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しおりを挟む「じゃあな」
すでに辺りは静まり返っていて、速水達のケンカも終わったようだった。速水達を探して辺りを見回すと、先ほどいた場所から離れた所に座っていた。
「すまん。待たせたな」
「総長~、どこ行ってたんスか!」
蒼に気づいた速水達が駆け寄ってきた。相変わらず犬みたいで面白い。ブンブンと見えない尻尾が見えるようだ。
「ちょっとな。で、どうだった?」
「さっき倒したヤツらを締めたんですけど、あまり情報は得られませんでした」
「ほとんどのヤツは何も知らないようです」
「そうか……」
やはり下っ端には関係ないのだろうか。
「ですが、ちょっと気になる事を言っていたヤツがいて……なあ?」
速水が後ろにいたメンバーに話しかけると、みんながうんうんと頷き、不思議そうに首を傾げた。
「変な事?」
「はい。それが、その……」
なぜか速水の顔が赤くなり、言いづらそうにしている。
「早く言え」
「す、すみません! なんか、BLUEを潰せばまた抱かせてもらえるとか言ってました!」
「抱かせる? 誰をだ? 女か?」
抱かせると言う事は舞の女だろうか。
「それが……たぶん舞本人だと……」
「はあ?」
「あいつら、やたら舞の事絶賛してて……舞を喜ばせればご褒美が貰えるとかいろいろ言ってました」
「言ってた言ってた」
「ちょっと心酔してて怖かったよな」
他のやつらも聞いていたらしく、次々に舞の情報が出てきた。どうやら舞という奴はBLACKのメンバーを虜にしているらしい。そんな簡単に身体を差し出すのだろうか。
「ふうん……」
「それ、本当か?」
「ひっ」
また知らない間に阿知波が背後に立っていた。今度はBLACKの副総長、白坂や他のメンバー達も一緒だ。いつの間に合流したんだろう。
「あ、阿知波!?」
「白坂までいる……」
「なんで……?」
速水達はBLACK幹部の登場に驚きを隠せないらしい。無理もない。こいつらはこんな小さな事件には絶対顔を出さないのだから。
「えへへ、蒼ちゃん帰したくなくて追いかけてきちゃった~」
「久しぶりだな、望月。すまんなあコイツが駄々をこねて」
驚く速水達を無視して阿知波と白坂が話しかけてきた。
「どうしてお前は気配がしないんだ……」
また抱きついて来ようとしたのでとっさに振り払った。今度は皆が見ている前だ。総長として情けない姿は見せられない。
「なんだ……もうしないのか? さっきはあんなに熱かったのに」
「は……?」
「お前と黒夜のラブシーン、なかなか良かったぞ」
蒼にだけ聞こえるようボソッと呟く白坂に、思わず顔が青くなった。
「な、なんで……?」
「なんでって……見てたから」
「……いつから?」
「最初から」
「最初から……?」
淡々と話す白坂に開いた口が塞がらない。
見てただと?
あれを? 最初から?
「な……」
阿知波との事を思い出して、思わず顔が熱くなる。あんなものを全部見られていたなんて、憤死レベルもいいとこだ。
「安心しろ。見てたのは俺だけだ」
「て、てめぇ、なんで止めねぇんだ! お前んトコの頭だろうが!」
「んー、黒夜が嬉しそうだったから?」
白坂を責めれば飄々とした答えが返ってきた。阿知波も苦手だが、この白坂も苦手だった。表情がほとんど変わらないので何を考えているのか全く読めないのだ。こいつに対抗できるのは上原くらいで、連れて来なかったのをすぐさま後悔した。
「蒼ちゃんたら赤くなっちゃって可愛い……白坂は空気を読んでくれたんだよ?」
「お前、知って……」
「もちろん。俺と蒼ちゃんの仲を見せつけてやろうと思って~」
阿知波の手から逃れられず、ぎゅうぎゅうと抱きしめられて頬ずりされた。
「てめ、ふざけんなっ」
阿知波の腹にドスッと重い蹴りを入れると、BLACKのメンバーから悲鳴が上がった。
『あいつ……殺されるぞ……』
『BLUEの総長だよな? 話には聞いていたけどすげえな……』
『つーか、阿知波さんの喋り方……普段と違くないか? あんなに笑ってる阿知波さん初めて見た……』
「ん?」
BLACKのメンバーが何か言っているが意味が分からない。
殺される?
