彼と姫と

蓬屋 月餅

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『姫』視点

3「……1人にして」

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「うん…ん………」

 寝具の上を素肌が滑る。
 その慣れない感覚の心地よさに薄っすらと目を開けた彼は、ぼうっと何度か瞬きをし、ようやく自分が真っ裸で寝具に包まっていることに気が付いた。

(あ…僕……)

 そろり、と足を動かすと尻の間に妙な感覚が走る。
 ヌルヌルとするような、トロリとするような、ジンジンとするような……

(う………ぼ、僕、これ……そう…だよね?本当にこれ…み、霙と、僕…昨日、夢…じゃなくて……)

 さらに掛け具を引っ張ろうとしたところで、彼は背を向けている寝台の端の方で何かがそれを妨げていることに気づく。
 もしかして…と音を立てないようにその方へ目を向けると、そこにはこちらへ背を向けるようにして寝台の縁に腰掛けている霙の姿があった。
 霙の表情は見えない。

(霙……)

 彼は目を瞬かせてその後ろ姿をじっと見る。
 霙は上衣を軽く羽織っただけの、いつもとは違う薄着姿をしていて、どこか無防備とも言うべき気だるげな雰囲気をまとっている。
 朝日を受けて薄っすらと透ける肉体の線をじっと見つめ続けていた彼は、その視線を霙の髪に移すなりぱっと頬を綻ばせた。
 霙の髪は無造作に、あちこちに跳ねて陽の光を反射しているのだ。

(な、なにあれ…寝癖?あ、あんなに髪が跳ねるほど…癖がつきやすかったんだ、霙の髪って!ひ…酷い寝癖だ、こんなの初めて見る!な、なんだよ、可愛い!可愛すぎる!体はあんなにしっかりしてかっこいいのに、こんな雛鳥みたいな…大体、あの背中のうっすら透ける筋肉はなんだ!かっこよすぎるって!あぁっ、もう最高!こんな姿の霙を見れるなんて、しかも朝、目が覚めてすぐに!うわぁぁ!!)

「…すみません」

 掛け具を口元に押し当てて叫びださんばかりに胸を高鳴らせていた彼は、突然の霙からの言葉にふと我に返った。
 気だるげな雰囲気の霙と、真っ裸で寝具に包まる彼。
 そうだ、今はこうして胸を高鳴らせるべき状況ではなかったはずだ。
 彼は昨夜自分がしたことのよろしくないこと全てが脳裏に蘇ってきて体をこわばらせる。

「すみません……でした…」

 彼が目を覚ましたことを察したようにそう繰り返す霙。
 昨夜の全ては彼が始めたことで、霙は巻き添えを食ったとも言えるはずだ。
 彼は昨日の諸々について謝るべきは自分であるはずなのに、と余計に申し訳無さを感じておずおずと声を出す。

「なにが……なんで…君が……」

 彼は『どうして謝るんだ』と言うつもりでいたのだが、言葉が詰まってそれ以上が出てこない。
 霙はほとんど聞こえないくらいの弱々しい声で何か続けて言ったが、彼の耳に聞こえてきたのはただ1つ、「良くない…」という一言だけだった。

「よ…良くない…って?」

 彼は呆然としながら、聞こえた言葉をそのまま、たしかめるようにして尋ねる。
 霙はゆっくりと頷いた。
 
 彼は言葉を失う。

(な…に、どういうこと……?『良くない』って…あぁ…あ、そっか、そうだ、僕は……)

 彼は霙が座っていない方の掛け具を引っ張りながら寝台の上に膝を抱えるようにして座り込む。
 腰には軋むような痛みが走るものの、一切構わない。
 むしろ、もっと小さく縮こまってしまいたいというくらいに膝を抱き寄せる。

「…そっか、うん」
「その…私は……」
「…いい、分かってる。だけど、君が謝ることなんてない、僕が全部…全部悪いんだから」
「そんなこと……」
「いい、分かってるから」
「あの…」
「…ごめん、ちょっと1人になりたいんだ。悪いんだけど……1人にして」
「でもこのままでは……」
「いいから」

