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二年目の夏の話
三 新しいアルバイト
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橋谷が恭介を迎えに来たのは、屋台の撤収時間である午後八時前だった。
今日は結局、恭介に一日働いてもらった。泊まらせてもらった礼だと恭介はいうが、レンはアルバイト代は出すといってある。
余ったからあげを商店街の会長に上納しに行ったあと、残ったからあげを丼にして、恭介とふたりで色んなことを話しながら食事をした。
レンは、ルイスとの交際についても、話すことにした。あんな修羅場を目の当たりにさせておいて、何も説明しないほうが困惑させる。
恭介はさほど気にしていないようでほっとした。
「加賀見さんの件で、おれも相当修羅場ったんで……わかります……」
と、暗い顔で言った。
そこに、橋谷が引き戸を開けた。
「すまん、レン。遅くなった」
カウンターで揃って食べていたレンと恭介は振り返る。
「橋谷さん。いいですよ。恭介、よく働いてくれまして」
「ああ、いい子だろ」
「ええ。もったいない」
橋谷は苦笑した。いい子だからこそ、加賀見に気に入られてしまったのである。
「橋谷さん、余り物のからあげ丼でよければ召し上がりますか」
「嬉しい。腹減った」
レンはカウンターを回り込んでキッチンに入る。白米の上に千切りキャベツとからあげ、胡麻とマヨネーズのソース。半熟たまごをのせてネギを散らす。
「まかない飯ですみません」
橋谷は嬉しそうだ。
「十分だよ。うまそう」
橋谷は食べ始め、レンは席に戻る。
「恭介の次の就職口探してるんだけど、なかなかなくてさ。泊まるところは確保したから、一旦そっち行ってもらおうかと。知り合いの民宿なんだけど。金は気にしなくていい」
恭介は項垂れる。
「そんな、橋谷さんに申し訳ないです」
「気にするな。住みこみで働けるところ、必ず見つけてくるから」
橋谷は恭介の頭を撫でる。
レンは切り出した。
「あの、それなんですけど、橋谷さん。恭介とも話したんですが、恭介にここで働いてもらうのはいかがでしょうか」
「この店で?」
「はい」
レンは頷いた。
恭介は、高校の調理科を卒業して、ホテルに就職したらしい。十八歳だそうだ。
就職して数ヶ月なのでまだ不慣れな部分もあるが、ホテル内の新人教育も受けているので、接客なども問題ない。
レンは今日、一日フライヤーに張りつきなので、日曜の準備は屋台が終わったあとにする予定だった。朝八時に作業を開始し、夜八時。そこから明日の準備。
自分で選んだとはいえ、重労働である。体力的にしんどい。
しかし、思いがけず恭介に手伝ってもらえた。フライヤーの面倒を見たり接客しながら指示を出し、ときには交代して、レンが裏に回ることもでき、ピークを過ぎたあたりに下ごしらえを頼んでおいたらもうできている。
橋谷は真剣な眼差しでレンを見る。
「住みこませることはできる?」
「ここの二階でよければ。元々住んでいましたし、今でも時々泊まるので、住めないわけじゃないです。もしくは、俺のアパートと交代か。向こうは洋室できれいですが、和室でもいいなら、こっちのほうが広いですね」
「レンさん、本当にいいんですか?」
恭介に問われて、レンは頷いた。
「もともと、土日のランチ営業を考えてたんです。しばらくはアルバイトになるけど、よければ手伝ってほしいです」
レンは頭を下げる。
「働きます。お願いします……!」
恭介も頭を下げた。
橋谷は感慨深い。二十歳そこそこで入社して、いつまでも可愛い後輩だったレンが、すっかり自分の店を持った事業者だ。時間の流れを感じる。
「しばらくは午後五時から午前一時で入って、仕事覚えてもらって……」
「はい」
恭介はメモを用意して、条件などを確認している。
橋谷はビールのジョッキをあげて、大きな声で言った。
