし。
「タキくん。……俺、言ってないよね。なんでいるの?」
少しだけやり返せた気分。俺も何度も思ったものだ。なんでいるんだよって。
「葉子さんに聞きました」
「言わないでって言ったのに……」
口止めしたって無駄だよ。
俺とカズ先輩だったら、葉子さんとは俺のほうがすでに仲良しだもんね。っていうか、たぶん口止め前に聞いたね、海外赴任の件。
「見送りに行きたいって言ったら、出発日も調べて教えてくれました。猫缶を貢ぎました」
「葉子、情報漏洩……。俺だって定期的に猫缶と猫グッズ献上してるのに……」
「っていうか、カズ先輩。なんで逃げるんですか? 俺に会いたい会いたいって散々言っていたくせに。俺が会いにきたらそんな態度なんですか」
「だってさ……お別れしたくないよ。こんなの、かならずお別れになる。もうお別れしたくない。嫌だから」
だが逃亡は観念したらしい。
建物の端っこの人のいない空間にふたりで移動する。というか連行。
滑走路を眺められる場所だ。端っこの飲食店のさらに裏側で、通りがかる人もいない。
俺たち以外、誰もいない。
音が遠くて静かだ。
「海外赴任、どのくらい行くんです?」
「……短ければ二年、長ければ五年……」
「あ、結構長いですね。どこへ?」
「バンコク……」
「なんで言わないんですか? そういう大事なこと」
「お別れになったら嫌だから。時々帰ってくるもん。だから会ってほしい……」
「まさか隠し通そうとしたんですか?」
俺は大阪で、カズ先輩は東京という体だから、今の連絡頻度ならしばらくは隠せると思う。
葉子さんがいるから無理か。実際、葉子さん情報だもんね。すぐバレちゃったわけだ。
「隠せるものなら隠したかった……隠せるとも思ってた……お互いに仕事があるし、俺が会いたいって言わなければ、それほど会わないだろうし……」
「そんなの無理でしょ。はあ」
「だって」
駄々っ子みたい。
カズ先輩は諦めたみたいに肩を落としている。視線は足元を泳いでいる。
「俺、タキくんには、幸せになって欲しいよ。君に、心から幸せでいてほしい。……だけど、不幸せにはならないでほしいけれど、俺は身勝手で、本当は、こんなことは全然、これっぽっちも思っていないけど――幸せにならないでほしい……。俺の知らないところで俺の知らないうちに、俺の知らない人と幸せにならないでほしい……。でも、いつか会えなくなる。俺のほうが距離があるって知ったら、タキくんは離れてしまう……」
「ほんとに身勝手ですね……?」
「忘れられないのは俺だもの。会いたいのは俺だけだから……」
「あんなに好き放題したくせに、責任とらないんですか?」
と言うと、カズ先輩はやっと顔をあげる。
誰でも落とせそうなのに、俺以外の誰にも落ちない、縋るような瞳でこちらを見る。
「責任ならいくらでも取るから、君に会いたい。君に会う権利が欲しい……」
俺はめちゃくちゃ考えた。
こんなに考えたことなんかないくらい。
カズ先輩は、俺とは違って家柄もよくていい会社に勤めていて、将来有望で、俺を好きなことなんてカズ先輩の人生にとって何の糧にもならない。
この先のカズ先輩の人生設計を考えると、俺のほうが気が揉めてくるよ。
俺を好きでいる時間の無駄、将来かならず後悔するでしょ。今のうちにすぱっと断ち切って、別々の道を歩んだほうが絶対にいいって。
