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特別編
「秋の夜長」後編
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静謐な夜の寝台。
その上では一組の番が胸を重ね合わせて呼吸の波を共にしている。
一対のアルファとオメガを包む穏やかな空気には、先ほどまでの激しい熱気がまだかすかに残っているようだ。
一通りの情事を終えた後の2人の体もうっすらと汗ばむほど熱くなったままで、そっと動かした足に触れるひやりとした寝具がむしろとても心地いい。
彼は『熊』の上に腹ばいになって乗っかりながら、「なぁ、熊」とやけに満ち足りた表情で口を開いた。
「子供達、どうしてるかな」
『熊』が「うん?」と反応すると、彼はくすくすと笑う。
「ほら、虎やひょうはなんも心配ないけどさ。獅は今頃どうしてるかと思って…行くときにちょっと渋ってたから」
「そうだね。結局自分で『行く』って言って荷車に乗ったけど」
「そうそう…」
身動ぎした彼の体内を、挿入されたままになっている『熊』の肉棒が微妙にかき回して妙な感覚をもたらす。
その感覚に《んんっ…》と喉から声を漏らした彼の背を撫でつつ、『熊』は「まぁ、楽しくやってるでしょ」と落ち着いた様子で言った。
「獅は大人しくてちょっと引っ込み思案なところがあるかもしれないけど、それは虎やひょうのそばにいるから余計にそう見えるだけでさ、実際はそこまででもないし。むしろ兄弟3人揃って楽しいことが大好きなんだから、一歩踏み出しさえすればやっぱりああいうお泊りでも何でも楽しむはずだよ。うん…今も、もう僕達のことは気にも留めてないんじゃないかな」
「…それはそれで寂しいじゃん、俺達が」
「ね、寂しいよね」
頬を膨らませるようにしながら、ほんの少し上体を起こして『熊』の髪を撫でる彼。
『熊』のこげ茶色をした少し硬めの髪をこうして手で梳かすようにするのは、彼がする【小休止中】の習慣、癖だ。
髪が指の間をサラサラと滑る感覚は他では味わえない。
『熊』は大人しく髪を撫でられながら「獅のことは、霽君が連れ出してくれたようなものだったね」と片眉を上げる。
「僕達が言っても行く気にならなかったのに。あの子が話したら途端に行く気になって。上手く誘い出してくれたっていうか…」
「そうそう…!あの時の2人、すごく可愛かったよな。すっかり話に夢中になって、そのまま一緒に遊ぶ約束とかしだして…微笑ましいったらなかったよ」
「うん」
昼間のことを思い出して愉快そうに笑う彼は「なーんかあの2人はやけに仲良しなんだよなぁ」と目を細めた。
「会えば必ずずっと一緒にいるしさ。ほら、前に皆で原っぱ行ったときも あの2人は基本的に2人っきりでお喋りと手遊びばっかりしてたろ。最後の方に霽君が獅を連れて兄ちゃん達のお遊びに混ざってたけど」
「…霽君はいつも獅に合わせて遊んだりしてくれるんだよな。引っ込み思案なところがある獅を引っ張ってくれて、外に連れ出してくれるんだ。で、獅も霽君には無条件にくっついていく。うん…やけに厚い信頼、仲の良さ…これはただならぬものを感じる、将来何か起こりそうな気がする~!」
彼がわくわくとした声を出すと、『熊』は『まさか』と言うかのように「獅と霽君が?」と聞き返す。
彼は大きく頷いた。
「俺には感じる、ピンときてる。幼馴染ってやつか~、いいね、可愛いなぁ」
「まだあの子達は5歳だけど?」
「うん。でも、好きな気持ちを持つのには歳は関係ないだろ?もちろん、もう少し大きくなったら関係性は変わるかもしれないけど…とにかく、なんとなく俺はあの2人がこの先もずっと一緒にいるような気がするんだよ。それがどういう仲なのかは分からないけどさ。だけど男同士、ベータ同士でも、俺は幸せでいてくれるなら大歓迎ってこと」
「それはそうだね」
「だろ?」
『熊』の賛同を得た彼は、その嬉しい気持ちのままにちゅっと『熊』へ軽く口づける。
第1性別と第2性別が同じであったとしても、それに捉われずに自らの幸せを掴み取って欲しいというのが彼と『熊』の、子供達への想いなのだ。
改めてその認識を確認しあった彼と『熊』。
彼は目を伏せ、美しい弧を描く『熊』の唇を見つめながら「俺もそうしたよ、絶対に」と口を開く。
「俺がもしオメガじゃなかったとしても…俺は熊のことを好きになってた。絶対にね」
「うん?」
目にかかりそうになっていた彼の前髪をかきあげる『熊』に、彼は「ほら、ほらな」と微笑んで言った。
「優しい、頼りがいがある。親切で柔らかい雰囲気なのに、強さもある。料理が上手くて、世話焼きだ。…俺はオメガじゃなくても熊のことが好きで堪らなくなってたなって思うんだ。だって本当に本当に…大好きだから」
すると、それを聞いた『熊』も「僕もだよ」とすかさず応える。
あまりにも速い反応速度に彼が「ははっ、そうだといいなぁ」と苦笑すると、『熊』は大真面目になって眉をひそめた。
「絶対にそばにいたよ、そもそも僕が君を好きになったのも別に第2性別は関係なかったんだから。そうでしょ?」
「ん、そうだな。熊は俺のことベータだと思ってたんだし」
「うん」
今となっては懐かしい、出逢った頃のこと。
彼自身は自分がオメガだと知っていたため、好きになった相手が番になれるアルファかどうかということしかほとんど気にならなかったのだが、『熊』の方はまさか彼がオメガとは思わず、それこそ【男同士が一緒になれるのだろうか】と思い悩んだに違いない。
だが、たとえ番になれない男同士であったとしても彼らは一緒になっていただろう。
