熊の魚〜オメガバース編〜

蓬屋 月餅

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特別編

「秋の夜長」前編

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 秋。それは作物の収穫が盛んな実りの季節だ。
 そして農業地域では特に忙しくなる季節でもある。
 収穫はもちろんだが、収穫した穀物や野菜の下処理や天日干しなど、冬や来年にむけた備えのための作業が山のようにあるからだ。
 広大な畑での作業は時間に追われるものもあるため、いつもの受け持ちの一家だけでは手が足りないとなると、各々が他所から人手を借りてくることになっている。
 他所からの人手、というのは基本的に他の地域に移り住んだ親戚などだ。
 手伝いと一家団欒を兼ねて集まるこの季節。
 それは多くの者にとって楽しみなものでもある。



ーーーーー



 一日の仕事を終えて静まり返っている食堂。
 その一角で彼と『熊』は2人きりの穏やかな夕食を取っている。
 3人の子供達もいない、完全に彼ら2人だけの夕食だ。

「はは…本当に、こんな静かなのはいつぶりだ?」

 程よく火の通った肉を切り分けながらクスクスと笑う彼に、『熊』も「ほんとだね」と微笑む。

「うちはいっつも賑やかだからね」

 いつも彼らと共にいる3人の子供達は、皆 今日から農業地域に住む先輩番の『さえ』と『みぞれ』達の家に2泊3日で泊まりに行っていて、ここを留守にしている。
 冴と霙の家では主に穀物の栽培をしているのだが、秋になって刈り取りをした後に収穫した穀物を干して乾燥させてから脱穀をするという工程があり、それらをするにあたって人手がかなり必要になるのだそうだ。
 すでに畑には作物は残っておらず、刃物を扱うこともないため、束ねた穀物の穂を運ぶためにも『ぜひ子供達の手も借りたい』ということで報せをもらっていた彼と『熊』。
 作業を手伝いに行くといっても、冴達のもとには同い年くらいの子供達が多くいるため、実際はほとんど泊りがけで遊びに行くようなものだ。



--------



「干しておいた束を持ってただただ荷車と畑とを往復したりするのって 大人だけでやるのはかなり大変でさ…子供達はそんなのでも楽しそうにしてくれるから 僕達もいくらか気が楽になるんだ」

「もちろん子供達は僕が責任をもってみるからね。ちびちゃん組はお義父さんが付きっきりになるし。大人も僕達だけじゃなくて近所の人とか、霙の妹夫婦もいるから。必ず常に子供達に目が向くようにするよ。っていうより必ず僕がそばにいる」

 昼前に馬に引かせた大きな荷車で食堂まで迎えに来た男性オメガの『冴』とその番でアルファの『霙』。
 冴が子供達を預かることについて非常によく気を使っているということはいつもの手紙でのやり取りなどからもよく分かることであり、彼も安心して子供達を預けることができる。
 『熊』がお手製のおかず類や焼き菓子などが詰められた包みを渡す横では『虎』と『ひょう』が荷車の方へはしゃぎながら駆け寄っていった。
 『虎』と『ひょう』は1年前にもこの誘いを受けて農業地域へ泊まりに行ったのだが、今のこのはしゃぎ様を見ても分かる通り、それはそれは楽しいものだったらしい。

 先輩番の家にはさらに、工芸地域に住む霙の妹家族も泊まることになっているため、その妹家族がここへ合流次第 いよいよ出発となるのだが…まだここには荷車に乗っていない子供が1人いた。
 そう、『しし』だ。
 4歳だった昨年はまだお泊りは早かったようで結局は彼や『熊』とここに残ったのだが、そろそろ経験として兄や姉と共に親から離れて寝泊りをしてみようと、今年は一緒に農業地域へ行くことになっていたのだ。
 そこには『兄姉以外の同年代の子供達はもちろん、祖父母にあたる年代の人とも沢山触れ合いをもってほしい』という彼と『熊』の願いも込められている。
 彼は実家との関係が複雑であり、さらに『熊』もすでに両親がいないということで、3人の子供達は実の祖父母に会う機会がないのだ。
 だからこそ子供達を先輩番の両親の世代と触れ合わせたいと考えている彼と『熊』。
 食堂で共に働く女性達や食堂へ食事に来る職人達にもその年代の人はいるが、きっとそれとはまた違った触れ合いとなるはずだ。

