お人好しは無愛想ポメガを拾う

蔵持ひろ

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もふもふした代償※(※は性描写あり)

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(性行為があります)



「俺の体を好き勝手にしたってことは、俺もお前の体好き勝手していいってことでしょ?」
「いや、それは、関係ないって」

 それには雪隆は反論した。そもそも、最初の目的は佐々木を人型に戻すために尽力していたのだ。だが黒いポメラニアンの態度はつれないものだった。即席で遊べそうなものを作ってもツンと取り合わない態度を取られた。
 雪隆の努力が無駄であったから、やけを起こしてもふもふ好き放題してしまったのだ。まるで愛玩犬のようにふわふわの体を撫で回し、可愛いと連呼した。

「でもさ、犬の時はいいけど中身は俺だよ?」

 佐々木は自身を指さす。たしかに、成人男性であれば毛皮をまとっているとはいえ、全裸の成人の背中や腹を撫でて、両手で頬を挟んで顔を近づけたということか。
 ……よく考えれば飛んだセクハラ野郎である。結局、雪隆は良いように言いくるめられていた。

「……だめ?」

 逆光の佐々木の顔は見えない。シーリングライトのあかりが眩しい。だが、面白がっていることは声色から伝わった。
 目の前の裸の青年はゆっくりとのたまうと雪隆が着ていた部屋着に手をかける。いきなりのことで雪隆は抵抗ができなかった。ぐいっと上のスウェット上げられると、上半身が外気に晒される。押し倒す男の口の端が上がった。

「……でっかいおっぱい」
「は!?やっ、やめろ何して……」

 からかっているのか。片手を使って筋肉と脂肪の混じった大胸筋を上にあげたり、かと思えば手を離して胸を揺らす。良いようにおもちゃにされている気がする。
 佐々木の視線は、一心に大胸筋──特に乳首に注がれている気がした。それは寒さでゆっくりとたちあがっていく。見られてたったのではない、決して。雪隆は心中で否定した。

「嫌なら抵抗してみなよ」
「っ……くっ……っ」

 そんなことを言われても、両足や体に挟まれているのかびくともしない。力任せではなく、関節のある部分に力を入れて動かないように固定されているらしい。それに両手とも佐々木の片手で押さえ込まれてしまっている。まるでまな板の上の鯉のようにびちびちと跳ねることしかできなかった。
 しかし、滑稽に見えるこの動作も、佐々木は触れることをやめない。冗談だと早く離してほしかった。
 こんなことは初めてだった。元々体格はがっちりしているし、部活で鍛えた筋肉も落とさないようこまめにトレーニングをしている。
 それが自身よりも軽そうな男性相手に押し倒され、好きにされる。恋愛に疎かった雪隆は誰とも付き合った事はないし、ましてや誰かと体の関係を持ったことなど全くない。こう言った性的な行為は思いが通じ合った者同士がやるものという考えでここまできた。
 雪隆がはじめての行為に混乱するのも仕方がなかった。
 ずるずると少しずつ雪隆の体が上部に動かされる。腕が解かれたと思ったら、胸に微かな刺激が走った。

「ああっ、何……やめろっ」

 視線を胸に下ろすと、佐々木が胸の飾りに舌を伸ばしていた。舌先でちろちろと蛇のような小刻みな動きに、微弱な電流が腰に走る。不随意に動く腰。止めようがなかった。

「胸で感じるんだ?」

 挑発的な言葉と共に、今度は掬うように乳輪から粒へと唾液を纏わせたかと思うと、啜られる。

「やめろ……やぁっ……」

 胸で気持ち良くなってしまったなど認めたくない。佐々木は絶対に愉快だと思っていることだろう。
 こんな姿を見せたくない。雪隆は首を必死に左右に振り、薄く漏れる声を唇を噛み締めることで防いだ。