なんにせよ、彼らはきちんとした番として今日も子供達と共に生活している。それが全てだ。
「ま、俺達はどうあっても一緒になる運命だってことだ!」
嬉しそうに言う彼。
その一点の曇りもない表情は、ただただ幸せそうな雰囲気を辺りに振りまくようなものだ。
それは『熊』との日々によってもたらされたものであるに違いない。
彼の頬を一撫でした『熊』は、そのまま両頬を手のひらで包み込んだまま「…愛してるよ」とまっすぐに愛の言葉を囁いた。
耳がくすぐったくなるような、じんわりと熱を持つような。そんな声で。
「君に出逢えて良かった。君がいない人生なんて想像もできないよ。僕は君と番になることができて…こうして一緒になることができて、本当に…」
言葉を詰まらせる『熊』の瞳にはうっすらと涙が滲んでいる。
アルファが涙を滲ませることなど、よほどのことがなければないだろう。
彼はそんな『熊』が愛おしくて堪らなくなり、とろけるような笑みを見せながら自らの頬に添えられている手を握った。
指を絡ませてしっかりと握ると、同じように握り返される。
手から伝わるその力が、今この瞬間が夢などではないということを知らしめる。
「熊…」
彼はそっと下腹部を動かし、視線を『熊』の瞳と唇と、眉と耳と喉を彷徨わせながら吐息を多く聞かせた。
「もいっかい…しよ…?」
すでに挿入されたままになっている『熊』の肉棒をわずかに抜き挿しして誘う彼。
誘いを断ることなどさせない、というように下腹部を摺り寄せるため、彼の軽く勃起したそれは『熊』の腹の上に押し付けられている。
自らの上で、自らの肉棒を体内に飲み込んでいる番が、自らとの情事を求めている。
これ以上にアルファを激しくたきつけるものはないだろう。
「一回?一回でいいの」
徐々に動きを大きくしている彼に問うと、彼は「んん…だって明日動けなくなっちゃうって…」と困り顔になって答える。
それはほとんど、『一回では足りない』と言っているようなものだ。
『熊』は握った彼の手に口づけながら「明日はこうしてゆっくりすればいいよ」と語りかけた。
「明日は一日中こうしてくっついたまま2人で木の実を剥いて、お腹がすいたらなにか食べて…いつもみたいにあくせくするんじゃなく、ゆっくり過ごそう。せっかく2人きりなんだから」
その言葉を受けていっそう体の動きを大きくする彼は、やがて更なる刺激を求めて身を起こし、完全な騎乗位の姿勢をとって激しく体を上下させ始める。
固く握りあった手を支えにしながら、肉棒が半分ほど抜き出ては再び体内に収まるような抽挿を繰り返す彼。
今夜既に一度中で射精されているため、彼の体内は『熊』の精液でいっぱいだ。
それまで肉棒によってせき止められていたその精液は、彼が抽挿を再開させたことによってジュプジュプというやけに大きく響く音と共に外へ溢れ出し、2人の股を汚していく。
単なる水音ではないことが確かなそれが、さらなる興奮を煽る。
明るい中で交わることについて恥を感じていた彼だが、一度絡み合ってしまえばもはやその気持ちもどこかへと消え去り、大胆に『熊』を求めることができるようになった。
彼はこの体位において一番いい部分を一番いい形で刺激される角度を探るように上体を後ろへ反らせてみたり、膝をぴったりと閉じてみたり、さらには左右に大きく開いてみたりと試している。
そんな試みは『熊』に彼の秘部を、結合部を見せつけているようなもので、なんとも淫らだ。
白濁を滴らせながら肉棒が出入りする秘部を見せつけつつ「あっ、ああっあっ」と喘ぎ声を響かせる彼。
彼はまだあの薄衣を羽織ったままでいる。
彼の快感に悶える表情と、薄衣に透けた体と、そして結合部を下から眺めるのは絶景という他にないだろう。
視覚と抽挿の感覚に唇を噛みしめながら浸る『熊』は、彼が薄衣から肩を抜いて脱ごうとしたのを「だめ、脱がないで」と引き止めた。
体を動かしている彼にはいい加減さらさらと触れる薄衣が邪魔になっているらしい。
「もう…いいじゃん、脱いだって…!」
はぁっはぁっと荒く呼吸をする彼に、『熊』は小さく首を振って「だめ」とはっきり言う。
「似合ってるんだから、そのまま着てて。着たままじっくりシよ」
「で、もっ…」
「今脱いだらもう二度と着てくれなさそうだ、だから脱がせるわけにはいかない。またこれを着るって約束してくれたら…脱いでもいいけど。ね、どうする?また着てくれる?」
彼の体を薄衣の上からまさぐり始める『熊』。
前がはだけた薄衣は、彼の成熟した体を滑らかに覆いながら動きに合わせてひらひらと揺れ動いている。
子を3人産み育てた彼の乳首は熟れた濃い色になり、ぷっくりと膨らんでいて、熟した大事な果実をそこに実らせているかのようだ。
それはむしろそこへ触れたいという欲を掻き立てるものであり、『熊』が欲に従って薄衣の上から乳首を摘むと、彼はびくりと反応して動きを止める。
さらに人差し指と親指で尖りを摘み、捏ね、軽くひっぱると、彼は喉を反らして大きく喘ぐ。
きつく締め付けられる『熊』の肉棒。
もはや自分で体を動かすこともできず、かといって絶頂に至ることもできずにいる彼は天井を仰ぎ見ながら「も、う頼むっから…!」と懇願した。
「また着るから…だからこのままはもう、やだ…直接触ってほし…」
「また着る?ほんと?」
「着る、着るから…っ!」
何度もこくこくと頷く彼に、『熊』は「約束だよ?」と念を押すと、彼の肩から薄衣の中へ手を滑らせてそのまま脱がせる。
さらりと彼の肌を滑り落ちた薄衣は絶妙に彼の背をくすぐり、ぞわぞわとした感覚を与えた。
それから『熊』は彼の腰を両手でしっかりと掴み、下から勢いよく肉棒を上に向かって突き上げるように動く。
