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第二章
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「自分がされて嫌なことは他人にしてはいけない」誰かはそう言った。「争いは争いを生む」また別の誰かはそう言った。
だが、自分がされたことをそのままにしていては自分が潰される。どうあっても争わないといけないことはあるとリリアは思う。貴族社会においてそのような綺麗ごとは通用しない。そんな言葉に耳を傾けたとて、貴族同士の諍いでは自分が負けてしまうだけ。
権力を持つ者ほど現実を見て、その場で一番正しい行動をとらなければならない。もちろんその言葉が正しく当てはまる場面もあるだろう。ようは、いつどこでもその言葉を信じるのではなく正しい場面で正しく使えばいいだけのことだ。
自分自身の尊厳を守るため、家族を守るため、国を守るため、仲間を守るため。戦う場面は多くある。強いものが上に立ち、弱いものはその下に位置する。それが自然の摂理というものだ。それが嫌なら抗うだけの力を手に入れればいい、ただそれだけのことだ。
自分で出来ないというのなら人を頼ればいい。それに答えるのが「王」の役目だ。
◇
リリアが結婚して最初の冬がきた。と言ってもあと二月ほどで四月となり、リリアたちが結婚して一年が経つ。先日2月1日にリリアは19歳の誕生日を迎え、皇族でありながら生誕パーティーをユースゼルクで開けなかった代わりにたくさんのお祝いの言葉やプレゼントが届けられた。
リュマベル城でもパーティーを開きたくさんの人に祝ってもらった。それから12月の28日、少し前になるがリュードも誕生日を迎え、23歳になった。こちらは内々にしか祝わなかったが。
今日はリュードの両親、つまりリリアにとっての義両親がリュマベル城に訪問する。三日間滞在していくらしい。ちゃんと会話をするのは初めてなのでリリアは少し楽しみにしていた。
「リリア、父上達が来るのを楽しみにするのはいいが明日の準備は出来ているのか?」
「出来ていますよ。ですから大丈夫ですわ」
「それならいいが……覚悟しておいた方がいいぞ?絶対に、間違いなく、何があっても母上はお前に抱き着こうとするだろうからな。それと滞在中はあちこちに連れまわされると思っておけ」
母親かと突っ込みたくなるくらいあれこれ注意して心配してくる。幼少期、彼は一体どれだけ振り回されたのか。
「ですが嫌われてしまう可能性もありますわよ?」
「それはないな。以前より会うのを楽しみにしていたようだし、社交界ではリリアを見つける度にきゃあきゃあ言っていた」
「あら…」
「最初は俺が十歳の頃だったか?まだ幼いお前を初めて見たときは、「あの子将来、絶対可愛くなるわ!リュー、お嫁さんにしてはどう?」とか何とか言っていたしな」
それは気が早いことで。貴族の婚約は早いが、まともに話したこともない子供を前にそんなこと言っていたとは。でも本当に結婚することになるとは思わなかっただろう。
(……あら?)
「リュード様は幼いころから私をご存じだったのですか?」
「…あ。い、いや母上がお前の話をしていたからな。見かける度に可愛いと思っていただけ……じゃなくて!俺はさっきから何を言っている!?ちょっと黙れ、俺」
周囲で見守っていた使用人たちが一斉に顔を反らした。肩が震えているので笑っているのが丸わかりだ。頭を抱えているリュードは気づいていないが。ルークなんかは我慢しようともせず、「あっはっはっ!」と大爆笑している。
「なるほど。でしたら大丈夫かもしれないですね。嫁姑問題とか面倒すぎますから絶対に嫌ですし」
「…別の意味で嫌になるかもしれないがな」
だが、自分がされたことをそのままにしていては自分が潰される。どうあっても争わないといけないことはあるとリリアは思う。貴族社会においてそのような綺麗ごとは通用しない。そんな言葉に耳を傾けたとて、貴族同士の諍いでは自分が負けてしまうだけ。
権力を持つ者ほど現実を見て、その場で一番正しい行動をとらなければならない。もちろんその言葉が正しく当てはまる場面もあるだろう。ようは、いつどこでもその言葉を信じるのではなく正しい場面で正しく使えばいいだけのことだ。
自分自身の尊厳を守るため、家族を守るため、国を守るため、仲間を守るため。戦う場面は多くある。強いものが上に立ち、弱いものはその下に位置する。それが自然の摂理というものだ。それが嫌なら抗うだけの力を手に入れればいい、ただそれだけのことだ。
自分で出来ないというのなら人を頼ればいい。それに答えるのが「王」の役目だ。
◇
リリアが結婚して最初の冬がきた。と言ってもあと二月ほどで四月となり、リリアたちが結婚して一年が経つ。先日2月1日にリリアは19歳の誕生日を迎え、皇族でありながら生誕パーティーをユースゼルクで開けなかった代わりにたくさんのお祝いの言葉やプレゼントが届けられた。
リュマベル城でもパーティーを開きたくさんの人に祝ってもらった。それから12月の28日、少し前になるがリュードも誕生日を迎え、23歳になった。こちらは内々にしか祝わなかったが。
今日はリュードの両親、つまりリリアにとっての義両親がリュマベル城に訪問する。三日間滞在していくらしい。ちゃんと会話をするのは初めてなのでリリアは少し楽しみにしていた。
「リリア、父上達が来るのを楽しみにするのはいいが明日の準備は出来ているのか?」
「出来ていますよ。ですから大丈夫ですわ」
「それならいいが……覚悟しておいた方がいいぞ?絶対に、間違いなく、何があっても母上はお前に抱き着こうとするだろうからな。それと滞在中はあちこちに連れまわされると思っておけ」
母親かと突っ込みたくなるくらいあれこれ注意して心配してくる。幼少期、彼は一体どれだけ振り回されたのか。
「ですが嫌われてしまう可能性もありますわよ?」
「それはないな。以前より会うのを楽しみにしていたようだし、社交界ではリリアを見つける度にきゃあきゃあ言っていた」
「あら…」
「最初は俺が十歳の頃だったか?まだ幼いお前を初めて見たときは、「あの子将来、絶対可愛くなるわ!リュー、お嫁さんにしてはどう?」とか何とか言っていたしな」
それは気が早いことで。貴族の婚約は早いが、まともに話したこともない子供を前にそんなこと言っていたとは。でも本当に結婚することになるとは思わなかっただろう。
(……あら?)
「リュード様は幼いころから私をご存じだったのですか?」
「…あ。い、いや母上がお前の話をしていたからな。見かける度に可愛いと思っていただけ……じゃなくて!俺はさっきから何を言っている!?ちょっと黙れ、俺」
周囲で見守っていた使用人たちが一斉に顔を反らした。肩が震えているので笑っているのが丸わかりだ。頭を抱えているリュードは気づいていないが。ルークなんかは我慢しようともせず、「あっはっはっ!」と大爆笑している。
「なるほど。でしたら大丈夫かもしれないですね。嫁姑問題とか面倒すぎますから絶対に嫌ですし」
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