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第一章
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「そうだわ!『招待状も用意してはどう?面白そうじゃない?ドレスアップなどもして!』」
「『良いですね!衣装は私と姉上の持っているものを使いましょう。招待状は姉上にお願いして宜しいですか?』」
「『ええ、構わないわ』」
「『ではそのように』」
話している間にもどんどん出来ていき、後は飾り付けだけになった。
「良い匂いがするわ。美味しそうね!」
「そうですね。食べるのが楽しみです」
「『喜んで貰えたら良いけれど』」
「『きっと、喜んで貰えると思いますよ』」
ーー
翌朝、シモンと約束していた通り、剣の稽古をした後。昨晩心話で伯父上には許可を貰っておいた事をシモンに話す。
「それで、何故伯父上達まで来ることに?」
「詳細を伝えたら、自分達の影も参加させて良いかと聞かれて、同じく側にいた伯母上やお父様達まで行きたいと言い出したのよ」
「それで、結局参加者は『伯父上、伯母上、シュナ、ルビー、セリエ、カイ、父上、母上、姉上、私とそれぞれの影になったと?』」
「ええ。『かなり大人数になってしまったから、カフェはやめて第二の大公家の別邸ですることになったわ』」
「皆、暇なんですか?」
所々、影に聞かれたくない会話は心話を使っているため、端から見れば何の話をしているのか、という感じだ。
実際のものよりは小さいが、第二訓練場の皇都にある別邸もそれなりの人数は入る。
「多分、疲れを癒したいのと、労ってあげたいのもあると思うわ」
「そうですか。でも、そうしたらケーキの数が足りなくなりません?」
「そうね。今晩、また別のお菓子でも作る?」
「そうしましょう。それぞれ影は何人いましたっけ?」
「両陛下が15、皇太子夫妻が10、エリスティア夫妻が7、両親が8、わたくし達が6よ」
エリスティア夫妻とは、ルビー達のことだ。ルビー·ゼル·エリスティアとカイ·エリスティアだ。
「つまり影だけで92人もいますね。『小規模なパーティーになるじゃないですか。それに私達も合わせると102人ですよ……』」
「予想外の規模になったわね。わたくし達は大丈夫だけれど、伯父上達の予定は大丈夫なのかしら?」
「彼らのことですから、無理にでも参加すると思いますよ。人数を減らすのは諦めた方が良いかと」
そんなに人数がいるのならもう……
「普通の食事も用意してしまわない?夜会のような感じで。晩餐の変わりに身内だけの食事会みたいに」
「…そうしましょう。そうすれば、料理人達の手間も省けます」
「決まりね。わたくしはもう行くわ。仕事があるから。繋げておくから何か話したいことがあれば心話で」
「分かりました。本当に便利ですね」
「そうね」
◇
「ライ、今日の予定は?」
一旦、着替えるために自室に戻りながら今日の護衛を担当してくれているライに問う。
「一時間後に宰相夫人主催の茶会、皇城で警備に関する会議、皇后陛下主催の茶会、ウィーウェン城で姫さん主催の茶会、皇都の視察、報告、夜会、俺達の稽古だ」
「分かったわ。今日はほとんど社交ね。宰相夫人主催のお茶会は伯爵邸?」
「うん」
「わざわざ何度もウィーウェンに戻るのは面倒ね…ライ、貴方ドレスの着付けなどは出来る?」
「出来るけど」
「では宰相夫人主催のお茶会の後からのドレスアップはお願いするわ」
馬車に乗せておいて、馬車の中で着替えればいい。皇家の馬車だから広いし揺れない。少しでも空き時間に書類等を片付けたい。
「は!?……何で俺なわけぇ?」
「だって、護衛だから側にいるでしょう?少しでも仕事を進めておきたいのだけど」
「……御意」
社交が多い日は何度も着替えなければならない。面倒だが、それも仕事の内だと思って我慢するしかない。
「取り敢えず下がって良いわよ。着替えて来るから。今日やりたい書類はまとめているから持っていく用意をしておいて」
「御意」
宰相夫人の屋敷はウィーウェンから四十分くらいの所にある。四十分あれば結構書類が片付く筈だ。
「ルイ!急いでドレスアップしてちょうだい」
「はい」
本当なら今日の護衛はルイに任せたかった。ルイならわたくしの侍女も兼ねているから。だが、ルイには別の仕事を任せたため、今日のお付きはライだ。
