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【第7話】
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「——おい、大和ぉ!」
夕飯を作る為の食材を買いに商店街まで来ていた湯川大和に、店先で、通りを歩く人に目を配っていた喫茶店の店主である鈴音が声を掛けた。
「おや。鈴音さん、こんにちは」
大和の返答に対し、鈴音が手を軽くあげる。いつも健康的な鈴音の顔色が悪く、不機嫌そうな表情をしている事に気が付き、すぐに大和からも笑顔が消えた。険しい声で、「どうなさいました?」と鈴音に尋ねる。
視線を少し下に落とし、鈴音が珍しく爪を軽く噛んだ。
「…… お前さ、この数日、葵を見掛けたか?」
「いいえ。ここ数日は仕事で病院に行っていましたから。彼女に会うような時間には、まだ帰宅してはいませんでした」
薬剤師の資格を持つ大和は不定期で病院勤務をしている。その為、ここ数日は彼の言うように、葵の姿を見掛けてはいなかった。
「そうか…… 。実は、ここ最近、誰もあの子を見ていないらしいんだ。今は試験期間らしいから昼辺りにはウチの店の前も通るはずなんだが、美鈴も、別の商店の奴らも知らんらしい」
それを聞き、大和眉間にシワを寄せて黙り込んだ。
「ほら、大和は家が隣だろう?何かあったならお前を頼っていると思ったんだが…… 」
「いいえ…… 。ウチにも来てはいないですね。でも、少しだけ思い当たる事があるので、すぐに様子を見に行ってみますよ」
「そうか、悪いな」
「いえ、私も心配ですから。——ではこれで」と言いながら、足早に大和が家の方へ引き返す。
「おい、買い物はいいのか?」
「安否の確認が最優先でしょ?」
「そ、そうだな。すまないが頼むよ。詫びに後で何か見繕って持って行こう」
「ありがとうございます。鈴音さんの料理はどれも美味しいですから、楽しみにしていますよ」
「お前の方が腕前は上だ。そうやっておだてても、ご馳走なんぞは持って行かんぞ」
そう言葉を交わし、大和が足早に草加邸に向う。彼の心の中は不安でいっぱいだ。三日前に葵とよく似た容姿の二人が、草加邸に入って行ったのを、自分は見ていた。なのに深く考えず、何もしなかった。だから、『もし葵に何かあったとしたらそれは自分のせいだ』と大和が思う。
(どうか、何も起きてはいませんように…… )
必死にそう願い、彼は走るようにして葵の家を目指した。
◇
汗でベタベタになっている葵の黒髪を、匡がそっと撫でた。そんな二人の様子を見て、涼は「寝ているの?」と匡に訊く。
「あぁ。気を失ってから、そのまま」
「そうか…… じゃあ僕は体を拭くお湯を持って来るから、匡が傍に居てあげてよ」
「わかった」
疲れきった表情で葵が寝息をたてている。この三日間、代わる代わる匡と涼の二人に昼夜も問わずに蹂躙され続け、彼女の体はもうボロボロだ。気を失っている間だけが平穏な時間と言ってもいい状態の中、常にどちらかが葵に寄り添い、抱きつき、放さない。そのせいで学校へも行けず、自らの家の中に閉じ込められ…… ひたすら犯され続ける。安息を与えてくれるはずの空間が息苦しい場所となり、三日目となった今日はほぼ放心状態だった。
そんな葵とは違い、匡と涼は幸せそうだ。
閉ざされた空間。自分達しか居ない世界はとても心地がよく、『ずっとこのまま三人で居る事が出来るならば…… なんだってする』とさえ思いながら、葵の体を抱き続けていた。学校も、親も…… もちろん大事ではあるが、それでも全てが自分達にとっては窮屈なものとしか思えない二人にとって、葵の住むこの空間程全てを忘れさせてくれ、没頭出来る場所は他にはなかった。
「葵…… 可愛い」
何度も、何度も髪を撫でながら、うっとりとした声で匡が囁く。
「匡、お湯持って来たよ」
風呂場から持ってきた木製の桶いっぱいにお湯をはり、タオルを中に入れた物を涼が持って戻って来た。
「ありがとう」と言いながら、匡がそれを受け取る。ギュッと絞り、白濁液と汗で汚れる葵の体を丁寧に拭き始めた。涼もタオルを絞り、匡と同じように、眠る葵の体を丁寧に拭いていく。
「「…… 可愛い寝顔だね」」と二人が呟く。
「涼みたいだ」
「匡みたいだね」
顔を見合わせ、クスッと二人が笑った。
「「…… でも、葵の寝顔が一番可愛いな」」
二人が同時に言い、両の頬にそれぞれが口付けをしたその時——
ガラッ!!と、何の前触れもなく居間の襖が開けられ、二人が驚いた顔で音のする方を見上げた。
「…… 君達は、何を?」