俺は、仕事は平穏で楽しくて、やっと消耗させられなくて済んで、前向きな気持ちになってる。頑張れば彼女だってできるかもしれないし。うう、諦めたくないなあ……。
だけど、これで終わりにはできない。
「俺は、別に、お別れをしに来たんじゃないです。っていうか言わないなんて、有り得ないんですけど。二年とか、五年とか。バンコクって。なんなの……ちゃんと言ってくださいよ。恋人ごっこしてるんでしょ。その恋人に海外赴任言わないとか。不誠実。嘘つき。後ろめたいから嘘つくしかなくなるんでしょ。言わないのも嘘のうちですよ。いきなりいなくなられるこっちの気持ち、ぜんぜん考えてくれてないじゃないですか」
詰るつもりはなかったけれど、言いたいことを言おうと思ったらつい責める口調になる。カズ先輩に怒りをぶつけるなんて、昔の俺なら考えられなかったな。
「ごめん……」
「……とにかく! ただ単に、見送りに来ただけです。名古屋のときみたいにこれを機に清算しようとは、考えていませんから」
「本当? よかった……」
本当に心配していたらしい。
カズ先輩は安心したように胸を撫で下ろし、柔らかく笑った。
「嬉しいな。じゃあ、純粋に、タキくん、俺のことを見送りに来てくれたんだ……」
「餞別もないです。ただ会いに来ただけ。身一つ」
「かえって嬉しいな」
俺は言った。
「ごっこ遊びだって、続けるつもり……いや、ごっこ遊びって。俺やっぱそういうの苦手……」
「え、やっぱりそういう話? 一旦上げておいて落とす方式?」
「じゃなくて。あのー、ちゃんとしたいというか……俺は、俺のことを好きでいてくれる人と、きちんとした関係を築きたいんです。俺、真剣に考えるんで、ごまかしみたいな関係を続けようとするのはやめませんか……和臣さん」
それを聞いたカズ先輩は、周辺に誰もいないのを確認した上で、俺をそうっと抱きしめる。
名古屋駅でもぜひその配慮をして欲しかったよね。
耳元で囁いてくる。
「好きです。君が好きです。ずっと、ずっと好きでした。俺の恋人になってほしい」
「考えておきます……」
カズ先輩は怒った。
「この期に及んでその返事はなくない? いけるんじゃないかと勘違いしたじゃん」
「だって、俺、無理矢理やられたの、許してないですし」
「う……そうだね。ひどいことをしたね……」
「言っておきますけど、全然納得してません」
「うん。ごめんね……」
「だけど、恋人ごっこより、恋人のほうがいいです。きちんと言ってくれたら、考えるのに。あんなことして、信頼を裏切るなんて、ほんと最低だし、それからもずっと、ズレてることばっかしてるし」
「うん……」
カズ先輩は俺を強く抱きしめて、俺の頭を撫でる。
「きっと、真正面から告白したって、多紀くんなら、頑張って、真剣に考えてくれたね」
「わからないですけど、カズ先輩から言われたら、……応えられる自信はないですけど、だけど、真面目に考えたと思います」
「うん。君の人柄を信じてなかった、何重にも悪いやつでごめん」
「反省してください。誠実になってください」
「うん……約束する……」
でもさあ、俺の恋人がカズ先輩だなんて、いったい誰が想像できるわけ?
この先どうなるんだろ? 男同士だし、バンコク行っちゃうし。恋人って何するの? こんな状況で、今後どうすればいいわけ? なんにもわかんない。理想の恋人像とかけ離れてるし。俺みたいな恋愛初心者にとってハードモードすぎない?
