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第二章

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「ユースゼルクは家紋がとても大事にされます。そして皇家と大公家の家紋は大々的にモチーフとして使用することが許されていません」
「……」
「…やっぱり、聞きたいことがあるなら聞いてください。これは独り言ではなくなりました」

ひとりで長々と話すのは相手が気になる。なんとなく嫌なので聞きたいことがあるのなら聞いてもらうことにした。だがあまり口を挟みすぎるなとも言った。話が進まないから。

「大公家の家紋には百合があります。百合はリリーを意味し、リリアというのはリリーの変化形。つまり表裏一体、紙一重ということになります」
「?」

分からないらしい。回りくどく言い過ぎただろうか?

「……その昔、我が大公家には二人の皇女と一人の皇子がいました。二人の皇女は双子で、」
「双子で?」
「その名をリリー·ゼル·ユースゼルクと、リリア·ゼル·ユースゼルクといい、二人には一歳下のシモンという名の弟がいました」
「!?」
「つまりわたくしたちのことです」

リリーとリリアはそっくりだった。リリーは左目の下にほくろがあったので見分けるのは容易だった。

「っ、彼女はどうした?」
「皇女リリー。わたくしの姉様はもうこの世にはいません」
「……」
「14年前にユースゼルクで起こった大地震は有名な話でしょう?姉様はその時に亡くなりましたの」

大地震だったが被害はそんなに大きくなかった。死者は約一名。表向きはゼロだった。

「姉様は、わたくしの片割れはもう、いないのです……」

公用語の国家試験の日。王城の庭園で思い出していたことを昔話としてリュードに聞かせた。彼は絶句してた。それはそうだろう。ユースゼルクの大公家にはかつてもう一人皇女がいただなんて。

彼女の命日は約14年前の5月11日。つまりちょうど一週間後のことだ。

「……わたくしが一生かかっても敵わないほどの知識を持っている人がいたと言いましたでしょう?それは姉様のことなのです。わずか五歳にして亡くなった姉様なのです」
「そうか…」
「姉様はとても大人びていました。優しい人でした。その優しさゆえに家族を愛していたからこそ亡くなってしまったのです。わたくしの、わたくしの不注意のせいで、姉様はっ!」

あの時リリーが庇ったのは二人というよりリリアだった。シモンは関係ない。リリアの不注意が大好きだった姉を、大事な片割れを殺したのだ。
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