 しかし、そんな両親の思いとは裏腹に、『獅』は大人達が話をしている間中『熊』の後ろに縋りつくようにして隠れていて、荷車の方を見ようともしていなかった。
 冴が「獅くんも、一緒に行ってみない?」と話しかけてみても、あまりいい反応はない。
 荷物の仕度などは楽しげにしていたのだが、やはりいざ両親から離れるとなると控えめな性格の『獅』は不安の方が勝ってしまっているらしい。
 どうしたものか、と思っていると、今度は冴の後ろから小さな人影が躍り出て「ししくん、いっしょに僕のおうち、いこ」と手を差し伸べてきた。
 『獅』と同じように控えめな雰囲気が漂いつつも、どこかしっかりとした芯の強さを感じるその子。
 その子は『せい』という、冴と霙の間に産まれた6人目の子、末っ子だ。
 大人しい性格をしたその子と『獅』は同い年ということもあってか特に気が合うようで、いつも顔を合わせると仲良さそうにしている。
 『獅』がおずおずと差し出された手を取ると、『霽』は「あのね、兄ちゃんたちがお芋を焼いてくれるんだよ」と楽しげに話し出した。

「このまえ、みんなでお芋焼いたの たべたんだ。あのね、すっごくあまくて おいしいの。すっごくおいしいから、ししくんといっしょに たべたいな。あとね、『わら』っていうので おうまさんも作ったりするんだよ、それでいっしょに あそぼ」
「わら…?」
「うん、とってもきれいなんだよ。きんいろなの、きらきらするの」

 農業地域へ行ったらできることを様々に並べ立てて話すその語り口に興味を惹かれたらしい『獅』はしばらくそうして話を聞いた後、ついに自然と「ぼく、いってみたい」と口走っていた。

「わらのおうまさんで いっしょにあそびたい」
「うん、ぼくも ししくんといっしょにあそびたいな。お芋もたべよ?おいしそうなのをね、ぼく、えらんでとっといたの。やいてもらったら、あまくなるやつ。きっとすごくおいしいよ」
「ほんと?」

 微笑ましいそのやり取りに思わず周りの大人達の頬も緩む。
 結局そうして手を引かれながら、『獅』は荷車へと乗り込んでいった。

 霙の妹夫婦とその1人娘が乗り込み、ついに満員となった荷車。
 子供達は彼と『熊』に大きく手を振りながら2泊3日を過ごす農業地域へと向かっていった。


 子供達を送り出した後、彼と『熊』は食堂の女性達の計らいによって午後の仕事を休ませてもらい、連れだって工芸地域内の林の中へと出掛けて木の実などの秋の味覚を採ってまわった。
 陸国では基本的に農業地域外では作物などは育たず、収穫もできないものなのだが、唯一の例外として鉱業地域のキノコや工芸地域の木の実などがある。
 工芸地域では建築の材木などとして活用される木々が良く育つのだが、その中には美味しい木の実がなるものが数多くあり、それらを拾うのが秋の風物詩となっているのだ。
 彼と『熊』は林の中を一緒になって歩きながら落ちている木の実を採り、かごをいっぱいにしつつ陽が傾き始める頃に食堂へと帰った。


--------


 子供達は今日から2泊3日で外泊となるのだが、明日には食堂の女性達もそれぞれの家族の手伝いに行くため、食堂は珍しく休みになる。
 子供達のいないこの2泊3日は彼と『熊』にとっても非常に大きな休暇となるのだ。

 採ってきた木の実を使った夕食を食べながら久しぶりに2人きりの食事をする彼と『熊』。
 子供達も今頃夕食を食べているだろうか、などとも話しながら食事を終えて後片付けをしていると『熊』は「ねぇ、あのさ」と切り出した。

「もしよかったら…このあと一緒に湯浴み、しない?」

 『熊』からの提案に、彼はぎくりと洗い物をしていた手を止める。

「…ほら、僕達ってあまり一緒に湯浴みしたことがないでしょ。虎が産まれてからは必ずどっちかは子供達を見てないといけなかったし…だからたまにはさ、こういうときくらいは一緒に…」

