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72.王都への帰還

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 氷竜レシオンの群れが故郷に旅立ったのは、それから数日後のことだった。

 王竜と番の竜が二頭揃って咆哮を上げると、他の竜たちもそれに倣う。十分に体を休めた氷竜たちは、王竜を先頭に舞い上がった。竜たちは真っ直ぐに飛んでいくかと思ったのに、駐留地の空の上を三回ほどぐるりと旋回した。
 騎士たちが一斉に拳を握り、胸の前で右手を真横に揃える。それは相手に対して親愛と礼を示すのだと言う。

 王竜と番の竜が大きく息を吐くと、空からひらひらと雪が落ちてきた。まるで白い花のように風に舞う雪を、誰もが声もなく見つめる。俺とジードは並んで空を見上げ、北に進路を取った竜たちが見えなくなるまで、その姿を追っていた。

 氷竜たちを見送った後、第三騎士団と応援部隊は駐留地を引き上げ、王都に帰還した。

 国王陛下は騎士団の帰還を大層喜んでくださった。魔林は氷竜たちのおかげでバズアの繁殖が収まり、魔獣たちも落ち着きを取り戻しつつある。騎士たちは労をねぎらわれ、王都での休暇が命じられた。

 騎士団は持ち帰ったバズアを王に献上した。王は騎士たちに報奨金と共に、バズアを少しずつ分け与えた。残りは国庫に納め、驚いたことに一部を俺に自由に使っていいと言う。俺はジードからもらった分を別に確保したので十分だが、素材が必要な時はありがたく使わせてもらおうと思う。

 一番心配だったテオは、王都で治療を受け、ようやく本来の体調を取り戻しつつある。見舞いにバズアを使った菓子を届けると言ったら、楽しみだと笑う。

 俺は一時的に、王立研究所で働くことになった。
 バズアを使ってスイーツを作ると言ったら、その成果をラダが知りたがったからだ。それに器具も研究所が一番揃っているし、何よりゼノの魔石オーブンがある。

 プリンを作り直したいし、ケーキも焼いてみたい。いくつか、スイーツの案を絵に書いてみたら、レトが面白そうに眺めている。

「ユウ様、これは何ですか?」
「ああ、それ。何か丸い形のお菓子を作ってみたいんだよね。魔林でウーロに、茸型魔獣をあげたのがずっと心に残ってるんだ」

 コンコンと扉が叩かれ、にこにこしながら第三騎士団の第一部隊長が入って来る。

「ユウ殿~~。スイーツとやらの進み具合はいかがです?」

 その声を聞いた途端、ラダの眉がつりあがった。

「兄上! またいらしたんですか? さっさと騎士棟にお戻りください。こちらは仕事中なんですよッ」
「ええ~。でも俺たち、今、陛下から休暇もらっててさ。すっごく暇なんだよ……」
「たまの休暇だからって、すぐにふらふらと研究所にやってきてっ」

 俺は王都に帰るまで、王立研究所のラダ・ゾーエンと魔林で会ったロドス・ゾーエンが兄弟なことに少しも気づかなかった。ロドスは日に一度は研究所にやってきて、ラダに追い返されている。二人は外見はあまり似ていないが、一方的な押しの強さはよく似ている。

 ゴーン、リーンゴーン。

 大聖堂の鐘が遠くに聞こえる。もう、昼だ。俺の大好きな騎士がやってくる。彼は毎日、俺と昼食を共にしている。
 開いていた扉から、ひょいと金色の髪の騎士が顔を出した。

「ユウ、食事に行こう」
「うん!」

 碧の瞳が、とても嬉しそうに輝く。
 俺はすぐさま、大好きな騎士の元に飛んで行った。
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