鬼畜オオカミと蜂蜜ハニー

吉良龍美

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鬼畜オオカミと蜂蜜ハニー

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 ドクンと不快な鼓動が鼓膜に響く。やはり、いつかこんな話がされるのではと、頭のどこかで解っていただけに、やはりショックは隠せない。
 唇が乾く。息が苦しい。
「あ、れ~~~?」
 ふと、間延びした春彦の声が降ってくる。晴臣が驚いて後方へ振り返った。
「先輩のお父さんですよね? お久しぶりです」
 晴臣は立ち上がって、首を傾げた。
「…君は?」
「隼人先輩にはお世話になりっ放しでした。大学受験の勉強に付き合って貰ってました」
「あぁ、よく家に来ていた…」
 何故此処に居るのかと、思案した様子に春彦が肩を竦めた。
「今此方の保険医をしているんですよ」
「…そうか」
 頷いてから鈴に視線を戻し、立ち上がった鈴にぎこちない笑顔を向けた。
「…帰りは遅くならないように」
「はい」
 返事をして晴臣の背中を見送る。晴臣の親としての心配を思うと、鈴は胸苦しさに息を吐き出した。
「大丈夫?」
 ポンと背中を叩かれて、鈴は俯いていた顔を上げた。
「先輩を信じなさいよ? 鈴ちゃん」
「春ちゃん…聞いてたの?」
「ん~にゃ。多分そうかな~? みたいな? ほら、僕ちん空気読める人だも~ん」
 春彦の優しさに、漸くホッと身体の強張りが抜けるのを感じた。
「春ちゃん。僕大丈夫だから」
「…鈴ちゃん」
 やはり心配そうに見詰めてくる春彦に、鈴は微笑する。
「そうだ、ね、聞きたい事あるんだけど…男はお父さんに似るの?」
「は?」
 鈴はウキウキしながら上条を思い出す。背が高くて男前。
「僕の本当のお父さんに逢ったんだ。凄くかっこいいんだよ?」
「それ、剛から聞いた。鈴ちゃんのお父さんはあの上条貴博だって? 云われてみれば似てる所あるよ」
 鈴は胸の中が擽ったくて、ポーっとしてしまった。鈴もあの人みたいになれるかな。
「あの~もしもし? 鈴ちゃん? 君はどっちかって云うと、お母さん似だからね? もしも~~~~し…聞いてないね」
 春ちゃんは苦笑して肩を竦め、僕は携帯を手に上条と撮った写真を眺めていた。

「なんですかそのだらし無い顔は」
 プロダクションの社長室で、スマホの待受にした鈴とのツーショット写真を、上条貴博は眺めていたのだが…。
「変な顔とはなんだ」
 鈴を女装させて、新しい化粧品の写真を撮ると聞いた時、息子に何をさせるのかと驚愕したが、実際化粧を施した鈴はまさに天女のように美しかった。
「母親似か」
「何がです? 鈴君が彼女に似てるのが嫌なんですか? 男の子にしとくの勿体無いですよね、本当可愛い」
 マネージャーの秋元が云う。
「懸想するなよ? 殺すぞ」
「…俺、変態じゃありませんけど、マジ怖いんですけど」
「冗談だ」
 それを眺めていた真木あきひろが、吹き出した。彼はこの会社の社長だ。
「早速出版社とうちの事務所に、この雑誌のモデルは誰だって問い合わせが来てるよ」
 真木はファッション雑誌を頭上に翳す。昨日撮影後直ぐに出版社へ打診して、今朝刷り上がり本日発売の物だ。出版をギリギリまで待って貰ったのだ。CMは明後日からの、宣戦予告。化粧品メーカーも大喜びだ。
 その表紙には上条と、女装した鈴が大きく掲載されている。
 確かに可愛い。どう見ても女の子。これが俺の息子なのかと上条は思うと、嬉しいのか嘆きたいのかが解らない。
「『恋多き抱かれたい男ナンバーワン、上条貴博に新恋人か』だって、こっちも賑やかだわ」
 真木が週刊誌をパラパラと捲り、ため息を零す。
 先週発売された週刊誌には、鈴音と密会した場面が掲載されていた。喫茶店で話している所を撮られたが、その時は変装したつもりだが失敗した。
「これで隠し子発覚なんて出るのか、見ものだな」
「他人事じゃないですよ社長」
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