一突き一突き、それまでのゆったりとした抽挿とは比べ物にならない重さの衝撃だ。
逃れることのできないその抽挿に、彼は『熊』の腕につかまりながら絶頂が近いことを苦しげに伝える。
「いっ、イキ、そ…うぅっ、イック…!!」
腰を突き上げたまま、一番奥をぐりぐりと刺激する『熊』。
彼はそうして体内を貫かれ、がくがくと下半身を震わせて体中の力を抜いた。
『熊』はそれと同時に身を起こして後ろへ倒れ込みそうになる彼の腕を掴み、抱き寄せて自らに もたれかからせる。
ぐったりとする彼の激しい鼓動が自らのもののように感じられるほど胸をぴったりとくっつけている『熊』は、彼の呼吸が落ち着くのを待つように体を前後に揺らし、背を摩って様子を窺った。
「大丈夫?」
彼はほとんど力の入っていない腕で懸命に『熊』を抱きしめ返しながら「っん…きもち…きもちい…」とかすかに笑みを浮かべる。
あまりにも強く突き上げすぎたかと心配する『熊』に、彼は「奥…嬉しい」と耳たぶに齧りついて答えた。
「奥、いっぱい突かれんの…久しぶりで……っごくきもち、い…」
「そう?そうだね、いつもはこんなに激しくできないから」
「うん…」
ーーーーーー
そうして囁きながらの会話をいくつかしてまた少し落ち着きを取り戻し始めた彼。
見つめ合うと、『熊』の濃い蜂蜜色をした瞳にうっすらと汗ばんだ彼の幸せそうな笑みが映る。
それは見る度に『熊』の心をくすぐるような甘さを含んでいる。
「熊…」
「うん?」
「後で…一緒に湯浴み、しよ」
彼の提案に『熊』が「なんで、さっきは嫌がったのに」と微笑むと、彼は小さくため息をついて答えた。
「もう今さら…隠すものもないし。それに…一緒に入りたかったのは、俺だってそうなんだよ……」
明るいところで体を見られるのも、薄衣に着替えるのも。
彼が『熊』と共に湯浴みをするのに躊躇していた理由は、もはやなんの意味もなくなっている。
『熊』は「じゃ、一緒に湯浴みしよう。浴槽は狭いから…くっついてね」と彼の背を撫でた。
「はぁ…またこういうの着てくれるの…楽しみだな。後で洗っておくから、明日も着てくれない?」
下にくしゃくしゃになっている薄衣を視線で指しながら言う『熊』に、彼は「あれ、そんなに気に入ったのか」と軽く笑い声をあげる。
「そんなに喜ばれるとは…思わなかったんだけど」
「どうして?あんな格好を自分のためにってされて 喜ばない人がいる?絶対にまた着てね。これ、良く似合ってたから」
嬉しそうに目を細める『熊』に、彼は「これ…は何がそんなに気に入ったの」と不思議そうに訊ねた。
「色が黒なのが良かったのか」
すると『熊』は「うーん、たしかに君はあまり黒っぽい衣を着ないから、新鮮ではあったかもね」と彼の髪を手のひらで撫でつける。
「こういう色が君の肌によく映えるんだってことを知ったよ、それくらいとっても似合ってた。絶対に明日も着てよ、さっき約束したんだからね」
何度も念を押す『熊』。
彼はうんとも頷かずに「この衣が…いいってこと?」と黒い薄衣を目の端に捉えてさらに呟いた。
「他の色…っていうか、他のやつがいいとかはないのか。たとえば…」
「他の?他にもあるの?」
食い気味に訊ねられて彼がたじろぐと、『熊』は「他の色があるって?」と詰め寄る。
「なに、何着もらったの、この黒いのだけじゃないんだ?」
「っ…まぁ、な」
『熊』の肩に手を置いたまま俯く彼の表情は前髪に隠れてよく見えないが、首筋が真っ赤になっているのは確かだ。
「何着持ってるの」
「……この黒いのを合わせて2着」
「こういう、スケスケの薄衣を?」
「…あぁ、そうだよ」
「何色?何色のなの。赤?青?緑とか?」
「色…色は…」
「あ、いや、やっぱり言わないで。明日見せてもらうまでの楽しみにするから」
うきうきとした弾む声の『熊』はもう一度ぎゅっと彼を抱きしめると、彼の額と瞼と目のすぐ下の頬に口づけ、さらに下へと辿っていく。
唇、顎先、そして身を屈めるようにして喉仏にも。
口づける場所は、それだけでは足りない。
「…ちょっと膝立ちになって。…ん、そう」
『熊』の要望に沿って彼が肉棒の先端を体内に収めたまま膝立ちになると、ちょうど『熊』の口元の辺りに彼の胸があてがわれる。
そのまま口に含んでそこに様々なことをするのには、とてもちょうどいい高さだ。
「あっ、そ、そこ…っ」
『熊』は彼のピンと硬く尖った乳首を口に含み、そこを甘噛みしたり、唇で挟んで引っ張ったり、舌で押しつぶすように舐めたりとあらゆる刺激を加えていく。
強く刺激した後は唾液を多く纏わせた舌で優しく、大きな動きで舐め、そしてまたちゅうちゅうと乳輪ごと吸うような刺激をそこへ。
その緩急のある執拗な愛撫に彼は「そんな吸うなって…」と眉をひそめるが、それでも『熊』を引き剥がそうとはせず、むしろ抱きしめる腕の強さを増している。
膝立ちになっていることで足には必然的に力が入り、下半身全体の快感をも高めているようだ。
不思議なことに、胸を弄られていることで感じるびりびりとした快感が肉棒や体内の1点にも線でつながっているように作用する。
「ちょっ…そんな吸っても なんも出なっ…」
「………」
「だっめ、胸、胸だけで、俺、もう…~っ!!」
体を仰け反らせるようにして彼は絶頂を迎えた。
胸への刺激だけで快感の頂点に達した彼の体内は挿入されたままの『熊』の肉棒に吸いつくかのように何度も収縮し、硬く勃起しているものを締め上げる。
まだ今夜一度しか射精していない『熊』はその刺激を受けてじっとしていられるはずもなく、彼の肩を後ろに押し倒していくらか早い抽挿を始めた。
