熊の魚

蓬屋 月餅

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2章

3「どうしたいのか、聞かせてよ」

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「…おはよう」
「うん…おはよう、熊ぁ…」

 空が白み始めたばかりの時刻、2人は揃って目を覚まし、寝具に包まれながら互いを抱きしめる。
 季節が移り変わり、すでに真冬になっている早朝はほんの少し寝具から肩を出しただけでも身震いするほど冷え込んでいて、起き出すには覚悟が必要だ。

「…よし!起きよう、熊!」
「うん…」
「ほら、頑張れ。まったく、冷え込むようになってからは起きあがんのがすっかり遅くなって…」

 彼は掛け具を離そうとしない彼の額に口づけ、「本当に名前の通りなんだから」と少し笑ってから寝台を下りる。

「待って…僕も…」
「うん、一緒に動くんなら起き上がんないと。俺は顔を洗う前に着替えるから、その間には起き上がれよ」

 引き留めようとする『熊』の手を掛け具の下に戻してやると、彼は戸棚にある自分の衣を取り出して袖を通した。
 この衣は冷え込みが厳しくなってきてからあの姪っ子が仕立ててくれたものだ。
 知り合ってから2ヶ月ほどだが、あの2人は彼のことを何かと気にかけ、まるで旧知かのように接してくれている。
 初めに会った時は明らかに不機嫌で厳しい態度をとっていた青年も、今では「試しに仕立てただけだから」と言いつつ温かな室内履きを持ってきてくれるほどだ。
 さらに、彼が「熊の分も頼みたいんだけど」と言うと、嫌な顔せず作り上げてきてくれた。


「ほら、お前の衣。大丈夫か、早く支度を済ませないと食材の配達が来ちゃうぞ」

 まだ寝台の上でうつらうつらとしている『熊』に衣を手渡すと、ようやくのそのそと着替え始めたが、彼が見ている目の前で『熊』の裸の上半身が晒され、彼は思わず目を背ける。
 彼はそのまま窓のそばへ行き、意味もなく外を眺めながら『熊』が衣を着替える音を聞いた。

「…もう大丈夫、起きたよ…」
「あ、あぁ…よし、顔を洗って朝ご飯にしよう」
「うん」

 こうして2人の1日が始まった。

ーーーーーー

「…もう少し僕が持つよ」
「いや、熊の方が大きいのが多いし、俺はこれくらい別に大丈夫だよ」
「…そう」

 彼と『熊』はカゴいっぱいの魚を持ち、漁業地域の入り口から食堂までの道を歩いている。
 野菜や酪農品は毎朝届けてもらうものの、魚に限っては漁業地域の入り口まで取りに行くのが普通だ。
 彼の出身は漁業地域のため、初めは知り合いに出くわさないかと気にしていたものの、何度か通っているうちにそう気にすることもなくなっていた。
 地域は広い上、そこまで親しくしていた人物もいなかったからだ。
 だが、今日の彼は歩きながらじっと考え事をしている。
 朝見たことについてだ。

(熊、白くて綺麗だったな…)

 彼は隣を歩く『熊』の手をそっと盗み見た。
 これまで彼が一緒に暮らしてきた中で、『熊』の裸を見たことは一度もない。
 『熊』は彼に『あの生活』のことを思い出させないようにといつも気を遣っていて、着替える姿さえも見せないようにしていたのだ。
 今朝も当然そうするだろうと思っていたが、寝ぼけていたためか、それとも彼が見ていないと思ったのか、『熊』は衣を渡されてそのまま着替え始めた。

(やっぱり熊、細い感じがしたな…本当に俺よりも力があるとはなんか信じられ…)

「どうかした?」
「え!?あっ、いや!なんでもない」
「…寒いね、帰ったら何か温まるものを飲まないと」
「いいよ、俺も魚の下準備を手伝うから」
「でも…」
「小さいのがこんなにあるんだぞ、俺も手伝ったほうがいいよ」

 彼は自分が持つカゴの中を見せるようにして言った。
 『熊』もそれ以上何も言わずに再び歩き始める。

(はぁ…熊は『そういうこと』ってしたくないのかな…?俺が元々あんなことをしてたから、そういう気にもならないのか…?)

