熊の魚〜オメガバース編〜

蓬屋 月餅

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番外編

5「新月の夜」後編

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 真夜中に目を覚ましてしまった彼。
 眠りについてから、まだそう時間も経っていないだろう。
 新月で月明かりすらもない暗闇の中、彼は ぼうっと何度かまばたきをしながら自身の眠りがなぜ妨げられてしまったのかと考える。

(なに……なんで目が覚めた…?虎かな……)

 じっと耳を澄ましてみるも、『虎』のぐずる声は聞こえてこない。
 (虎じゃないのか…?)と思ったものの、やはり心配になった彼は起き上がってそっと様子をうかがってみることにした。
 枕元にある油灯をごく小さく灯し、静かに、慎重に寝台から抜け出す彼。
 今は特に何も声はしていないが、もしかしたら『虎』は直前まで声をあげていたかもしれない。
 だとすれば、こんなに静かにしているのは『虎』の身に何かが起きたからに違いない。

 そっと『虎』の寝台を覆う布の合わせ目から中を覗いてみる。
 しかし、『虎』はぐっすりと眠っていて、直前まで起きていたというような様子さえまったく感じられなかった。
 どうやら彼が目を覚ましたことと『虎』は本当に関係がないらしい。

(まぁ…良かった、虎が無事ならいいんだ……うん……)

 寝起きのためにまだ少しふらつく体を引きずり、彼は『熊』が眠る自らの寝台へと戻っていく。
 すると、彼の動く気配にわずかに眠りから目を覚ましてしまった『熊』が「ん…どうした……?」と寝ぼけた声をかけてきた。

「虎…なんかあった…?」
「ううん…何でもない」
「そう…?」

 寒さに弱い『熊』はその声も弱々しく、掛け具でしっかりと肩まで覆いながら再び眠ろうとし始める。
 彼はそばの小机にある水差しから1杯の水を汲み、一口だけ飲んでから油灯を消すのも忘れて再び横になった。
 油灯の灯りを受け、そばの小机の上に外して置いてある彼の銀のうなじあてが美しくきらめく。
 少し歩いたためか、やけに心臓がドクドクと拍動しているように感じる彼。
 落ち着かせるには『熊』の【香り】が1番だとばかりに『熊』の胸へすり寄った彼は、そこでようやく自身の眠りを妨げたものの正体に気付いた。

 『熊』の胸元からふわりとわずかに香る【香り】が、やけに欲しくてたまらない。

 心を落ち着けようと深呼吸をすればするほどその欲は強まり、鼓動もはっきりと強く、速くなっていく。

(う、わ……嘘だろ、まさか…今?さっき…ついさっき寝る前に『今日はやめておこう』って話したばっかりなのに………)

 思いとは裏腹に彼の体は動き、さらに『熊』の【香り】を感じようと鼻を『熊』の体へくっつけるようにしてしまう。
 『熊』の胸元、脇腹から暖かな【香り】がふわりと漂い、次第に彼の体は疼き始めた。

(あ、ど、どうしよう……本格的に始まりそう………熊を起こすべき?でも寝てるのに悪いよな……よりによって、今…?う……とりあえずこのまま おさまってくれないかな………)

 つらつらとそう考えるも、彼の前のものはすでに硬く反り、後ろは湿り気を帯びていく。
 それでもなお『熊』を起こすのは気が引けてならず、彼は必死に自らの【香り】を抑えながら苦しいほどの鼓動を呼吸を荒くすることで堪えようとした。
 すると、突然頭を撫でられる。

「どうしたの……?」
「あ……く、熊、その…俺……」
「ん……?」

 どうやら『熊』は彼が悪夢でも見て目覚めてしまったのかと思っていたらしいのだが、すぐにそうではないと気がついた。
 胸元で体を火照らせながら、荒く呼吸を繰り返している番。
 その理由は誰の目にも明らかだ。

「もしかして…発情が…始まったの?」
「熊……そ、そうみたいなんだ、俺……」
「ん、そっか…」
「ごめん、俺、突然……」
「ううん…謝ることはないよ、大丈夫……」

 いつの間にか、ほとんどしがみつくようにして『熊』の【香り】を求めていた彼。
 『熊』は「ちょっと…待ってね」と言いながら体を起こすと、彼が飲み残していた杯の水をぐいっと飲み干し、冷たい水を腹の中に流し込むことで完全に目を覚まそうとする。
 『熊』は自らの腰に抱きつくようにしている彼の体調を気遣うように頬を撫でた。

