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第二章 将軍様のお家に居候!
第19話 飛竜パニック☆
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ナルガスが飛竜を見に行こうと誘ってくれたので、今度は飛軍側の訓練場へ向かう事になった。
道すがら、スキンヘッドのおじさんも名前を教えてくれた。
ハリドと名乗った彼は、『副官』というナルガスの補佐官のような立場らしい。
話を聞いた感じ、恐らくイバンと同じ役職っぽい。
口数は少ないけど愛想が悪いわけでもなく、必要な場面では普通に喋っているから、ただ無駄口は叩かないってだけっぽい。
バルギー達と共に足を踏み入れた飛軍の訓練場には、本当にドラゴンがいた。
馬達と同じくらいのサイズで、プテラノドンのように腕が大きな翼になっている。
体は白っぽい色をしているけど、光が当たると鱗が薄緑に光って綺麗だった。
頭上では兵士を乗せた飛竜が何匹も飛んでいて、数匹で動きを合わせ旋回したりしている。
「ほらケイタ、あれが飛竜だ」
『すげぇ、本物のドラゴンだ。かっこえぇ』
もう少しそばで見たいけど、馬達の件でバルギーは警戒しているらしく俺の肩に両手を置いてガッチリと抑えている。
ふふ、俺信用ねぇな。
「本当に飛竜を見たことが無いのか・・・ヴァルグィ、ケイタの事で幽閉されていたとか稚児だっただとか不穏な噂を耳にしているが、どこまで本当なんだ」
「あぁ、その事については後で説明する。ケイタも少し言葉が分かるようになってきているからな、本人の前で余りその話はしたくない」
「・・・つまり、噂の内容はあながち間違いでも無いのか?」
「少なくとも、神島も大竜も知らず証明印も持って居なかったのは事実だ」
「信じられん・・・随分と酷い扱いを受けてきたようだな」
俺の頭上でナルガスとバルギーが少し声を落として何やら話しているけど、内容は分からないから俺は訓練場にいる飛竜達の観察に集中した。
そういえば馬とは話せたけど、俺は飛竜ともちゃんと話せるんだろうか。
何も考えずに馬達と同じように話せるだろうと思ってたけど、実際どうなんだろうか。
でも馬達は飛竜とも話せるみたいだから、多分いけるよな?
確認するには話しかけてみるのが一番早いんだけど、いかんせんバルギーに肩を押さえられていて俺は動けない。
身動きできないまま飛竜達を見ていたら、どうやら向こうも俺に気がついているみたいで、ソワソワとこちらを気にするような様子を見せている。
やっぱり竜の間で俺が噂になっているってのは、本当らしい。
さてどうしたものかと思っていたら、一匹の飛竜が叫び声を上げる兵士を引き摺りながら、物凄い勢いで此方に走って来ているのが視界に入った。
どうやら、俺が行くより先に向こうから来てくれたみたいだ。
「なんだっ!?貴様何をしているんだっ」
走って来る飛竜に気がついたバルギー達が、全員ギョッとしたように身構えた。
ハリドが引き摺られる兵士を怒鳴りつけるけど、飛竜が止まる気配はない。
バルギーが俺を抱え上げ他の皆が剣を抜くのと、飛竜がギリギリで急ブレーキをかけるのはほぼ同時だった。
「うわぁぁっ」
引き摺られた兵士だけが勢いを殺せず、俺たちの横を飛んでいった。
【来たな!待っていたぞ!お前がケイタだろう?】
飛竜がバルギーの腕の中にいた俺を覗き込む。
バルギーの腕が緊張で強ばるのが分かったけど、飛竜は別に噛み付いたりしてはこない。
【どうした?喋らないのか?人間と言葉を交わせるというのは、やはり唯の噂か?】
飛竜から少しガッカリしたような雰囲気を感じて、俺は慌てて応える。
『え、あっと、初めまして』
【おぉ!話した!本当に人間が喋ったぞ!】
応えた俺に興奮したように、飛竜が突然大きな咆哮を上げた。
それと同時に、周りで様子を見ていた飛竜が一斉に飛び立ち俺達の周りに降りてくる。
飛竜の背中に乗っていた兵達は驚いたように必死でしがみついているし、手綱を掴んでいるだけだった人達は見事に振り落とされている。
「な、何事だ!?」
「お前達何をしているんだっ」
ナルガス達が焦ったように身構え、バルギーは俺を守るように腕に力を入れるけど、あっという間に周りを飛竜達に囲まれてしまった。
うぅん、デジャヴ。
馬の時と同じような状況だけど、今回は俺のせいじゃないよな。
俺はまだ何もしてねぇもん。
【これが噂の人間か?】
【うわぁ、小さいんだなぁ】
【ほら、何か喋ってみろ】
【噂通り臭くないなっ】
皆好き勝手に話しかけながら、俺の体を嗅いでくる。
ちょっ、怖っ!