 彼はぐるぐると考え込む。
 2人が初めて口づけをしてからというもの、その深さは日を追うごとに増していった。
 唇を触れ合わせるくらいだったものが、いつしか軽く吸い付くようになり、舌先で互いをなぞり合ったり、ほんの少し食んだり…
 今では舌を絡み合わせることもある。
 だが、それ以上はない。
 いつもそうして存分に口づけをした後は寝台で横になるだけだった。

(普通はどうなんだ?口づけするとしたくなる…ものなのかな。熊はずっとこのままでもいいの…か…?)

 隣を見ると、『熊』は微笑みながら首を傾げて「なに?」と尋ねてくる。
 彼はその優しい瞳をじっと見つめながら、『熊』の本心を探ろうとした。


「わぁ、本当に上手ね!」
「しばらくやってなかったなんて、嘘でしょう?」
「いや、本当に子供の時以来だよ」

 彼は持って帰った魚の下準備を手伝い、ひたすら魚を捌いていく。
 漁業地域に住んでいた頃は手伝いのために魚に触れる機会が多く、何年も捌くことはなかったもののすっかり勘を取り戻した彼は女性達にも劣らない速さで下準備を進める。
 だが、そんな中でも考えているのは『熊』のことだった。

(俺…そういえば自分の事を触ろうって気になったことがないな。でも、だからって熊もそうだとは限らないんじゃないか?だって、『そういうこと』って元々は『好き同士』がすることのはずだし…だとしたら、なんにも反応しない俺はどこかおかしいってことになる…よな?)

(熊がもし俺と『そういうこと』をしたいと思ってるんだとしたら、俺はどうなんだ?俺のことを熊が抱きたいと思ってるとしたら…俺は…)

「こんなに早く全部捌き終えるなんて!本当に助かったわ」
「あ…いや、俺はこれくらいしかできないから」
「ううん、そんなことないわよ!」
「あとは任せてちょうだい!すぐに調理して、出来たてを用意するから」
「うん、昼が楽しみだよ」

 彼は女性達が捌いた魚を手に調理場へ行くのを見届けると、後始末をしながら決意した。

(今日、熊を誘ってみよう。熊ときちんと話をするんだ。俺のは反応しないかもしれないけど…でも熊はあいつらとは違う。熊がもし我慢してるなら、俺は応えてやりたいから)

 ちょうど、昼食の汁物の香りが漂ってきていた。

ーーーーーー

 彼はやけに落ち着いている。
 久しぶりに中を洗ったが、今までにあった嫌悪感などはなく、むしろ丁寧にしなければという、責任感のようなものがあったからだ。
 そんなこととは知らない『熊』は彼が湯浴みを終えて部屋へ帰ってくると、「僕も湯を浴びてくるね」と言って階段を降りていった。
 彼は椅子に座り、じっと『熊』が帰ってくるのを待つ。

(したくないって言うなら、それはそれまでだけど…でも、たとえ熊が何をしてきても俺は受け入れてやるんだ。俺は本当にあいつのことが好きだし、あいつが喜ぶなら俺も嬉しいから。そうだ…熊が気にしないように、あんまり痛がらないようにしないと)

 彼がそう考えながら机の上にある『熊』が淹れていたお茶の湯気に手をかざしたりして遊んでいると、濡れた髪を浴布で拭いながら『熊』が部屋へ入ってきた。

「うん?お茶を飲んでいればよかったのに」
「あー…なんか暑くてさ」
「でも、だからって髪をそのままにしてたら風邪を引くよ」

 『熊』は彼の髪の雫を浴布で拭うと、自らの木製の小さな杯にお茶を注いでから髪を乾かし始める。
 湯上がりをゆったりと過ごしている『熊』の横顔は灯りに照らされて一層穏やかな雰囲気を纏い、彼は思わず目を奪われてしまう。