今日の一着目は桃色のプリンセスラインのドレス。髪は一日統一で頭の高い所でアップにしている。アクセサリーは小さめのドレスと同じ色の物だ。
アクセサリーを自分で着けている間に、持っていくドレスとアクセサリーを用意して貰う。
「ライ、用意出来ましたので姫の荷物を馬車に運んで下さい」
「はいはい。じゃあ姫さん。俺は先に馬車に乗ってるから」
「分かったわ」
それだけ言うとさっさとわたくしを置いて、行ってしまった。
「ではわたくしも行ってくるわ。ルイ、ありがとう。頼んである仕事、お願いね」
「御意」
急いで馬車に向かう。早足で歩いているため、コツコツと鳴り響くヒールの音のリズムが早い。
走らず優雅に、でも早く歩いて城外に出る。城から出た所から城門まででもかなりの距離があるため、エントランスを出て直ぐのところに馬車を停めてくれている。
「アネット伯爵邸へ」
「はい。では出発致します」
わたくしが御者に声をかけたのを見計らって、ライも話しかけてくる。
「はい、姫さんが用意していた書類。言っとくけど内容は見てないからね」
「ええ。それは分かっているわ。ありがとう」
「それで姫さん。何で俺まで馬車に乗せたわけ?」
「ん?決まってるじゃない。ライの稽古をつけようと思って」
「決まってないから!稽古をつけてくれるのは嬉しいけど書類仕事しながらどうするわけ?」
すでに書類に手をつけているわたくしの方を見ながら言う。どうするのかは分かっているのかと思っていた。何も言わずに馬車に乗っていたから。
「わたくしが結界を張っておくから、とにかく攻撃してきなさい。わたくしは書類を片付けながら結界の強度を長時間保つ訓練、ライも訓練になるのだから一石三鳥じゃない?」
「…あっそ。怪我しても知らないから」
「別に切断くらいなら構わないわよ。殺されるのは困るけれど」
「殺さないから!」
「それは良かったわ」
なにやら、治癒出来るとしても切断されたくはないんじゃない?痛いのに変わりはないし。それとも、もう慣れたってわけぇ?とかなんとか言っている。
別に痛いのは痛いが、泣き叫ぶ程でもない。治せるのが分かっているのだから心配はいらない。
つまり、リリアは痛みに慣れているというわけだ。普通は治せるのが分かっていても怪我なんてしたくないし、ましてや切断など。令嬢なら、いや令嬢でなくても普通は泣き叫ぶ所か気絶してもおかしくない。
結局、本人は分かっていないだけで痛みに慣れすぎているのだ、リリアは。
「はい。結界を張ったから攻撃してきていいわよ」
「昨日、馬鹿みたいに加護使いまくってたのにもう霊力回復したの?」
「ええ。だから全力でかかってきなさい」
「はぁ……はいはい」
「あ、待って。馬車を揺らさないで欲しいから加護をかけるわ。"空移"。…もういいわよ」
「はいはい」
空移とは、文字通り空中移動の短縮系である。空中移動、では長いから短縮版の詠唱が作られたそうで、「空中移動」でも発動する。
馬車の中だから、移動する程でもない。揺らされたくなくてかけただけなので、ライはその場に浮いた状態で攻撃してくる。
ライの一撃は重い。ライは黒髪赤眼の美形で着痩せするタイプだ。見た目は細身だが、筋肉はついている。
ライの場合、一撃と一撃の間に隙が生まれない。そのため一度攻撃され始めたら、やり返しにくいのがライの技だ。
なんと言うのかは分からないが、ただ殴る、蹴るではない。横から蹴りを入れた勢いでそのまま回転しもう一撃入れるなど、中々真似出来ない技が多い。
「ライも強くなったわねぇ…昔はわたくしに近づくことすら出来なかったのに」
「今は馬車の中だから近づいてるのは当たり前でしょ!それに、俺と姫さんそんなに年齢離れてないのに姫さんが強すぎなんだよ!」
「そう言えば、わたくし達五歳差だったわね」
大体皇族の影は五歳頃から就く。影は自分で選ぶか家族に選んで貰うか、代々影の家系から引き抜くか自分で探しに行くかなどなど、決め方は自由だ。
出会った時から強い者でもいいが、強くないけど見込みがあるものでもいい。戦闘に特化していなくても、諜報に特化していてもいい。
忠誠心、最低護衛になれる位の強さ、信用出来るか。この三つの条件を満たしているのなら、他国出身だろうと元奴隷だろうと関係ない。