馬竜は見た目がほとんど馬だったからそんなに緊張しなかったけど、飛竜達は肉食恐竜のような見た目だ。
口には細かく鋭い牙がビッシリと生えていて、俺の匂いを嗅ぎながら低く唸られると流石にちょっと恐怖を感じた。
「ケイタ、動くな」
バルギーが緊張したように俺を抱え込む。
ナルガスもハリドもイバンも、飛竜に囲まれて皆恐ろしいほどの緊張感を漂わせたまま固まっている。
だが、此方の緊張など全く気にせず飛竜達はえらく楽しそうだ。
【凄いなぁ。ラビクの言う通り、本当に人間臭さが無いんだな】
ラビク!お前どんだけ俺の事言いふらしてんだ!?
【ほら、なにか喋ってくれよ】
催促するように飛竜が鼻先で俺の体を揺する。
『ちょっと、やめろって!話すから、あんまり迫るなよ』
【【【喋ったっ】】】
ダメだ、俺の話なんか聞いちゃいないな。
飛竜達は皆興奮したように咆哮を上げて、長い尾っぽをブンブン振り回している。
なんか、馬達に比べて少し落ち着きが無い竜達だ。
【お前達、少し騒ぎすぎだぞ】
どうすれば良いのか途方に暮れていたら、突然頭上から大きな羽ばたきの音と共に、どっしりと落ち着いた低音の声が頭の中に響いた。
驚いて上を見上げたら、大きな飛竜がゆっくりと降りてくるところだった。
その竜が現れた途端、今まで騒いでいた飛竜達が大人しくなり場所を譲るように下がっていく。
「あぁ、デュマン。助かった」
竜が降りたった瞬間、ナルガスがホッとしたように体の緊張を解いたのが分かった。
デュマンと呼ばれた竜は挨拶するように一瞬ナルガスに顔を近づけた後、俺に顔を向けた。
【すまない、若い連中が驚かせたな。お前がケイタか?】
『お?おぉ・・。初めまして。えっとデュマンって言うのか?』
【あぁ、そうだ。ラビクから聞いているぞ。本当に我々と言葉を交わせるとは面白いな】
デュマンは他の飛竜よりも一回り大きい竜で、落ち着きのある話し方をする。
他の竜達が一気に大人しくなったのを見る感じ、ここではこの竜がリーダー格なんだろうか。
「ヴァルグィ、大丈夫だ」
ナルガスが緊張を解いて剣を仕舞うと、イバン達もそれに倣う。
バルギーも周りの飛竜を少し警戒しながらも、ようやく俺を降ろしてくれた。
「ケイタすまなかったな。怖かっただろう。普段はこんな事無いんだが・・・」
俺が怯えていると思ったのか、ナルガスが謝ってきた。
「大丈夫」
飛竜の言葉が聞こえているぶん、多分バルギー達よりは俺の方が落ち着いていたと思う。
「はぁ、飛竜もやっぱりケイタに反応するんですね」
少し疲れたようなイバンの呟きに、バルギーも頷いた。
「なんだ。もしかして馬竜でも同じような事があったのか?」
「あぁ、向こうでも似たような騒ぎがあってな。妙に馬達がケイタに懐くんだ。攻撃はしないが見ていると肝が冷える」
「竜が懐くのか?もしかして飛竜達が集まったのもケイタが目的か?」
「恐らくな。見てみろ、竜達の目は完全にケイタを見ているぞ」
「おぉ、確かに」
バルギーが周りの竜達を指さすと、ナルガスが驚いたように眉を上げた。
「馬竜達はどんな反応だったんだ?」
「それがなーーー」
おじさん方が、どうやらさっきの馬軍の訓練場での騒ぎについて話し始めたみたいだ。