確かにこいつは強いが、俺とは互角の筈だし、殺されるつもりはない。
「……なんだ?」
阿知波は下を向いたまま黙っている。
「……ら」
「……阿知波?」
「てめえら……余計な事言ったらぶっ殺すぞ……」
すると、ドスの利いた声が隣から聞こえ、その声にBLACKのメンバーがすくみ上がった。
「「す、すみません!」」
顔を青ざめたメンバー達はすぐに黙ってしまった。
「なんだ?」
「気にするな。いつもの事だ」
それを見ていた白坂が口を挟んだ。やっぱり意味が分からない。
「……?」
「蒼ちゃんは気にしなくていいって事! あいつらの心配より俺の心配して欲しいなあ。蹴るなんて酷い! 蒼ちゃんがくれるならなんでも嬉しいけど、蹴りよりキスが欲しい……」
復活した阿知波が、調子に乗って唇を寄せてきた。
「死ね」
ムカついたので軽く頭を殴ってやると、再び周りから悲鳴が上がった。だから何なんだ?
「蒼ちゃんのバカ!」
「うるさい!」
ああもう面倒くさい。早く帰りたい。
そんな事を思っていると、速水の小さな声が聞こえてきた。
「あのお……総長? ずいぶんBLACKの奴と仲が良いんですね……?」
「ああ!? ふざけんな。誰がこんな奴と……」
「そうそう、俺達は仲が良いんだから邪魔すんじゃねぞカスが」
「てめえは黙ってろ!」
「蒼ちゃん酷い!」
喚く阿知波を無視して速水達に向き直る。こんなのに付き合っていたら時間の無駄になってしまう。
「さっきの……本当なんだな? 身体を差し出すとかどうとか」
「はい、確かに。みんな聞きましたから」
「間違いありません」
「……だそうだ。阿知波、本当に心当たりは無いのか?」
阿知波に問いかけるとやはり首を傾げていた。
「うーん……舞、ねえ。やっぱり分かんない。白坂、うちのチームに舞なんて名前の奴いたか?」
「舞? さあ……聞いた事無いな。なんなんだそいつは……お前らは?」
白坂が後ろにいるBLACKのメンバーにも聞いてみるが、皆、首を振るばかりだった。
「さあ……分かりません」
白坂も他のメンバー達も知らないとなると、八方塞がりも同然だった。
「BLUEの傘下を潰して行ってるらしくてな……俺の蒼ちゃんを困らせてる。しかも俺の女だとふれ回っているらしい」
「それはそれは……」
「勝手にBLACKがバックにいるとも言ってるみたいでな」
「……それは聞き捨てならないな」
呑気に聞いていた白坂が、眉間に皺を寄せた。
「だろ? 蒼ちゃんには誤解されるし最悪だ。見つけ次第殺す」
「おいおい……物騒な事を言うな」
「だって許せないんだもん。蒼ちゃんだってそうでしょ?」
「確かにそうだけど……」
「でしょ? ま、とりあえず……その抱かせて貰えるとか言ってた奴らはどこにいる?」
阿知波が聞くと速水が「あっちで気絶してる」と後ろの方を指差した。
「そいつら連れて帰って聞いてみる。白坂、逃げないうちに捕まえとけ」
「ああ」
白坂が頷き、他のメンバーと共にそいつらがいる方へ歩いていった。
「そういう事だから安心してね? 舞って奴、見つけ次第潰すから」
「だから……物騒な事を言うな。まずは捕まえる事が先決だ。とりあえず、舞を捕まえるまではBLUEとBLACKは一時休戦て事でいいか?」
阿知波の気持ちも分からなくはないが、今はとにかく舞を捕まえたかった。
まずは話を聞き、理由を聞きたい。なぜBLUEを目の敵にしているのか。
「いいよ。っていうかさー、勝手にケンカして敵視してるのは下の奴らだけだし」
「は? なら、なんでうちに乗り込んで来たんだ?」
「んー、幹部がやられたのがBLUEのせいって聞いたから? 強い奴がいるって。それも下の奴らがついた嘘だったみたいだけど」
「な……」
「後で聞いたらBLUEの奴に女取られて悔しかったんだってさ。まあ、そのおかげて蒼ちゃんと再会できたから感謝してるけどね! まさか総長とは思わなかったけど。あ、嘘ついた奴はちゃんと締めといたから安心して? あれ? 蒼ちゃんどうしたの?」
「……」
なんて事だ。その嘘をついた奴を殺したい。そいつが嘘をつかなければ、こいつに見つかる事は無かったのに……!