顔を見合わせる。頬を両手で包まれる。間近で見ると、本当に端正な顔立ちだな。柔和で優しそうで、こういう顔に生まれたかったものだ。肌もきれいだし。
ふんわりした笑顔がよく似合う。中身は、受け止めきれないほど激しい。
好きなんだよ。
これが恋かどうかはわからなくても、この気持ちが恋ではなくても、やっぱり、好きなことにはかわりはない。ひどいことされたのも、許してしまいそうになるくらい。
どうせそんなに会わないかもしれなくたって、黙って遠くにいかれるなんて寂しいよ。
ただの先輩と後輩に戻れないなら、新しい関係を作るしかないじゃん。でもこの人に任せておいたら恋人ごっこだのペットだの、ズレてる関係ばっかだし。
「多紀くん。好き。俺が君を幸せにしたい。俺といてほしい。かならず幸せにするから。……俺の次にだけど。君といて幸せなのはまず俺だしね。すぐに帰ってくる。だから」
「じゃあ、待ってます」
「待っていて。多紀くん、好き。大好き。こんな日が来るものなんだな……信じられないや」
「俺もびっくりです……」
「多紀くん。多紀くんは、どうしたら幸せになれる? 教えてほしい。ひどいことしたのも償う。なんでもする……」
俺のほうも、カズ先輩の頬を両手で包んだり、髪を優しく撫でたりしてみる。
なんで触れ合っていると気持ちいいんだろ。やっぱ体かな。どうしようもないな。
「和臣さんに、キスされるのが好きです。気持ちいいので」
「それ、離れられなくなりそう……」
目を閉じながら唇を重ねる。柔らかい。温かい。
でもなんか冷たい。滴が落ちてくる。カズ先輩ときたら、また泣いてる。
仕方のない人だな……。
ひとしきりキスをした後、カズ先輩は名残惜しそうに俺を放し、めそめそ泣きながら、スーツケースの上に置いたビジネスリュックのサイドポケットに手を突っ込んで、何かを取って俺に渡してきた。
「多紀くん。これ持っておいて……」
「なんですか?」
手に握らされたもの。
なにかと思ったら、紛失防止用GPSタグ。ぜんぜん反省してないな、このストーカー野郎。悪いと思ってないんだろうな。
俺は呆れる。呆れつつ笑えてくる。
本来の用途で使うべきでしょ。バンコクで荷物を失くしたらどうするの?
<第一部 終わり。次の章に続く>
成田空港。第二ターミナル、出発ロビー。
チェックインカウンターの近く。
ここにいれば来るだろうと思って今朝早くから待ち伏せしてる。
海外赴任の件は言ってくれなかったし、だから当然約束はしていないし、もちろん見送りに行くとも言ってない。
搭乗二時間前。
遠目に、背の高い、スーツ姿の見慣れた男が、スーツケースを引きながらやってくるのを見つけた。
俺の姿を見止めたカズ先輩は、一瞬驚いた顔をして、踵を返した。
おい、こら。
「カズ先輩! なんで逃げるんですか!」
いつも追っかけてきていたくせにさ。
ふたりとも走る。
出発ロビーはまだ人が少ないし、団体客はまとまって隅っこに寄っているし、だだっ広いので、少々走っていても誰かにぶつかることはない。とはいえ、走っている人などいなくて目立つ。
俺はほぼ手ぶらの私服でスニーカー、カズ先輩はスーツに革靴、でかいスーツケースとビジネスリュックとビジネスバッグも持っている。そんな大荷物なので、すぐに追いついた。
カズ先輩の腕を掴んで、止まらせる。カズ先輩は振り向く。
なんでそんな怯えたような目をしているのかと。涙ぐんでいるし。
「タキくん。……俺、言ってないよね。なんでいるの?」
少しだけやり返せた気分。俺も何度も思ったものだ。なんでいるんだよって。
「葉子さんに聞きました」
「言わないでって言ったのに……」
口止めしたって無駄だよ。
俺とカズ先輩だったら、葉子さんとは俺のほうがすでに仲良しだもんね。っていうか、たぶん口止め前に聞いたね、海外赴任の件。
「見送りに行きたいって言ったら、出発日も調べて教えてくれました。猫缶を貢ぎました」
「葉子、情報漏洩……。俺だって定期的に猫缶と猫グッズ献上してるのに……」
「っていうか、カズ先輩。なんで逃げるんですか? 俺に会いたい会いたいって散々言っていたくせに。俺が会いにきたらそんな態度なんですか」
