恋愛戦線からあぶれた公爵令嬢ですので、私は官僚になります~就業内容は無茶振り皇子の我儘に付き合うことでしょうか?~

めもぐあい

文字の大きさ
28 / 35

28 ブラコンの第一皇子

しおりを挟む
 ――カツカツカツカツ――

 今朝もユリアン様の元へ向かう私の真正面から、ユリアン様、否、あの御方がやって来る。



「そろそろいい加減にしてくださいませんか?」
「それはこちらのセリフ。いつまで官僚をしているつもりだ。尻尾を巻いて、さっさと辞めればいいものを!」

 どちらも引こうとせず、バチバチと私とジェラルド様の間に火花が散る。周囲にいた官僚や衛兵が冷や冷やした様子で私たちを眺めている。

(ジェラルド様は焦っているのだろう。私の試用期間が終われば、官僚をクビにすることは難しいから)

 政治色に左右されないため、官僚はある程度一定の地位が守られる。“古きよきレーヴァンダール帝国の就業体系に守られた城勤め”と揶揄されるのもこのためだ。
 しかし、試用期間であれば話は別。正採用されなければそれまでだ。


 このように、最近私はユリアン様の執務室に行く前に、ジェラルド様に捕まっている。

「私が直々お前の考課をしようと言うのだ。光栄に思うが良い」

 相手も私が大人しく言うことを聞かないと察したのか、こうしてわざわざ私に張り付いて、一日中観察されるのだ。ご公務をなさってはどうかと言えば、「皇子課の新人職員指導も立派な公務」だとか、「ユリアンと私が正反対の評価を言えば、クビになる確率は半々だ。今までのお前の悪評を聞いてきた者たちはどう考えるだろうな?」などと脅してきたりもする。

 本当にペラである。いくら身体が弱く、口ばかりが達者になったと考えるようにしてもカチンとくる。

「だが、こうして無駄に言い合っていても不毛だ。今日は少し、建設的な会話をしよう」

 まあ、そういうところはドロテアと違って好感が持てるところではある。命令と言われればそれまでなので、大人しくジェラルド様の執務室で対話に応じる事にした。何かあれば、すぐユリアン様や係の皆が来てくれるだろう。むしろ、こないという事は、私に一人でやってみなさいと言っているのと同義だ。



「お前はいつ、ユリアンを好きになったのだ?」

 ストレート過ぎて身内の方に大変答えづらいが、真摯にお答えすべきだろう。

「ボルダン伯爵家主催の狩りの時命を狙われ、森の中にあるコテージに逃げ込み二人で話をした時からです」
「フン。最近ではないか。まあ、身を潜めていたとは聞いている。その時何があったのだ?」

「ユリアン様は子どもの頃私と出会った際、自分に似ていて嫌な女だと思ったそうです」
「ああ、ユリアンは嫌な男ではないが、お前に関しては納得だな」

 いちいち癪に障る事を言う。

「ただ、その後、学園でセオドア・ヴェントゥル様と私が楽しげに話し、笑っているのを見て……、その……私の笑顔が良かったと……」

 なぜ、私がこんな話を好いた人の身内に暴露しなくてはならないのだろう。恐ろしく苦行だ。勝手に説明する事もユリアン様に申し訳ない。

「ほう。たかだか一目惚れというやつではないか。一瞬なら、忘れるのも容易かろうに」
「いえ、それから私をずっと見ていたようです。ユリアン様が学園を卒業し私が苛めに遭ってからは、第二皇子係の人を私につけ、見守ってくれていたと後に聞きました」
「ユリアンとセオドアが、お前の身の潔白を卒業パーティーで証明したことは私もモーガンから聞いた。そこに関しては、私の大切な者たちの話を信用するしかないと考えるようにはし始めたがな――」