声のトーンは落ち着いてはいるが、明かに怒りを含んだ声で大和が訊く。
二人が黙ったまま大和を見ている。葵の体には寒くないようにとタオルケットがかけられてはいたが、一目で服を着ていない事が大和にはわかった。見えている腕や脚のあちこちに強い執着を匂わせる紅い跡が大量に残り、細い手首には強く掴んだ跡まである。不合意の元、何かがあったのは間違いなさそうだ。
「な、なんて事を…… 」
苦痛に満ちた表情で大和が葵の元に駆け寄った。すると涼が大和に向かい、「触るな!」と叫ぶ。だがその声に全く臆する事なく、大和がキッと強く二人を睨みつけると、匡と涼の体がビクッと震えた。年長者の気迫に押されて身動きすら出来ない。
「…… 葵さんは僕が引き取ります。まだ未成年ですよね?君達は…… もう家に帰りなさい」
低い声でそう言い、体にかけられいるタオルケットでぐるりと丁寧に包み、大和が葵を抱き上げた。
「返して!」
匡が葵に手を伸ばして強く引っ張ったが、大和の表情を視界に捉えた瞬間、怯えた顔をして彼はその手を離した。
「葵さんは物じゃないんです!!」
大声で叫び、開けられた居間から廊下へ向う大和に、匡と涼が「「ずっと傍に居ると約束したんだ!」」と必死に訴える。その言葉を聞き、歩みを止め、大和が二人を睨みつけた。普段の穏やかな彼からは想像も出来ぬ程、その顔には怒りが満ちている。
「君達が葵さんと何を約束したのかは、僕は知りません。でも、彼女は物じゃないんです。その事を、一度失って、身をもって知りなさい」
怒りを孕んだ声でそう言い、軋む廊下を足早に歩いて、大和が玄関に向かう。
「「そんな事はわかってるよ!」」
同時に叫んだが、大和は聞こうともせずに靴を履き、庭へと出た。そして玄関先に居る二人に振り返り、「本当にわかっているなら、葵は今、こんな姿にはなっていませんよ」と、悲しさに溢れた声で大和が言う。
青白く、酷くやつれた顔の葵を見て、大和が眉間にシワを寄せた。
「これは愛情が故にする行為じゃない。ただの強姦です。君達の行為に、葵の同意は本当にありましたか?」
「「…… ごう、い?」」
いくら思い出そうとしても、葵の『やめて』と懇願する声しか出てこない。二人は一瞬口を開けはしたが、反論なんか少しも浮かばず、すぐに口を閉じて俯いてしまった。
「…… 帰りなさい、今すぐに」
そう二人に言い、大和は葵を抱えて自分の家へ帰って行った。
夕飯を作る為の食材を買いに商店街まで来ていた湯川大和に、店先で、通りを歩く人に目を配っていた喫茶店の店主である鈴音が声を掛けた。
「おや。鈴音さん、こんにちは」
大和の返答に対し、鈴音が手を軽くあげる。いつも健康的な鈴音の顔色が悪く、不機嫌そうな表情をしている事に気が付き、すぐに大和からも笑顔が消えた。険しい声で、「どうなさいました?」と鈴音に尋ねる。
視線を少し下に落とし、鈴音が珍しく爪を軽く噛んだ。
「…… お前さ、この数日、葵を見掛けたか?」
「いいえ。ここ数日は仕事で病院に行っていましたから。彼女に会うような時間には、まだ帰宅してはいませんでした」
薬剤師の資格を持つ大和は不定期で病院勤務をしている。その為、ここ数日は彼の言うように、葵の姿を見掛けてはいなかった。
「そうか…… 。実は、ここ最近、誰もあの子を見ていないらしいんだ。今は試験期間らしいから昼辺りにはウチの店の前も通るはずなんだが、美鈴も、別の商店の奴らも知らんらしい」
それを聞き、大和眉間にシワを寄せて黙り込んだ。
「ほら、大和は家が隣だろう?何かあったならお前を頼っていると思ったんだが…… 」
「いいえ…… 。ウチにも来てはいないですね。でも、少しだけ思い当たる事があるので、すぐに様子を見に行ってみますよ」
「そうか、悪いな」
「いえ、私も心配ですから。——ではこれで」と言いながら、足早に大和が家の方へ引き返す。
「おい、買い物はいいのか?」
「安否の確認が最優先でしょ?」
「そ、そうだな。すまないが頼むよ。詫びに後で何か見繕って持って行こう」
「ありがとうございます。鈴音さんの料理はどれも美味しいですから、楽しみにしていますよ」
「お前の方が腕前は上だ。そうやっておだてても、ご馳走なんぞは持って行かんぞ」
そう言葉を交わし、大和が足早に草加邸に向う。彼の心の中は不安でいっぱいだ。三日前に葵とよく似た容姿の二人が、草加邸に入って行ったのを、自分は見ていた。なのに深く考えず、何もしなかった。だから、『もし葵に何かあったとしたらそれは自分のせいだ』と大和が思う。
(どうか、何も起きてはいませんように…… )
必死にそう願い、彼は走るようにして葵の家を目指した。
◇