バルギー達だけで話し始めると、言葉も分からないしスピードも早くて俺には聞き取れない。
早々に会話に混ざるのは諦めて、目の前に立っていたデュマンに意識を向ける。
【ケイタ、もしかして私に触りたいのか?】
薄緑に輝く鱗が綺麗でデュマンの身体をジッと見ていたら、笑いを含んだような声で話しかけられた。
『んー、ちょっとだけな。でもさっき馬竜達を触って怒られたから』
【馬竜が怒ったのか?】
『いや、バルギー達に危ないって怒られた』
【あぁ、人間か。それなら気にする事はない。ほら、触っていいぞ】
デュマンが長い尾っぽの先を俺の前に差し出してきた。
触って良いんだろうかとナルガスを見上げたら、俺とデュマンの様子に気が付いたようで頷いてくれた。
「ケイタ、触ってもいいぞ。デュマンも許しているから、大丈夫だ」
許可をもらって、俺は目の前の尾っぽに触ってみた。
冷たく硬いのかと思っていた鱗は、意外と暖かくて弾力のあるものだった。
【どうだ?】
『思ったよりも柔らかいんだな』
【そうか?人間の剣くらいだったら防げるぞ】
『そうなのか?凄いな。なぁ、馬竜は草食べてたけど、飛竜は肉食か?歯が凄いよな』
【我々はどちらも食べる。私は肉の方が好きだが、果実も嫌いではない】
飛竜は雑食なのか。
【なぜ、そんな事を聞くんだ?】
『いや、齧られたら怖いなって』
【あっはっはっは、そんな事を考えていたのか。大丈夫だ、齧らんよ】
デュマンに、めっちゃ笑われてしまった。
【デュマン、俺達もケイタと話したい】
【こっちに連れてきてくれよう】
距離をとって大人しくしていた飛竜達が、会話を始めた俺たちを見て我慢出来なくなってきたのか、こっちに来いと騒ぎ始める。
【ダメだ。人間達がまだ警戒している。そこでも話せるだろ?近寄るのは我慢しろ】
【デュマン、ズルいー】
【お前達が騒ぎを起こすのがいけないのだ】
【ケイタぁ、こっちにおいでよぅ】
『はは・・・・』
飛竜は見た目は怖いけど、なんだか懐っこい性格をしている。
『デュマンは、ここの飛竜の中では一番偉いのか?皆デュマンの言うこと聞いてるけど』
【あぁ、ここの群れの中では私が長だ。一番長く生きているし、力もある】
『へぇ、何歳くらいなの?』
【200年くらいは生きているな】
『はぁっ?!200年?!竜ってそんなに長生きなのっ?』
【そうだな、地上の竜は大体3~400年は生きるな】
『すげぇ・・・。地上の竜はって、他にも何かいるのか?』
【あぁ、神島の竜達はまた別だ】
言葉と共にデュマンが上を向いた。
その目線の先には、お馴染みの空に浮かぶ島だ。
俺も段々この景色に慣れてきたな。
『神島の竜って、大竜ってやつか?』
【あぁ、そうだ。大竜以外にも色々な竜がいるがな】
『俺、神島ってのが何なのかよく分かって無いんだけど、あそこに住んでいる竜はデュマン達とは違うのか?』
【うむ。神島の竜は強い魔力を持っている。我々地上の竜は身体能力は高いが、神島の竜のように魔法は使えない】
『へぇ、神島の竜って魔法を使うのか』
【あぁ、とても強い竜達だぞ。我々にとっては格上の相手だ】
凄い勉強になるわー。
セフには悪いけど、ほんと言葉以外の事では竜に聞いた方が色々手っ取り早い・・・。
『大竜も強い?』
