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第二章

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「いかがでしょうか、リュード様。この家の家紋とうちの象徴花である百合を使ってみましたの」
「すごく綺麗だし流石としか言いようのない出来だが、その百合は良いのか?」
「別に大々的に使用しているわけではありませんもの。……もし何か言ってくる人がいたなら、わたくしが握りつぶすわよ」

……随分と物騒な言葉が聞こえたな。ボソッと言っていたがしっかり伝わってきた。リリアにはもう少し、穏やかさと言うのを教えた方が良いのかもしれない。見た目と中身が違い過ぎる。リュードはついそんなことを思ってしまった。

「そうか…残り二つはどんな柄にするんだ?」
「決まっていないのでリュード様が考えてくださいな。わたくしが刺せない柄などありませんからね」

自信満々に言っているが真実だと言うことは聞かずとも分かる。なのでもう「相変わらずリリアはすごいなぁ」としか思わない。

「ではリリア自身を刺繍してみろ」
「え、嫌ですよ。私の姿など刺して何の需要があるのですか」

やはり出来ないとは言わないか。絶対に嫌だと言う雰囲気を全面的に出してきている。笑顔の圧が…

「冗談だ。リリアの姿でも額に入れて飾っておきたくなるだろうが、それはリリアに気味悪がられそうだからな」
「ええそうですね。…このお城はどうですか?門からは正面にお城、その周りを花や噴水などで彩られていてとても綺麗ですから」

門から見て真っ直ぐに道が伸びていてその先にリュマベルの本城。一本の道の両サイドにはリリアの言う通り噴水や様々な花などで彩られている。敷地内の本城から少し離れたところには離宮というほどではないが、小さめの屋敷のような建物がある。

王都にある屋敷と同じくらいの大きさだ。リュマベル城は領地にあるので社交シーズン以外は王都の屋敷に行くことはあまりないが。

「大変ではないか?」
「少し時間はかかりますけど問題ないですよ」
「そうか。どちらに刺すんだ?」
「タペストリーに。結構な大作になると思いますからね」

クッションカバーは花に落ち着いた。すべて寝室に飾ることになったからかなり華やかになるだろう。黙々と刺繍を始めたリリアをお茶を飲みながら眺める。また明日から仕事であまりリリアといられないと思うと残念で仕方がないが、リリアが作ってくれたハンカチがあれば頑張れそうだ。

「…あ。リュード様、そのお茶には毒が入ってますからね」
「っぐ、は!?」

言い忘れていました、と平然と言うリリアに驚く。普段と全然味の違いが分からなかった。
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