上 下
36 / 49

32話 番外編②

しおりを挟む
ロレッタ視点

「へぇ~ ここがカトリーヌが使っている研究室か~」

 私はざっと全体を見渡した。なんだか理科室に来た気分だ。ビーカーや薬草が綺麗に棚に整理されている。

「なんだか変な臭いがしますね」

 一緒についてきたユーゴが顔を顰める。確かに薬品の独特な香りがする。

「別に私1人でも良かったのに……」

「それはダメです。ロレッタ姉さんは妊娠中なのですから」

 元々は不良で、そのあと私の子分になって、今では近衛兵にまで成り上がったユーゴは、いつも目を光らせて私に危険がないか警戒してくれる。

 気持ちは嬉しいけど、あまり無理をしてほしくない。

「お待たせ、これがお薬よ」

 カトリーヌはビンに入ったお薬を持ってきてくれた。コレのおかげで本当に快適なのよね~

「待って下さい、ロレッタ姉さん、毒味をします」

「えっ? でもいつも飲んでいるから平気よ」

「念のためです!」

 ユーゴは私からお薬を取り上げると、ひとくち口に含んだ。心配性ね……

「こっこれは……」

 ユーゴは何故か顔を顰めると、無理やり飲み込んだ。えっ、何その反応?

「その……少し苦いな……もう少しマイルドな味に調整して欲しい」

「えっそうなの? 変ね……いつもと同じ物なのに……ごめんねロレッタ、また明日でも大丈夫かしら?」

「うん、いいよ。ねぇ、今日は体調がいいし、久しぶりにみんなで出かけない?」

「いいわね。そうしましょ!」

 カトリーヌはパァッと笑みを浮かべて賛成する。でも……

「すみません、俺は少し用事があるので、お2人で楽しんできて下さい。それでは!」

 ユーゴは随分と慌てた様子で教室を飛び出して行った。なんだか変ね……

「何かあったのかな?」

「あの慌て様は異様ね……」




* * *

ユーゴ視点

「ハァ……ハァ……ハァ……っ!!」

 俺は充分2人から距離をとると、不意に込み上げてきた吐き気に襲われて嘔吐した。その後、激しい頭痛と体が捻れるような腹の痛みが訪れた。

 あまり詳しくない俺でもよく分かる。これは毒だ……

「ハァ……ハァ……誰だこんな真似をしやがったのは……」

 俺は朦朧とする意識の中、必死に頭を動かした。カトリーヌがこんな真似をするはずがない。

 毒味をした時に異変は感じていた。口に含んだ瞬間、身体中の全細胞が今すぐそれを吐き出せと訴えていた。

 でも、そんな事をしたら……カトリーヌが疑われてしまう!

 毒入りの薬を渡したとなれば、たとえ親しい中でも王妃に対する反逆行為として罰が与えられる。

 少なくとも2人の間に亀裂が生まれてしまう。そんな事は絶対に許せない!

「でも……少し無茶しすぎたな……」

 さっきまで燃えるように体が暑かったのに、今度は凍えるように寒い。これはやばいかもな……俺はこのまま死ぬのか?

「ユーゴ、どうしたの? しっかりして!」

 誰かに呼ばれて重たい瞼を持ち上げると、カトリーヌとロレッタが青ざめた表情で走って来た。

「コレは一体どういう事なの⁉︎」

 ロレッタ姉さんが狼狽しながら俺に尋ねる。隣にいたカトリーヌはカバンから薬草を取り出して慣れた手つきで調合を始めた。

「コレを飲んで。この症状はおそらく毒よ!」

 カトリーヌの作ってくれた薬のおかげで、死にそうだった苦しみが少し治った気がした。でもその代わりに猛烈な眠気がやって来た。

「副作用で眠くなると思うから、無理しないで休んで」

 カトリーヌが何か言っているが、最後の方はよく聞こえなかった。やばい、眠い……いよいよ意識が朦朧とした時だった……

「うぁあああああ!!!」

 教室から謎の叫び声が聞こえてきた。今度は一体なんだ?

「ロレッタ、ユーゴの様子を見ていてもらえる? 私は一度研究室に戻るわ」

「分かった。でも1人で大丈夫?」

「えぇ、平気よ。ユーゴを事をお願いね」

 カトリーヌはそう言い残すと、研究室の方に戻って行った。



* * *
 
ライアン視点

「おかしいな……確かに劇薬を混ぜたはずなのに……」

 ボクはカトリーヌが渡そうとした薬をジィーと見つめた。昔から一度気になると試さないと気が済まない。毎回そのせいで酷い目に会うのだが、好奇心には勝てなかった。

 ボクは慎重に薬の蓋を開けると、一口飲んでみた。そして自分の好奇心を呪った。

「うぁあああああ!!!」

 舌が痺れるような感覚がして勢いよく吐き出した。うっ……気持ち悪い……

「クソ、あの男……痩せ我慢しやがって……やっぱり劇薬が入っているじゃないか!」

 騙された怒りに任せて激しく毒づいていたら、扉の前に女性が立っていた。

「やっぱり劇薬が入っている? コレはあなたの仕業なのね!」

 その女性……カトリーヌは目を釣り上げると、怒りを露わにしてボクを見ていた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

朝起きたら同じ部屋にいた婚約者が見知らぬ女と抱き合いながら寝ていました。……これは一体どういうことですか!?