【もちろんだ。大竜は全ての竜の頂点にいる王だ】
『ひょえー、強そう。王様ってことは一匹しかいないのか?大竜って竜の種類じゃなくて、竜の王様が大竜ってこと?』
【いや、大竜は竜の種類だ。大竜に生まれた時点で強大な力を持っている。その代わり数は少ないぞ。今は5匹しか居ない】
『絶滅危惧種じゃん』
【なんだそれは】
『いや、5匹しか居ないんじゃ絶滅しちゃうんじゃないか?繁殖するよりも先に皆死んじゃったり』
【あぁ、神島の竜は繁殖はしない】
『ん?』
【それに寿命みたいなものも無いから、滅多に死んだりもしない】
『んん?』
【ケイタ、神島の竜は自然の魔力が固まって生まれてくる者達だ】
『生物じゃないの?』
【生物だが、自然現象の一つでもある】
『んー・・・?』
【ふむ、少し難しいか】
『うん』
もう少し詳しく教えて欲しくてデュマンの次の言葉を待つけど、その前にバルギー達が終わりを告げてきた。
「ケイタ、今日はこれくらいにしよう。飛竜達も少し興奮していて落ち着かないようだしな」
【残念、時間切れのようだな】
『えぇ~、気になるところで・・・・』
【ふふ、授業の続きは次回にしよう。またおいで。色々と教えてやる】
どうやら、俺には新しい先生ができたようだ。
話の続きが気になりすぎるから、これは絶対にまた来ないとだな。
道すがら、スキンヘッドのおじさんも名前を教えてくれた。
ハリドと名乗った彼は、『副官』というナルガスの補佐官のような立場らしい。
話を聞いた感じ、恐らくイバンと同じ役職っぽい。
口数は少ないけど愛想が悪いわけでもなく、必要な場面では普通に喋っているから、ただ無駄口は叩かないってだけっぽい。
バルギー達と共に足を踏み入れた飛軍の訓練場には、本当にドラゴンがいた。
馬達と同じくらいのサイズで、プテラノドンのように腕が大きな翼になっている。
体は白っぽい色をしているけど、光が当たると鱗が薄緑に光って綺麗だった。
頭上では兵士を乗せた飛竜が何匹も飛んでいて、数匹で動きを合わせ旋回したりしている。
「ほらケイタ、あれが飛竜だ」
『すげぇ、本物のドラゴンだ。かっこえぇ』
もう少しそばで見たいけど、馬達の件でバルギーは警戒しているらしく俺の肩に両手を置いてガッチリと抑えている。
ふふ、俺信用ねぇな。
「本当に飛竜を見たことが無いのか・・・ヴァルグィ、ケイタの事で幽閉されていたとか稚児だっただとか不穏な噂を耳にしているが、どこまで本当なんだ」
「あぁ、その事については後で説明する。ケイタも少し言葉が分かるようになってきているからな、本人の前で余りその話はしたくない」
「・・・つまり、噂の内容はあながち間違いでも無いのか?」
「少なくとも、神島も大竜も知らず証明印も持って居なかったのは事実だ」
「信じられん・・・随分と酷い扱いを受けてきたようだな」
俺の頭上でナルガスとバルギーが少し声を落として何やら話しているけど、内容は分からないから俺は訓練場にいる飛竜達の観察に集中した。
そういえば馬とは話せたけど、俺は飛竜ともちゃんと話せるんだろうか。
何も考えずに馬達と同じように話せるだろうと思ってたけど、実際どうなんだろうか。
でも馬達は飛竜とも話せるみたいだから、多分いけるよな?