「…大丈夫?もう随分とはっきり…始まってるみたいだね」
「うん……」
「近いうちのことになるだろうとは思ったけど、こんなに突然……寝る前に色々と話し合ったから、気持ちが落ち着いたのかな…それで発情が早まったのかも」
「熊…俺、もう抑えらんない……」
「…分かった、それなら…」
「熊……熊が…欲しい、俺……」
「うん、分かった、それならちょっと待っ……っ!!」

 突然、彼は『熊』の股の部分を下衣ごしに舐めた。
 その感触に『熊』が体をビクつかせると、瞬間的に濃い【香り】が放たれ、彼はそれを胸いっぱいに感じながらさらに熱っぽく、イヤらしい舌遣いでそこを舐める。

「ちょっと…!!」

 執拗に舐めるせいでそこには彼の唾液によるシミができ、さらに感触までもが変わっていく。
 柔らかかったそこは、すぐに硬く、はっきりとした形のものが唇や舌で感じ取れるほどになっていた。

「は、あっ……熊のこれ……欲しい…俺の中いっぱい…これ………」
「分かってる…分かってるから、ちょっと君のこと準備させて、ね?」
「いらない、そんなの……もう…これ…欲しい…」

 彼は寝具の中で自らの下衣をすべて脱ぎ捨てると、『熊』に跨り、上の方から頬を包み込むようにして激しく口づけをしだした。

「んっ…う、んっ……はぁっ、ぁん…っ」

 せわしなくあちこちを撫で回していた彼の手は『熊』の襟元から背の方に入り込み、きちんと整えられていた上衣をなかなか乱暴な方法ではだけさせていく。
 未だに多少の理性を保っている『熊』は彼のあまりにも性急な行動になんとか応えつつ、彼の後ろをほぐすべく手を伸ばそうとした。
 しかし彼はそれよりも早く『熊』の下衣を解くと、自らの秘部に『熊』の切っ先をあてがい、ゆっくりと腰を落として挿入を始めてしまう。
 すでに愛液で濡れそぼっているとはいえ、何のほぐしもせずにアルファのものを受け入れるには彼の秘部は狭すぎる。
 さらに、自らを強引にこじ開けていく『熊』のものに「はぁっ」と息をついた彼は、それまで抑え込んでいた【香り】を完全に解き放ち、発情した番の、濃厚なオメガの【香り】を『熊』に間近で香らせて一気に発情へと誘った。
 発情したアルファは、ただでさえ通常よりも硬く立派に勃起するものだ。
 さらに太くなってゆく『熊』のものを中へ導きながら、彼は完全に解き放った自らの発情の【香り】とそこに混ざる『熊』の【香り】に酔う。
 火照った体には邪魔な上衣。
 彼は夢中で口づけながら、脱いだ自らの上衣を寝台の上へ適当に放った。

「んっ、んんぅ、はぁぁっ……」

 尻がぴったりと『熊』とくっつくほどに奥まで肉棒を呑み込み終えた彼は、そのままさらなる刺激を求めて体を上下させ始める。
 自らの支えにするように『熊』の肩を掴み、半ば押し倒すようにして秘部が咥え込んでいるものを激しく抜き挿ししていく彼。
 突然始まったとはまったく思えないほどの熱烈な情事だが、『熊』も豪雨のように降り注ぐ口づけを受けつつ、彼の中の潤いが増し、感触や音が変わっていくのを感じた。
 発情した番が自らの上で愛液を滴らせるほど一心に腰を振っているのを見て興奮しないアルファなど、はたしてこの世に存在するのだろうか。
 『熊』の瞳が妖しく変化したことにも気付かないまま、彼はひたすら口づけをしながら中を擦らせる。
 しかし『熊』の【香り】を『胸いっぱいに感じていたい』という欲と『中を強引にでも突かれたい』という欲がどちらも強くなりすぎたせいで、彼はそのうち上手く体を動かせなくなっていった。
 2度腰を上げては落とし、キツく『熊』へ抱きついて呼吸をしては また1度、2度とぎこちなく体を上下させる。
 そんな不規則で強引な抽挿は『熊』をひどく焦らしていて、ついに我慢しきれなくなった『熊』は彼を寝台へと半ば力任せに押し倒して激しく腰を打ち付けだした。

「んんっ、んっ、うぁっ…!!!」

 彼の発情した【香り】は『熊』の発情をも誘発し、すでに2人の脳内はどちらも行為とそれがもたらす快楽への追求だけに支配されている。
 彼の腰を掴んだ『熊』が激しく彼を攻めたてる。
 その度に彼は強い快感の波に襲われ、「あぁっ、あっ!!」と大きな喘ぎ声をあげながら溢れる愛液を寝具へと滴らせた。
 とめどなく続くその抽挿のある瞬間、「ひぃっ、ああぁっ!!」とひときわ大きな声をあげてしまったところで、彼はふと、ほんの僅かに、毛の先の分だけ我に返る。