三つの条件は大体、加護で確認出来るため、現在皇族の影は全員わたくしの確認が入っている。
「『良いですね!衣装は私と姉上の持っているものを使いましょう。招待状は姉上にお願いして宜しいですか?』」
「『ええ、構わないわ』」
「『ではそのように』」
話している間にもどんどん出来ていき、後は飾り付けだけになった。
「良い匂いがするわ。美味しそうね!」
「そうですね。食べるのが楽しみです」
「『喜んで貰えたら良いけれど』」
「『きっと、喜んで貰えると思いますよ』」
ーー
翌朝、シモンと約束していた通り、剣の稽古をした後。昨晩心話で伯父上には許可を貰っておいた事をシモンに話す。
「それで、何故伯父上達まで来ることに?」
「詳細を伝えたら、自分達の影も参加させて良いかと聞かれて、同じく側にいた伯母上やお父様達まで行きたいと言い出したのよ」
「それで、結局参加者は『伯父上、伯母上、シュナ、ルビー、セリエ、カイ、父上、母上、姉上、私とそれぞれの影になったと?』」
「ええ。『かなり大人数になってしまったから、カフェはやめて第二の大公家の別邸ですることになったわ』」
「皆、暇なんですか?」
所々、影に聞かれたくない会話は心話を使っているため、端から見れば何の話をしているのか、という感じだ。
実際のものよりは小さいが、第二訓練場の皇都にある別邸もそれなりの人数は入る。
「多分、疲れを癒したいのと、労ってあげたいのもあると思うわ」
「そうですか。でも、そうしたらケーキの数が足りなくなりません?」
「そうね。今晩、また別のお菓子でも作る?」
「そうしましょう。それぞれ影は何人いましたっけ?」
「両陛下が15、皇太子夫妻が10、エリスティア夫妻が7、両親が8、わたくし達が6よ」
エリスティア夫妻とは、ルビー達のことだ。ルビー·ゼル·エリスティアとカイ·エリスティアだ。
「つまり影だけで92人もいますね。『小規模なパーティーになるじゃないですか。それに私達も合わせると102人ですよ……』」
「予想外の規模になったわね。わたくし達は大丈夫だけれど、伯父上達の予定は大丈夫なのかしら?」
「彼らのことですから、無理にでも参加すると思いますよ。人数を減らすのは諦めた方が良いかと」
そんなに人数がいるのならもう……
「普通の食事も用意してしまわない?夜会のような感じで。晩餐の変わりに身内だけの食事会みたいに」
「…そうしましょう。そうすれば、料理人達の手間も省けます」
「決まりね。わたくしはもう行くわ。仕事があるから。繋げておくから何か話したいことがあれば心話で」
「分かりました。本当に便利ですね」
「そうね」
◇
「ライ、今日の予定は?」
一旦、着替えるために自室に戻りながら今日の護衛を担当してくれているライに問う。
「一時間後に宰相夫人主催の茶会、皇城で警備に関する会議、皇后陛下主催の茶会、ウィーウェン城で姫さん主催の茶会、皇都の視察、報告、夜会、俺達の稽古だ」
「分かったわ。今日はほとんど社交ね。宰相夫人主催のお茶会は伯爵邸?」
「うん」
「わざわざ何度もウィーウェンに戻るのは面倒ね…ライ、貴方ドレスの着付けなどは出来る?」
「出来るけど」
「では宰相夫人主催のお茶会の後からのドレスアップはお願いするわ」
馬車に乗せておいて、馬車の中で着替えればいい。皇家の馬車だから広いし揺れない。少しでも空き時間に書類等を片付けたい。
「は!?……何で俺なわけぇ?」
「だって、護衛だから側にいるでしょう?少しでも仕事を進めておきたいのだけど」
「……御意」
社交が多い日は何度も着替えなければならない。面倒だが、それも仕事の内だと思って我慢するしかない。
「取り敢えず下がって良いわよ。着替えて来るから。今日やりたい書類はまとめているから持っていく用意をしておいて」
「御意」
宰相夫人の屋敷はウィーウェンから四十分くらいの所にある。四十分あれば結構書類が片付く筈だ。
「ルイ!急いでドレスアップしてちょうだい」
「はい」
本当なら今日の護衛はルイに任せたかった。ルイならわたくしの侍女も兼ねているから。だが、ルイには別の仕事を任せたため、今日のお付きはライだ。
今日の一着目は桃色のプリンセスラインのドレス。髪は一日統一で頭の高い所でアップにしている。アクセサリーは小さめのドレスと同じ色の物だ。
