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綱砥 鈴

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アスリート科

ゲリラ豪雨にて

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「あ、雨」

   利陸りひとが活動を終え部室から出ると、物凄い量の雨が降っていた。いや、降っているというより、叩きつけていると言った方が正しい表現かもしれない。そのくらいの雨だ。

   部活をしている時までは晴れていて、雨の予報もなかった為、勿論傘なんてものは持ってきていない。これが小雨程度であれば走って帰る事も考えたが、ここまでになると部活動の終わりに走って帰る気にもなれない。待つしかないかと暫く待ってみるが、風が強くなり雷まで鳴り出した。

(これは、......寮に帰るのも一苦労だ)

   利陸はふぅと溜息を吐く。きっと通り雨だけど、寮までは走って数分。仕方ないので教科書類の濡れてしまったらいけないものは部室に置き、明日取りにこればいいかと考えた。

   さて、一度室内に戻ろうとすると後ろから声が聞こえる。

「うわ、凄い雨だな」

   振り返れば、校内では見慣れない制服を着た蘇芳すおうが眉を寄せて立っていた。この雨を見たら皆こういう顔になるだろう。

「せ、先輩。お疲れ様です」

   声がひっくり返らないように気をつけながら挨拶をすると、蘇芳も利陸がいた事に気がついたようで、おう、と返した。
   それだけの返答だが、利陸は飛び上がるくらい嬉しい。付き合い始めてしばらく経つというのに、まだ慣れそうになかった。

   蘇芳の隣に並んで、校庭に降り続く雨を眺める。どき、どき、と心臓が高鳴った。大会で跳ぶ前みたいだ。手が震える。

「そうだ、利陸」
「なんですか?」

   蘇芳が何かを話しているようなのだが、この雨のせいで利陸には全く聞こえなかった。雨粒の叩きつける音で人の声は拾えない。

「ごめんなさい、もう一度お願いします」
「うん?だからーーー」

   利陸は蘇芳の方へと顔を寄せて、少し身長が足りない分背伸びをした。これでちゃんと聞こえるはず、と。

   しかし、蘇芳の声は聞こえることはなかった。

   代わりに目の前に蘇芳の顔と、唇にあたたかい感触があるだけで。

「...え...?」

   驚きで利陸が固まっているのを見て、蘇芳はくっくっと喉を鳴らして楽しそうに笑った。

「あまりにもが可愛い顔するから、思わずキスしてしまった」
「...っ!もう!やめてっ!」

   思わず敬語を忘れて体を押して突っ撥ねると蘇芳は更に笑う。そして利陸の頭をぽんと一撫でして校庭の方に一歩踏み出した。

「ほら、小降りになった。今行くぞ」

   蘇芳の言う通り小雨になっていて、空には雲の切れ間から太陽が覗いている。

「利陸」

   大きなエナメルバッグを肩にかけて、蘇芳が利陸の方を振り返る。首をかしげて目を合わせた。蘇芳は、にかっと歯を見せて後輩に笑いかける。

「今日も俺の部屋、来るんだぞ。勉強教えてやる」
「...!は、はい!」

   つられて笑って彼の後ろを着いて行った利陸の足取りはとても軽かった。
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