 掛け具の中からモゾモゾと自らの衣を手探りで探し当てる彼に、霙は「…分かりました」と立ち上がって言った。
 言葉もなく俯いたままの彼に、霙は戸のそばまで行ってから「あの」とはっきりした声をかける。

「また…またあらためて来ます。今は少し…お互いに時間が必要でしょう?落ち着いて話がしたいんです、なので…」

 霙は苦々しく「きちんと食事をして、健康でいてください」と言い、家を出ていった。

 外は快晴。
 暖かな、あまりにも良い陽気だ。
 霙が遠ざかっていく足音を掛け具に包まりながら聞いていた彼は、すっかりその足音がしなくなったところで、外の陽気とは真逆な湿やかさを纏って しとしと と泣き始めた。
 掛け具を手繰り寄せ、霙が座っていた部分を抱きしめると、そこからわずかに香る霙の香りで胸をいっぱいにするようにして、さらにむせび泣く。

(霙…良くなかったって……気持ち良くなかったって……僕とシたの、気持ち良くなかったって言った……)

 昨夜、彼は自らの心のままに行動をおこし、霙からの抵抗がないのをいいことに想いを遂げてしまった。
 それは気を失ってしまうほどの快感を彼にもたらしたのだが、どうやら霙はそうではなかったらしい。
 暗く沈んだ声で「良くなかった」という霙の姿は、朝起きてこれ以上ないというほどの幸福感に包まれていた彼の心を深く鋭く突き刺していた。

(そうだ…僕は、いつも自分で気持ち良くなるばっかりだったのに……どうしてそれで霙も満足すると思ってたんだろう?可愛い女の子ならともかく…僕は所詮男なんだから、挿れるのだって…汚いと思っただろうな…ほら、全部僕の独りよがりだったんだ、霙の気持ちなんか考えてない、全部僕が勝手に……声を抑えて、胸を隠して、女の子とシてるみたいに思ってくれたらなんて……霙は何を思っただろう?こんなことを全部後になってから考えるなんて…僕は本当にどうしようもないやつだな……)

 散々泣きはらした彼は上衣を羽織って寝台を降りる。
 寝台に広がる昨夜の痕跡や自らの体の状態から(…湯を浴びないと)と考えた彼は、再びその場にうずくまってさめざめと涙を流し始めた。

(霙のこと…湯浴みもさせずに追い出しちゃった……大丈夫かな、霙…病気になっちゃったらどうしよう………どうして、僕ってどうしてこんなに気が利かないのかな、どうしてなんだろう………)

 彼は涙が枯れ果てるまで、ずっとそうして部屋中に悲しみや後悔といったものを吐き出し続けた。

ーーーーーーー

 永遠に続くかのように思える暗い気持ちも、時は少しずつ和らげていく。
 いくつかの日々が過ぎ、彼はほんの少しだけ気持ちを持ち直してたが、それでも彼の頭や心の中には常に霙がいた。

(「また…またあらためて来ます。今は少し…お互いに時間が必要でしょう?落ち着いて話がしたいんです、なので…」)

(「きちんと食事をして、健康でいてください」)

 あの日から数日間は霙の言葉に気が回らなかった彼だが、少し落ち着いて考えられるようになってきたところでその意味について疑問を持ち始める。
 霙はどうやら、再び彼の元へやって来るらしい。
 だが、なぜ?
 わざわざ『気持ち良くなかった』相手のところへ来て、『落ち着いて話をする』ということに一体どんな意味があるというのか。
 彼は理解できず、寝台に臥してぼうっと考える。

(霙のことをよく分かってたつもりだったけど、やっぱり人が何を考えているのかってよく分からない…一体、何を話そうっていうの?まったく、霙は面倒見が良すぎるよ…自分勝手な、こんな僕みたいなやつはもう放っておけばいいのに、健康のことまで心配するなんて)