「っん……んん、ちが、う。なんで、胸なんか」
「俺が吸いたいから」

 ぬるぬるとした口腔内に覆われた胸の飾りは、完全に硬くなってしまった。
 また舌先で細かくつつかれる。じんとした痺れが胸から腰へと移動していく。下着とズボン越しの陰部がぬるっとして気持ち悪くなってきた。下半身の変化が佐々木にバレるわけにはいかない。知られたが最後、何を言われるかわからない。
 こんな、今まで性的に触れたことのない場所で反応してしまうのは恥ずかしい。誰とも体を重ねたことのない体は、案外敏感であったことを思い知らされる。

「あっ、くぅ……はぁ」

 雪隆は熱い吐息をこぼした。むず痒いと感じていた違和感は、はっきりと快感に変わった気がした。じゅるじゅると下品な音を立てて胸の飾りを吸われる。日焼けしていない大胸筋にそこよりも色の濃い乳首。胸の飾りは濃い舌でいじられ吸われ赤く色づく。もう片方は佐々木の爪の先で器用につつかれる。ときおりねじりながら痛くない程度に引っ張られて体がうねる。

「ああ……む、胸……腫れるから」
「そう。じゃあやめる」
「あ……?」
 
 一旦口も手も離され寂しく感じる。さっきまで早く解放されたがっていたのに矛盾している。
 しかし、雪隆が起き上がる隙を与えず、今度はふっくらとした大胸筋に手が伸ばされる。胸全体を覆うようにゆっくりと揉みしだかれる。時折遊ぶように谷間を作られたり、手を急に離され筋肉と脂肪の胸が揺れる。体、特に乳房全体を確かめられている。

「やっぱいい体」

 耳元で囁かれ、緊張で心臓が不自然に動く。それを笑われる気配がして、何故だか恥ずかしくなる。

「やめろっ……」
「中途半端だと嫌だろ」
「や……」

 やはりバレてしまっていた。佐々木は雪隆の下半身の様子を見て悪戯に笑う。そこはすでに半勃ちして柔らかい素材のズボンを押し上げていた。
 雪隆はカッとなって抵抗を試みる。胸から掌を外させて肩を後方へ押そうとすると、すぐさま弱点である局部へと手を伸ばされた。服を着たまま一回強めに扱かれて、雪隆はすぐに動きが止まる。人質に取られているようで悔しい。
 佐々木は雪隆のペニスを握ったまま、動かし始めた。上下に芯を捉えるように扱かれると、先走りがじわりと下着に染みた感覚が強くなる。このままでは服が汚れてしまう、だが上もはだけられこれ以上脱がされるのは恥ずかしい。性的に興奮した姿を見せたくない。
 同性であるのにそんなことを考えている時点で佐々木の存在はただの知り合いから逸脱していた。それを雪隆は自覚していなかった。
 佐々木のもう片方の手は床について雪隆を逃げられなくする。それに気が付かなかった。周囲を見る余裕がないのだ。今はただ、目の前の男から与えられる快感を受け取るのみ。

「は、ぁっ……」

 首筋の敏感なところに唇を沿うように触れられ、囁くような吐息が漏れてしまう。雪隆は体全体を弄ぶかのような動きに翻弄された。リビングに互いの吐息と粘着質な水音が響く。

「……そそる」

 首筋から唇を耳へ。耳介を舌でべろりと舐められたかと思ったら穴の中へ舌先を滑りこまされる。ぐちゅりと音が脳に直接届く。どろどろにされそうな予感。未知の感覚により現実味が薄れていく。まるでぼんやりとした夢の中のように感じられてしまう。
 不埒な佐々木の手のひらは雪隆のうっすらと割れた腹筋の隙間をなぞり、へその周りをクルクルとなぞった。

「っ……う、何して……?」
「ここまできて、乳首いじるだけじゃ足りないでしょ」

 太ももに硬いものが押しつけられる。正体に気がついた途端、ズボンを下着ごと一気に引き下げられた。
 雪隆の、ぶるんと勢いよく飛び出した屹立を直に握られた。整った顔に似合わず佐々木の指は太く、手のひらにはまめができている。そのとっかかりがカリの敏感な部分に引っかかるたび、腰が跳ねる。気持ちがいい。
 カリを指で引っ掛けるように爪弾かれ、ぷくりと鈴口から蜜が滲む。手でそれを絡ませるように上下に扱かれた。自身で慰める時よりも気持ち良さが走る。愛撫の予想ができないからか反応が大袈裟になってしまっている気がする。