 ジェラルド様の表情と纏う空気がピリリとする。

「私はなぁ、お前にも問題があったのではないかと思っている。やられる側にも問題があったのではないか?」
「確かにそうですね。そう思われても当然です。ドロテアの真意に気づかず、策に嵌ったと自分でも情けなく思いました。解決方法も色々あったかと存じます」
「ハハッ。本当に滑稽だ。学年首席だろうが公爵令嬢だろうが、お前が成り上がりの伯爵家の女にしてやられたのは事実だ」

 その通り。だが――

「ですが――」
「なんだ。言ってみろ……」

「あの娘のお陰で私は官僚となり、ユリアン様のお側に居る事が出来ました。何もなければ普通に公爵家に一番都合の良いお相手の方と今頃婚約し、婚姻の準備を進めていたでしょう」

 私は想いの丈を話し続ける。ユリアン様が人生をかけ支える御方に、私の気持ちを知って欲しい。そしてこの御方は、ただユリアン様を案じているだけなのだ。

「第二王子係の皆さんや、モーガンさんとの出会いもありませんでしたし、平民の同級生の友となる事は無かったでしょう」
「それはそうだな……」

 素直に認めるところは認めるという姿勢は良いと思う。理解していても、感情が伴わなかったりするものなのに。やはりあの娘よりやり易い。

(何とかジェラルド様にはご理解いただきたい……)

「その時、不遇だと思ったとしても、失敗したと思ったとしても、未来は自分の行動次第で変わります。ハッキリ言って、今の私は幸せです」
「ほう? ユリアンが私を皇帝に即位させ、生涯影となっても私を支えようとしている事は知っているのだろう?」

 そこを突いてきても、もう私は揺るがない。

「はい。当然伺っております。そのユリアン様を、私は官僚として生涯支えるとお伝えしました」


 一時の静寂――私はユリアン様のご家族にも、想いを伝えてしまった――


「抜かす……。喋り過ぎて疲れたな。少し休む……」
「では、モーガンさんを呼んで来ます」
「……」

 ジェラルド様が黙り込んでしまったので私は退室し、直ぐモーガンさんの居る皇子課へと向かった。




 やはり、モニカ・クラウスティンは生意気で嫌な女だった。私をユリアンの影武者呼ばわりした挙句、暴言を吐きまくったのだ。ユリアンもモーガンも人を見る目がない。

 だが、どんなに諭しても、ユリアンの気持ちは固かった。私がモニカ・クラウスティンに接触した後、あの温厚なユリアンが私を叱ったのだ。あり得ない。

「声を荒げ申し訳ございません。しかし兄上、私はモニカを愛しているのです」
「女など、私がいくらでも探してやるよ」

 ユリアンが悲しそうな顔で微笑む。

「モニカ以外の女性に興味はないのです。御理解ください」
「ジェラルド様、愛する人とは替えが効く物ではないのです」

 モーガンまでユリアンの言葉に追随する始末。そんな縛られる様な色恋など、私には理解できない。

(ユリアン……。なぜ分かってくれないのだ……。こうなったら、この城からモニカ・クラウスティンを追い出すしかない)

 どうしても私は、ユリアンには幸せになってもらいたいのだ……。その日以降、隠しもせず堂々とモニカ・クラウスティンの元を訪れたが、中々化けの皮を剥がさない。そして、今し方……。


『ユリアン様を、私は官僚として生涯支えるとお伝えしました』
『私は早く大きくなりたいです。大きくなって、兄上を支えます』

 幼い頃のユリアンと、目の前の憎い女の姿が何故か重なった――


(なっ!! ユリアンと重なったということは、私とあの女が重なってしまったようなものではないかっ!! ――絶対にただでは退かぬっ。ユリアンのためにも……)

 こうなったら、あの女がユリアンを支えるに相応しいか試す。私もこの国の皇子だ。一応帝国の民であるあの女を慈しむ心を持ち、公正な判断をしようではないか。
 勿論愛する弟の側に居させる女は、それに見合った試練をクリアしてもらわねばならないが。

 私はモニカ・クラウスティンに、皇族の秘密を探らせる事にした。失敗しても、邪魔な女が一人消えるだけ。最悪、私が責を負えばモニカ・クラウスティンと私だけの処分で済む。成功すれば、その暁には……。

(私は卑怯者だな。自分が恐ろしくて出来なかった事を、他人に……、しかも女にさせようとしている……)
しおりを挟む
感想 23

あなたにおすすめの小説

【本編完結】王子の寝た子を起こしたら、夢見る少女では居られなくなりました!