 すると彼は『熊』が言いきらないうちに「俺、俺は…ちょっと…!」と動揺して声を揺らしつつ答えた。

「あ…いや、あの、俺は…その…」

 想像していた以上の激しい動揺。
 『熊』は彼のそのあまりの狼狽えぶりにそれ以上押すことはできず「…ごめん、そうだよね」と肩をすくめる。

「びっくりさせちゃったね。…いいよ、じゃ別々にしよっか。もう湯の仕度はできてるから先に湯を浴びておいで、僕はあとからでいいから」
「…っごめん」
「いいからいいから、気にしないで。せっかくだし、ゆっくりしておいでね」

 彼は少し俯きながら厨房から小走りで出て行ったが、その首元はうっすらと桃色に色付いていた。



 彼が上がった後のしっとりと濡れた浴室で湯浴みを終えた『熊』が戸締りなどを終えて2階の自室へ戻ると、明るい部屋の中ではちょうど彼が今しがた たたみ終えたらしい洗濯物を棚に戻している最中だった。
 まだ少し桃色の残っている首元が可愛らしい彼。
 『熊』は自らの髪を拭っていた浴布を首から掛けると、机の上に残っている重ねて置かれた衣などを持って同じく棚に戻していく。
 『熊』が残りの洗濯物の片づけを一手に引き受けたのを見た彼は、手持無沙汰になったまま、じっと棚の片隅に目をやった。
 その視線の先には棚にきっちりと詰め込まれたいくつもの衣がある。
 彼の視線を辿ってを察した『熊』が「…懐かしい?」と微笑みながら訊ねると、彼は小さく頷いた。

「本当にこれ…着てたんだよなって、思って…」

 『熊』がずらりと並んだ中の1枚を手に取って広げると、そこに小さな小さな、赤子のための衣がひらりと翻る。
 棚一列がすべてこのような小さな衣で覆いつくされているのだ。
 他にも《赤子が自らの爪で肌を傷つけてしまわないようにと着用させていた手袋》や《冬に足が冷えないよう履かせていた靴下》、《沐浴のための肌着》などがある。
 どれもとても小さいものだ。

「そうだよね、懐かしいよね。これは虎が産まれた時に繕ってもらった衣だ。一番初めの1着」
「うん…」
「今じゃ考えられないよ、こんなに小さいのを着てただなんて」

 男性オメガの子供達は皆 成長度合いが早いため、こうした小さな衣は特にすぐ大きさが合わなくなってしまうのだが、それでも1着1着には子供達との日々の思い出が詰まっている。
 彼は『熊』の脇から抱きつき、「…大きくなったな、子供達」としみじみ語った。

ししもついにお泊りができるようになった、俺達なしで。産まれたのが…ついこの間の事みたいなのに」
「そうだね」
「…」

 静かな室内。
 彼は抱きしめる腕の力をさらに強めて『熊』の胸元に唇を押し付ける。
 寄り添っているような、口づけをしているような。
 触れているところがじんわりと熱を持ち始め、『熊』は手に持っていた小さな衣を畳んで仕舞い直すと、そのまま縋りついている彼の肩を抱く。

「これからも、子供達の成長を一緒に見届けようね」
「うん…」
「僕達、ずっとこうして…一緒にいよう」

 頬に手を添えられて顔を上げた彼は『熊』と軽く唇を合わせてから、しっとりとした深い口づけを交わす。
 彼の方からやけに情熱的に舌を絡み合わせてくるところから『その後に起こること』への同意を示していると感じ取った『熊』は、彼の膝裏に手を回し、素早く横抱きに抱えあげて寝台へと向かった。
 寝台に寝かせられた彼の首元の桃色はさらに濃くなっていて、 『熊』がそこを一撫でしてから顔をうずめるようにして口づけると、彼から小さな喘ぎ声が漏れる。
 弱く漂う【香り】には甘い味さえもが感じられるようだ。
 それを存分に味わいながら上衣にある結び目へと手を伸ばすと、彼は「っ…ま、待って、熊」と艶っぽい声でそれを止めた。

「やっぱり、その…明かりを消そう、いくらなんでも これじゃ明るすぎて、ちょっと…」

 明かりを落としに行こうと寝台から起き上がった彼。
 たしかに、室内はそこかしこに明かりが灯っていて、部屋の隅まではっきりと視認できるほどになっている。
 だが『熊』はそんな彼の四肢を押さえ付けて「だめ」といたずらっぽく笑った。