「なんか…綺麗だな、熊」
「え…ど、どうしたの?突然」

 ふと漏れ出した彼からの言葉に戸惑いながら微笑む『熊』は、「僕には…君がとっても素敵に見える」と頬をつついてくる。

「魚を捌く姿…手際が良くてとても素敵だった」

 冷めて湯気が立たなくなったお茶を飲む『熊』に、彼は口を開いた。

「…なぁ、熊」
「うん?」
「俺とシたくないの?」

 『熊』の手の中にある杯がミシッという音をたてる。

「あぁあぁ熊…お前って本当に力が強いんだな、杯が壊れちゃうよ…」

 彼が『熊』の手を開かせて杯を取るも、『熊』は固まったまま動かない。
 
「君…」
「うん、なに?」
「僕は…僕は君を慰みものにしたいわけじゃ…」
「それは分かってるよ、熊」
「だけど…」

 なかなか言葉が出ない『熊』に、彼は話す。

「…熊は俺とシたいと思うこと、ある?」
「あ……」
「熊はどうしたいのか、聞かせてよ」
「でも、君はそんな…」

 向き合った熊の髪から雫が1つ、2つと浴布へと落ちる。

「…なぁ、熊。俺達は好き合ってる、だろ?俺がこんなことを言うのも何だけどさ…お互いを好きなら、その…『そういうこと』をしたいって思うのも普通…だと思うんだ」

 そこで彼は『熊』が困り果てた表情をしているのに気付いた。

(あ…熊がそんな表情をするなんて…本当にその気がないのか?だったらもうこんな話は止めといた方がいい…よな)

「あ…いや、だからって無理にとは言わないよ、これまで通りならそれでいい」
「……」
「いいんだ、悪いなこんな話して。考えてみればそんな気も起きないよな、俺は散々あんなのさせられてきた身で…」
「それは関係ない!」
「うん…でも、熊に見せちゃってるんだ、俺のひどい姿。だからそんな気にならなくても当然だ…」

 自嘲気味になっていた彼は強く手を握られたことで言葉を切る。
 目の前の『熊』は目元が薄紅に染まっていた。

「君は…そんなことしたくないんじゃないかと…」
「…うん。たしかに、いいと思ったことは一度もないよ。でも、俺は熊が好きだから…」
「僕だって大好きだよ…」
「…そうか。それじゃあさ…」
「……湯を浴びてくる」

 突然立ち上がった『熊』の手を引き留め、彼は「いや、今あがってきたばかりだろ」と声をかける。
 だが、『熊』は彼の方を振り返らずに「…洗ってない所がある」とだけ言った。

「え…」

 熊は湯に浸かることが好きな上に普段から潔癖じみた様子を見せることさえあるため、どこかに洗い残しをするような人物ではないはずだ。
 この『熊』の反応、そして性格を鑑みるに、『洗っていない所』というのは1つしかないだろう。

「まさか…まさかお前、その、中を洗おうっていう…のか!?」
「……」
「いや、いやいや!お前がそんなことをする必要はないって!」

 首の後ろまで真っ赤になっている『熊』にそう言いながら、彼自身も顔が熱くなるのを感じる。

「俺の方が慣れてるんだからさ、その、俺に挿れればいいって!別にそんな…」
「…でも、それは無理にさせられてただけだから」
「いや、でもさ!」

 彼が止めようとしても『熊』は構わずに扉の方へ行く。

「ま、待てってば!」

 1人、部屋に残されてしまった彼はひどく混乱していた。
 当然、自分は抱かれる側だと思っていたが、まさか抱く側になるとはまったく想定していなかったことだ。

(ど、どうなってるんだ!?そんな、だって俺…俺が?俺が熊に、熊の中に入る…のか?)

 彼は戸惑いと緊張感を紛らわせようと部屋の中を歩き回るものの、さっぱり効果はない。
 逃げ出すわけにもいかず、まったく初めての状況に対し、混乱する頭で何とか考えをまとめようとする。

(どうしたらいいんだ?このまましちゃうのか!?そうしたら、あ…あいつが辛くないようにしなきゃいけない…そうだ、うん。自分がされるのは別にどうでも良かったけど、熊はそういうわけには…あぁでもどうしたらいいんだ?こんなの初めてで…)

(ま、まずはよくほぐしてやるんだ、なるべく痛い思いをさせないように…それから、当たるといい場所がたしか…あ!俺は?俺はただ挿れるので合ってるのか?それ以前に俺…俺のが…は、反応しなかったらどうしよう?)

 彼は寝台のそばで足を止めると、寝具に目をやったまま固まった。

(ここで…俺はあいつを…)

 どれだけ経ったか、扉の開く音がして彼は振り返る。
 そこには寝間着を着た、いつもの『熊』がいた。
 しかし、その顔は赤く、歩みもゆっくりで、全身から緊張しているという空気を発している。

(あ…く、熊は本当に…)

 『熊』は寝台の横、彼のすぐそばまでやってきた。

「熊…」
「……」

 『熊』の髪からはすでに雫が落ちなくなっている。
 頭から湯を被ることはしなかったのだろう。

「とりあえず…す、座ろう…」
「…うん」

 2人はどちらもぎこちない動きで寝台の上に上がり、向かい合って座る。
 どちらからも言葉はなく、ただ時が過ぎていく中、どうしたらいいのかと彼が考え込んでいると『熊』は彼の手を握ってきた。