 そう、この部屋は2人きりというわけではない。
 すぐそこの覆いの中では息子が、『虎』が眠っているのだ。

 きちんと番っている者同士の【香り】であればいくら濃く香っても子供に影響はないとされているが、大きな物音を立てて『虎』を起こしてしまってはあまりにもばつが悪い。
 かといって、すでに発情しきっている番同士の交わりを止められるはずもない。
 彼はせめて声を抑えようと片手でしっかりと口を塞ぎ、もう片方の手で寝台の上をあちこち無造作に探る。
 …手の先に、何かが触れた。
 なんとか手繰り寄せてみると、それは先ほど彼が脱ぎ捨てた上衣だった。
 すっかりたごまってぐちゃぐちゃになっているその上衣を咥えこむようにして口に当てた彼は、両手でそれを押さえながらくぐもった喘ぎ声を存分にもらす。

〈うっ、ううっん…~~~っ!!!〉

 声を抑えようと体に力が入ると、その分さらに快感は強まるようだ。
 絶頂に到達するかどうかというところの瀬戸際を彷徨っていた彼は、『熊』に前のそそり勃つものへと触れられた途端、自らの胸にまで白濁を飛ばした。
 『熊』の発情した【香り】にあてられて全身、どこもかしこも敏感になっている彼。
 少しの揺さぶりだけでもジリジリとした疼きに晒される中、どれだけ体内にある『熊』のものを締め付けても、どれだけ射精してもその興奮はおさまりそうにない。
 彼は 胸を激しく上下させながら、変わらず中を擦り続けている『熊』のそれを受け入れていた。

ーーーーーーーー

 長く続く抽挿の中、ようやく動きを止めた『熊』は彼の口元の上衣を取り払うと、彼の四肢を抑えつけるようにしながら舌を奥まで挿し込んで口づける。
 口内が熱い舌でいっぱいにされる苦しささえも、彼にはまるで媚薬のようだ。
 負けじと舌を『熊』へ絡ませた彼は手足を使って『熊』の全身をくまなく愛撫し、間近から香る濃い【香り】を肺の隅々にまで行き渡らせる。

「い…イイっ…はぁっ…あ、んっ……」
「………」
「くま……くま…おれ、こんなじゃ全然……もっと……もっとちょうだい……」

 耳元でそう囁かれた『熊』は彼の耳たぶを甘噛しながら1度、2度と信じられない強さで突きあげ、彼は『熊』の肩口に顔を埋めてなんとか喘ぎ声を抑え込んだ。

 彼が元々灯していた灯りはあまりにも小さく、互いの表情をはっきりと目にするには不十分だ。
 しかし、ぼんやりと体の輪郭が分かる程度だからこそ良い、ということもある。
 視覚から得られる情報が少ない分 聴覚や触覚が研ぎ澄まされる上、いくらでも身体を差し出してしまおうという気になるのだ。
 ただでさえ本能のまま乱れてしまう発情状態だというのに、そんな気分になっては大胆にならないわけがない。
 ずっと寝台に押さえつけられていたことで背がじっとりと汗ばみ始めていた彼は、半ば強引に『熊』を押しのけると、寝台に四肢をついて四つん這いになり、不満気な声を喉から漏らしていた『熊』の肉棒を掴んで再び自らの瑞々しく濡れた秘部へとあてがった。
 期待通り、彼の中はまたすぐに熱く太く、強く拍動するものを呑み込まされる。
 十分に潤って馴染んでいるそこへ『熊』が入り込んでくるその瞬間がもたらすものは快感以外の何物でもない。
 上半身を伏せ、枕を抱きしめるようにしながら口を塞いだ彼はさらなる快感の渦に身を任せた。

