飛竜誤誕顛末記

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第二章 将軍様のお家に居候!

第18話 飛将軍

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『なぁ。そろそろ俺、飛竜にも会いに行きたいし、バルギー達のとこに戻っても良いか?』
馬達との話もひと段落し、一通りの馬面を撫で終わった頃を見計らって、俺は解放してくれと提案してみた。
【む?そうか。仕方がないな】
【まだもう少し、一緒に話したいのだが】
『俺ももっと皆と話したいから、また来た時は遊んでくれよ』
【あぁ、何時でも来い】
【お前は竜の事を何も知らなさそうだから、色々と教えてやる】
『お、それはマジ助かる!』
まだまだバルギー達の言葉が分からないから、色々と教えて貰うには馬に聞いた方が確実そうだ。
分からない事があって困ったら、ここに聞きに来るのはアリだな。

馬達が道を開けてくれたので、ようやくバルギー達の元へと戻る。
「ケイタ!」
『ふげっ』
馬の集団から抜け出た瞬間、大きな手に腕を掴まれたと思ったら恐ろしい力で引っ張られ、気がつけば視界は逞しい胸板で一杯になっていた。
「ケイタ、大丈夫だったか?!怪我はしていないか?馬に噛まれたりしなかったか?」
『バルギーっ、苦しいって!ギブギブ!!あっヤバイヤバイ、折れる折れるっ!』
太い腕とカッチカチの胸筋に締め上げられて、背骨が悲鳴を上げる。
「将軍っ、落ち着いてください。ケイタが苦しがっています」
俺の様子に、横からイバンが慌てたようにバルギーを止めてくれた。
バルギーも俺の様子に気付いたようで、直ぐに力を抜いてくれる。
「す、すまん。焦って力が入ってしまった」
『し・・死ぬかと思った・・』
軋んでいた背中を庇うようにしたら、バルギーが謝るように撫でてくれた。

「ケイタ、怪我は無いな?どこも噛まれたりしていないか?大丈夫か?」
改めて聞かれて大丈夫と頷くと、バルギーが眉間に皺を寄せて少し厳しい顔をする。
あ、怒られる。
「ケイタ、勝手に馬に手を出しては駄目だと最初に言っただろう?私が言ったことは、ちゃんと聞きなさい」
「・・・あー・・ゴメンなさい。言葉ムズカシイです」
ちょっと言っていること分かんないっすねと、外国人風に誤魔化してみた。
「バルギー、ゴメンなさい?」
駄目押しで少し落ち込んだような顔をしてみれば、バルギーの表情があっさり崩れる。
「そ、そんなに怒っている訳では無い。そうか言葉が分からなかったか。それなら仕方がない。あぁ、頼むからそんな顔をしないでくれ」
おおぅ、マジかよバルギー・・・ちょっれぇ・・。
自分でもちょっとどうかと思うほどの、わざとらしい表情だったぞ?
「・・・ゴメンなさい」
俺の嘘に簡単に騙されるバルギーになんだか罪悪感を刺激されてしまい、最後に一言本当に気持ちを込めて謝っておいた。

「それにしてもケイタは本当に凄いですね。馬が無条件であんなに懐くなんて普通考えられませんよ」
廊下を歩きながら、イバンが感心したように俺を見下ろしてきた。
あの後、俺に興味を示し続ける馬が不安だったのか、バルギーは飛竜を見に行こうと俺を訓練場から連れ出した。
「うむ、本当に不思議だ。ケイタを持って行かれた時は焦ったが、馬達が危害を加える気配は無かったな」
「あんなに躊躇いなく顔を触って許されるとは・・・」
2人の考え込むような表情をみて、少しドキドキする。
馬と喋れるなんて流石にバレてないだろうけど、あんまり馬と仲良くしてると変に思われるかもしれないから、彼らと話をする時は少し気をつけた方が良いかもしれない。

飛軍側の建物に入り暫くしてから、2人が大きな扉の前で足を止めた。
イバンがノックして名乗ると、直ぐに扉が開かれた。
「馬将軍、お待ちしておりました。どうぞ」
俺たちを招き入れたのは、スキンヘッドに髭の厳ついオッサンだ。
オッサンが俺をチラリと見て少し驚いたように片眉を上げたけど、特に何か言うでもなく中に招き入れてくれた。

「ヴァルグィ!待っていたぞ」
部屋に入った途端、バルギーの向こうから渋い声が聞こえた。
俺はバルギーの後ろに立っていたから広い背中で隠れてて声の主は見えないけど、バルギーを呼び捨てにする人は初めて会うかもしれない。
「あぁ、ナルグァス。忙しいところ悪いな」
バルギーの声にも親しみを感じさせる響きがある。
仲のいい友人とか?
「別にかまわない、そんな事は気にするな。それよりもお前の後ろに隠れてるのが噂の子供か?早く紹介してくれ」
「分かっている。ケイタおいで」
バルギーが振り返って、自分の前に出すように俺の背中を押した。