「…大丈夫?」
「う、うん…俺は…その、俺よりもお前が…ほ、本気なのか…?」
「……」

 『熊』はこくんと頷く。

「俺…その、挿れるのは初めて…だから…うまくいかない…かもしれなくて…」
「…僕も初めて…だし…」
「お前が嫌なら俺…俺は…」
「…大丈夫、きっと…」
「あ…」

 『熊』の手のひらが彼の頬を包み込む。
 その温かさは頭の中に渦巻いていた不安や心配をすべてどこかへとやってしまい、ただ1つの感情だけを残した。

(あぁ…愛おしい…)

 彼が『熊』の背に手を回し、ゆっくりと口づけると、『熊』も彼に応じてくる。
 口づけは段々と深さを増し、互いの唾液が混ざり合っていくのが分かった。

「ん…」

 何度も顔を傾けて口づけをしていると、彼はふと下の方で動きがあったことに気づく。
 少しだけ顔を離してその部分を見ると、なんと『熊』の寝間着には見慣れない膨らみがあった。

「熊…これ…」
「……」

 それは確かめるまでもないもののようだが、彼は信じられない気持ちでその膨らみに手を当てる。

「…っ!」

 『熊』はぴくりと反応する。
 まさしくそれは、『熊』のそそり勃ったものだった。

「く、口づけだけでこんなに…なってるのか?」

 彼がそう尋ねると、『熊』は頷く。

「いつも…君と深く口づけをすると…なってた…」
「いつも…?」

 彼は知らずにいたのだ。
 『熊』が口づけをするたびに反応していたことも、それを隠すために堪え忍んでいたことも。
 彼は『熊』を押し倒し、再び深く口づけ始めた。
 
「んっ…」

 彼が『熊』のそそり勃つものを衣の上から撫でると、『熊』は軽く体をはねさせる。
 自らの動きによって『熊』が反応しているのは、彼に妙な感覚を抱かせた。

「なぁ…脱がせて…いい?」
「うん…」
「それじゃあ…触るからな…」

 彼は はだけさせた寝間着の中へと手を滑り込ませ、『熊』のものに直接触れる。

「うっ……ん!!」

 ずっと口づけをしているのは苦しそうで、彼は『熊』の首筋へと唇を移してゆるやかに手を動かす。
 『熊』の呼吸は段々と荒く、声が混じることも増えてきた。

「なぁ熊…気持ちいいか?このままいいぞ、俺の手に出して…」
「はぁっ、はぁぁ…あっ!」
「すごく固くなってる…熊の…」

 次の瞬間、『熊』は白濁を飛ばした。
 彼は手のひらに熱いものが散らばる感覚を感じ取り、それが全ておさまるまで優しく手を動かし続ける。
 おさまったのを見計らってから手のひらを見てみると、濃い白濁が手のひら全体に付いていた。

「今まで我慢…してたんだな」

 あまりの濃さに彼がそう呟くと、『熊』は荒い息を整えながら「早く…」と訴えてくる。

「早く…君も…」
「あ…俺…」

 この状況になっても、彼自身のものは反応していなかった。
 だが、そのことに『熊』は気付いていないようだ。

(きっと俺がまだだって知ったら、熊は悲しむよな…)

「なぁ、その…まずはよく慣らした方がいいと思うんだ」
「ん…」
「だからさ、その…ここ、指挿れても…いい…?」

 彼が中指を『熊』の秘めた部分にあてがうと、『熊』はこくこくと頷く。
 彼は『熊』の白濁に塗れた自らの指を、ゆっくりと、極めて慎重に中へと押し込んだ。

「大丈夫か…?痛むなら…」
「大丈夫…さっき洗ったし…大丈夫だよ…」
「…そうか。動かすからさ…何かあればすぐに言って」

 彼は中を探るようにして指を動かし始めた。

(あの良くなる場所ってどこなんだ…?この辺…もっと奥?それとも手前か…?)