こさか りね
恋愛
私、フェアリエル・クリーヴランドは、ひょんな事から前世を思い出した。 そして、気付いたのだ。婚約者が私の事を良く思っていないという事に・・・。 婚約者の態度は前世を思い出した私には、とても耐え難いものだった。 ・・・だったら、婚約解消すれば良くない? それに、前世の私の夢は『のんびりと田舎暮らしがしたい!』と常々思っていたのだ。 結婚しないで済むのなら、それに越したことはない。 「ウィルフォード様、覚悟する事ね!婚約やめます。って言わせてみせるわ!!」 これは、婚約解消をする為に奮闘する少女と、本当は好きなのに、好きと気付いていない王子との攻防戦だ。 そして、覚醒した王子によって、嫌でも成長しなくてはいけなくなるヒロインのコメディ要素強めな恋愛サクセスストーリーが始まる。 ※序盤は恋愛要素が少なめです。王子が覚醒してからになりますので、気長にお読みいただければ嬉しいです。 ※本編完結しました。

【完結】モブ令嬢としてひっそり生きたいのに、腹黒公爵に気に入られました

22時完結
恋愛
貴族の家に生まれたものの、特別な才能もなく、家の中でも空気のような存在だったセシリア。 華やかな社交界には興味もないし、政略結婚の道具にされるのも嫌。だからこそ、目立たず、慎ましく生きるのが一番——。 そう思っていたのに、なぜか冷酷無比と名高いディートハルト公爵に目をつけられてしまった!? 「……なぜ私なんですか?」 「君は実に興味深い。そんなふうにおとなしくしていると、余計に手を伸ばしたくなる」 ーーそんなこと言われても困ります! 目立たずモブとして生きたいのに、公爵様はなぜか私を執拗に追いかけてくる。 しかも、いつの間にか甘やかされ、独占欲丸出しで迫られる日々……!? 「君は俺のものだ。他の誰にも渡すつもりはない」 逃げても逃げても追いかけてくる腹黒公爵様から、私は無事にモブ人生を送れるのでしょうか……!?

前世の記憶を取り戻した元クズ令嬢は毎日が楽しくてたまりません

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のソフィーナは、非常に我が儘で傲慢で、どしうようもないクズ令嬢だった。そんなソフィーナだったが、事故の影響で前世の記憶をとり戻す。 前世では体が弱く、やりたい事も何もできずに短い生涯を終えた彼女は、過去の自分の行いを恥、真面目に生きるとともに前世でできなかったと事を目いっぱい楽しもうと、新たな人生を歩み始めた。 外を出て美味しい空気を吸う、綺麗な花々を見る、些細な事でも幸せを感じるソフィーナは、険悪だった兄との関係もあっという間に改善させた。 もちろん、本人にはそんな自覚はない。ただ、今までの行いを詫びただけだ。そう、なぜか彼女には、人を魅了させる力を持っていたのだ。 そんな中、この国の王太子でもあるファラオ殿下の15歳のお誕生日パーティに参加する事になったソフィーナは… どうしようもないクズだった令嬢が、前世の記憶を取り戻し、次々と周りを虜にしながら本当の幸せを掴むまでのお話しです。 カクヨムでも同時連載してます。 よろしくお願いします。

