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第一章

1-65 リュードside

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リリアがユースゼルク大帝国に行ってから約二週間。俺は夏の休暇に入った。そして俺は今、リリアからの手紙を読んでいる。

拝啓 旦那様
夏になり暑さが続く日々になりましたが、旦那様は元気にお過ごしでしょうか?私は皇都に出たり、パーティーに参加したりと楽しんでおります。

旦那様がユースゼルク大帝国に入国する許可の話ですが、無事に皇帝陛下より許可を頂きまして、許可証を同封しておりますのでご確認下さい。

旦那様がこちらに来られて直ぐの話になりますが、現在、大公家ーーー皇弟一家になりますね。が、一時帰還されておりまして、貴族全員参加、他国から来た貴族も参加の『皇弟一家、一時帰還の御披露目』の夜会がございます。

詳細はこちらに来られてからお伝え致しますが、旦那様が来られてからも何度か社交行事がありますので、衣装を何着かご用意しておいて下さいませ。

旦那様にも招待状を準備されております。「必要」な社交になりますので、ご了承下さい。

それでは、無事にユースゼルク大帝国へ到着されますよう願っております。  リリア·スミス


報告書のような手紙だな。まあ俺がそんな風になってしまうような態度を取ってしまったのがいけなかったのだが。「必要」な社交、と強調しなくても良いのに。俺はもう夫として態度を改めようと決めたのに…リリアにその事を伝えていないこちらに非があるが。それにしても、許可証なんて入っていない。入れ忘れたのか?

「ルーク」
「はい?」
「明日からユースゼルクに向かう。準備してくれ」
「はいはい。誰を連れていくの?」
「他国に行くのだからそう大人数は無理だろう。ルークだけでいい」
「じゃあそう伝えとくよ」
「ああ」

今は俺の私室にいるため、ルークは遠慮なく必要な物を目の前でまとめていく。

「ーーー失礼。スミス公爵は貴方でお間違いありませんよね?」
「っ!?誰だ!」
「…リュー、下がって。この人全く気配がしなかった」

影の役割も持つルークでさえ気がつかないとは何者なんだ?

「そう警戒なさらず。ユースゼルク大帝国大公家の皇女殿下からの伝言です」
「あんたは何者だ?」
「今お伝えした皇女殿下の影の一人ですよ。本当に伝言だけですので警戒を解いて頂けます?」
「良い、ルーク。下がれ」
「…分かった」

ユースゼルク大帝国大公家の皇女?そんな高貴な身分の方が俺に何の用だ?

「それで、伝言とは?」
「リーひ…リリア様が許可証を封筒に入れ忘れたとお聞きしましたので、代わりに届けさせます、と。こちら許可証になります」
「あ、ああ。助かった。用件はそれだけか?」
「はい。では私は失礼」

消えた…ルークの方を振り返ってみると、ルークは呆然としている。

「どうした?」
「いや…あの人、多分強さが尋常じゃない。よっぽど強くなければあそこまで完璧に気配を消したり出来ないはず…」
「確かに凄いな。どうやったらあんな風になるんだ?誰かが指導しているのか?そうだとしたらその人には誰も勝てないだろうな」
「そうだね」

ちなみにだが、リリアは許可証を入れ忘れたのではなく、誰かに抜き取られてはいけないため、わざと入れずにセイに届けさせたのだ。

「それで、良かったね。許可証届けて貰えて」
「そうだな。これがないと不法侵入で捕まる」

それにしてもタイミングが良すぎると思うのは考えすぎか…?