「いっつも暗い中でしかしてないでしょ。今日くらいはこのままシよ」
「や…やだよ、こんな」
「ねぇ、さっきは僕が譲歩したでしょ。今度は君が譲歩してよ。僕は一緒に湯浴みしたかったのを我慢したんだから」

 鼻先が触れ合う距離で「本当に、ただ一緒に湯に浸かりたかっただけなのに」と『熊』は唇を尖らせる。

「あんなに首を紅くしちゃって…何を考えてたの?」
「べ、別に俺は…」
「もしかして、浴室で『こういうことをする』って、考えたりした?」

 身動きが取れない状態で囁き続けられ、彼は眉根を寄せて目線を逸らすように横を向いた。

「今日はいつもできないことをしよう。いつもはできないことを、沢山、全部、ひとつ残らずしよう」

「いいよね?」

 彼はもうそれ以上はっきりとは抵抗しなかった。


 子供達がいつ訪ねてくるかも分からない中では行えないような愛撫を衣の上から時間をかけて行うと、次第に彼の下衣には明らかな変化が現れる。
 執拗ともとれる口づけによって彼の唇はぷっくりと膨らみ、体の奥底から湧き上がってくる疼きは手や足をせわしなく動かす。
 口づけの、舌を絡み合わせる感覚がもたらす快感というのはまったく不思議なものだ。
 性器が触れ合えば互いに感じてしまうのは当然としても、普段はなんの欲情ももたらさない舌や唾液が、こうして触れ合うことによって頭の先まで痺れてしまうような深い快感をもたらすのだ。
 ずっと口づけているだけでも煽られる情欲。
 しかし、それだけで夜過ごすには何もかもが物足りない。
 口づけながら首筋に添えていた手のひらを下へ滑らせ、上衣の紐を引っ張って解くと、彼はゆるんだ襟元を握りしめて脱がせまいとする。

「…じらすね」

 『熊』はそんな彼の手の甲に口づけて力を抜かせると、衣の合わせ目を鼻先で左右に除け、その奥にある彼の体へ口づけた。
…いや、正確には『口づけようとした』。

「…?」

 素肌に触れるはずの唇からは なにか別の、薄い布地のもののような感触が伝わってくる。
 少し体を起こして今口づけたところを確認した『熊』は、その瞬間にぴたりと動きを止め、目を見張った。

「これ…って…」

 彼の上衣の前を完全に開け放つと、そこに姿を現したのは彼の素肌ではなく、薄い、薄い、きわめて薄い布地の衣だった。
 しなやかな艶を放つ黒の薄衣。
 襟などのフチすべてに細い糸で飾り編みが施されたその衣は、衣としての『体を覆う』という役目をまったく果たしていないといえるほど薄く、繊細だということが一目で分かる。
 その下にある素肌が、細部までも透けて見えるほどの薄さなのだ。
 こんな誂えの薄衣は通常身に着けるものではなく、もちろん『熊』もいまだかつて こんな薄衣を着ている彼の姿などは目にしたことがない。
 あまりの衝撃に固まっていると、彼は「…へ、変…?」と顔を隠しながら訊ねてきた。

「これ、俺…その…」

 言い淀む彼に『熊』が「…どうしたの、これ」と問いかけると、やがて彼は思い切ったように話し始める。

「…俺達、こんな風にヤるのって久しぶり、だから…だから、熊が俺のことを見て萎えちゃったらどうしようって、思って…」

「俺、昔とは体が違ってきてる気がするし、明るいところで見たら…く、熊が幻滅するかもしれないから…こういうの、着てみようと思っ…て…」

 話している彼の胸に手を当てると、彼はびくりとして言葉を切る。

「じゃあこれ…僕を誘惑するために、着たんだ?」
「んっ…」
「誰から教わったの、こんなこと。自分で考えたの?この衣はどうやって手に入れたの。こんな…いやらしい、スケスケの衣なんて」

 すると彼は真っ赤に染まった頬を手の隙間から見せつつ「…勧められたんだ」とほとんど聞こえないくらいの小さな声で答えた。

「っ…さ、冴さんに訊いたら、勧められて…冴さん、自分用のと一緒に、俺の…手配、してくれて……」
「冴さんと?いつの間にそんなやり取りをしてたの?へぇ…いつの間に」