【完結】気味が悪いと見放された令嬢ですので ~殿下、無理に愛さなくていいのでお構いなく~

Rohdea
恋愛
───私に嘘は通じない。 だから私は知っている。あなたは私のことなんて本当は愛していないのだと── 公爵家の令嬢という身分と魔力の強さによって、 幼い頃に自国の王子、イライアスの婚約者に選ばれていた公爵令嬢リリーベル。 二人は幼馴染としても仲良く過ごしていた。 しかし、リリーベル十歳の誕生日。 嘘を見抜ける力 “真実の瞳”という能力に目覚めたことで、 リリーベルを取り巻く環境は一変する。 リリーベルの目覚めた真実の瞳の能力は、巷で言われている能力と違っていて少々特殊だった。 そのことから更に気味が悪いと親に見放されたリリーベル。 唯一、味方となってくれたのは八歳年上の兄、トラヴィスだけだった。 そして、婚約者のイライアスとも段々と距離が出来てしまう…… そんな“真実の瞳”で視てしまった彼の心の中は─── ※『可愛い妹に全てを奪われましたので ~あなた達への未練は捨てたのでお構いなく~』 こちらの作品のヒーローの妹が主人公となる話です。 めちゃくちゃチートを発揮しています……

悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。

槙村まき
恋愛
 スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。  それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。  挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。  そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……! 第二章以降は、11時と23時に更新予定です。 他サイトにも掲載しています。 よろしくお願いします。 25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!

【完結】うちの悪役令嬢はヒロインよりも愛らしい

らんか
恋愛
前世の記憶を思い出した今なら分かる。  ヒロインだからって、簡単に王子様を手に入れていいの?  婚約者である悪役令嬢は、幼い頃から王子妃になる為に、厳しい淑女教育を受けて、頑張ってきたのに。  そりゃ、高圧的な態度を取る悪役令嬢も悪いけど、断罪するほどの事はしていないでしょ。  しかも、孤独な悪役令嬢である彼女を誰も助けようとしない。    だから私は悪役令嬢の味方なると決めた。  ゲームのあらすじ無視ちゃいますが、問題ないよね?

ぐうたら令嬢は公爵令息に溺愛されています

Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のレイリスは、今年で16歳。毎日ぐうたらした生活をしている。貴族としてはあり得ないような服を好んで着、昼間からゴロゴロと過ごす。 ただ、レイリスは非常に優秀で、12歳で王都の悪党どもを束ね揚げ、13歳で領地を立て直した腕前。 そんなレイリスに、両親や兄姉もあまり強く言う事が出来ず、専属メイドのマリアンだけが口うるさく言っていた。 このままやりたい事だけをやり、ゴロゴロしながら一生暮らそう。そう思っていたレイリスだったが、お菓子につられて参加したサフィーロン公爵家の夜会で、彼女の運命を大きく変える出来事が起こってしまって… ※ご都合主義のラブコメディです。 よろしくお願いいたします。 カクヨムでも同時投稿しています。

子供が可愛いすぎて伯爵様の溺愛に気づきません!

屋月 トム伽
恋愛
私と婚約をすれば、真実の愛に出会える。 そのせいで、私はラッキージンクスの令嬢だと呼ばれていた。そんな噂のせいで、何度も婚約破棄をされた。 そして、9回目の婚約中に、私は夜会で襲われてふしだらな令嬢という二つ名までついてしまった。 ふしだらな令嬢に、もう婚約の申し込みなど来ないだろうと思っていれば、お父様が氷の伯爵様と有名なリクハルド・マクシミリアン伯爵様に婚約を申し込み、邸を売って海外に行ってしまう。 突然の婚約の申し込みに断られるかと思えば、リクハルド様は婚約を受け入れてくれた。婚約初日から、マクシミリアン伯爵邸で住み始めることになるが、彼は未婚のままで子供がいた。 リクハルド様に似ても似つかない子供。 そうして、マクリミリアン伯爵家での生活が幕を開けた。

処理中です...