 男達に抱かれていた時に時々感じ、わざと避けるようにしていた『良い場所』を『熊』の中に見つけようと、彼はあちこちを撫でる。
 あの時のことは思い出したくもないが、その場所を見つけられれば『熊』をより気持ちよくさせることができるはずだと信じて。

(もしだめで、俺もこのままだったら…また前の方を触って出させてあげよう。それでとりあえず今日は終わりにするんだ。でも…熊は口づけるだけであんなになってたのに、俺はおかしいのかな…熊は本当はこういうことをしたいと思ってたんだよな。なのに俺はちっとも…この先もずっとこうだったら、俺、熊に悪いよ…)

「んう…っ!」
「ご、ごめん…!」

 指先に少し力が入ってしまったその瞬間、『熊』が突然体をビクっとさせ、彼はすぐに謝った。

「わ、悪い…爪が当たったか?」

 かすかに首を横に振る『熊』は顔を隠していて表情が読めない。
 その時、彼は思い出した。
 自分が抱かれている時、顔を見られないようにわざと後ろ向きになっていたことを。

(熊…もしかして、嫌なんじゃないかな…?こいつは優しいから、俺に悟られまいと顔を隠してるんだ…無理にさせちゃいけない、俺が気付いてやめてやらないと)

「なぁ…熊、やっぱりやめよう」
「……」
「俺が変なことを言ったから…別に、こういうことがなくても俺達…」
「……るの?」
「…うん?」

 『熊』の言葉を聞こうと近付いた彼は、思わず目を見開いた。

「やめ…るの?」

 そう呟く『熊』は顔を隠す手の隙間から、潤んで上気した熱っぽい瞳を覗かせている。
 それは痛みや嫌悪感を隠しているものではなく、先程白濁を放った時に近い、それ以上に艶めかしいものだった。

「く、熊…お前、ここ…」
「んあぁっ…っ!」

 彼が再び一点を摺ると、『熊』は甘い声を響かせた。

(な、なんだ…これ…)

「もう少し…中を触るからな」

 彼は声をかけると、同じく白濁にまみれている人差し指を先に入っている中指に添わせながら注意深く挿し込んだ。
 2本の指は1本の時よりも指先に力が加えやすくなっていて、より強くその一点を刺激する。

「はぁ…あっ、あぁ…っ!」

  彼は声にせき立てられるように、次第に速く指を動かす。

「んっ、んん…ぅあ…はぁ、あぁ…!!」

 ついに『熊』は体を大きくはねらせた。
 白濁は放たれていないものの、前は固く反り上がり、中がひくひくと痙攣している。
 彼にも『熊』が絶頂を迎えたのだと分かった。

「く、熊…?」

 彼が手をどかせると、『熊』の紅潮しきった顔があらわになる。

(な、なんだこれ…すごく…)

 彼は何かが自分の中に渦巻くのを感じた。

「…大丈夫か…?」
「…うん…」
「その…そんなに…」

 彼が言い淀んでいると、『熊』は はぁはぁという呼吸の間から囁くような声で言う。

「気持ち…いい…」
「……!」

 その声を聞き、彼のものは突然反応を見せた。
 まったく反応する素振りもなかったにもかかわらず、今は腹につく勢いで張り詰め、固くなっている。
 驚いてそっと握ってみると、ぞくりという感覚が全身を駆け巡った。

(あ…俺、熊と…こいつとしたい…)

 ぱっとそんな思いに駆られるものの、『熊』はすでに1度白濁を放った上に中から絶頂を迎えたばかりだ。
 彼が躊躇していると、『熊』はそっと手を重ね合わせてきた。

「…しよう」
「でも熊は…」
「僕は君と…もっと繋がりたいよ…」

 そう話す『熊』が愛おしく、彼はぱっと抱きついて口づける。

「俺…熊ちゃんの中に…入りたい。…いい?」
「…うん、きて」
「ありがとう…熊ちゃん…」

 彼は身を起こし、『熊』の両足の間に体を割り入れて体勢を整えた。
 そこで、初めてじっくりと『熊』の全身を見る。
 白く滑らかな肌。
 無駄のない、少し薄めの体。
 呼吸に合わせて上下に動く胸。
 薄明かりに照らされたそれらの先には形の良い唇に薄紅の頬、そしてこちらを見つめる優しくて潤んだ瞳がある。
 耳に痛いほど心臓が早鐘を打ち、緊張と昂ぶる気が全身を駆け巡っていく。
 手についている『熊』の白濁を全て自分のものに塗り付け、彼はついに『熊』の秘めた部分へとあてがった。