規則的なその動きに加え、『熊』は「まだ…君も1回しか出してないから」と彼の肉棒を手に収めて扱く。
中や胸への刺激だけで何度も絶頂に達している彼は、直接肉棒へ触れられると天地も分からないほどのぼうっとするような感覚に見舞われ、言葉にもならないような嬌声を上げる。
それはいつもの彼のはつらつとした声ではない。
凛とした透明感のあるものでもない。
ただただ、番との愛に溺れる者の声だ。
「やっ…ぁっ!!あぁっ、ああぁっんっ!!!」
パッと自らの胸に向けて白濁を飛ばす彼。
断続的に放たれたその白濁はほとんど量もなく、出しきった状態であることは間違いないだろう。
だが、彼が射精に至っても『熊』はその手を止めなかった。
「くま…くま、はなしてくれ…」
「……」
「くま…?っ…はなせ、はなせよ、くま…!おれ、いまイッたって…っ、だしたんだって!」
「うん…」
「き、きけよっ!だしたばっか…はなせ、はなしてくれ、やめっ…やめろ…っ!!」
腰を動かしながらも器用に彼の先端を攻め続ける『熊』には、彼の必死な嘆願も届いていないようだ。
射精後すぐの肉棒、主に亀頭への刺激はくすぐったいような妙な感覚を下腹部から全身に伝えているが、やがてそれはどこか知らない体の奥深くからのむずむずとしたものをも呼び寄せる。
それはあの感覚にそっくりだ。
「ま、まて、くま、おれ、手洗いに、いき…ったい、かも」
「…ここでいいよ」
「っ!?な、なにいってんだ、いっ、いいわけあるか…っ!」
彼はなんとかして『熊』の手から逃れようともがくが、体中が敏感になっている彼の抵抗など無いに等しい。
「あぁっ、うぅ…どけっ、もうやめ、ろ…っ…」
水から上げられて尾ひれを叩くこともできなくなった魚のように、彼はどこか1点を見つめて虚ろに言う。
それまで守ってきたなにかの最後の一線が、越えられようとしていた。
「あっ…あぁっ、で、でちゃ、でちゃう……でるって…う、うぅ…」
はぁはぁと息をしながら、ふと彼の体のこわばりが解けた瞬間のこと。
『熊』が湯浴み上がりに使っていた大きな厚めの浴布を掴んで彼の体に被せると、ほとんど乾いた状態だったその浴布には水濡れによるシミが拡がっていった。
顔を両手で隠す彼の体はビクビクと跳ね、浴布をさらにしっとりとさせていく。
その勢いは大変なものであり、『熊』が浴布を被せていなければきっと寝台の端を軽々と超えて辺りに水を撒いていたに違いない。
ようやく彼の反応が終わったところを見計らい、『熊』は3度ゆっくりと彼の中を突いてから今夜2度目の射精を果たした。
ーーーーーー
「だからやめろって、言ったのに…」
ぷるぷると震えながら端に丸まって置かれた浴布を見やる彼。
すっかり濡れそぼったその浴布は彼の分泌したものをすべて吸収していて、見るからに重そうだ。
彼は『熊』の熱心な口づけを首に受けながら、今さっきまでの興奮しきった自らの番の姿を思い出す。
普段は彼の言ったことをなんでも聞き入れる『熊』が、懇願するのも聞かず、潮吹きまでさせるとは。
よほど夢中になっていたのだということがありありと分かるその行動に、彼は思わず愉快そうに目を細め、『熊』の頬に手のひらを添えながら「性欲が強いアルファだな…」と目元を親指の腹でそっと撫でる。
「俺を何度イかせたんだ?っとに…誘われないと手を出さないくせに、いざってときになると本当にすごいんだから」
そう話す彼は真面目そうな表情をしているが、目元を撫でていた指は眉へと移り、そして耳の方へと向かっている。
彼がそうして耳を撫でた後というのは、だいたいその後に首後ろへ手を添えて口づけを要求してくるものだ。
『熊』の予想した通り、彼はやはり首後ろを引き寄せるようにして口づけてきた。
もう何度交わしたのか分からないほどであるというのに、それでもまだ足りないとばかりに舌を絡めてくる彼に、『熊』は苦笑しながら「だめ、今夜はもうお終いにしよう」と唇を離す。
「湯浴みをしないと、気分良く寝られないでしょ。寝具も整え直して…」
だが、そうして彼の体内から肉棒を抜き出そうとすると、体を強く膝で挟み込まれ、それ以上の動きを阻まれてしまう。
『熊』が「ちょっと…」と困ったように眉をひそめると、彼は「おしまい…?」と怪訝そうに言いながら足で『熊』の体を擦り始めた。
その行動、視線、声が示すものはたったひとつではあるのだが、いかんせん寝台はすでに なにからなにまで、めちゃくちゃになっている状態だ。
誘惑を振り払うように、『熊』はぶんぶんと首を振る。
「だめ。君は…体に力が入らないくらいになってるのに、どうしてまだ煽ろうとするの」
「熊、もうシたくないの?」
「だから、そういうことじゃ…僕は君のことを考えて言ってr…」
言いかけた『熊』を遮るように、彼は四肢を使ってしがみつきながら少し外へ出てしまっていた『熊』の肉棒を再び中へと導いた。
すんなりと中へ入ったのは彼の中が愛液と白濁で満たされているからということもあるが、なにより『熊』のものが硬さを失っていないということが大きい。
「まだ勃ってる」
くすりと笑う彼の妖艶さに勝てる者はいないだろう。
最後の抵抗をしようとする『熊』に、彼は囁く。
《熊…一緒に湯浴み、しよ》
《中から掻き出すの、手伝ってほしい》
苦悶の表情を浮かべる『熊』。
それを見た彼は勝利を確信し、これ以上ないというほど愉快な気分になって『熊』を抱きしめた。
「あぁっもう!本っ当に、本当に大好きだ、熊!」
「~~っ…!!」
「あははっ!」
孤独な『魚』と、それを捕らえた『熊』。
そんな一組の番が過ごす秋の夜は何よりも甘く、幸せそのものという空気でいっぱいだ。
愛してる ずっと一緒にいよう