「だってさ……お別れしたくないよ。こんなの、かならずお別れになる。もうお別れしたくない。嫌だから」
だが逃亡は観念したらしい。
建物の端っこの人のいない空間にふたりで移動する。というか連行。
滑走路を眺められる場所だ。端っこの飲食店のさらに裏側で、通りがかる人もいない。
俺たち以外、誰もいない。
音が遠くて静かだ。
「海外赴任、どのくらい行くんです?」
「……短ければ二年、長ければ五年……」
「あ、結構長いですね。どこへ?」
「バンコク……」
「なんで言わないんですか? そういう大事なこと」
「お別れになったら嫌だから。時々帰ってくるもん。だから会ってほしい……」
「まさか隠し通そうとしたんですか?」
俺は大阪で、カズ先輩は東京という体だから、今の連絡頻度ならしばらくは隠せると思う。
葉子さんがいるから無理か。実際、葉子さん情報だもんね。すぐバレちゃったわけだ。
「隠せるものなら隠したかった……隠せるとも思ってた……お互いに仕事があるし、俺が会いたいって言わなければ、それほど会わないだろうし……」
「そんなの無理でしょ。はあ」
「だって」
駄々っ子みたい。
カズ先輩は諦めたみたいに肩を落としている。視線は足元を泳いでいる。
「俺、タキくんには、幸せになって欲しいよ。君に、心から幸せでいてほしい。……だけど、不幸せにはならないでほしいけれど、俺は身勝手で、本当は、こんなことは全然、これっぽっちも思っていないけど――幸せにならないでほしい……。俺の知らないところで俺の知らないうちに、俺の知らない人と幸せにならないでほしい……。でも、いつか会えなくなる。俺のほうが距離があるって知ったら、タキくんは離れてしまう……」
「ほんとに身勝手ですね……?」
「忘れられないのは俺だもの。会いたいのは俺だけだから……」
「あんなに好き放題したくせに、責任とらないんですか?」
と言うと、カズ先輩はやっと顔をあげる。
誰でも落とせそうなのに、俺以外の誰にも落ちない、縋るような瞳でこちらを見る。
「責任ならいくらでも取るから、君に会いたい。君に会う権利が欲しい……」
俺はめちゃくちゃ考えた。
こんなに考えたことなんかないくらい。
カズ先輩は、俺とは違って家柄もよくていい会社に勤めていて、将来有望で、俺を好きなことなんてカズ先輩の人生にとって何の糧にもならない。
この先のカズ先輩の人生設計を考えると、俺のほうが気が揉めてくるよ。
俺を好きでいる時間の無駄、将来かならず後悔するでしょ。今のうちにすぱっと断ち切って、別々の道を歩んだほうが絶対にいいって。
俺は、仕事は平穏で楽しくて、やっと消耗させられなくて済んで、前向きな気持ちになってる。頑張れば彼女だってできるかもしれないし。うう、諦めたくないなあ……。
だけど、これで終わりにはできない。
「俺は、別に、お別れをしに来たんじゃないです。っていうか言わないなんて、有り得ないんですけど。二年とか、五年とか。バンコクって。なんなの……ちゃんと言ってくださいよ。恋人ごっこしてるんでしょ。その恋人に海外赴任言わないとか。不誠実。嘘つき。後ろめたいから嘘つくしかなくなるんでしょ。言わないのも嘘のうちですよ。いきなりいなくなられるこっちの気持ち、ぜんぜん考えてくれてないじゃないですか」
詰るつもりはなかったけれど、言いたいことを言おうと思ったらつい責める口調になる。カズ先輩に怒りをぶつけるなんて、昔の俺なら考えられなかったな。
「ごめん……」
「……とにかく! ただ単に、見送りに来ただけです。名古屋のときみたいにこれを機に清算しようとは、考えていませんから」
「本当? よかった……」
本当に心配していたらしい。
カズ先輩は安心したように胸を撫で下ろし、柔らかく笑った。
「嬉しいな。じゃあ、純粋に、タキくん、俺のことを見送りに来てくれたんだ……」
「餞別もないです。ただ会いに来ただけ。身一つ」
「かえって嬉しいな」
俺は言った。
「ごっこ遊びだって、続けるつもり……いや、ごっこ遊びって。俺やっぱそういうの苦手……」
「え、やっぱりそういう話? 一旦上げておいて落とす方式?」