 だが、彼の脳裏に突拍子もない1つの考えがふと浮かんできた。
 まさかな、と1度は思った彼だったが、次第にあながち間違いではないのかもしれないと思い始める。

 …もしや、霙は『良くなかった』自分に対し、もう一度だけ機会を与えようとしてくれているのではないか?と。
 あの言葉はそういう意味だったのではないか?と。

(この辺りは男が多いし、霙も誰とも付き合ったことがないって言ってた…だから、あんなことをする相手はいないはずなんだ、霙だって『そういうこと』をしたい若い男の子のはずなのに。じゃあ、僕は?女の子じゃないけど、女の子と同じようなことができる僕はどうかな…?『あの時』は『良くなかった』かもしれないけど、もし今後 僕とヤるのがすごく気持ちいいって思ってもらえたら……恋愛的な意味で『好き』にはなってくれなくても、少なくともこの漁業地域で暮らしている間は僕とまたあんなことをしてくれるんじゃないかな…?)

 それまでずっと青白かった彼の頬が赤みを帯びていく。

(そうだ…僕の技術不足で『良くなかった』なら、次は『良かった』って思ってもらえるように頑張ればいいんだ!もしかして…『ちゃんと食べて健康に』っていうのも『体に肉をつけて抱き心地をよくしろ』ってことじゃないの!?だとしたら こんなことしてる場合じゃないって!いつ霙が『話』をしに来てもいいように、色々と準備しておかなきゃ……!)

 彼のじっとり、鬱々としていた気分がまるで嘘だったかのように晴れていく。
 すべてが億劫に感じ、ろくに食事も摂っていなかった彼。
 泣き臥していたせいもあって、さらに少し痩せてしまった体を引き摺って外へ出ると、眩しくてたまらないほどの陽の光が目に飛び込んでくる。

(大丈夫、少なくともあと1回は霙と話をする機会があるんだから!)

 水桶を抱え、彼は意気揚々と外へ足を踏み出した。

ーーーーーーー

「おっ、今日は来たのか!」

 霙とのあの出来事から1週間と幾日かが過ぎたある日、彼は仕事をしに外へ出かけていつものように仕事仲間と会話をしながら目の端で霙を捜していた。
 1週間と少しという時間が経ったにもかかわらず、ちっとも話をしに来ない霙が気になった彼は作業場に行けば会えるだろうと思って来たのだ。
 しかし、いくら捜しても姿は見当たらない。
 どうしても気になってしまう彼は、仕事仲間に「あいつは?」と尋ねた。

「あいつ…霙は?作業場にいないみたいだけど、配達に行ったの?いつもはここに残って作業してるのに……」
「あぁ、あいつなら来てないよ」
「来てない?」

 仕事仲間は「あぁ」と答えると、少し考えてから「もう1週間近くになるかな?」と言う。

「作業場を管理してるあのおっちゃんに聞けば来てない理由が分かるかもしれないけど、とにかく姿は見てないな」
「1週間……」
「うん。なんだ、なにか用があるなら言っておこうか?」

 彼は「いや、それならいいんだ」と断ると、周りを見渡して「新しい人が増えたのか?」と話題を変えた。
 作業場は人の入れ替わりが比較的激しく、彼の知らない間に面々が変わっていることなどはしょっちゅうのことだ。

「そうそう、今まであっちの方の家にいた奴らが出て行ったんだ。それで新しく入ってきたのが何人か…ほら、あの荷車のところにいる奴らがそうだよ。俺らより歳下でさ…まったく、これが元気な連中なんだよ」
「へぇ」

 彼は興味がなさそうに返事をする。
 彼にとってこれは話題を変えるためのものに過ぎない。
 本当の関心事である霙が、もう1週間近く姿を現していないということだけが彼の心に引っかかっていた。

ーーーーーー

 彼は何度も外へ霙を探しに行ったが、その度に『今日も来ていない』という答えを聞くばかり。
 (霙は本当に病気にでもなってしまったのだろうか)と不安に思う彼だが、家を訪ねていくほどの勇気もない彼にはどうすることもできなかった。