彼らの【香り】が混ざった芳醇な香りは、寝台にとどまらず、辺りを漂って部屋中を包みこんでいた。
その上では一組の番が胸を重ね合わせて呼吸の波を共にしている。
一対のアルファとオメガを包む穏やかな空気には、先ほどまでの激しい熱気がまだかすかに残っているようだ。
一通りの情事を終えた後の2人の体もうっすらと汗ばむほど熱くなったままで、そっと動かした足に触れるひやりとした寝具がむしろとても心地いい。
彼は『熊』の上に腹ばいになって乗っかりながら、「なぁ、熊」とやけに満ち足りた表情で口を開いた。
「子供達、どうしてるかな」
『熊』が「うん?」と反応すると、彼はくすくすと笑う。
「ほら、虎やひょうはなんも心配ないけどさ。獅は今頃どうしてるかと思って…行くときにちょっと渋ってたから」
「そうだね。結局自分で『行く』って言って荷車に乗ったけど」
「そうそう…」
身動ぎした彼の体内を、挿入されたままになっている『熊』の肉棒が微妙にかき回して妙な感覚をもたらす。
その感覚に《んんっ…》と喉から声を漏らした彼の背を撫でつつ、『熊』は「まぁ、楽しくやってるでしょ」と落ち着いた様子で言った。
「獅は大人しくてちょっと引っ込み思案なところがあるかもしれないけど、それは虎やひょうのそばにいるから余計にそう見えるだけでさ、実際はそこまででもないし。むしろ兄弟3人揃って楽しいことが大好きなんだから、一歩踏み出しさえすればやっぱりああいうお泊りでも何でも楽しむはずだよ。うん…今も、もう僕達のことは気にも留めてないんじゃないかな」
「…それはそれで寂しいじゃん、俺達が」
「ね、寂しいよね」
頬を膨らませるようにしながら、ほんの少し上体を起こして『熊』の髪を撫でる彼。
『熊』のこげ茶色をした少し硬めの髪をこうして手で梳かすようにするのは、彼がする【小休止中】の習慣、癖だ。
髪が指の間をサラサラと滑る感覚は他では味わえない。
『熊』は大人しく髪を撫でられながら「獅のことは、霽君が連れ出してくれたようなものだったね」と片眉を上げる。
「僕達が言っても行く気にならなかったのに。あの子が話したら途端に行く気になって。上手く誘い出してくれたっていうか…」
「そうそう…!あの時の2人、すごく可愛かったよな。すっかり話に夢中になって、そのまま一緒に遊ぶ約束とかしだして…微笑ましいったらなかったよ」
「うん」
昼間のことを思い出して愉快そうに笑う彼は「なーんかあの2人はやけに仲良しなんだよなぁ」と目を細めた。
「会えば必ずずっと一緒にいるしさ。ほら、前に皆で原っぱ行ったときも あの2人は基本的に2人っきりでお喋りと手遊びばっかりしてたろ。最後の方に霽君が獅を連れて兄ちゃん達のお遊びに混ざってたけど」
「…霽君はいつも獅に合わせて遊んだりしてくれるんだよな。引っ込み思案なところがある獅を引っ張ってくれて、外に連れ出してくれるんだ。で、獅も霽君には無条件にくっついていく。うん…やけに厚い信頼、仲の良さ…これはただならぬものを感じる、将来何か起こりそうな気がする~!」
彼がわくわくとした声を出すと、『熊』は『まさか』と言うかのように「獅と霽君が?」と聞き返す。
彼は大きく頷いた。
「俺には感じる、ピンときてる。幼馴染ってやつか~、いいね、可愛いなぁ」
「まだあの子達は5歳だけど?」
「うん。でも、好きな気持ちを持つのには歳は関係ないだろ?もちろん、もう少し大きくなったら関係性は変わるかもしれないけど…とにかく、なんとなく俺はあの2人がこの先もずっと一緒にいるような気がするんだよ。それがどういう仲なのかは分からないけどさ。だけど男同士、ベータ同士でも、俺は幸せでいてくれるなら大歓迎ってこと」
「それはそうだね」
「だろ?」
『熊』の賛同を得た彼は、その嬉しい気持ちのままにちゅっと『熊』へ軽く口づける。
第1性別と第2性別が同じであったとしても、それに捉われずに自らの幸せを掴み取って欲しいというのが彼と『熊』の、子供達への想いなのだ。
改めてその認識を確認しあった彼と『熊』。
彼は目を伏せ、美しい弧を描く『熊』の唇を見つめながら「俺もそうしたよ、絶対に」と口を開く。
「俺がもしオメガじゃなかったとしても…俺は熊のことを好きになってた。絶対にね」
「うん?」
目にかかりそうになっていた彼の前髪をかきあげる『熊』に、彼は「ほら、ほらな」と微笑んで言った。
「優しい、頼りがいがある。親切で柔らかい雰囲気なのに、強さもある。料理が上手くて、世話焼きだ。…俺はオメガじゃなくても熊のことが好きで堪らなくなってたなって思うんだ。だって本当に本当に…大好きだから」
すると、それを聞いた『熊』も「僕もだよ」とすかさず応える。
あまりにも速い反応速度に彼が「ははっ、そうだといいなぁ」と苦笑すると、『熊』は大真面目になって眉をひそめた。
「絶対にそばにいたよ、そもそも僕が君を好きになったのも別に第2性別は関係なかったんだから。そうでしょ?」
「ん、そうだな。熊は俺のことベータだと思ってたんだし」
「うん」
今となっては懐かしい、出逢った頃のこと。
彼自身は自分がオメガだと知っていたため、好きになった相手が番になれるアルファかどうかということしかほとんど気にならなかったのだが、『熊』の方はまさか彼がオメガとは思わず、それこそ【男同士が一緒になれるのだろうか】と思い悩んだに違いない。
だが、たとえ番になれない男同士であったとしても彼らは一緒になっていただろう。
なんにせよ、彼らはきちんとした番として今日も子供達と共に生活している。それが全てだ。
「ま、俺達はどうあっても一緒になる運命だってことだ!」
嬉しそうに言う彼。