ーーーーーーーー

〈んんうぅっ、うぅんっ、んっ、んんっ〉

 絶え間なく続く抽挿。
 『熊』は彼の腹を抱えるようにして一心不乱に、本能のままに彼の中のある一点を突き続けている。
 灯りがごくわずかのため『熊』にも見えていないが、彼らが交わっている部分や寝台の上の寝具はすでにひどく淫らな状態になっていた。
 普段 尻の肉に隠されている彼の秘部は余す所なく曝け出され、肉棒を咥え込む『そこ』は紅に色付いてシワの一本もないほど目一杯に拡がっている。
 『熊』は射精こそしていないものの、突きながら白濁を滲ませていたらしく、外に掻き出された彼の愛液にはわずかに白色が混じっているようだ。
 さらにそれは一筋も二筋にもなって彼の性器の裏を流れ、その妙な感覚に刺激された彼はもはや勢いも失った何度目かの射精をして寝具を汚す。
 腰を高く掲げるような格好のせいで彼の秘部は抜き挿しされるたびに空気まで抱き込んでいるらしい。
 『グチャグチャ』とも『グチュグチュ』とも、『じゅぽじゅぽ、じゅぷじゅぷ』とも言えるような、表現し難いほどの卑猥な音が寝台の上に響く。
 前と後ろとで数え切れないほどの絶頂に達した彼はさすがに疲れを感じて大きく声をあげることもなくなり、ただうわ言のように「きもち……あっ、う、くまぁ…うう、んっ……」と静かに喘ぐくらいになっていた。

「く、ま……もっとおれに…おれに触ってよ……ほら、んっ……だきしめて……もっと、もっと……」

 彼は自らの腹にある『熊』の手を導くようにして、肌と肌を密着させたいとねだる。
 すると『熊』は彼の背にピッタリと胸をつけるようにして覆いかぶさり、袈裟懸けに腕を回して彼をキツく抱きしめてきた。
 そんな2人の繋がり合った姿は 獣の交尾のそれ そのものだ。
 理性もなく激しく奥を突き、突かれながら、ただ互いの番を求め、本能がもたらす欲と快感に酔いしれる2人。
 背や脇、胸に『熊』の熱い体温が伝わってきたことで安心した彼は、深く息を吐いて一層【香り】を濃くする。
 すると、しばし腰の動きを止めた『熊』はちょうど手のひらの中にある彼の胸を柔らかく揉み始めた。
 彼の胸は『虎』を産んだことでわずかに膨らみ、しっかりとした胸板の上に柔らかな触感を加えている。
 その柔らかい部分と中心の尖りをすべて包み込んだ手を、『熊』はじっくりと、丹念に、円を描くようにして扱った。
 この胸はこの数ヵ月の間、赤子のためだけにあるようなものだったはずなのに。
 それなのに今はなんと、赤子が乳を飲む時とは異なる意識が彼の中に湧き上がってくる。
 胸がやけにひやりとするのは、おそらく『熊』の愛撫によって滲み出した乳が胸全体に塗り拡げられているからだろう。
 発情し、快楽のことしか考えられなくなっている彼はそんなことにも構わず「もう…いいから……」と『熊』の腕をしっかりと抱き寄せる。

「もう…いっぱいだして……」
「………」
「おれのなか……くまのでいっぱいにして……孕ませてよ……」

 『熊』の腕に口づけながら「孕ませて……おれを…孕ませてよ………」と繰り返す彼。
 その懇願するような囁きと共に、彼から またもや 濃い【香り】が放たれ、『熊』はいよいよ彼が壊れてしまうのではないかというほど強く腕に力を込めて抱きしめる。
 それから『熊』は1度、2度と突き飛ばすような勢いをつけて彼を突いた後、すでに尻と腰がぴったりとくっついているにもかかわらずグイグイと彼に迫り、根元のおよそ入りそうにない部分までねじ込もうとした。
 その動きに胸を高鳴らせた彼の方も、尻を『熊』へ押し付けるようにしてそれを迎え入れる。
 きちんと奥まで結合したことが明らかな中、彼は期待していた感覚が腹から伝わってくるのを感じた。
 『熊』の性器が肥大し始めている。
 徐々に違和感を強めていくそれは『もうこれ以上は苦しくなる』という線を超えてもなお続き、次第に彼は苦しさと痛みを感じてぐっと歯を食いしばった。
 …だが、痛みには慣れてしまったのだろうか?あの『番になった時』よりはまだいくらかマシに思える。
 ようやく膨らみきったらしい『熊』のそれは、続けて射精を始めた。
 しっかりとした濃さと熱さ、勢いが感じとれるほどのそれはしばらくの間続き、その間も彼は歯を食いしばって堪える。
 それが終われば後は快感を存分に感じるだけ…のはずだった。
 それで発情した番同士の交わりの一連は終わるはずだったのだ。
 しかし、いつまで経っても彼には『体の奥深くに白濁が流れ込んでいく』という信じられないほどの快楽をもたらす『あの感覚』が訪れない。
 流れていくこともなく留まり続けている大量の白濁と、未だに肥大したままの『熊』。
 彼はその2つの苦しみに晒されながらも どうすることもできず、ただただ胸だけで浅く呼吸を繰り返した。
 一体いつまでこの状況が続くのか。
 なぜ『終わらない』のか。
 身じろぎ1つできずにじっと苦しみに堪えていた彼の元へ次にやってきたのは、大きな快感などではなかった。