アクセサリーを自分で着けている間に、持っていくドレスとアクセサリーを用意して貰う。
「ライ、用意出来ましたので姫の荷物を馬車に運んで下さい」
「はいはい。じゃあ姫さん。俺は先に馬車に乗ってるから」
「分かったわ」
それだけ言うとさっさとわたくしを置いて、行ってしまった。
「ではわたくしも行ってくるわ。ルイ、ありがとう。頼んである仕事、お願いね」
「御意」
急いで馬車に向かう。早足で歩いているため、コツコツと鳴り響くヒールの音のリズムが早い。
走らず優雅に、でも早く歩いて城外に出る。城から出た所から城門まででもかなりの距離があるため、エントランスを出て直ぐのところに馬車を停めてくれている。
「アネット伯爵邸へ」
「はい。では出発致します」
わたくしが御者に声をかけたのを見計らって、ライも話しかけてくる。
「はい、姫さんが用意していた書類。言っとくけど内容は見てないからね」
「ええ。それは分かっているわ。ありがとう」
「それで姫さん。何で俺まで馬車に乗せたわけ?」
「ん?決まってるじゃない。ライの稽古をつけようと思って」
「決まってないから!稽古をつけてくれるのは嬉しいけど書類仕事しながらどうするわけ?」
すでに書類に手をつけているわたくしの方を見ながら言う。どうするのかは分かっているのかと思っていた。何も言わずに馬車に乗っていたから。
「わたくしが結界を張っておくから、とにかく攻撃してきなさい。わたくしは書類を片付けながら結界の強度を長時間保つ訓練、ライも訓練になるのだから一石三鳥じゃない?」
「…あっそ。怪我しても知らないから」
「別に切断くらいなら構わないわよ。殺されるのは困るけれど」
「殺さないから!」
「それは良かったわ」
なにやら、治癒出来るとしても切断されたくはないんじゃない?痛いのに変わりはないし。それとも、もう慣れたってわけぇ?とかなんとか言っている。
別に痛いのは痛いが、泣き叫ぶ程でもない。治せるのが分かっているのだから心配はいらない。
つまり、リリアは痛みに慣れているというわけだ。普通は治せるのが分かっていても怪我なんてしたくないし、ましてや切断など。令嬢なら、いや令嬢でなくても普通は泣き叫ぶ所か気絶してもおかしくない。
結局、本人は分かっていないだけで痛みに慣れすぎているのだ、リリアは。
「はい。結界を張ったから攻撃してきていいわよ」
「昨日、馬鹿みたいに加護使いまくってたのにもう霊力回復したの?」
「ええ。だから全力でかかってきなさい」
「はぁ……はいはい」
「あ、待って。馬車を揺らさないで欲しいから加護をかけるわ。"空移"。…もういいわよ」
「はいはい」
空移とは、文字通り空中移動の短縮系である。空中移動、では長いから短縮版の詠唱が作られたそうで、「空中移動」でも発動する。
馬車の中だから、移動する程でもない。揺らされたくなくてかけただけなので、ライはその場に浮いた状態で攻撃してくる。
ライの一撃は重い。ライは黒髪赤眼の美形で着痩せするタイプだ。見た目は細身だが、筋肉はついている。
ライの場合、一撃と一撃の間に隙が生まれない。そのため一度攻撃され始めたら、やり返しにくいのがライの技だ。
なんと言うのかは分からないが、ただ殴る、蹴るではない。横から蹴りを入れた勢いでそのまま回転しもう一撃入れるなど、中々真似出来ない技が多い。
「ライも強くなったわねぇ…昔はわたくしに近づくことすら出来なかったのに」
「今は馬車の中だから近づいてるのは当たり前でしょ!それに、俺と姫さんそんなに年齢離れてないのに姫さんが強すぎなんだよ!」
「そう言えば、わたくし達五歳差だったわね」
大体皇族の影は五歳頃から就く。影は自分で選ぶか家族に選んで貰うか、代々影の家系から引き抜くか自分で探しに行くかなどなど、決め方は自由だ。
出会った時から強い者でもいいが、強くないけど見込みがあるものでもいい。戦闘に特化していなくても、諜報に特化していてもいい。
忠誠心、最低護衛になれる位の強さ、信用出来るか。この三つの条件を満たしているのなら、他国出身だろうと元奴隷だろうと関係ない。
三つの条件は大体、加護で確認出来るため、現在皇族の影は全員わたくしの確認が入っている。
応援ありがとうございます!
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