「あっあっ……もっ……する、な……でるっ」
「ご自由にどうぞ?」

 扱いていた手のひらを広げて亀頭に擦り付けるように円を描かれる。勝手に達してもいいと言われても、集中的な先への刺激は気持ちいいにせよ達するまでのものではない。
 もっと陰茎全体を扱いて欲しい。そんな要求は雪隆の口から発せられることはなかった。

「これ……なんか漏れる……やめ……っん」

 じくじくと陰茎に伝わる弱い快感。与えられないのなら自分でと先走りで濡れる自身に手を伸ばす。しかしその手も佐々木によって払われた。
 決定的な刺激が与えられない。まるで拷問のようだ。焦ったい。いつのまにか雪隆は無意識に腰を佐藤の方へと振っていた。たらたらとこぼす先走りと言葉を発せずとも快感を追う体。
 その光景をみた佐々木はゆっくりと舌を出し自分の唇を舐めていた。

「やめろって……佐々木……」
「ならまた今度ね」

 一旦手を離されほっとする。ようやく自分で慰めることができると油断した。おさまるまで待つという選択肢は、とっくに完全に勃ったペニスには与えられない。
 佐々木は雪隆を押さえ込んでいた体を浮かせた。すぐさま二人ののもの両方をまとめて握られた。佐々木のペニスは誰にも触れられていないにもかかわらず、雪隆と同じくらいの熱さと硬さで対抗していた。

「俺もそろそろっ……かな」
「……なっ……」

 ぐちゅぐちゅと下品な音を立てて陰茎を扱かれる。裏筋同士が潰され、亀頭の敏感なところが擦り合わされる。他人の手で施される愛撫はどこが気持ちよくなるのか分からなくて怖い。乱れているのは雪隆だけではなかった。佐々木も時折息をつめ、快感を逃しているようだった。そのことになぜだか胸の奥がきゅっとなってしまう。
 抵抗の手を緩めたため、雪隆は諦め快感を受け入れたのかと思われたのだろう。佐々木の手はさらに完全に起ち上がったペニスを攻めていく。

「ぁ……イく……っぁ……」

 互いに汗にまみれて快感を追う。今自分がどんな状況で襲われているようなものだと言う自覚はこの真っ白な頭の中では皆無に等しかった。ソファがギシギシと唸ってシーリングライトが眩しい。だらだらと我慢しきれない蜜が二人の陰茎を濡らす。
 頼りなく感じてソファの上で所在なさげにしていた両手を佐々木の背中にまわす。無意識に体につかまることで浮き上がるような快感を制御しようとしたのかもしれない。汗で指先が滑り、脇腹の方へ落ちる。健康的でつるりとした感触だったのが違和感を持つ。

「……?」

 薄ぼんやりとした意識の中でもう一度脇腹に触れると小さな凹みがあるのがわかった。
 
「あっ、何っ……!あっ……」

 と同時に先程より一層攻め立てられ、思考が散らされた。
 高みに登るような手の動かし方と、大きくひくつく佐々木の屹立に彼が限界に近いことを知る。雪隆もつられて自然と腰を手の動きに合わせて振る。
 足をガクガクと開かせ佐々木の愛撫を受けていると、片手で顔の向きを変えされられた。その先には睨むように強いヘーゼルアイ。息をつめ、細いが締まった腹筋がうねる。汗もうっすらとかいて手のひらで触れると熱い。
 性器の触れ合いが気持ち良いと佐々木の顔が雄弁に語っている。唇と唇が触れ合ってしまいそうな距離で、息が詰まる。
 瞬間、淡褐色が見えなくなって薄いうめき声が聞こえる。腹の上に熱く濡れた感触。白い飛沫をかけられた。勢いがよく雪隆の頬にまで飛ぶ。

