【道徳心】【恐怖心】を覚えた悪役の俺はガクブルの毎日を生きています。

はるか

文字の大きさ
上 下
6 / 22
優しい国編

06 倍にして返された

しおりを挟む
国王陛下は左右に分かれた白髪に近い程キラキラと煌めく銀色の前髪をグリーンの瞳にかかる部分だけひとさし指でピンっと払い除け、イスに座って立っているこちらを頬杖をついて上目使いに見ていた。

「1度、OKしたのに取り消すなんてそなたは酷い。」

俺は憮然と言い返す。

「あんな提案を私に許可されたからといって行う気満々の国王陛下の頭が心配です。」

「私の夢の国が出来ると思ったのに……。」

「そこに夢の国は出来ましょうが、こちらは廃墟と化します。」

「そしたら、私は夢の国に住むから良いのに……。」

このアホ国王が!

ギリギリと歯を食い縛り殴りたいのを我慢する。これでもこの国の国王陛下だ。殴ったら不敬にあたってしまう。

「最近ディランといちゃいちゃしているんだって?……で?何を企んでいる?」

国王陛下から放たれた鋭利な刃物のような殺気を感じて身を引き締める。

俺はこの優しき国王陛下が好きな女と添い遂げる事を許さなかった。女の親の権力が強くなり過ぎて俺の権力が危うくなる事を恐れての事だったから愛し合う二人には俺が悪魔に見えただろう。そして万が一にも二人が添い遂げないようにと地方の貴族に女を輿入れさせたのは最近の事だ。

この人が俺を殺せるのに一番近い人間かもしれない。

ガクブル、ガクブル。

「?どうした。顔色が悪いようだが。うん?なんだかそなた薄汚れていないか?」

「えっ?……ああ、ディラン殿が全然風呂に入れてくれないのですよ。まぁ、いつかは自分で体を洗えるようになるのが目標ですが?」

俺はドヤ顔をした。

国王陛下は自分で体を洗うなんて一生出来ますまい。

「風呂?ディランと入るのか?」

興味津々といった体で身を乗り出す国王陛下。

「ご存じでしたか?体を洗う前に頭を洗うのは頭の汚れが体に流れたらまた体を洗わないといけないからなんですよ。」

フフン。

「何だと!頭まで洗ってもらっているのか!?私もディランに洗って貰いたい‼」

「確かにお湯をかけられて目を閉じてからの開いた時にこの顔があったら流石にクるものがあります。いつもは白い頬がうっすらと赤みをさし、私の顔を覗き込むのですよ?」

俺は更に顎が上を向いていく。フフンフフンフフン。

「くっ!見たい!」

拳を握りしめ国王陛下がこちらを睨む。

「それは出来ません。彼は私を守るので日夜忙がしいのです。国王陛下が勅命をお出しになったではないですか?」

「そなたが急いでるだか言って満足に読ませてもらえなかったあれ……。」

「さぁ!ディラン殿、帰るとするか~!」

俺は不敬にも陛下の話を遮り背後に立つディランへ声をかけ振り返るとディランが鬼の形相をしていた。

ガクブル、ガクブル。

「ディラン殿?ど、どうしたのだ?怒鳴ってはいけない。あれは恐ろしいものだぞ?」

恐る恐る上目使いにディランを見つめていると、いきなりフッと怒りの炎がディランの美しい瞳から消えた。良かった。ディランは何故か怒ったが耐えた。ディランは耐えたぞ!

「白磁器のような傷どころかシミや黒子のない背中を震わせて真っ白なうなじを無防備に晒すのは濡れた黒曜石のように艶のある黒髪が短くてそれを隠せないからだ。」

「ほう?」

国王陛下が方眉を少しあげた。

「泡が目に入るのを避ける為にぎゅっと瞑った瞳は長い睫毛に縁取られ、そのあと開いた瞳は夜空を彩る星が見える程涙で煌めいている。その中で噛み締めていた唇だけが赤いんだぞ?」

「……泣いたのか。」

「ああ。吸い込まれるような黒瞳からはらはらと真珠のような涙が落ちていった。」

「それは……クるな。私も泣かせてみたい、どうやったら泣く?」

「なななな何の話ですか!?私は泣いてなどいない!断じてなーい!」

ディランは慌てて話を遮る俺を意地悪そうに見下ろしてクっと口の端をあげ笑った。初めて笑った所を見たがなんて邪悪なんだ!思っていたのと大分違うぞ⁉

「それは秘密だ。」

そう言うとディランは俺の手を引き王の間を後にした。

宰相室に戻ると俺はプイッとディランから背を向けた。しかし執拗にディランの手が追ってきて俺の顎を掴むと前を向かされた。

「……なんて顔をしてる。」

怒った顔でディランが俺を睨む。

「顔?」

俺は何の事か分からずに瞳で問う。

何でまた怒ってるんだ?

「いつもは青白いくらいまっ白なのに、真っ赤赤だ。」

「あっ、あんな話をされたら真っ赤にもなるだろう!……だ。」

「えっ?」

「恥ずかしかったんだ。」

俺は顎から手を離してくれないディランを至近距離で睨み付けた。

「……これで誘ってないとか……取り合えず今日は風呂へ入るぞ。」

思ってもいなかった話に恥ずかしさも忘れて笑った。満面の笑みってやつだ。

「ディラン殿ありがとう。頭が痒くて仕方がなかったんだ。」

「……隠居しないか?」

えっ、何で?
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い

騎士は魔王に囚われお客様の酒の肴に差し出される

ミクリ21
BL
騎士が酒の肴にいやらしいことをされる話。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

ヤンデレ執着系イケメンのターゲットな訳ですが

街の頑張り屋さん
BL
執着系イケメンのターゲットな僕がなんとか逃げようとするも逃げられない そんなお話です

処理中です...