汗でベタベタになっている葵の黒髪を、匡がそっと撫でた。そんな二人の様子を見て、涼は「寝ているの?」と匡に訊く。
「あぁ。気を失ってから、そのまま」
「そうか…… じゃあ僕は体を拭くお湯を持って来るから、匡が傍に居てあげてよ」
「わかった」
疲れきった表情で葵が寝息をたてている。この三日間、代わる代わる匡と涼の二人に昼夜も問わずに蹂躙され続け、彼女の体はもうボロボロだ。気を失っている間だけが平穏な時間と言ってもいい状態の中、常にどちらかが葵に寄り添い、抱きつき、放さない。そのせいで学校へも行けず、自らの家の中に閉じ込められ…… ひたすら犯され続ける。安息を与えてくれるはずの空間が息苦しい場所となり、三日目となった今日はほぼ放心状態だった。
そんな葵とは違い、匡と涼は幸せそうだ。
閉ざされた空間。自分達しか居ない世界はとても心地がよく、『ずっとこのまま三人で居る事が出来るならば…… なんだってする』とさえ思いながら、葵の体を抱き続けていた。学校も、親も…… もちろん大事ではあるが、それでも全てが自分達にとっては窮屈なものとしか思えない二人にとって、葵の住むこの空間程全てを忘れさせてくれ、没頭出来る場所は他にはなかった。
「葵…… 可愛い」
何度も、何度も髪を撫でながら、うっとりとした声で匡が囁く。
「匡、お湯持って来たよ」
風呂場から持ってきた木製の桶いっぱいにお湯をはり、タオルを中に入れた物を涼が持って戻って来た。
「ありがとう」と言いながら、匡がそれを受け取る。ギュッと絞り、白濁液と汗で汚れる葵の体を丁寧に拭き始めた。涼もタオルを絞り、匡と同じように、眠る葵の体を丁寧に拭いていく。
「「…… 可愛い寝顔だね」」と二人が呟く。
「涼みたいだ」
「匡みたいだね」
顔を見合わせ、クスッと二人が笑った。
「「…… でも、葵の寝顔が一番可愛いな」」
二人が同時に言い、両の頬にそれぞれが口付けをしたその時——
ガラッ!!と、何の前触れもなく居間の襖が開けられ、二人が驚いた顔で音のする方を見上げた。
「…… 君達は、何を?」
声のトーンは落ち着いてはいるが、明かに怒りを含んだ声で大和が訊く。
二人が黙ったまま大和を見ている。葵の体には寒くないようにとタオルケットがかけられてはいたが、一目で服を着ていない事が大和にはわかった。見えている腕や脚のあちこちに強い執着を匂わせる紅い跡が大量に残り、細い手首には強く掴んだ跡まである。不合意の元、何かがあったのは間違いなさそうだ。
「な、なんて事を…… 」
苦痛に満ちた表情で大和が葵の元に駆け寄った。すると涼が大和に向かい、「触るな!」と叫ぶ。だがその声に全く臆する事なく、大和がキッと強く二人を睨みつけると、匡と涼の体がビクッと震えた。年長者の気迫に押されて身動きすら出来ない。
「…… 葵さんは僕が引き取ります。まだ未成年ですよね?君達は…… もう家に帰りなさい」
低い声でそう言い、体にかけられいるタオルケットでぐるりと丁寧に包み、大和が葵を抱き上げた。
「返して!」
匡が葵に手を伸ばして強く引っ張ったが、大和の表情を視界に捉えた瞬間、怯えた顔をして彼はその手を離した。
「葵さんは物じゃないんです!!」
大声で叫び、開けられた居間から廊下へ向う大和に、匡と涼が「「ずっと傍に居ると約束したんだ!」」と必死に訴える。その言葉を聞き、歩みを止め、大和が二人を睨みつけた。普段の穏やかな彼からは想像も出来ぬ程、その顔には怒りが満ちている。
「君達が葵さんと何を約束したのかは、僕は知りません。でも、彼女は物じゃないんです。その事を、一度失って、身をもって知りなさい」
怒りを孕んだ声でそう言い、軋む廊下を足早に歩いて、大和が玄関に向かう。
「「そんな事はわかってるよ!」」
同時に叫んだが、大和は聞こうともせずに靴を履き、庭へと出た。そして玄関先に居る二人に振り返り、「本当にわかっているなら、葵は今、こんな姿にはなっていませんよ」と、悲しさに溢れた声で大和が言う。
青白く、酷くやつれた顔の葵を見て、大和が眉間にシワを寄せた。
「これは愛情が故にする行為じゃない。ただの強姦です。君達の行為に、葵の同意は本当にありましたか?」
「「…… ごう、い?」」
いくら思い出そうとしても、葵の『やめて』と懇願する声しか出てこない。二人は一瞬口を開けはしたが、反論なんか少しも浮かばず、すぐに口を閉じて俯いてしまった。
「…… 帰りなさい、今すぐに」
そう二人に言い、大和は葵を抱えて自分の家へ帰って行った。
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