その一点の曇りもない表情は、ただただ幸せそうな雰囲気を辺りに振りまくようなものだ。
それは『熊』との日々によってもたらされたものであるに違いない。
彼の頬を一撫でした『熊』は、そのまま両頬を手のひらで包み込んだまま「…愛してるよ」とまっすぐに愛の言葉を囁いた。
耳がくすぐったくなるような、じんわりと熱を持つような。そんな声で。
「君に出逢えて良かった。君がいない人生なんて想像もできないよ。僕は君と番になることができて…こうして一緒になることができて、本当に…」
言葉を詰まらせる『熊』の瞳にはうっすらと涙が滲んでいる。
アルファが涙を滲ませることなど、よほどのことがなければないだろう。
彼はそんな『熊』が愛おしくて堪らなくなり、とろけるような笑みを見せながら自らの頬に添えられている手を握った。
指を絡ませてしっかりと握ると、同じように握り返される。
手から伝わるその力が、今この瞬間が夢などではないということを知らしめる。
「熊…」
彼はそっと下腹部を動かし、視線を『熊』の瞳と唇と、眉と耳と喉を彷徨わせながら吐息を多く聞かせた。
「もいっかい…しよ…?」
すでに挿入されたままになっている『熊』の肉棒をわずかに抜き挿しして誘う彼。
誘いを断ることなどさせない、というように下腹部を摺り寄せるため、彼の軽く勃起したそれは『熊』の腹の上に押し付けられている。
自らの上で、自らの肉棒を体内に飲み込んでいる番が、自らとの情事を求めている。
これ以上にアルファを激しくたきつけるものはないだろう。
「一回?一回でいいの」
徐々に動きを大きくしている彼に問うと、彼は「んん…だって明日動けなくなっちゃうって…」と困り顔になって答える。
それはほとんど、『一回では足りない』と言っているようなものだ。
『熊』は握った彼の手に口づけながら「明日はこうしてゆっくりすればいいよ」と語りかけた。
「明日は一日中こうしてくっついたまま2人で木の実を剥いて、お腹がすいたらなにか食べて…いつもみたいにあくせくするんじゃなく、ゆっくり過ごそう。せっかく2人きりなんだから」
その言葉を受けていっそう体の動きを大きくする彼は、やがて更なる刺激を求めて身を起こし、完全な騎乗位の姿勢をとって激しく体を上下させ始める。
固く握りあった手を支えにしながら、肉棒が半分ほど抜き出ては再び体内に収まるような抽挿を繰り返す彼。
今夜既に一度中で射精されているため、彼の体内は『熊』の精液でいっぱいだ。
それまで肉棒によってせき止められていたその精液は、彼が抽挿を再開させたことによってジュプジュプというやけに大きく響く音と共に外へ溢れ出し、2人の股を汚していく。
単なる水音ではないことが確かなそれが、さらなる興奮を煽る。
明るい中で交わることについて恥を感じていた彼だが、一度絡み合ってしまえばもはやその気持ちもどこかへと消え去り、大胆に『熊』を求めることができるようになった。
彼はこの体位において一番いい部分を一番いい形で刺激される角度を探るように上体を後ろへ反らせてみたり、膝をぴったりと閉じてみたり、さらには左右に大きく開いてみたりと試している。
そんな試みは『熊』に彼の秘部を、結合部を見せつけているようなもので、なんとも淫らだ。
白濁を滴らせながら肉棒が出入りする秘部を見せつけつつ「あっ、ああっあっ」と喘ぎ声を響かせる彼。
彼はまだあの薄衣を羽織ったままでいる。
彼の快感に悶える表情と、薄衣に透けた体と、そして結合部を下から眺めるのは絶景という他にないだろう。
視覚と抽挿の感覚に唇を噛みしめながら浸る『熊』は、彼が薄衣から肩を抜いて脱ごうとしたのを「だめ、脱がないで」と引き止めた。
体を動かしている彼にはいい加減さらさらと触れる薄衣が邪魔になっているらしい。
「もう…いいじゃん、脱いだって…!」
はぁっはぁっと荒く呼吸をする彼に、『熊』は小さく首を振って「だめ」とはっきり言う。
「似合ってるんだから、そのまま着てて。着たままじっくりシよ」
「で、もっ…」
「今脱いだらもう二度と着てくれなさそうだ、だから脱がせるわけにはいかない。またこれを着るって約束してくれたら…脱いでもいいけど。ね、どうする?また着てくれる?」
彼の体を薄衣の上からまさぐり始める『熊』。
前がはだけた薄衣は、彼の成熟した体を滑らかに覆いながら動きに合わせてひらひらと揺れ動いている。
子を3人産み育てた彼の乳首は熟れた濃い色になり、ぷっくりと膨らんでいて、熟した大事な果実をそこに実らせているかのようだ。
それはむしろそこへ触れたいという欲を掻き立てるものであり、『熊』が欲に従って薄衣の上から乳首を摘むと、彼はびくりと反応して動きを止める。
さらに人差し指と親指で尖りを摘み、捏ね、軽くひっぱると、彼は喉を反らして大きく喘ぐ。
きつく締め付けられる『熊』の肉棒。
もはや自分で体を動かすこともできず、かといって絶頂に至ることもできずにいる彼は天井を仰ぎ見ながら「も、う頼むっから…!」と懇願した。
「また着るから…だからこのままはもう、やだ…直接触ってほし…」
「また着る?ほんと?」
「着る、着るから…っ!」
何度もこくこくと頷く彼に、『熊』は「約束だよ?」と念を押すと、彼の肩から薄衣の中へ手を滑らせてそのまま脱がせる。
さらりと彼の肌を滑り落ちた薄衣は絶妙に彼の背をくすぐり、ぞわぞわとした感覚を与えた。
それから『熊』は彼の腰を両手でしっかりと掴み、下から勢いよく肉棒を上に向かって突き上げるように動く。
一突き一突き、それまでのゆったりとした抽挿とは比べ物にならない重さの衝撃だ。
逃れることのできないその抽挿に、彼は『熊』の腕につかまりながら絶頂が近いことを苦しげに伝える。