 『熊』は思わず自らの下にある彼の体をじっと見てしまう。
 たしかに、赤子を3人育てた彼の体は胸の色が濃くなるなどしていて、昔とは多少異なっているだろう。
 しかし日頃から力仕事などもこなしている彼の体は相変わらずよく引き締まっている上、歳を重ねた、成熟した色香を漂わせてもいるのだ。
 それはけっして、彼が心配しているような姿ではない。
 『熊』はそんなありのままの彼自身でもまったく問題はなかった。
 そう。問題なかったのだが、今はそれよりもなによりも、そんな彼が自身との情事に想いを馳せ、先輩オメガに相談してまで今夜に備えていたということがあまりにも『熊』の心に深く響いた。
 
「く、熊…?」

 言葉もなくじっとしている『熊』が心配になった彼は指の隙間から顔をのぞかせて様子を窺う。
 すると『熊』は彼の胸の突起を薄衣の上から親指と人差し指でつまみ、クリクリと刺激しながら唇を噛みしめて絞り出すように言った。

「っ、たまんない」

 薄く透ける布地の上から乳首をつままれると、直接触れられているいつもの感触にわずかにざらざらとした刺激までもが加わり、彼は腰を浮かせて足を落ち着きなく動かしてしまう。
 薄衣の繊細な手触りを試すように肩や腕、胸、脇腹、と手のひらを滑らせていくと、やがてまだ露わになっていない、隠れた部分に辿り着いた。
 その中へと手を滑り込ませ、一撫でして感触を確かめた『熊』は、ほとんど確信を持ちつつも彼へと囁くようにして訊ねる。

「こっちも…お揃いなの?」

 答えを待たず、彼の恥じらって潤む瞳を見つめながら下衣を脱がせると、やはりそこには上の薄衣とお揃いの造りをした薄い布地の下衣が彼の下半身を包み込んでいた。
 白い肌着の上は薄衣の色が特に際立って美しく発色している。
 腰や太ももといった部分はもちろんのこと、本来硬さを感じるはずの膝や細い骨の浮き出た脛といった部分までもが柔らかく見えるのは この薄衣の仕業であるのは間違いない。
 もじもじと動かされる足のおかげで薄衣が美しい光沢を放ち、より一層『触れたい』という欲を掻き立てる。
 『熊』は自身の欲に従って下の方に降りていくと、彼の股の間に口づけ、そのままそこを薄衣と肌着とをまとめて口に含み、舌での愛撫を始めた。
 少しの遠慮もないその愛撫。
 舌遣いの音まで響かせるそれはあまりにも刺激が強く、彼の肉棒はすでにはち切れそうなほど激しく勃起してさらなる触れ合いを求めている。
 寝具を握りしめながら目を閉じ、眉根を寄せて喉を大きく反らせる彼。
 『熊』は彼の足の間に顔をうずめたまま「これ…残念だな」と小さな笑みを交えて言った。

「こんなに似合ってるのに、脱がさなきゃいけないなんて」

 彼の腰に滑り込ませた手でそのまま薄衣と肌着とをまとめて太ももまで下ろし、裾を引っ張ってすべて脱がせると、すぐになめらかな下半身が眼前に現れた。
 紅くぬらぬらと照る亀頭は、まるで闇の中に灯るたった一つの灯火のようにひくひくと揺らめいている。
 『熊』が再び伏せてそこを口に含むと、彼は大きな喘ぎ声をあげて体をビクつかせた。
 先端を舌でなぞる度にビクビクと動くそれは彼の意思とは関係なく動く別の生命体のようだ。
 じわりと滲む彼の精液はかすかに甘くも感じられ、さらに彼が放つものと同じ【香り】までもが鼻腔を通り抜けていく。
 先端から裏筋へと舌を滑らせ、陰嚢へ口づけると、さらにその下へと辿っていく『熊』。
 見当をつけて尻の肉の間に舌を挿し込み、割れ目に沿ってなぞるように動かすと、舌先にひと際熱く柔らかな部分が触れる。
 そこをしきりに弄り、中へ挿し込もうとする『熊』。
 すると彼は「やっ、やめっ…!熊!」と激しく身を捩って抵抗した。