四季
恋愛
朝起きたら同じ部屋にいた婚約者が見知らぬ女と抱き合いながら寝ていました。

【完結】愛を知らない伯爵令嬢は執着激重王太子の愛を一身に受ける。

扇 レンナ
恋愛
スパダリ系執着王太子×愛を知らない純情令嬢――婚約破棄から始まる、極上の恋 伯爵令嬢テレジアは小さな頃から両親に《次期公爵閣下の婚約者》という価値しか見出してもらえなかった。 それでもその利用価値に縋っていたテレジアだが、努力も虚しく婚約破棄を突きつけられる。 途方に暮れるテレジアを助けたのは、留学中だったはずの王太子ラインヴァルト。彼は何故かテレジアに「好きだ」と告げて、熱烈に愛してくれる。 その真意が、テレジアにはわからなくて……。 *hotランキング 最高68位ありがとうございます♡ ▼掲載先→ベリーズカフェ、エブリスタ、アルファポリス

傷物令嬢シャルロットは辺境伯様の人質となってスローライフ

悠木真帆
恋愛
侯爵令嬢シャルロット・ラドフォルンは幼いとき王子を庇って右上半身に大やけどを負う。 残ったやけどの痕はシャルロットに暗い影を落とす。 そんなシャルロットにも他国の貴族との婚約が決まり幸せとなるはずだった。 だがーー 月あかりに照らされた婚約者との初めての夜。 やけどの痕を目にした婚約者は顔色を変えて、そのままベッドの上でシャルロットに婚約破棄を申し渡した。 それ以来、屋敷に閉じこもる生活を送っていたシャルロットに父から敵国の人質となることを命じられる。

踏み台令嬢はへこたれない

三屋城衣智子
恋愛
「婚約破棄してくれ!」  公爵令嬢のメルティアーラは婚約者からの何度目かの申し出を受けていたーー。  春、学院に入学しいつしかついたあだ名は踏み台令嬢。……幸せを運んでいますのに、その名付けはあんまりでは……。  そう思いつつも学院生活を満喫していたら、噂を聞きつけた第三王子がチラチラこっちを見ている。しかもうっかり婚約者になってしまったわ……?!?  これは無自覚に他人の踏み台になって引っ張り上げる主人公が、たまにしょげては踏ん張りながらやっぱり周りを幸せにしたりやっと自分も幸せになったりするかもしれない物語。 「わたくし、甘い砂を吐くのには慣れておりますの」  ーー踏み台令嬢は今日も誰かを幸せにする。  なろうでも投稿しています。

とある虐げられた侯爵令嬢の華麗なる後ろ楯~拾い人したら溺愛された件

紅位碧子 kurenaiaoko
恋愛
侯爵令嬢リリアーヌは、10歳で母が他界し、その後義母と義妹に虐げられ、 屋敷ではメイド仕事をして過ごす日々。 そんな中で、このままでは一生虐げられたままだと思い、一念発起。 母の遺言を受け、自分で自分を幸せにするために行動を起こすことに。 そんな中、偶然訳ありの男性を拾ってしまう。 しかし、その男性がリリアーヌの未来を作る救世主でーーーー。 メイド仕事の傍らで隠れて淑女教育を完璧に終了させ、語学、経営、経済を学び、 財産を築くために屋敷のメイド姿で見聞きした貴族社会のことを小説に書いて出版し、それが大ヒット御礼! 学んだことを生かし、商会を設立。 孤児院から人材を引き取り育成もスタート。 出版部門、観劇部門、版権部門、商品部門など次々と商いを展開。 そこに隣国の王子も参戦してきて?! 本作品は虐げられた環境の中でも懸命に前を向いて頑張る とある侯爵令嬢が幸せを掴むまでの溺愛×サクセスストーリーです♡ *誤字脱字多数あるかと思います。 *初心者につき表現稚拙ですので温かく見守ってくださいませ *ゆるふわ設定です

断罪されてムカついたので、その場の勢いで騎士様にプロポーズかましたら、逃げれんようなった…

甘寧
恋愛
主人公リーゼは、婚約者であるロドルフ殿下に婚約破棄を告げられた。その傍らには、アリアナと言う子爵令嬢が勝ち誇った様にほくそ笑んでいた。 身に覚えのない罪を着せられ断罪され、頭に来たリーゼはロドルフの叔父にあたる騎士団長のウィルフレッドとその場の勢いだけで婚約してしまう。 だが、それはウィルフレッドもその場の勢いだと分かってのこと。すぐにでも婚約は撤回するつもりでいたのに、ウィルフレッドはそれを許してくれなくて…!? 利用した人物は、ドSで自分勝手で最低な団長様だったと後悔するリーゼだったが、傍から見れば過保護で執着心の強い団長様と言う印象。 周りは生暖かい目で二人を応援しているが、どうにも面白くないと思う者もいて…

変態婚約者を無事妹に奪わせて婚約破棄されたので気ままな城下町ライフを送っていたらなぜだか王太子に溺愛されることになってしまいました?!

utsugi
恋愛
私、こんなにも婚約者として貴方に尽くしてまいりましたのにひどすぎますわ!(笑) 妹に婚約者を奪われ婚約破棄された令嬢マリアベルは悲しみのあまり(?)生家を抜け出し城下町で庶民として気ままな生活を送ることになった。身分を隠して自由に生きようと思っていたのにひょんなことから光魔法の能力が開花し半強制的に魔法学校に入学させられることに。そのうちなぜか王太子から溺愛されるようになったけれど王太子にはなにやら秘密がありそうで……?! ※適宜内容を修正する場合があります

処理中です...