「挿れるよ…」
「うん…」

 彼は慎重に自らを『熊』の中へと押し進めていく。

「~っ……!!!」
「ごめん、ごめんな熊ちゃん…」
「うぅ…ぅ……ん…!!」

 入り口も中もキツく、自分のものが今まさに『熊』の中を押し拡げているのが分かる。
 それがどれだけ痛み、辛いことなのかは分かっていても、もはや彼は進めることを止められなかった。

「あと少し…ごめん、本当に…熊ちゃん…」

 ようやく全てを挿し込み終え、彼はぐっと距離が近くなっている『熊』にそっと口づける。
 『熊』は涙こそ流していないものの、きつく眉根を寄せていて苦しそうだ。

「苦しいんだろ…?ごめんな…」
「はぁ、あっ…だ、大丈夫…全部、入った…?」
「うん、全部入ってるよ、根本まで熊ちゃんの中に…」
「良かった…中にいるんだ…」
「熊…熊ちゃん…」

 『熊』が見せる安堵の表情はいじらしく、心の底から愛おしいと思える。
 彼が抱きしめると『熊』も応じてきて、2人の胸は隙間なくぴたりと重なった。

「熊…熊ちゃん。俺、本当にお前のことが好きだよ、愛してるんだ。大好きだ…」
「僕も…僕もだよ、好きだ、愛してる…君が同じ気持ちでいてくれるのが、嬉しくてたまらない…」
「うん…俺達は一緒だ…」

 それからしばらく見つめ合ったり口づけをし合ったりした後、彼はゆっくり腰を動かして『熊』のあの一点を突き始めた。
 初めは引っかかるような感覚もあってぎこちなかったが、次第に潤ってきたのか、なめらかな動きへと変わっていく。
 肌の擦れる音や抜き挿しの度に響く粘着的な音はより2人の気分を昂ぶらせ、ついに絶頂に近いところまで高まらせていった。

「く、くま…俺、そろそろ出そ…出そうだよ…」
「あぁ、あ、ぼ、僕も…んんっ…!」

 片手で『熊』のそり勃つものを扱い、もう片手は『熊』の手と指と指を絡ませながらしっかりと繋いだ彼は、もう堪えきれないというところまで昇りつめ、自身のものを『熊』の中から抜き去る。
 その瞬間、彼と『熊』は同時に放出した。
 全身を駆け巡る稲妻は、生まれて初めての感覚をもたらす。
 『熊』の腹部には彼と『熊』自身の白濁が混ざり合って飛び散り、白い肌に撒かれたそれらはまるで宝飾品かのようにキラキラと灯りを反射していた。

 大きな満足感と幸福感の中、彼は激しく拍動する心臓を落ち着かせながら、ぐったりとしている『熊』に囁く。

「熊…」
「…うん?」
「その…大丈夫?俺、こっち側になったのは初めてだし…そんな風に挿れられて気持ち良くなったこともないんだ、だから…」

 すると、『熊』は微笑みながら彼の手を握り込む。

「…僕は本当に大丈夫だよ」
「でも、どっか痛めたり…」
「大丈夫だってば…僕も初めてだよ。僕達は初めて同士、その…かなり上手くしたんじゃ…ないかな」

 彼は幸せな気持ちで頷き、体を横たえて『熊』の頬に擦り寄ると、耳元で囁いた。

「熊、すごく綺麗だぞ…顔が紅くて目が潤んでる」
「だって、その…よかった…から…」
「2回も出したよな。それが俺がしたからだって思うと…」

 熊は目をギュッと瞑り、「は、恥ずかしい」と呟く。

「改めて言わないで…今、すごく恥ずかしいんだよ…」
「かわいいなぁ、もう…今、自分の腹の上がどうなってるか見たら、もっと顔が紅くなるか?」
「え…?」

 『熊』は気が抜けているのか、彼の視線の先をたどり、自らの腹部に散らばっている白濁を目にした途端すぐさま手で顔を覆った。
 彼は布巾で白濁を拭いながら「なぁ熊。俺達、本当にしたんだな…」と話す。

「信じられないくらい幸せな気持ちだよ、疲れてるのに幸せなんだ」
「うん…」

 掛け具に包まれながら、2人は互いから目を離さずにウトウトとし始める。
 そんな中、彼は「なぁ…熊」と呼びかけた。

「…今度はさ、俺に挿れてよ」
「えっ…」
「だってさ…」

 さらに彼は続ける。

「『熊』は『魚』を食うもん…だろ?」
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結衣可
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戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

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