鬼畜オオカミと蜂蜜ハニー

吉良龍美

文字の大きさ
106 / 144

鬼畜オオカミと蜂蜜ハニー

しおりを挟む
「あずささん、さっきの人は知り合いですか?」
 夕食の配膳が始まる時間だ。ベッド用の簡易テーブルをあずさが用意する。
「…あぁ。大学時代の後輩よ。あまり関わりは無かったぐらい。一緒に居た威勢の良い子は、私も知らないけれど」
「そう、ですか。そういえば」
 隼人がふと気になったのか、あずさに声を掛ける。
「鈴君は最近来ないみたいですが」
 カーティガンを、隼人の背に掛けるあずさの手が止まる。
「テスト勉強や文化祭やらで忙しいのよ。それよりそろそろ退院出来るか兄に訊いてみるわね?」
「え?」
「私達の家に帰りましょうね? 子供部屋にベビィベッドを置いたの」
 隼人は双眸を見開いた。
「父が病院をやっているんですよね? 家はそこだと思っていたのですが」
「あら、いやね隼人さん」
 あずさは頬を引き攣らせた。
「一緒にマンションを見に行ったのよ? とても素敵な所なの」
「…そう、ですか」
「楽しみね。ふふ」
 隼人は窓から見える、晴れ渡る空を見詰めていた。
 ーーー胸が騒ぐ。
 泣きそうな鈴の顔を思い出して、耳の奥の痛みに眼を眇めた。
 ーーー鈴。

 誰かに呼ばれた気がして、助手席で眠っていた鈴がふと双眸を開いた。外は夕闇が近く、運転席の上条貴博が赤信号で停まって鈴を見る。
「起きたか? 腹は空いてないか? 鈴」
「…少し」
 鈴は隼人のマンションが在る街並みに眼を細め、上条に顔を向ける。
「すみません、小早川の家に送って下さい」
「は? あぁ、良いけど。その前にどっかで飯にしようぜ? もうヤケ酒したい気分なんだが…そこはノンアルで自棄飲みだな」
 ーーー天下の俳優様が入れるお店って? 
 鈴が不安げに車窓から外を眺めていた。


 鈴が連れて来られたのは中華料理の豪華な店内だった。全て個室になっていて、落ち着いて食事ができるのはありがたかった。
「好きな物頼んで良いぞ?」
「はい」
 二人っきりで食事は初めてなので、少し緊張する。
「鈴を息子として宣伝したかったんだが、すまない、鈴音の場合を考えたら、無責任に胸張って息子だと云えなくなった」
 申し訳無さそうに上条が云う。
「僕は気にしていません。謝らなくても大丈夫ですよ?」
 鈴はオレンジジュースをチビチビと飲む。上条は、スタッフにいくつかの小皿とノンアルコールを注文する。鈴はエビチリソースを頼んだ。
「モデルやってみてどうだ?」
「やってみると楽しいです。でも短い間だけのバイトだと思うと、ちょっと寂しいかも」
「本格的にやるとか考えないのか?」
 問われて、鈴は考えた。そういえば、進路希望の用紙がそろそろ配られる頃だ。里桜は何をしたいんだろう? ふと鈴はなぜかジンを思い浮かべてムッとしてしまう。
 ーーーなんでジン?
「なんだ? 決めかねてるのか?」
 眉間に皺を寄せた鈴を、上条は将来について悩んでいるのかと思って訊いた。
「え? や、えっと、モデルとかは考えてなかったです」
「なんなら俳優とかはどうだ?」
「む、無理ですっ無理っ」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】毎日きみに恋してる

藤吉めぐみ
BL
青春BLカップ1次選考通過しておりました! 応援ありがとうございました! ******************* その日、澤下壱月は王子様に恋をした―― 高校の頃、王子と異名をとっていた楽(がく)に恋した壱月(いづき)。 見ているだけでいいと思っていたのに、ちょっとしたきっかけから友人になり、大学進学と同時にルームメイトになる。 けれど、恋愛模様が派手な楽の傍で暮らすのは、あまりにも辛い。 けれど離れられない。傍にいたい。特別でありたい。たくさんの行きずりの一人にはなりたくない。けれど―― このまま親友でいるか、勇気を持つかで揺れる壱月の切ない同居ライフ。

優しい檻に囚われて ―俺のことを好きすぎる彼らから逃げられません―

無玄々
BL
「俺たちから、逃げられると思う?」 卑屈な少年・織理は、三人の男から同時に告白されてしまう。 一人は必死で熱く重い男、一人は常に包んでくれる優しい先輩、一人は「嫌い」と言いながら離れない奇妙な奴。 選べない織理に押し付けられる彼らの恋情――それは優しくも逃げられない檻のようで。 本作は織理と三人の関係性を描いた短編集です。 愛か、束縛か――その境界線の上で揺れる、執着ハーレムBL。 ※この作品は『記憶を失うほどに【https://www.alphapolis.co.jp/novel/364672311/155993505】』のハーレムパロディです。本編未読でも雰囲気は伝わりますが、キャラクターの背景は本編を読むとさらに楽しめます。 ※本作は織理受けのハーレム形式です。 ※一部描写にてそれ以外のカプとも取れるような関係性・心理描写がありますが、明確なカップリング意図はありません。が、ご注意ください

血のつながらない弟に誘惑されてしまいました。【完結】

まつも☆きらら
BL
突然できたかわいい弟。素直でおとなしくてすぐに仲良くなったけれど、むじゃきなその弟には実は人には言えない秘密があった。ある夜、俺のベッドに潜り込んできた弟は信じられない告白をする。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

大嫌いなこの世界で

十時(如月皐)
BL
嫌いなもの。豪華な調度品、山のような美食、惜しげなく晒される媚態……そして、縋り甘えるしかできない弱さ。 豊かな国、ディーディアの王宮で働く凪は笑顔を見せることのない冷たい男だと言われていた。 昔は豊かな暮らしをしていて、傅かれる立場から傅く立場になったのが不満なのだろう、とか、 母親が王の寵妃となり、生まれた娘は王女として暮らしているのに、自分は使用人であるのが我慢ならないのだろうと人々は噂する。 そんな中、凪はひとつの事件に巻き込まれて……。

若頭と小鳥

真木
BL
極悪人といわれる若頭、けれど義弟にだけは優しい。小さくて弱い義弟を構いたくて仕方ない義兄と、自信がなくて病弱な義弟の甘々な日々。

【8話完結】いじめられっ子だった俺が、覚醒したら騎士団長に求愛されました

キノア9g
BL
いじめられ続けた僕は、ある日突然、異世界に転移した。 けれど、勇者として歓迎されたのは、僕を苦しめてきた“あいつ”の方。僕は無能と決めつけられ、誰からも相手にされなかった。 そんな僕に手を差し伸べてくれたのは、冷酷と恐れられる騎士団長・ジグルドだった。 なのに、あいつの命令で、僕は彼に嘘の告白をしてしまう――「ジグルドさんのことが、好きなんです」 それが、すべての始まりだった。 あの日から彼は、僕だけをまっすぐ見つめてくる。 僕を守る手は、やさしく、強くて、どこまでも真剣だった。 だけど僕には、まだ知られていない“力”がある。 過去の傷も、偽りの言葉も超えて、彼の隣にいてもいいのだろうか。 これは、いじめられっ子の僕が“愛されること”を知っていく、嘘と覚醒の物語。 全8話。

隣の席のイケメンに懐かれた

しょうがやき
BL
隣の席のイケメンに懐かれた平凡男子の話

処理中です...