「いっ、イキ、そ…うぅっ、イック…!!」
腰を突き上げたまま、一番奥をぐりぐりと刺激する『熊』。
彼はそうして体内を貫かれ、がくがくと下半身を震わせて体中の力を抜いた。
『熊』はそれと同時に身を起こして後ろへ倒れ込みそうになる彼の腕を掴み、抱き寄せて自らに もたれかからせる。
ぐったりとする彼の激しい鼓動が自らのもののように感じられるほど胸をぴったりとくっつけている『熊』は、彼の呼吸が落ち着くのを待つように体を前後に揺らし、背を摩って様子を窺った。
「大丈夫?」
彼はほとんど力の入っていない腕で懸命に『熊』を抱きしめ返しながら「っん…きもち…きもちい…」とかすかに笑みを浮かべる。
あまりにも強く突き上げすぎたかと心配する『熊』に、彼は「奥…嬉しい」と耳たぶに齧りついて答えた。
「奥、いっぱい突かれんの…久しぶりで……っごくきもち、い…」
「そう?そうだね、いつもはこんなに激しくできないから」
「うん…」
ーーーーーー
そうして囁きながらの会話をいくつかしてまた少し落ち着きを取り戻し始めた彼。
見つめ合うと、『熊』の濃い蜂蜜色をした瞳にうっすらと汗ばんだ彼の幸せそうな笑みが映る。
それは見る度に『熊』の心をくすぐるような甘さを含んでいる。
「熊…」
「うん?」
「後で…一緒に湯浴み、しよ」
彼の提案に『熊』が「なんで、さっきは嫌がったのに」と微笑むと、彼は小さくため息をついて答えた。
「もう今さら…隠すものもないし。それに…一緒に入りたかったのは、俺だってそうなんだよ……」
明るいところで体を見られるのも、薄衣に着替えるのも。
彼が『熊』と共に湯浴みをするのに躊躇していた理由は、もはやなんの意味もなくなっている。
『熊』は「じゃ、一緒に湯浴みしよう。浴槽は狭いから…くっついてね」と彼の背を撫でた。
「はぁ…またこういうの着てくれるの…楽しみだな。後で洗っておくから、明日も着てくれない?」
下にくしゃくしゃになっている薄衣を視線で指しながら言う『熊』に、彼は「あれ、そんなに気に入ったのか」と軽く笑い声をあげる。
「そんなに喜ばれるとは…思わなかったんだけど」
「どうして?あんな格好を自分のためにってされて 喜ばない人がいる?絶対にまた着てね。これ、良く似合ってたから」
嬉しそうに目を細める『熊』に、彼は「これ…は何がそんなに気に入ったの」と不思議そうに訊ねた。
「色が黒なのが良かったのか」
すると『熊』は「うーん、たしかに君はあまり黒っぽい衣を着ないから、新鮮ではあったかもね」と彼の髪を手のひらで撫でつける。
「こういう色が君の肌によく映えるんだってことを知ったよ、それくらいとっても似合ってた。絶対に明日も着てよ、さっき約束したんだからね」
何度も念を押す『熊』。
彼はうんとも頷かずに「この衣が…いいってこと?」と黒い薄衣を目の端に捉えてさらに呟いた。
「他の色…っていうか、他のやつがいいとかはないのか。たとえば…」
「他の?他にもあるの?」
食い気味に訊ねられて彼がたじろぐと、『熊』は「他の色があるって?」と詰め寄る。
「なに、何着もらったの、この黒いのだけじゃないんだ?」
「っ…まぁ、な」
『熊』の肩に手を置いたまま俯く彼の表情は前髪に隠れてよく見えないが、首筋が真っ赤になっているのは確かだ。
「何着持ってるの」
「……この黒いのを合わせて2着」
「こういう、スケスケの薄衣を?」
「…あぁ、そうだよ」
「何色?何色のなの。赤?青?緑とか?」
「色…色は…」
「あ、いや、やっぱり言わないで。明日見せてもらうまでの楽しみにするから」
うきうきとした弾む声の『熊』はもう一度ぎゅっと彼を抱きしめると、彼の額と瞼と目のすぐ下の頬に口づけ、さらに下へと辿っていく。
唇、顎先、そして身を屈めるようにして喉仏にも。
口づける場所は、それだけでは足りない。
「…ちょっと膝立ちになって。…ん、そう」
『熊』の要望に沿って彼が肉棒の先端を体内に収めたまま膝立ちになると、ちょうど『熊』の口元の辺りに彼の胸があてがわれる。
そのまま口に含んでそこに様々なことをするのには、とてもちょうどいい高さだ。
「あっ、そ、そこ…っ」
『熊』は彼のピンと硬く尖った乳首を口に含み、そこを甘噛みしたり、唇で挟んで引っ張ったり、舌で押しつぶすように舐めたりとあらゆる刺激を加えていく。
強く刺激した後は唾液を多く纏わせた舌で優しく、大きな動きで舐め、そしてまたちゅうちゅうと乳輪ごと吸うような刺激をそこへ。
その緩急のある執拗な愛撫に彼は「そんな吸うなって…」と眉をひそめるが、それでも『熊』を引き剥がそうとはせず、むしろ抱きしめる腕の強さを増している。
膝立ちになっていることで足には必然的に力が入り、下半身全体の快感をも高めているようだ。
不思議なことに、胸を弄られていることで感じるびりびりとした快感が肉棒や体内の1点にも線でつながっているように作用する。
「ちょっ…そんな吸っても なんも出なっ…」
「………」
「だっめ、胸、胸だけで、俺、もう…~っ!!」
体を仰け反らせるようにして彼は絶頂を迎えた。
胸への刺激だけで快感の頂点に達した彼の体内は挿入されたままの『熊』の肉棒に吸いつくかのように何度も収縮し、硬く勃起しているものを締め上げる。
まだ今夜一度しか射精していない『熊』はその刺激を受けてじっとしていられるはずもなく、彼の肩を後ろに押し倒していくらか早い抽挿を始めた。
規則的なその動きに加え、『熊』は「まだ…君も1回しか出してないから」と彼の肉棒を手に収めて扱く。
中や胸への刺激だけで何度も絶頂に達している彼は、直接肉棒へ触れられると天地も分からないほどのぼうっとするような感覚に見舞われ、言葉にもならないような嬌声を上げる。
