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第二章

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 むかしむかしあるところに、三人の仲のいい姉弟がいました。彼女たちは国の上に立つ王の家系の生まれです。姉は双子で瓜二つ。とてつもない美貌を持ち、二人の名はとある花にまつわるものでした。二人には一歳下の弟がいて、幼いころからいつも三人は一緒に遊んでいました。

一番上の姉は妹のスペックには負けてしまいますが唯一、頭の良さだけは勝っていました。二番目の姉は隠れて努力もしていましたが、表向きは何をやらせても直ぐに出来るようになり、ハイスペックでした。その代わり人より感情が薄く、それでも表情豊かな子でした。一番下の弟はやはり二番目の姉には劣ってしまいますが、一番上の姉と同じく一般的には天才と言われるくらいのスペックを持っていました。

王の家系に生まれた彼女たちは、常に命を狙われる立場です。そのため、その国ではある程度成長するまではその存在を公にされることはありません。ひっそりとではありますが、それでも彼女たちは家族に恵まれ、環境に恵まれ、幸せな日々を送っていたのです。

 そんなある日のことでした。これは双子の姉妹が五歳、弟が四歳の春の日に起きた出来事です。その日の三人はお城にある一室でお茶をしていました。いつものように楽しく会話をしていると突然建物が揺れだしたのです。

突然起きたその揺れの正体は地震でした。身を守る間もないくらいに大きな揺れです。すぐに異変を察知した彼女たちは部屋の扉を開け、廊下に出ようとします。身動きが取れないほどの激しい揺れの中、あと一歩で外に出られるというところでその部屋の天井が落ちてきたのです。

本来、地震の時はテーブルの下に入るなど、身を守るべきですがその部屋は少し天井が脆くなっていてそんなことをしていては生き埋めになると判断した結果でした。崩れた天井の一部、大きな塊は二番目の姉と弟の頭上に落ちてきています。

それを見た一番上の姉は二人を庇おうとして──その瓦礫の下敷きになりました。一番上の姉は即死こそしませんでしたが、五歳の体が耐えられるようなものではありませんでした。二番目の姉は怪我を治癒する力を持っていましたが、まだ一番上の姉の傷を治せるほどのものではありませんでした。

あとに聞いた話では、崩れたのはその部屋だけで他の人はけが一つなかったそうです。結局、一番上の姉は二人に最期の言葉を残し、わずか五歳という年齢で誰にもその存在を知られることなく、それでも彼女にとってはとても幸せった人生に幕を下ろしたのです。死ぬ直前、最期の言葉を残した彼女は本当に幸せそうな満面の笑みでそのまま目を閉じてしまいました。


それは、まだ幼かった二人の心に大きなしこりを残したのです。とても賢い子たちでしたが弟の方がまだ幼かっただけマシです。二番目の姉は大事な片割れを失くしました。それは彼女にとってどんなに辛いことだったでしょう。

表情を失くすのではなかったのは、双子とあってそっくりだった姉のその笑顔を忘れないようにとしたのでしょうか。あるいは彼女なりの自分を守る術だったのかもしれません。それからというもの、感情薄くも表情豊かだったその顔には笑顔しか浮かべないようになりました。薄い感情の中でも唯一あった姉や弟に対する愛だけは忘れることなく、今も姉を失ったのは自分のせいだとその心に傷を付けながらどこかで暮らしていると聞きます。
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