「そ、総長? 大丈夫ですか?」
黙ってしまった蒼を見て、速水が心配そうに話しかけてくる。メンバーに気を使わせるなんて、総長として情けなかった。
「あ、ああ……すまん。さっき言った通りだ。この件が片付くまではBLUEとBLACKは協力する。みんなにも言っといてくれ。ケンカはするなと」
「分かりました!」
速水が頷き、他のメンバーにも説明している。ここでやり残した事は無くなった。
「じゃあ俺達はこれで。何かあったら連絡してくれ」
阿知波に背を向け帰ろうとすると、いきなり腕を掴まれ、止められた。
「蒼ちゃん待って」
「なんだ?」
「蒼ちゃんの携帯教えて? 連絡しやすいでしょ? 蒼ちゃん絶対うちには来ないだろうし、チームの奴らを行かせるのも面倒だから」
「う……」
読まれている。気づかないフリをしようとしたのが裏目に出てしまった。
こいつに連絡先は絶対に教えたくはなかった。何か分かった時はチームの誰かを行かせようと思っていたのに。
「ね?」
はい、とスマホを差し出され、逃げる事が出来なくなった。
「……ったく」
仕方なくポケットから自分のスマホを出し、阿知波と連絡先を交換した。すると、阿知波の嬉しそうな声が聞こえてくる。
「ふふふ、蒼ちゃんの連絡先ゲット~」
「舞の件以外で連絡するなよ?」
「え? 毎日電話と連絡するつもりだけど」
「ウザい」
「酷い!」
「みんな、帰ろうか」
「「は、はい!」」
騒ぐ阿知波を無視して今度こそ帰ろうとすると、またしても腕を掴まれた。
「今度はなん……」
すると強く引き寄せられ、阿知波の顔がアップになった。逃げる隙を与えられず、まんまとキスをされてしまう。
「ん……!」
話しかけていたせいで口が開いたままになり、阿知波の舌が簡単に入り込んでくる。頭と腰をしっかりと押さえ込まれ、逃げる事が出来なくなった。背中を叩いて抵抗するがびくともしない。
「ん……」
角度を変えながら、何度も蒼の口内を味わう阿知波は、しばらくすると満足したのか、チュッと音を立てて離れていった。
「……やっぱり蒼ちゃん、美味しい」
「……てめっ、離せ……!」
「またまた照れちゃってー……可愛い!」
「ふざけんな!」
「あ、あの……」
か細い声が聞こえ、はっとして後ろを振り向くと、顔を真っ赤にした速水達が居心地悪そうに俯いていた。
ヤバい。見られた。
「おい、勝手に見てんじゃねえぞカスどもが」
すると阿知波が蒼を抱きしめながら低い声を出し、速水達を威嚇した。
「ちょっ……」
「す、すすすみません! やっぱり……総長が阿知波を虜にしてるって本当だったんですね……」
阿知波を黙らせようと声を出せば、速水がおろおろと視線をさまよわせながらぼそりと呟いた。
「は?」
「ただの噂だと思ってたんですけど……あの阿知波をそこまで惚れさせるなんて凄いです! 誰にも本気にならないって有名なんですよ?」
どういう事だ?
引かれるどころか、更に興奮している速水。ただただ呆然とするばかりだった。
「くっ……ははっ! お前、話が分かるじゃねえか。蒼ちゃん聞いた? 俺、誰にも本気にならないんだよ? なのに蒼ちゃんには本気なの。凄くない?」
笑いを堪えていたらしい阿知波が吹き出し、何かを言っている。だが、頭の中は混乱していて何も入って来なかった。
ここには俺の味方はいないらしい。
「速水、お前は俺の敵だったんだな……」
「え? 総長? どうしたんですか? 待ってください! 俺らも帰ります!」
「蒼ちゃんもう帰っちゃうの? 電話するから」
「……」
阿知波の言葉を無視し、無言で歩き出した蒼を見て、慌てて速水達が追いかけてくる。ちらりと後ろを確認したが、阿知波が追いかけてくる様子は無いようだった。
(良かった……)
ただでさえ舞の事で疲れているのに、これ以上からかわれてはたまらない。蒼の心は余裕がなくなり、もう限界だった。
*
そのままみんなで溜まり場へと歩いていると、速水が思い出したように口を開いた。
「そういえば、ちょっと聞きたい事があるんスけど」
「なんだ?」
「総長と阿知波ってどこで知り合ったんスか? さっき、あいつが乗り込んで来た時が初めてじゃないって話してましたよね?」
確かにそういう話をしていたが、聞いていたのか。
「……聞いてたのか?」
「はい、二人の関係は気になってましたから」
「それは俺も聞きたいです」
「俺もー! あの阿知波があんなに懐いてるの初めて見ましたし……」
他の奴らも次々と口にする。そんなに珍しい事なのだろうか。今まであいつに興味が無かったから考えもしなかった。
「そんなに聞きたいか?」
「「「もちろんです」」」
「……誰にも言うなよ?」
みんなが頷き、期待の眼差しで見つめてくる。言うほどの事ではない気もするが、少しくらいなら話してもいいだろう。
「あれは……去年の夏だったかな……」
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