「くそっ……ダサっ」
「ちょ、は……いいって!」
「俺が嫌なの」

 佐々木は何故か悪態をつくと、まだ勃っている雪隆のペニスを口に含んだ。はじめての感触に戸惑う。
 八割程度硬く凝っていたペニスは、すぐに快感を追いかけた。佐々木は頭を上下させて雪隆の敏感なところをぬるりとした口内で擦られる。
 グロテスクな赤黒い棒が、佐々木の口を行ったり来たりする。腰が蕩けてしまうくらいの気持ちよさ。

「はぁ……ん」

 鈴口を舌でほじられビクビクと腰が震える。カリと竿の境目を舌先でなぞられた。先走りと唾液で陰茎がしとどに濡れる。またそれはペニスだけでなく下生えや後孔へのふっくらとした通り道までしっとりとさせた。下半身が自分のもので無いかのように動く。
 自分の普段よりずっと甘く高い声が不快だ。こんな声をあげているなんて信じられない。
 瞳は閉じられていた。目の毒だからだ。自身の太い屹立を野生的な美形の男が咥えているなんて。目の前の男はどうしてこんなにも口淫が上手いのか、なんて思考が逃避する。太ももが張って限界が近い。

「いく……いくって……ああっ……」

 雪隆はより高い声をあげて白濁を吹き出した。どくどくと佐々木の口内で震えて最後の一滴まで出してしまう。

「ごちそうさん」
 
 口の端に溢れた精液を赤い舌で舐め取り蠱惑的に微笑まれる。男の手で達かされてしまった……雪隆が呆然としていると、男は素早く頬にキスをした。ソファをベッドにすると寝室から掛け布団を持ってきてすやすやと眠ってしまった。

「こっちの気も知らないで」

 その無邪気な寝顔に毒気を抜かれた。先程雪隆を襲ったと言うのになんだか憎めなくなるのはどうしてだろうか。ポメラニアンの彼を知っているからだろうか。
 そんなことをつらつらと考えていると雪隆も瞼が重くなってきた。仕事の後に射精したのだから疲労が溜まっているのは当然のことだった。人肌にほっとしながらゆったりと雪隆は眠りについていった。


 ガサゴソとソファ脇で音がする。ゆっくりと瞼を開けたら薄暗い中ワイシャツを羽織った佐々木がいた。そうだ。あのまま二人でソファベッドで一晩過ごしたのだ。少し顔を動かすだけで体がギシギシと鳴るが、暖かいシャワーを浴びればほぐれるかもしれない。今更だが、性を吐き出した残滓をきれいにしてしまいたい。
 空いた隣にはまだ温もりが残っていた。横向きに寝ていた雪隆も起き上がり時間を確認しようとする。ローテーブルに時計があるのだが、肘を立て体を起こそうとするとびりびりとしたしびれが襲った。

「っ……」

 起きた時の体勢から一晩中腕に何か重いものが乗り続けていたのだろう。何度か手を開閉して感覚を取り戻す。

「あんた……なんでそう人の家でぐっすり寝れるんだよ」

 しかも襲った相手と。罪悪感とか芽生えないのだろうか。
 佐々木がこちらに近づいてきたので雪隆は身構えると頭を乱暴に触られる。これはひょっとして撫でられているのか?
 
「……鍵はかけときなよ」

 雪隆の問いには答えず、自分の言いたいことをさっさと言うと玄関を開けて出て行ってしまった。
 残された雪隆はと言うと、軽く混乱していた。佐々木に対してもだが、雪隆自身に対してもだ。
 あの時全力を出して抵抗すれば反撃できないにせよ、性器にまで触れられるということは進まなかった筈だ。だが、結局達するところまでしてしまった。それにそのまま寝てしまってもいた。下手をすれば金目のものを盗まれたり解錠したまま佐々木がいなくなっていた可能性もあるのに。
 やはり、ポメラニアンの彼を知っているからだろうか。
 自分の気持ちがわからない。
 その後、シャワーを浴びた後ぼんやりしていた雪隆だったが、時計を見ると出社時間ギリギリだった。悩みなど瞬間に吹き飛んで急いで準備をする雪隆であった。


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