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第二章

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シモンがもう片方のイヤリングを取り出した。大切な物らしく、二人で片方ずつ持っているそう。調和と言う加護には霊力や加護だけでなく精神を安定させる効果もあるのだとか。
シモンに指摘されてやっと気づいたらしく、笑顔をその顔に張り付け直した。

「そう。ありがとう。リュード様、そろそろ戻りましょう」
「分かった。ゆっくり休んでくれ、シモン」
「シモン。────────」
「────」

聞いたことのない言葉だ。異国語だろうか?リリアは薄く微笑んだままだがシモンの顔は悲しそうに歪んだ。

「リリア、さっきの言葉は?」
「ユースゼルクの古代語です。数億年前のものですから、皇族でも一部の者しか理解できませんし、話せません」
「二人は分かるんだな」

ユースゼルク大帝国はこの大陸でクレイス王国の次に歴史ある国だ。とは言っても、100年も差はない。何十億年とある歴史の中では100年など誤差の範囲だろう。大帝国の言語はただでさえ理解しにくいのに古代語まで存在する。あまりにも古すぎるため、理解できるだけ何千年に一人の逸材。話せる、書けるとなれば何億年に一人くらいの逸材とまで言われている。

そもそも古代語があること自体知らない人も多い。ユースゼルクの皇族でも習うことはないらしいので分かるとしたら独学しかない。

「その昔、私でもこれだけは絶対に敵わない。私では到底及ばないという程の知識を持っている人がいました。私とシモンはその方に古代語を教わったのです。その方はすでに亡くなっていて、私はその方の年齢をもうとっくに超えていますがそれでも一生敵うことはないと思っています」
「それは……随分と若くして亡くなったのだな」
「はい。不幸な偶然が重なって。それだけではないと私やシモンは思っていますけどね」

リリアをも凌ぐほどの知識、それも一生かかっても敵わないとなると凄いなんてものではない。生きていたならぜひとも会ってみたかった。

「どこでそんな知識を手に入れたのかと問いたいくらいでしたわ。本当に、すごい方だった…」

…リリアが、夢に見たと言っていた人と同一人物なのだろうか?分からないがこれ以上は踏み込んでくるなと言われている気がするので口を噤む。

「今も昔も私の目標で、絶対に超えて見せると誓った相手です。今となってはもう比べることも出来ないですけどね」
「…………それなら、俺がなって見せよう。その人の代わりになるとは思えないが、リリアが超えたいと思えるようになって見せよう。そうすれば、悲しい思い出もただ幸せな思い出に代わるのではないか?その人を追いかけているから余計に辛いように見える」

その人のことは目標のままで、でも追いかける相手はすぐそばにいるのならリリアもっもう少し楽になれると思う。幸せだった時のことを思い出して、今ほど辛くなくなるのではないかと。

「…なんだか、本当に変わられましたね。前のリュード様なら絶対に言わなかったことだと思います」
「そうかもな」
「リュード様が私の追いかける相手になることは絶対にありません。ですが、目標にくらいはなるかもしれないですね。…もっとも、今のままでは到底無理な話ですけど」

つん、とそっぽを向いたリリアの顔は少し嬉しそうだった。前にリリアは自分を倒してくれる、ライバルとなりえる存在を求めていた。すべてはきっと、リリアの思い出の中にいる人を思い出してのことだったのだろう。
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