「よし、乾杯しよう。乾杯!」
レンはお茶のコップを取る。それだけは昔から変わらないし、これからも変わらない。恭介も同じだ。二人ともアルコールが飲めない。
今日は結局、恭介に一日働いてもらった。泊まらせてもらった礼だと恭介はいうが、レンはアルバイト代は出すといってある。
余ったからあげを商店街の会長に上納しに行ったあと、残ったからあげを丼にして、恭介とふたりで色んなことを話しながら食事をした。
レンは、ルイスとの交際についても、話すことにした。あんな修羅場を目の当たりにさせておいて、何も説明しないほうが困惑させる。
恭介はさほど気にしていないようでほっとした。
「加賀見さんの件で、おれも相当修羅場ったんで……わかります……」
と、暗い顔で言った。
そこに、橋谷が引き戸を開けた。
「すまん、レン。遅くなった」
カウンターで揃って食べていたレンと恭介は振り返る。
「橋谷さん。いいですよ。恭介、よく働いてくれまして」
「ああ、いい子だろ」
「ええ。もったいない」
橋谷は苦笑した。いい子だからこそ、加賀見に気に入られてしまったのである。
「橋谷さん、余り物のからあげ丼でよければ召し上がりますか」
「嬉しい。腹減った」
レンはカウンターを回り込んでキッチンに入る。白米の上に千切りキャベツとからあげ、胡麻とマヨネーズのソース。半熟たまごをのせてネギを散らす。
「まかない飯ですみません」
橋谷は嬉しそうだ。
「十分だよ。うまそう」
橋谷は食べ始め、レンは席に戻る。
「恭介の次の就職口探してるんだけど、なかなかなくてさ。泊まるところは確保したから、一旦そっち行ってもらおうかと。知り合いの民宿なんだけど。金は気にしなくていい」
恭介は項垂れる。
「そんな、橋谷さんに申し訳ないです」
「気にするな。住みこみで働けるところ、必ず見つけてくるから」
橋谷は恭介の頭を撫でる。
レンは切り出した。
「あの、それなんですけど、橋谷さん。恭介とも話したんですが、恭介にここで働いてもらうのはいかがでしょうか」
「この店で?」
「はい」
レンは頷いた。
恭介は、高校の調理科を卒業して、ホテルに就職したらしい。十八歳だそうだ。
就職して数ヶ月なのでまだ不慣れな部分もあるが、ホテル内の新人教育も受けているので、接客なども問題ない。
レンは今日、一日フライヤーに張りつきなので、日曜の準備は屋台が終わったあとにする予定だった。朝八時に作業を開始し、夜八時。そこから明日の準備。
自分で選んだとはいえ、重労働である。体力的にしんどい。
しかし、思いがけず恭介に手伝ってもらえた。フライヤーの面倒を見たり接客しながら指示を出し、ときには交代して、レンが裏に回ることもでき、ピークを過ぎたあたりに下ごしらえを頼んでおいたらもうできている。
橋谷は真剣な眼差しでレンを見る。
「住みこませることはできる?」
「ここの二階でよければ。元々住んでいましたし、今でも時々泊まるので、住めないわけじゃないです。もしくは、俺のアパートと交代か。向こうは洋室できれいですが、和室でもいいなら、こっちのほうが広いですね」
「レンさん、本当にいいんですか?」
恭介に問われて、レンは頷いた。
「もともと、土日のランチ営業を考えてたんです。しばらくはアルバイトになるけど、よければ手伝ってほしいです」
レンは頭を下げる。
「働きます。お願いします……!」
恭介も頭を下げた。
橋谷は感慨深い。二十歳そこそこで入社して、いつまでも可愛い後輩だったレンが、すっかり自分の店を持った事業者だ。時間の流れを感じる。
「しばらくは午後五時から午前一時で入って、仕事覚えてもらって……」
「はい」
恭介はメモを用意して、条件などを確認している。
橋谷はビールのジョッキをあげて、大きな声で言った。
「よし、乾杯しよう。乾杯!」
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