それはいつもの彼のはつらつとした声ではない。
凛とした透明感のあるものでもない。
ただただ、番との愛に溺れる者の声だ。
「やっ…ぁっ!!あぁっ、ああぁっんっ!!!」
パッと自らの胸に向けて白濁を飛ばす彼。
断続的に放たれたその白濁はほとんど量もなく、出しきった状態であることは間違いないだろう。
だが、彼が射精に至っても『熊』はその手を止めなかった。
「くま…くま、はなしてくれ…」
「……」
「くま…?っ…はなせ、はなせよ、くま…!おれ、いまイッたって…っ、だしたんだって!」
「うん…」
「き、きけよっ!だしたばっか…はなせ、はなしてくれ、やめっ…やめろ…っ!!」
腰を動かしながらも器用に彼の先端を攻め続ける『熊』には、彼の必死な嘆願も届いていないようだ。
射精後すぐの肉棒、主に亀頭への刺激はくすぐったいような妙な感覚を下腹部から全身に伝えているが、やがてそれはどこか知らない体の奥深くからのむずむずとしたものをも呼び寄せる。
それはあの感覚にそっくりだ。
「ま、まて、くま、おれ、手洗いに、いき…ったい、かも」
「…ここでいいよ」
「っ!?な、なにいってんだ、いっ、いいわけあるか…っ!」
彼はなんとかして『熊』の手から逃れようともがくが、体中が敏感になっている彼の抵抗など無いに等しい。
「あぁっ、うぅ…どけっ、もうやめ、ろ…っ…」
水から上げられて尾ひれを叩くこともできなくなった魚のように、彼はどこか1点を見つめて虚ろに言う。
それまで守ってきたなにかの最後の一線が、越えられようとしていた。
「あっ…あぁっ、で、でちゃ、でちゃう……でるって…う、うぅ…」
はぁはぁと息をしながら、ふと彼の体のこわばりが解けた瞬間のこと。
『熊』が湯浴み上がりに使っていた大きな厚めの浴布を掴んで彼の体に被せると、ほとんど乾いた状態だったその浴布には水濡れによるシミが拡がっていった。
顔を両手で隠す彼の体はビクビクと跳ね、浴布をさらにしっとりとさせていく。
その勢いは大変なものであり、『熊』が浴布を被せていなければきっと寝台の端を軽々と超えて辺りに水を撒いていたに違いない。
ようやく彼の反応が終わったところを見計らい、『熊』は3度ゆっくりと彼の中を突いてから今夜2度目の射精を果たした。
ーーーーーー
「だからやめろって、言ったのに…」
ぷるぷると震えながら端に丸まって置かれた浴布を見やる彼。
すっかり濡れそぼったその浴布は彼の分泌したものをすべて吸収していて、見るからに重そうだ。
彼は『熊』の熱心な口づけを首に受けながら、今さっきまでの興奮しきった自らの番の姿を思い出す。
普段は彼の言ったことをなんでも聞き入れる『熊』が、懇願するのも聞かず、潮吹きまでさせるとは。
よほど夢中になっていたのだということがありありと分かるその行動に、彼は思わず愉快そうに目を細め、『熊』の頬に手のひらを添えながら「性欲が強いアルファだな…」と目元を親指の腹でそっと撫でる。
「俺を何度イかせたんだ?っとに…誘われないと手を出さないくせに、いざってときになると本当にすごいんだから」
そう話す彼は真面目そうな表情をしているが、目元を撫でていた指は眉へと移り、そして耳の方へと向かっている。
彼がそうして耳を撫でた後というのは、だいたいその後に首後ろへ手を添えて口づけを要求してくるものだ。
『熊』の予想した通り、彼はやはり首後ろを引き寄せるようにして口づけてきた。
もう何度交わしたのか分からないほどであるというのに、それでもまだ足りないとばかりに舌を絡めてくる彼に、『熊』は苦笑しながら「だめ、今夜はもうお終いにしよう」と唇を離す。
「湯浴みをしないと、気分良く寝られないでしょ。寝具も整え直して…」
だが、そうして彼の体内から肉棒を抜き出そうとすると、体を強く膝で挟み込まれ、それ以上の動きを阻まれてしまう。
『熊』が「ちょっと…」と困ったように眉をひそめると、彼は「おしまい…?」と怪訝そうに言いながら足で『熊』の体を擦り始めた。
その行動、視線、声が示すものはたったひとつではあるのだが、いかんせん寝台はすでに なにからなにまで、めちゃくちゃになっている状態だ。
誘惑を振り払うように、『熊』はぶんぶんと首を振る。
「だめ。君は…体に力が入らないくらいになってるのに、どうしてまだ煽ろうとするの」
「熊、もうシたくないの?」
「だから、そういうことじゃ…僕は君のことを考えて言ってr…」
言いかけた『熊』を遮るように、彼は四肢を使ってしがみつきながら少し外へ出てしまっていた『熊』の肉棒を再び中へと導いた。
すんなりと中へ入ったのは彼の中が愛液と白濁で満たされているからということもあるが、なにより『熊』のものが硬さを失っていないということが大きい。
「まだ勃ってる」
くすりと笑う彼の妖艶さに勝てる者はいないだろう。
最後の抵抗をしようとする『熊』に、彼は囁く。
《熊…一緒に湯浴み、しよ》
《中から掻き出すの、手伝ってほしい》
苦悶の表情を浮かべる『熊』。
それを見た彼は勝利を確信し、これ以上ないというほど愉快な気分になって『熊』を抱きしめた。
「あぁっもう!本っ当に、本当に大好きだ、熊!」
「~~っ…!!」
「あははっ!」
孤独な『魚』と、それを捕らえた『熊』。
そんな一組の番が過ごす秋の夜は何よりも甘く、幸せそのものという空気でいっぱいだ。
愛してる ずっと一緒にいよう
彼らの【香り】が混ざった芳醇な香りは、寝台にとどまらず、辺りを漂って部屋中を包みこんでいた。
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