「ナルグァス、この子が私を助けてくれたケイタだ」
俺の前に、見事な銀髪のダンディさんが立っていた。
バルギーよりも年は上目の、40代後半くらいだろう。
綺麗に整えられた顎髭と、少し垂れ目なところが何だか妙にセクシーで渋いおじさんだ。
すげぇモテそうな面してやがる。
バルギーも顔が良いけど、このおじさんも大概だな。
「ほぉ、話には聞いていたが本当に小柄な子だな。こんな華奢な体でお前みたいな巨体を運んだのか?信じられないな」
おじさんの目が、興味津々といった感じで俺を見つめている。
「本当の事だ。一度も弱音を吐かずに私の乗った荷車を引きつづけてくれたんだぞ。とても意思の強い子だ」
「私も砦で将軍を運んできたケイタを見ましたから、本当ですよ」
「そうか。イヴァンお前もその時そこに居たんだったか」
「はい。手をボロボロにしながらも砦まで将軍を連れてきてくれたのですから、ケイタには頭が上がりませんよ」
「ほう。見た目によらず中々気骨のある子だな」
「砦に着いた途端に、熱で倒れてしまったんですけどね」
イヴァンが苦笑気味に此方をチラリと見た。
途端にバルギーの表情が翳る。
「かなり無理をさせてしまったからな。この子は少し我慢強すぎる。もう少し私に頼ってくれると嬉しいのだが・・・・」
少し寂しげな表情を向けられたけど、何の話をしているのかは分からない。
聞き取れる単語から多分砦に着いた時の話っぽいけど、詳しい内容まではちょっと聞き取れない。

「バルギー?何ですか?」
何か言いたいのか?と首を傾げてみたら、バルギーより先におじさんが反応した。
「なんだ、随分と可愛い呼び方をされているんだな」
「ケイタには、私の名前の発音は難しいみたいでな」
「私もイバンと呼ばれていますよ」
2人がクスリと笑う。
「バルギー?」
「あぁ、何でもないケイタ。気にするな」
先程の暗い表情が一転して、優しげな笑みを浮かべたバルギーが手の甲で俺の頬をスルリと撫でた。
一瞬の事で避け損なっちまった。
こっちの世界ではコレくらいのスキンシップは普通なのか分からないけど、俺はちょっと慣れない。
男が男にやられて嬉しい仕草じゃないと思うんだけど。
でも俺の前に立っていたおじさんも、バルギーの仕草をみて驚いたように目を開いているから、やっぱり普通ではないのか?
「驚いた。お前のそんな緩んだ顔は初めて見たぞヴァルグィ」
「ふん」
「堅物で有名な馬将軍様がこんな甘い顔をするなんてな、よっぽどこの子供が気に入っているのだな」
「当たり前だ。私にとっては大切な恩人だからな」

「ナルグァス将軍・・・・そろそろ自己紹介くらいしたらどうですか」
今までずっと黙っていたスキンヘッドのおじさんが徐に口を開いた。
「ん?名乗っていなかったか?」
「えぇ、お話に夢中でしたよ」
「おっと、それはいかん。礼儀知らずな事をしてしまったな」
おじさんが苦笑しながら、俺に目線を合わせてきた。
「ケイタ、初めまして。私は飛軍の将軍を務めるナルグァスという」
「・・・・将軍サマ?」
え、やだ偉い人じゃん。
バルギーと親しそうって思ったけど、同じ階級だから気安い感じだったのか!
目の前に立つ人が軍のトップの1人だと思うと、急に緊張してくる。
それなのに俺の緊張など意にも介さず、飛将軍が楽しそうに無茶振りをしてきた。
「ヴァルグィの事も名前で呼んでいるんだから、私も名前で呼んでくれ」
「何故そうなる、ナルグァス・・・・」
バルギーがため息混じりに、呆れたような声を挙げる。
「良いじゃないか。お前が名前呼びを許している時点で誰も文句は言うまい」
バルギーは最初から名前呼びだったから気にせず呼んでいるけど、流石に初対面の将軍様を気安く呼んで良いのか、判断に困ってバルギーを仰ぎ見たら。
「全く、仕方ないな。ケイタ気にしなくていい、名前で呼んでやれ」
やれやれと言った仕草でバルギーが頷いてくれた。
「・・・ナルガス?」
やっぱり発音が難しくて一番言いやすい呼び方をしたら、何とも擽ったそうな顔をされた。
「これは・・・何とも・・・実際に自分の名前でこの舌足らずな呼び方をされると、妙な気持ちになるな」
「阿呆、妙な気持ちになどなるな」
「ナルガス・・・良いですか?」
この呼び方で良いのか聞いたら、それで良いと笑ってくれた。

「ところでヴァルグィ。ケイタは何故首に茸を下げているんだ?」
「またその質問か。ケイタが飼ってるんだ。気にするな」
バルギーが何故かうんざりしたように眉間に皺を寄せたけど、ナルガスの目線が籠に行ってるのに気付いたから自慢を込めて籠を持ち上げてエリーを見せてやったら、ナルガスは少し困ったように笑顔を浮かべた。

なんで皆エリーを見せると微妙な反応ばっかりするんだ。
こんなに可愛いってのに。
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