【騎士とスイーツ】異世界で菓子作りに励んだらイケメン騎士と仲良くなりました

尾高志咲/しさ

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35.夜会への招待

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「ユウ様! 招待状です」 
「招待状? なんの?」
「国王陛下主催の夜会です」
「夜会って……パーティってこと?」

 真っ白な光沢のある封筒に金の縁取りと紋章が付いている。これは確か、この国の王家の紋だ。

「ええ! 今回の夜会には王侯貴族だけではなく、国内で功労があった方たちが招かれています。今、ユウ様は話題の人ですからね」
「……何故?」
「ピールですよ! 魔力増強の特効薬と話題になってるじゃないですか! この研究所の所長とラダ殿、ゼノと私のところにも招待状が届きました」

 騎士たちに協力を仰いでから一か月。

 ピールはスロゥもリュムも十分な効果が報告された。スロゥは魔力の増強。リュムは回復と継続。どちらも少しずつ自分の魔力量に合わせて摂取すればかなりの効果が見込める。

 レシピはデータ化され、ラダから研究所の所長へ、レトから宰相へ。そしてエリクから騎士団長へと次々にピールの成果が報告された。気合を入れたラダがゼノのいる魔道具開発部に魔石オーブンの追加作成を依頼した。

 南の戦地にも一度、少量ではあるが試験的にピールが送られて効果ありとの報告が来た。今、王立研究所ではジードたちのいる南部へ物資と共にピールも送ることができるよう、総力をあげて増産に追われている。
 王宮では素晴らしいものが出来たと話題になっているらしい。

「喜んでもらえたのは嬉しいけど、俺、パーティなんて行ったことないんだけど。国王陛下たちにも、こちらに来てすぐに会ったきりだよ?」
「大丈夫ですよ! 私たちもご一緒しますから」

 嬉しそうなレトを見たら、何だかすごくいいことなんだと思える。

 レトが言うには、今回の夜会は席に着いての晩餐会ではない。軽食の用意される舞踏会だと聞いてほっとした。異世界人の俺にダンスは求められないだろう。恐れ多い気はしたが、断る理由も思いつかない。元々こっちに来てから、ずっと王宮でお世話になっているのだ。レトに励まされて、俺は招待を受けることにした。

 身につけるものは、以前仕立ててもらったものでいいかと思っていたら、レトが陛下の御前に出るのですからご新調を、と言う。俺には給料と国からの報奨金が支払われたそうで、あっという間に小金持ちになっていた。王宮に出入りの職人が呼ばれて、体中を採寸される。

「お体が華奢でいらっしゃいますし、神秘的な瞳と髪の色からも華やかなお色がよろしいかと」

 この世界に来てからしょっちゅう言われているので、華奢と言う言葉をもう訂正する気もないが、俺は180センチあるし、それなりに筋肉はついている。周りがデカすぎるんだ。しかし、神秘的って言葉は初めて聞いたな……。

 細身な仕立てで華やかな刺繍の入った上着と首や袖に潤沢にフリルをあしらったデザイン画が提案される。ぎょっとしていると、レトとゼノがうんうんと頷く。

「ねえ、こっちでは皆、夜会にはこんなひらひらした服装なの?」
「そうですね。女性たちに合わせて男性の衣装も刺繍だけでなく宝石を散りばめることも多いです。魔獣の被害はありますが、他国との戦も長いこと起きていませんし年々華やかになっています」

 ……確か、国が平和な時は文化に金が回るって世界史の教師が言ってたな。

「騎士でしたら、騎士団の制服の方もいらっしゃいますが」

 ジードの姿を思い出して胸がぎゅっと痛んだ。その晩、南から初めての手紙が届いた。

 この世界に来てからずっと学んできたおかげで、自分でも少しは字が読めるようになった。それでも、途中からは何て書かれているのか早く知りたくて、我慢できずに翻訳機のお世話になった。

 ジードの手紙は丁寧だった。時候の挨拶の後に俺の体を心配し、自分の近況が書かれていた。南では思ったよりもたくさんの魔獣の巣が発見されたこと。もうしばらくは王都に戻れそうにないこと。終わりに綴られた言葉に胸が締め付けられた。

 ──ユウに会いたい。毎日、ユウのことを想っている。どうかユウの毎日が幸せでありますように。

「……ジード」

 何度も手紙を読み返した。俺も会いたい。ジードがいない日々は、自分の中にすうすう風が吹き抜けていくみたいだ。
 毎晩、女神様に祈ることにも慣れたけれど、一人の夜は何だかとても長い。

 折角だからと、俺は夜会に出席することを手紙に書いた。元居た世界では年賀状しか書いたことがない。初めてのジードへの手紙は翻訳機のお世話になりながら、何度も何度も書き直した。一枚だけの手紙だけれど、どうか無事に届くようにと祈った。



 夜会には誰か親しい相手と参加するものらしい。結婚相手や婚約者はもちろん、家族や友人同士でもいいそうだ。じゃあ俺は一体誰と行けばいいんだと悩んでいたら、すぐに名乗りを上げてくれた人物がいた。

「久しぶりだな、ユウ! ああ、よく似合っている。今日のユウは一段と清楚で美しい。一目見ただけで心が洗われるようだ」
「……ありがとう、スフェン。元気そうだな」

 自室まで迎えに来てくれた公爵令息は満面の笑みを浮かべていた。
 俺の夜会服は深い青に百合の花のような銀の刺繍があちこちにあしらわれている。胸元と袖にはたっぷりレースが使われてヒラヒラと揺れていた。
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