 そうして過ぎゆく日々の中。
 彼は反り勃つ自らのものを握り、濡れた浴室の床に背を押し付けながら自分自身を観察するようにして様々な刺激をそこへ加えていた。
 先端を押したり、裏の部分を撫であげたり。
 少し強く握ってみたり、握った手で素早く根元から先端までを往復したり。
 最も強く快感を得られるのは、一体どこをどのようにするのが1番なのか。
 彼はそれを自らの体で探ろうと研究じみたことをしているのだが、いつも最後には何も考えられなくなって白濁を散らしている。
 さらにそれでは飽き足らず、彼は無意識に後ろにまで手を伸ばす。
 指を1本、2本と挿し込み、柔らかな体内の壁面にある『その部分』をグイグイと押したり擦ったり。
 さらに石の棒を挿入し、深いところと浅いところを交互にそれぞれ捏ね回す。
 しかし、彼はもはやそれでも満足しきれなくなっていた。
 1度霙のものをじっくりと味わってしまった彼の体内は、散々使ってきた石の棒などでは充分と言えるほどの反応を示さず、ただただ『霙ともう1度交わりたい』という思いを煽るだけだ。
 彼は今日の『研究』を終えて寝具に包まると、じっと考え込む。

(僕…本気で霙とじゃないとだめになっちゃったみたいだ。だって、まさかあんなに僕にとって相性がいいとは思いもしなかったし…はぁ…もしまた次、霙とシてる時に独りよがりになりでもしたら本当にお終いだ。こんなことじゃだめなのに、どうしたらいいんだろう?そもそも霙の気持ちいいところって僕と同じなのかな…それに、ちゃんと中に挿れてから気持ちいいところを刺激してあげられるのかどうか……)

 結局のところ、こうして1人であれこれと探っていても実際にそれを活かせるかどうかはやってみないことには分からない。
 彼はため息をつき、霙が『改めてこの家を訪ねて来た』というその瞬間を想像してみる。

 戸を叩き、訪ねてきた霙を家の中に招く。
 霙はきっとそこで、いつものようなかしこまった口調で話し始めるだろう。
 彼は霙の気が変わってしまわないうちにこの間のようなことをして気を引き、寝台へと連れ込む。
 それから彼はありとあらゆる手を尽くし、精一杯の奉仕をして霙を満足させるのだ。
 …最後であろうという機会を、ものにするために。

(そんなに何でもうまくいくとは思ってないけど…いや、違う、うまくやらなきゃいけないんだ。少しでも霙が…僕に触れてくれるように)

 彼は拗らせた恋心と共に、霙がこの家の戸を叩きに来る日を今か今かと待つ。

「…っ!!」

 突然、戸が音を立てて彼は飛び起きた。
 幻聴、幻覚かと疑っていると、再び戸は音を立てて現実のことだと報せてくる。

(み、霙…?霙が来たの?)

 思わぬ来客の報せに暴れる心臓を抑えながら「はい」と戸を開く彼。

 だが、そこに居たのは霙ではなかった。
 どうやら少し前にこの作業場にやってきたという若者の1人らしい。
 「あ、あの…」とだけ言って口ごもった若者は顔を真っ赤にし、明らかに緊張しているというのが分かる。

(何をしに来たんだろう?)

 なんの接点もないはずの若者がなぜ家まで来たのかと考えながら彼が視線をかごの中に移すと、そこには山菜がいくつか入っていた。

(山菜?なんで?そもそも僕に一体何の用があって……)

 首を傾げていた彼はハッとする。
 
(「きちんと食事をして、健康でいてください」)

 脳裏に霙のあの声が響いた。

(そうだ…この子、もしかして霙に言われて来たんじゃないのか!?俺にちゃんと食事をさせようと…)

「えっと……君はちょっと前に来たっていう人、かな?そうだよね?」
「あっ、えっと…はい、そう…です…」
「ふふ、そのかごに入ってるのは、もしかして僕に?」

 彼がかごを指差しながら尋ねると、若者は静かに頷いた。

「じゃ、『アイツ』に言われてきたってことか」

(なんの接点もないのに僕に食材を、ねぇ……絶対霙だ、そうに違いない。でも、だったら戸の外にでも置いていけばいいのに…ま、待てよ?わざわざ人を寄越したってことは、これにも何か意味があるってことなんじゃ?だとしたらその意味って……)

