鬼畜オオカミと蜂蜜ハニー

吉良龍美

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鬼畜オオカミと蜂蜜ハニー

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 鈴は校庭の一角で、陸上部で使うハードルを並べながら、煩く付き纏う剛に睥睨していた。蝉が煩く鳴き、強い日差しは容赦なく肌を焼く。額に汗が浮かんで、不快指数マックス状態だ。
「明日あのスケベ野郎の家に引越しって、何なんだよ!? やっぱり納得いかねぇぞ!」
 鈴は溜息を零す。もう朝からこの調子で、陸上部顧問に真面目にやれと叱られたばかりだ。他の陸上部員達は、各種目の持ち場で練習をしている。その奥では、テニス部やサッカー部が、賑やかにプレイを楽しんでいた。
「だからね? 母ちゃんが今実家の、ばあちゃんとこに帰ってるから、妊娠中の母ちゃんが帰って来る前に、早めに引越ししておこうってなったの。どっちにしても隼人さんの家に引っ越すんだから。早いか遅いかの違いじゃん」
「鈴は解ってない! あいつはヘタレに見えるが、絶対鬼畜だ!! あ~~~っ薫さ~~ん、早く帰って来てくれ~~!」
「無理云わないでよ。母ちゃん身重なんだからさ」
 鈴がうんざり顔で云う。そこへ顧問が青筋たてて、鈴と剛に絶叫した。
「こらーーーーっ! 高橋、天音っ無駄愚痴叩かないで、さっさと外走って来い! 夏休みだからって怠けるな!」
「…ふえ~い行ってきま~~す」
「夏休みか~来週合宿だね、来年は受験だよ。早いなあ」
「来年は三年だからな~鈴は大学行くだろ?」
 二人は後輩に後を任せて、正門へ走る。学校周辺を走る為だ。剛の喚きに顧問が睨み、二人で、学校周辺走れと云いつけられたのだ。
「…それなんだけど…」
 と、鈴は擦れ違った男を振り返った。柑橘系のコロンの香り。肩まで伸ばした柔らかそうなショートヘア。相手も鈴に気付いたらしく、振り返る。長身にスレンダーな身体が、紺のスーツに良く似合う。
「…鈴ちゃん?」
「…春ちゃん? うわーっ春ちゃんだ!」
 鈴は満面の笑顔で、ムギュウとその人に抱き着いた。
「鈴!?」
 剛が慌てて駆け寄る。剛は男を睨んだ。
「君は?」
「あ、ごめんなさい。懐かしくてつい。彼は友達で高橋剛。で、こちら宮根春彦で春ちゃん」
「…高橋?」
「何か?」
 敵意剥き出しの剛に、男は苦笑する。
「昔の知り合いにも高橋って居たんだよ。ちょうど君みたいに…顔、似てるよな」
「宮根先生?」
 呼ばれて男、春彦が昇降口を振り返る。 
「やべ」
 春彦が鈴の頭を撫でた。教頭がこちらを見ている。
「今行きます」
 春彦は剛を一瞥し、懐かしい物でも見るように眼を細めたのは気のせいか。
「二学期から、此処の校医になるんだ。宜しくね?」
「「校医?」」
 鈴はびっくりして、剛とハモった。春彦は二人に手を振り昇降口へ向かう。剛が眉間に皺を寄せていた。
「…あいつ何者?」
 剛に腕を引かれて鈴は走り出す。
「僕が十歳の時に知り合ったんだけど…隼人さんの医大の後輩? かな。昔はよく小早川医院に来てたよ? ショッピングとかに連れてって貰ったんだ。確か春ちゃん三兄弟の長男坊で、下に妹と弟が居るんだって云ってたかな…そのせいか可愛がって貰ったんだよ。でも凄い偶然!」
 鈴は嬉しくて話していたが、剛は面白くなそうだった。
「俺、あいつをどこかで見たんだよな、どこか…あっ!」
 突然叫んだ剛に、鈴はビクッとする。 

「楽しそうでしたね。天音君とはお知り合いですか?」
 教頭が保健室と職員室を案内する。
「昔、先輩の家に来ていた子です」
「そうですか。そういえば、あの子の双子のお兄さんは生徒会長なんですよ?」
「そうなんですか?」
「兄の里桜君は頭の良い子で、ほら、あそこにいますよ。担任の小早川先生と居る子です」
 職員室に生徒が1人だけしか居なかった為、教頭のいう『双子の片割れの里桜』だと解った。春彦は眼を細め見る。
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