「な、なにしてんだ、熊…っ!!」
「うん?いつもできないことしてる」
「いや、でもそれは…」

 逃れようとする彼の太ももを押さえつけて再び強引に顔を近づけた『熊』に、彼は「もう!それだけはやめてくれって!」と懇願しながら肘をついて上体を起こした。
 上気した頬に困惑したような表情を重ねながら「他はなんでもしていいから…それだけは」と顔をそむけてしまった彼。
 さすがに彼の強い抵抗の意思を感じた『熊』は「うん…じゃあ、これはここまでにしとくね」と体を起こすと、そばの小机の上にある水差しから一杯の水を汲んで一口飲み、さらにもう一口分を口に含んでからそのまま彼に口づけた。
 唇の隙間から少しずつ流れ込んでくる水を、彼はそっと飲み込む。
 口移しされたその水はただの水であるはずなのに、まるでなにか強力な媚薬でも混ざっているかのように体を内から熱く猛らせていく。

「…ねぇ、『他はなんでもしていい』って言ったね」

 彼の頬に手を添えて囁き声で問いかけると、彼は小さく頷いて応える。
 『熊』は満足そうに「うん…約束、ね」と微笑んでから体を起こすと、自らの衣をすべて脱ぎ去り、彼に覆いかぶさって体をすり寄せた。
 互いの性器の裏を擦り合わせるようにして体を動かす『熊』。
 彼はヌルヌルと滑る陰茎からの絶妙な刺激に鳥肌がたつようなゾワゾワとした感覚を覚え、『熊』の下でそっと足を広げた。
 開いた足で太ももなどを挟むようにされた『熊』も、それに応えるように彼の耳の下の皮膚の薄い部分へ唇を添わせる。

「っ……もう、シようよ、熊…!いつまで このままのつもりなんだ…」

 いつもより数倍長くじっくりと行われる愛撫を受けてついに堪えきれなくなった彼がねだると、『熊』は「んー…?」ともったいぶった素振りで彼の頬を撫でた。
 あらゆる手を尽くして互いを愛撫したおかげで、どちらも興奮は最高潮に達している。

「そうだね…そろそろ ちゃんと、しよっか」
「ん…」

 『熊』は彼の足の間で挿入に備えて体勢を整える。
 すると、互いの体が密着している時には目にすることができなかった光景が眼前に広がった。
 彼はぼうっとなりながらも自らの股の先に見えた 薄く筋肉の線が見える美しい『熊』の腹部に見惚れてしまう。
 見るよりも直接触れることによって、その筋肉の密度と力強さを感じることができる腹部、そして体だ。
 幾度となくこの体に抱かれてきたものの、彼はまったく飽きることがなく、むしろ期待感を募らせて『抱いてほしい』と切に願ってしまう。

 秋の夜長がいよいよ始まるというその瞬間。

 『熊』は上気した彼の手を取った。

「自分で…挿れてみて」


 勃起した肉棒を握らされながらのその言葉が意味するところははっきりとしている。
 彼は硬さを確かめるように肉棒を握らされた手をそのまま数回上下させると、もう片方の手で自らの尻の肉を横に拡げ、その中心にあるひっそりとした孔へと肉棒の先端を押し当てさせた。
 愛撫の間にほぐれていた彼の小さな孔は、はじめこそ恐る恐るといった様子だったが、すぐに呑み込んでいるものの味を思い出して柔らかく開く。
 体中が敏感になっていた彼は挿入が進んで体の奥を熱いもので触れられると、まだ挿入しただけだったにもかかわらず射精した。
 ようやく訪れた体内を熱いもので貫かれる感覚に 全身の力が抜けてしまう彼。
 1度体内の奥深くまで挿入が済んでしまえば、あとはなにも気兼ねすることはなかった。

 正面から、横から、後ろから。
 体位を様々に変えて互いに快感を貪り合っていく中、彼がもっとも大きく反応を示したのは『横向きで後ろから突かれる体位』だった。
 いつもは寝具の中でひっそりと行っているこの体位を、明るい中で、さらに膝を『熊』に胸元まで抱えさせられながらされると、いつもとの違いによってさらに強く欲情を掻き立てられるようだ。
 周りを憚ることなく、思うがまま存分に喘ぎ声を上げて交わる2人。
 元の正面から向かい合った体位に戻ったところで、『熊』は彼の膝裏を抱え上げてよりいっそう奥を目指して突き入れた。

「く、ま…中、中に出して…いっぱい…」

 「俺の中…いっぱいにして」

 どちらのものともわからない熱い吐息が混ざり合う中。
 それからすぐに、重なった2人の体はどちらも小刻みに激しく震えた。
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