確認するには話しかけてみるのが一番早いんだけど、いかんせんバルギーに肩を押さえられていて俺は動けない。
身動きできないまま飛竜達を見ていたら、どうやら向こうも俺に気がついているみたいで、ソワソワとこちらを気にするような様子を見せている。
やっぱり竜の間で俺が噂になっているってのは、本当らしい。
さてどうしたものかと思っていたら、一匹の飛竜が叫び声を上げる兵士を引き摺りながら、物凄い勢いで此方に走って来ているのが視界に入った。
どうやら、俺が行くより先に向こうから来てくれたみたいだ。
「なんだっ!?貴様何をしているんだっ」
走って来る飛竜に気がついたバルギー達が、全員ギョッとしたように身構えた。
ハリドが引き摺られる兵士を怒鳴りつけるけど、飛竜が止まる気配はない。
バルギーが俺を抱え上げ他の皆が剣を抜くのと、飛竜がギリギリで急ブレーキをかけるのはほぼ同時だった。
「うわぁぁっ」
引き摺られた兵士だけが勢いを殺せず、俺たちの横を飛んでいった。
【来たな!待っていたぞ!お前がケイタだろう?】
飛竜がバルギーの腕の中にいた俺を覗き込む。
バルギーの腕が緊張で強ばるのが分かったけど、飛竜は別に噛み付いたりしてはこない。
【どうした?喋らないのか?人間と言葉を交わせるというのは、やはり唯の噂か?】
飛竜から少しガッカリしたような雰囲気を感じて、俺は慌てて応える。
『え、あっと、初めまして』
【おぉ!話した!本当に人間が喋ったぞ!】
応えた俺に興奮したように、飛竜が突然大きな咆哮を上げた。
それと同時に、周りで様子を見ていた飛竜が一斉に飛び立ち俺達の周りに降りてくる。
飛竜の背中に乗っていた兵達は驚いたように必死でしがみついているし、手綱を掴んでいるだけだった人達は見事に振り落とされている。
「な、何事だ!?」
「お前達何をしているんだっ」
ナルガス達が焦ったように身構え、バルギーは俺を守るように腕に力を入れるけど、あっという間に周りを飛竜達に囲まれてしまった。
うぅん、デジャヴ。
馬の時と同じような状況だけど、今回は俺のせいじゃないよな。
俺はまだ何もしてねぇもん。
【これが噂の人間か?】
【うわぁ、小さいんだなぁ】
【ほら、何か喋ってみろ】
【噂通り臭くないなっ】
皆好き勝手に話しかけながら、俺の体を嗅いでくる。
ちょっ、怖っ!
馬竜は見た目がほとんど馬だったからそんなに緊張しなかったけど、飛竜達は肉食恐竜のような見た目だ。
口には細かく鋭い牙がビッシリと生えていて、俺の匂いを嗅ぎながら低く唸られると流石にちょっと恐怖を感じた。
「ケイタ、動くな」
バルギーが緊張したように俺を抱え込む。
ナルガスもハリドもイバンも、飛竜に囲まれて皆恐ろしいほどの緊張感を漂わせたまま固まっている。
だが、此方の緊張など全く気にせず飛竜達はえらく楽しそうだ。
【凄いなぁ。ラビクの言う通り、本当に人間臭さが無いんだな】
ラビク!お前どんだけ俺の事言いふらしてんだ!?