「い…痛い、痛い!!!」

 思わず彼は声を上げる。
 なんと『熊』は肥大したままの性器をさらにねじ込むようにして彼へ迫った挙げ句、さらにそこへ2度目の射精までし始めたのだ。
 彼の内壁は呑み込んだものが膨らむのには多少慣れていても、それがさらに中を押し拡げ、すでにいっぱいになっているところへさらなる圧をかけてくるということにはまったく慣れていない。
 それまでとは違う苦しみを伴ったきつい痛みに、彼は涙を滲ませて「痛い!」と繰り返す。

「はぁっ、はぁっ!腹が…腹が破れる…!!痛い、痛いって!!はぁっ、はぁっ!!」

 その声に我に返った『熊』は「っ!ごめん…ごめん…!!」と彼を抱きしめて詫びた。

「苦しいんだね、ここ…お腹が…」
「お、押すな、触るな…!だ、駄目だ、これ以上は俺…壊れる…っぅ!!」
「ごめん…分かってる、君がすごく耐えてくれてるってこと……ごめん……ごめんね………」
「くま…苦しいよ、苦しくてたまらない、ううっ…!」
「こっちを向ける?こっちを向いて…愛してる、愛してるよ、君のことを僕は心から愛してる…たくさん伝えてあげるからね、この想いを……君が好きだ、愛してる…本当に心から、君を愛しているんだよ」

 彼がなんとか背後の『熊』に顔を向けると、『熊』はすぐさま彼の唇を探し当てて口づけを繰り返す。
 唇が触れ合う度、ちゅっという音が響く度、彼は痛みによって強張っていた体から少しずつ力が抜けていくのを感じた。
 『熊』の囁く声と言葉と吐息が彼の耳や首筋を撫でていく。

「愛してるよ」
「……っ、ぅああっ…!」
「愛してる……」
「はぁっ、あっ、イっ……!!!」
「っ…!!」

 その瞬間、彼の体から力がぬけきり、彼はようやく一切の苦しみや痛みから開放された。
 体の奥深くの入り口が開き、溜め込まされていた大量の精液が勢いよくその中へと流れ込んでいく。
 それと同時に訪れたあまりにも強く大きな快感のために彼の体はしばらくの間ビクビクと痙攣し、やがて力を無くして寝台に突っ伏してしまった。
 寝台に自らのものを擦り付ける格好になってしまった彼は、そのままほとんど透明な精液をとろりと敷き具に吐き出し、涙を一筋だけ目尻から伝わせた。

ーーーーーーーーーー

「大丈夫…?っはぁ…僕も……抑えが効かなくて……」

 少し灯りを大きくした寝台の上で、未だ覚めぬ興奮の中、『熊』は横になった彼を後ろからしっかりと抱きしめて細々と囁く。

「無理…させちゃったよね…どこか辛いところ……ある…?」
「んんっ…ない……全然……」
「そう…?」

 1度完全な結合を済ませたとしても、そこでスッパリと発情が終わるわけではない。
 『熊』は彼のことを労りながらも離れようとはせず、きちんと体を覆う掛け具の中で彼の裸体を愛おしそうに撫でる。
 2人の汗や様々なものに汚れきった寝具達は、明日には全てきちんと洗わなければならないだろう。
 だが今はそんなことを顧みている余裕はない。
 彼は自らを抱く『熊』の腕を擦り、「くま…」と熱っぽく言う。

「くま……疲れちゃった…?」
「うん…?」
「疲れちゃったの…?もう………?」

 その言葉の意味するところは明らかだ。
 『熊』は彼の耳たぶへ口づけると、後ろから抱いたままゆっくりと腰を突き上げる。
 彼の大切な奥の入り口を探るように。
 そっと、その中を訪ねるように。

「ひ、いっ……うぅん……はぁっ、あっ…」

 静かな夜に響く彼の甘い喘ぎ声。
 しばらくそうして全身が溶けるような時を過ごした後、彼は仰向けになり、『熊』と真正面で向き合いながらさらなる愛を紡ぎ始めた。
 灯りが大きくなったことで、はっきりと互いの表情が見える今。
 『熊』を求める彼も、彼を求める『熊』も、互いの視線に焚きつけられるようにしてそれぞれの【香り】を濃くしていく。

 新月の夜。
 混ざり合った2人の甘美な【香り】は寝台の上に満ち、喉から洩れる喘ぎと囁く声は寝具と肌の擦れる音と共に辺りを暖かく包み込んでいた。
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