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第一章

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確かに霊力は回復してきているけれど、もう少しヘウラ様とお話していたいわ。

『君、私がリリアの心が読めるのを知っているくせにそんな事思うんだね。そんなこと思っていたらずっと帰してあげないかもしれないよ?』
「それは困りますわ。でもわたくしが死んでしまったらわたくしはヘウラ様の部下となるでしょう?愛し子は死んだ後でもヘウラ様と一緒ですもの」
『そうだね。でもリリアには今の人生を楽しんで欲しいからもう少し待つよ。神の時間は長いからねぇ』

そう言えばヘウラ様にお聞きしたいことがあったのだわ!すっかり忘れるところでした。

『なんだい?』
「わたくしは貴方様の愛し子としての役割を果たすことが出来たでしょうか?ヘウラ様の愛する世界の人達を少しでも救えたと思いますか?」
『…もちろんだよ。先程のことに限らずね。成長したね、リリア。いつも頑張っていることを私はちゃんと知っているよ。私が愛した君らしくこれからも楽しく生きるんだよ』
「はい。…ヘウラ様、今回のご褒美をわたくしに下さいませんか?」

神にご褒美だなんて恐れ多いとも思うが、前々から言いたかったことがあるのだ。

『いいよ。なんだい?』
「今まで、わたくしの誕生日にしか夢で会ってくれませんでしたでしょう?」
『そうだね』
「これからはもっとわたくしに会いに来て欲しいです。わたくしだって恋愛とは違いますけれどヘウラ様が大好きなのですから」
『良いのかい?いつも勝手に夢にお邪魔しちゃって迷惑かなって思うけど誕生日くらいはお祝いしたかったから』

迷惑だなんて思うわけがない。わたくしはヘウラ様ともっとお話したいと思っている。別に毎日だって構わない。

『そうだったのか。では最低でも月に一度は会いに行くよ。楽しみにしてくれていたら嬉しいな』

この世界において珍しい金髪碧眼はヘウラ様譲りだ。稀に金髪碧眼の者もいるがそれは異例で、基本はヘウラ様のご加護を直接受けているユースゼルクの皇族にしか現れない色だ。ユースゼルク皇族は全員もれなく金髪碧眼である。
身分を隠しているマリデール家が全員金髪碧眼のままだと非常に目立つため、王国ではわたくし以外金髪碧眼ではない。

そんな皇族の色素の元となる、綺麗な金髪碧眼の絶世の美青年が、少し頬を染めて微笑んでくる姿は中々心臓に悪い。

『もう、リリア。妙なこと考えなくていいからそろそろ起きてあげてよ。もう霊力は完全に回復しているだろう?君の弟君は泣きそうになっているよ』
「シモンが?それは早く戻らなくては。ではヘウラ様、次にお会い出来る時を楽しみにしておりますわ。お忙しいでしょうからあまりご無理はなさいませんよう!」
『君も頑張り過ぎないようにね』

(君がこちらの世界の人間になった時は、恋愛の意味で私を愛して欲しいな……過去の愛し子の中でも本当の意味で愛したのは君だけだから)



「…ぅ…ん……?」
「っ姉上!」
「きゃあっ!シモン!?」

起きたら突然抱き付かれた。一体何事だろうか?

「姉上っ、ご無事で…良かったです!」
「あら。もう…ほら、泣かないの。折角の綺麗な顔が台無しよ?」
「…姉上、霊力が完全に尽きてしまって…加護持ちの霊力が完全に尽きてしまうと命を落とすのは知っているでしょう!?」
「わたくしは大丈夫よ。だってヘウラ様の愛し子だもの!」

ヘウラ様は泣きそうだと言っていたが、シモンは本当に泣いている。大泣きではないが、シモンの涙を見たのなんていつぶりだろうか?