「じゃなくて。あのー、ちゃんとしたいというか……俺は、俺のことを好きでいてくれる人と、きちんとした関係を築きたいんです。俺、真剣に考えるんで、ごまかしみたいな関係を続けようとするのはやめませんか……和臣さん」
それを聞いたカズ先輩は、周辺に誰もいないのを確認した上で、俺をそうっと抱きしめる。
名古屋駅でもぜひその配慮をして欲しかったよね。
耳元で囁いてくる。
「好きです。君が好きです。ずっと、ずっと好きでした。俺の恋人になってほしい」
「考えておきます……」
カズ先輩は怒った。
「この期に及んでその返事はなくない? いけるんじゃないかと勘違いしたじゃん」
「だって、俺、無理矢理やられたの、許してないですし」
「う……そうだね。ひどいことをしたね……」
「言っておきますけど、全然納得してません」
「うん。ごめんね……」
「だけど、恋人ごっこより、恋人のほうがいいです。きちんと言ってくれたら、考えるのに。あんなことして、信頼を裏切るなんて、ほんと最低だし、それからもずっと、ズレてることばっかしてるし」
「うん……」
カズ先輩は俺を強く抱きしめて、俺の頭を撫でる。
「きっと、真正面から告白したって、多紀くんなら、頑張って、真剣に考えてくれたね」
「わからないですけど、カズ先輩から言われたら、……応えられる自信はないですけど、だけど、真面目に考えたと思います」
「うん。君の人柄を信じてなかった、何重にも悪いやつでごめん」
「反省してください。誠実になってください」
「うん……約束する……」
でもさあ、俺の恋人がカズ先輩だなんて、いったい誰が想像できるわけ?
この先どうなるんだろ? 男同士だし、バンコク行っちゃうし。恋人って何するの? こんな状況で、今後どうすればいいわけ? なんにもわかんない。理想の恋人像とかけ離れてるし。俺みたいな恋愛初心者にとってハードモードすぎない?
顔を見合わせる。頬を両手で包まれる。間近で見ると、本当に端正な顔立ちだな。柔和で優しそうで、こういう顔に生まれたかったものだ。肌もきれいだし。
ふんわりした笑顔がよく似合う。中身は、受け止めきれないほど激しい。
好きなんだよ。
これが恋かどうかはわからなくても、この気持ちが恋ではなくても、やっぱり、好きなことにはかわりはない。ひどいことされたのも、許してしまいそうになるくらい。
どうせそんなに会わないかもしれなくたって、黙って遠くにいかれるなんて寂しいよ。
ただの先輩と後輩に戻れないなら、新しい関係を作るしかないじゃん。でもこの人に任せておいたら恋人ごっこだのペットだの、ズレてる関係ばっかだし。
「多紀くん。好き。俺が君を幸せにしたい。俺といてほしい。かならず幸せにするから。……俺の次にだけど。君といて幸せなのはまず俺だしね。すぐに帰ってくる。だから」
「じゃあ、待ってます」
「待っていて。多紀くん、好き。大好き。こんな日が来るものなんだな……信じられないや」
「俺もびっくりです……」
「多紀くん。多紀くんは、どうしたら幸せになれる? 教えてほしい。ひどいことしたのも償う。なんでもする……」
俺のほうも、カズ先輩の頬を両手で包んだり、髪を優しく撫でたりしてみる。
なんで触れ合っていると気持ちいいんだろ。やっぱ体かな。どうしようもないな。
「和臣さんに、キスされるのが好きです。気持ちいいので」
「それ、離れられなくなりそう……」
目を閉じながら唇を重ねる。柔らかい。温かい。
でもなんか冷たい。滴が落ちてくる。カズ先輩ときたら、また泣いてる。
仕方のない人だな……。
ひとしきりキスをした後、カズ先輩は名残惜しそうに俺を放し、めそめそ泣きながら、スーツケースの上に置いたビジネスリュックのサイドポケットに手を突っ込んで、何かを取って俺に渡してきた。
「多紀くん。これ持っておいて……」
「なんですか?」
手に握らされたもの。
なにかと思ったら、紛失防止用GPSタグ。ぜんぜん反省してないな、このストーカー野郎。悪いと思ってないんだろうな。
俺は呆れる。呆れつつ笑えてくる。
本来の用途で使うべきでしょ。バンコクで荷物を失くしたらどうするの?
<第一部 終わり。次の章に続く>
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