「え…?いや、言われて来たっていうか、俺は…」
「ふふ、緊張しないで、とにかく入りなよ」

(あぁ、霙……わざわざこんな子を寄越すなんて。分かってる、僕はちゃんと『勉強』するよ)

 若者を家に引き込んだ彼はかごを取り上げて机に置くと、すぐさま寝台へと向かう。
 呆気に取られているらしい若者を組み敷くのは造作もないことだ。
 驚いて声を上げようとする若者の唇を人差し指で止め、彼はクスクスと笑みを浮かべる。

「びっくりしちゃった?…かわいいね、耳も鼻も真っ赤になってる…ん…ちゃんと湯を浴びてきたんだ、きちんとしてるね、君」

(分かってるよ、霙…僕はこの機会を無駄にしない。きちんと『勉強』して、君を満足させられるようにしてみせるから)

 彼は若者を霙に見立て、まず初めにその首筋をぺろりと舐めた。
 そして上からなぞるように口づけ、その先のほとんど鎖骨というところをさらに一舐めする。

「…っ!!!」

 若者の喉から声が漏れた。
 先ほどからどうにも うぶ な反応が気になる。

「…うん?なに…君、もしかしてこういうことするのは初めてなの?」

 彼が尋ねてみると、若者はしどろもどろになってはっきりと言葉にできない。

(霙…まったく、こんなうぶな子を僕に寄越すなんて)

「まったく…アイツの考えてることって、本当によく分からないな………」

 だからといって、彼に行動を止めようという気はない。
 むしろ彼はこの若者が『初めて』だというのにもきっとなにか理由があるに違いないとさえ思っていた。

「ふふ、そんなに緊張しないでよ…それとも初めてが僕じゃ、嫌?」

 宥めるように若者の髪を梳くと、若者は戸惑いながら、しかしはっきりと首を横に振る。

「ん…それなら良かった。大丈夫だよ、君は初めてでも僕は慣れてるからね…」
「っあ!!」
「…はは、すっごく敏感なのかな…?ごめんね、もっと優しくするね……」

 彼は手を若者の胸に差し込んだ。

ーーーーーーー

 若者のそれを扱ってみると、彼が気にしていた通り、どうやら人によって気持ちよさを感じる部分が異なるらしいということに気がつく。
 やはり闇雲に刺激しても良くないのだ、と考えながら探るように刺激し続けていると若者はすぐに白濁を散らした。
 それを見た彼の脳裏に1つの考えが浮かぶ。

(これ…手でするのが上手くなっても仕方ないんだよ。こうして見つけた霙の気持ちいいところを、僕は中でも刺激できるようにならなきゃいけないんだから)

 彼は飛び散った白濁を軽く拭うと、自らの下衣に手を伸ばした。

(女の子じゃないから妊娠はしないし…ついさっききちんと中も洗ったばかりだ。守るべき貞操だとかも、僕は気にしてる場合じゃない。それよりも、僕は……)

 若者は頬を赤らめて必死に目を逸らそうとしている。
 あまりにも うぶ なその様子を微笑ましく思いながら、彼が下衣を脱ぎ捨てると、若者は「お、男…!?」と素っ頓狂な声を上げた。

「なぁに?僕が女の子だと思ってたの?」

 驚きに目を瞬かせる若者をからかって言う彼。

(あぁ…ほらね?僕は女の子に思われるような男なんだよ。『かっこいい』だって?僕は『かわいい』、でしょ)

「僕が『姫』って呼ばれてるから?ふふ…そうだね、声も低くはないし、筋肉だってあるわけじゃないから。でもほら、喉を見て?それに…女の子にも『これ』があるかな?」

 彼は青年に男であるということを驚かれ、非常に気分が良くなっている。
 さらに『言葉』でも青年を刺激できることに気付いた彼は、「…たしかに、僕は男だけど…『女の子と同じことができる』って、教えてあげる」と言い、青年の反応を楽しむようにして体を上下させはじめた。
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