【ほら、なにか喋ってくれよ】
催促するように飛竜が鼻先で俺の体を揺する。
『ちょっと、やめろって!話すから、あんまり迫るなよ』
【【【喋ったっ】】】
ダメだ、俺の話なんか聞いちゃいないな。
飛竜達は皆興奮したように咆哮を上げて、長い尾っぽをブンブン振り回している。
なんか、馬達に比べて少し落ち着きが無い竜達だ。
【お前達、少し騒ぎすぎだぞ】
どうすれば良いのか途方に暮れていたら、突然頭上から大きな羽ばたきの音と共に、どっしりと落ち着いた低音の声が頭の中に響いた。
驚いて上を見上げたら、大きな飛竜がゆっくりと降りてくるところだった。
その竜が現れた途端、今まで騒いでいた飛竜達が大人しくなり場所を譲るように下がっていく。
「あぁ、デュマン。助かった」
竜が降りたった瞬間、ナルガスがホッとしたように体の緊張を解いたのが分かった。
デュマンと呼ばれた竜は挨拶するように一瞬ナルガスに顔を近づけた後、俺に顔を向けた。
【すまない、若い連中が驚かせたな。お前がケイタか?】
『お?おぉ・・。初めまして。えっとデュマンって言うのか?』
【あぁ、そうだ。ラビクから聞いているぞ。本当に我々と言葉を交わせるとは面白いな】
デュマンは他の飛竜よりも一回り大きい竜で、落ち着きのある話し方をする。
他の竜達が一気に大人しくなったのを見る感じ、ここではこの竜がリーダー格なんだろうか。
「ヴァルグィ、大丈夫だ」
ナルガスが緊張を解いて剣を仕舞うと、イバン達もそれに倣う。
バルギーも周りの飛竜を少し警戒しながらも、ようやく俺を降ろしてくれた。
「ケイタすまなかったな。怖かっただろう。普段はこんな事無いんだが・・・」
俺が怯えていると思ったのか、ナルガスが謝ってきた。
「大丈夫」
飛竜の言葉が聞こえているぶん、多分バルギー達よりは俺の方が落ち着いていたと思う。
「はぁ、飛竜もやっぱりケイタに反応するんですね」
少し疲れたようなイバンの呟きに、バルギーも頷いた。
「なんだ。もしかして馬竜でも同じような事があったのか?」
「あぁ、向こうでも似たような騒ぎがあってな。妙に馬達がケイタに懐くんだ。攻撃はしないが見ていると肝が冷える」
「竜が懐くのか?もしかして飛竜達が集まったのもケイタが目的か?」
「恐らくな。見てみろ、竜達の目は完全にケイタを見ているぞ」
「おぉ、確かに」
バルギーが周りの竜達を指さすと、ナルガスが驚いたように眉を上げた。
「馬竜達はどんな反応だったんだ?」
「それがなーーー」
おじさん方が、どうやらさっきの馬軍の訓練場での騒ぎについて話し始めたみたいだ。
バルギー達だけで話し始めると、言葉も分からないしスピードも早くて俺には聞き取れない。
早々に会話に混ざるのは諦めて、目の前に立っていたデュマンに意識を向ける。
【ケイタ、もしかして私に触りたいのか?】
薄緑に輝く鱗が綺麗でデュマンの身体をジッと見ていたら、笑いを含んだような声で話しかけられた。
『んー、ちょっとだけな。でもさっき馬竜達を触って怒られたから』
【馬竜が怒ったのか?】
『いや、バルギー達に危ないって怒られた』
【あぁ、人間か。それなら気にする事はない。ほら、触っていいぞ】
デュマンが長い尾っぽの先を俺の前に差し出してきた。
触って良いんだろうかとナルガスを見上げたら、俺とデュマンの様子に気が付いたようで頷いてくれた。
「ケイタ、触ってもいいぞ。デュマンも許しているから、大丈夫だ」
許可をもらって、俺は目の前の尾っぽに触ってみた。
冷たく硬いのかと思っていた鱗は、意外と暖かくて弾力のあるものだった。
【どうだ?】