翌日、俺はルークと共にリュマベル城を出た。今日から丁度一週間後にユースゼルク大帝国に着く筈だ。

「それで、向こうに着いたらリューはまず何するの?」
「皇城に行って皇帝陛下に挨拶しなければならない。滞在する場所はその時に伝えるから気にしなくていいと言われた」
「ふーん。リューの立場上、ただの旅行のようなものとはいえ、皇族と関わることも多いんじゃない?」
「恐らくな。まあ、外交でもないのだから特に気負うこともないだろう」

社交は面倒ではあるが…正直、あまりユースゼルク大帝国で社交をしたことはないから楽しみだという気持ちも少しある。

「ユースゼルク皇族といえば、嫁いできた人以外みんな金髪碧眼なんでしょ?クレイス王国では、それこそリリア様とマレー公爵令嬢くらいのものなのに。リリア様の母君は遠くから見たことがあるけど、あの人は金髪青眼だった。それでも綺麗だったけどね」
「この世界の創造神ヘウラ様が加護を与えている国だから、だったか?」

地上に降りてくることもあるが、あまり世界には干渉しないと聞いた。

「でも凄いよね。その代に一人も加護持ちが生まれなかった時代もあるのに、今代は全員加護持ちだったよね。加護持ちは皇帝と同等の権力を持ち、愛し子と呼ばれる人ならそれ以上の場合もある」
「つまり、今代のユースゼル大帝国皇族は全員皇帝のようなものだな」
「俺は粗相をしそうで今から怖い」
「普段から気を付けていないからだろ」

皇弟一家は大公の身分を持っているが、普段は周辺諸国のどこかで暮らしていると聞く。見た目が同じでも元々綺麗な振る舞いが段違いに上がるらしく、皇族として振る舞っていない時は皇族だと気が付かれることはほとんどないと聞く。

そんなに凄いのだろうか。立ち居振舞いなんて、人に出来る限界がありその限界を突破している人はいくらでもいるだろう。それ以上のレベルになると言うのか?

少なくとも、クレイス王国にはいないと思うが。

「それで、リューは滞在中どこかに出掛けるの?まさか社交して終わるだけとは言わないよね?わざわざリリア様が許可を取ってくれたんだから、どこかに連れて行ってあげたら?」
「もちろん出掛けるつもりはある。だが、リリアは何度も大帝国に行ったことがあるらしい。それに対して俺はほとんど行ったことがない。案内出来るような場所はないと思うが…」
「普通に街歩きとかは駄目なの?」
「もうすでにしたと手紙に書いてあった」
「リリア様はそういうの何回でも楽しむタイプだと思うけど?」

言われてみれば確かにそうだ。一々気にするようなタイプには見えない。俺はあまりリリアと関わって来なかったが、使用人達と話す姿を見る限りではルークの言う通りだ。

「リリアに聞いてみることにする」
「ふーん、まあ良いんじゃない?」

その日も含めて、道中宿に泊まりながら一週間かけて俺達はユースゼルク大帝国に着いた。

大帝国に入ってからずっと思っていたが、この国はとても綺麗だ。自然豊かでちゃんと整備されていて、空気が澄んでいる。貧困層がないどころか平民でさえも、誰もがそれなりに裕福な生活をしているのが分かる。

どんな仕事でも最低賃金が決められているそうで、衣食住には困らないようにしているようだ。

活気溢れる街で、この国の皇族がどれだけ民を思った政治をしているかよく分かる。貴族も同じく。

皇都に入ると、皇女、リリア·ゼル·ユースゼルク=ヘウラ殿下の話を多く聞く。俺の妻であるリリアと同じ名前だ。

どうやら、毎年…というか定期的に多額の私財を国庫に寄付しているそうで、その上度々城下に降りて民と交流しているらしい。

まさに、皇族の鏡だと。聞こえてくる名前が一番多いと言うだけで、他の皇族の名前も聞こえてくる。本当に国民に慕われているようだ。
 これだけ民を思って行動しているからこそ民もそれに応え、このような大国が出来ていったのだろう。悪どいことを考える者も当然いるようだが、それに関してもしっかり対策されているようだ。

というのも、つい先程馬車の窓からその様子が見えた。確かにこれでは、いくら序列二位とはいえクレイス王国が敵わないのもよく分かる気がした。

「皇城に到着致しました」
「ああ」

ルークと共に馬車を降りる。ルークは姿を消しているが。

「遠いところよくお越し下さいました。私はこの国の大臣をしている者でございます。皇族の皆様がお待ちです。玉座の間へご案内致します」
「ありがとうございます。宜しくお願い致します」
「はい。では参りましょう」
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