「そう言う問題ではないのです!愛し子だからと言って必ずしも助かるとは限らないのに!」
「ほら、落ち着いて。わたくしは元気だから。心配かけてごめんなさいね」
「本当ですよ!っこんなことになるなら、姉上に頼まなければ良かった!愛し子とはいえ、90%以上の確率で命を落とすと言われた時の私の気持ちが分かりますか!?姉上が愛し子でなければ即死でしたよ!」
「ごめんなさい。でも後悔はしていないわ。わたくしが動かなければもっとたくさんの命が消えていたかもしれないのだから」

こんな時にもそんなこと言うのですか、とでも言いたげな目で見てくる。でも皇族である以上にヘウラ様の愛し子であるわたくしにとっては何より気にする所だ。

「私も姉上でないと駄目だったのは理解しております。だからこそ姉上にお願いしたのですから。姉上のことです、いずれこうなってもおかしくないと常々思っていましたが、実際になると本当に恐ろしかったです」
「…」
「愛し子とはいえ、姉上は人間なのです。あまりご無理はなさらないで下さい。…それから同じ皇族である身として、加護持ちは全員陛下と同列の立場なのでその身として、沢山の命を救って下さったこと、礼を言います」
「ええ。約束は出来ないけれど、今後はもう少し気を付けるわ」
「そうしてください」

ようやくシモンが落ち着いた所で気になることが一つ。

「シモン、貴方のためよ。顔を隠しなさいな」
「?はい」
「シュナ、ルビー。そこで何をしているの?気になるのなら入ってきてはどう?」
「え!?」

シモンが驚いた顔をする。まあわたくしでないと気付けないだろうから驚くのは当然か。

「あ…ははっ。バレてたか。さすが人間を越えた五感の持ち主」
「そう言うのは良いから。シュナ、あの後どうなったの?」
「リリアのおかげで大変な騒ぎとまではならなかったから、この件を知っている者には箝口令が敷かれた。怪我人も一応全員精密検査を受けたけど、何も異常はなかった」
「きっと、リリアが治癒してくれたからだよねぇ?」
「そうね」

箝口令を敷かれたのか。…まあ、伯父上も貴族が出入りする場での騒ぎをもっと大きくしたいとは思わないだろう。

「まあ、この件は解決したから気にしなくて良い。訓練場も元通りだしな。それよりリリアは大丈夫か?」
「お父様達や伯父様達も心配していたけれど事後処理で忙しいーって言ってたわ」
「わたくしは全然大丈夫よ。それで、結局あの騒ぎの原因は何だったの?」
「それがなーー」

聞く話によると、どうやら原因は訓練中の騎士達らしい。それも笑えない程の馬鹿力が集まる騎士団で、訓練をしていたら剣を跳ばしてしまったそう。それでヒビが入った柱に体も吹っ飛んでたからぶつかり、一本の柱が倒れた。

ちょうど、別の柱が前々から少し状態が悪くなっていてそちらでは観覧者が取っ組み合いの喧嘩をしていたそうだ。そして不幸な偶然にも、折れるタイミングが同じだった上に対角線上だったため、メキメキッ!となったらしい。

鑑定したところ、嘘偽りはなし。状態が悪くなったのを放置していたこちらにも非があるということで、誰の処罰もなかったそうだ。

わたくしが再生したため、新築同様の強度になりしばらくは安心らしい。わたくしの加護については知られているが、公表していなかった加護については口外しないようにと言ってくれたらしい。

「そ、それで…シュナとルビーはいつから見ていたんだ?」
「「「最初から」」」
「っ姉上、知っていたのに何故教えてくれなかったのですか!?」

顔を真っ赤にしている。17歳にもなって姉に抱き付いて泣いていたのを見られたのが恥ずかしいのだろう。

「だってシモン、いつも素直じゃないのに珍しいし泣いているのを見るのなんて何年ぶりかしら?と思っていたら可愛くて」
「「このブラコン」」
「そんなこと、シュナとルビーだって元々知っていたでしょう。今さらよ」

わたくしは素直に?愛情表現しているのにシモンは中々素直になってくれないから。

「穴があったら入って一生出たくない…姉上はともかく、見られたのがよりによってシュナとルビーとか最悪…」
「掘ってあげましょうか?加護でドカン、と」
「姉上は無駄に加護を使おうとしないで下さい!少なくとも今日は!」
「シモン、気にする所そこではないだろう」
「穴があったら入りたい、では掘ってあげましょうか?の返しはおかしい、いえ面白いわ!」

空砲の加護を使えば直ぐにでも穴が掘れると思ったから提案したのに。
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