『思ったよりも柔らかいんだな』
【そうか?人間の剣くらいだったら防げるぞ】
『そうなのか?凄いな。なぁ、馬竜は草食べてたけど、飛竜は肉食か?歯が凄いよな』
【我々はどちらも食べる。私は肉の方が好きだが、果実も嫌いではない】
飛竜は雑食なのか。
【なぜ、そんな事を聞くんだ?】
『いや、齧られたら怖いなって』
【あっはっはっは、そんな事を考えていたのか。大丈夫だ、齧らんよ】
デュマンに、めっちゃ笑われてしまった。
【デュマン、俺達もケイタと話したい】
【こっちに連れてきてくれよう】
距離をとって大人しくしていた飛竜達が、会話を始めた俺たちを見て我慢出来なくなってきたのか、こっちに来いと騒ぎ始める。
【ダメだ。人間達がまだ警戒している。そこでも話せるだろ?近寄るのは我慢しろ】
【デュマン、ズルいー】
【お前達が騒ぎを起こすのがいけないのだ】
【ケイタぁ、こっちにおいでよぅ】
『はは・・・・』
飛竜は見た目は怖いけど、なんだか懐っこい性格をしている。
『デュマンは、ここの飛竜の中では一番偉いのか?皆デュマンの言うこと聞いてるけど』
【あぁ、ここの群れの中では私が長だ。一番長く生きているし、力もある】
『へぇ、何歳くらいなの?』
【200年くらいは生きているな】
『はぁっ?!200年?!竜ってそんなに長生きなのっ?』
【そうだな、地上の竜は大体3~400年は生きるな】
『すげぇ・・・。地上の竜はって、他にも何かいるのか?』
【あぁ、神島の竜達はまた別だ】
言葉と共にデュマンが上を向いた。
その目線の先には、お馴染みの空に浮かぶ島だ。
俺も段々この景色に慣れてきたな。
『神島の竜って、大竜ってやつか?』
【あぁ、そうだ。大竜以外にも色々な竜がいるがな】
『俺、神島ってのが何なのかよく分かって無いんだけど、あそこに住んでいる竜はデュマン達とは違うのか?』
【うむ。神島の竜は強い魔力を持っている。我々地上の竜は身体能力は高いが、神島の竜のように魔法は使えない】
『へぇ、神島の竜って魔法を使うのか』
【あぁ、とても強い竜達だぞ。我々にとっては格上の相手だ】
凄い勉強になるわー。
セフには悪いけど、ほんと言葉以外の事では竜に聞いた方が色々手っ取り早い・・・。
『大竜も強い?』
【もちろんだ。大竜は全ての竜の頂点にいる王だ】
『ひょえー、強そう。王様ってことは一匹しかいないのか?大竜って竜の種類じゃなくて、竜の王様が大竜ってこと?』
【いや、大竜は竜の種類だ。大竜に生まれた時点で強大な力を持っている。その代わり数は少ないぞ。今は5匹しか居ない】
『絶滅危惧種じゃん』
【なんだそれは】
『いや、5匹しか居ないんじゃ絶滅しちゃうんじゃないか?繁殖するよりも先に皆死んじゃったり』
【あぁ、神島の竜は繁殖はしない】
『ん?』
【それに寿命みたいなものも無いから、滅多に死んだりもしない】
『んん?』
【ケイタ、神島の竜は自然の魔力が固まって生まれてくる者達だ】
『生物じゃないの?』
【生物だが、自然現象の一つでもある】
『んー・・・?』
【ふむ、少し難しいか】
『うん』
もう少し詳しく教えて欲しくてデュマンの次の言葉を待つけど、その前にバルギー達が終わりを告げてきた。
「ケイタ、今日はこれくらいにしよう。飛竜達も少し興奮していて落ち着かないようだしな」
【残念、時間切れのようだな】
『えぇ~、気になるところで・・・・』
【ふふ、授業の続きは次回にしよう。またおいで。色々と教えてやる】
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